毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第五章 闇の王国編 闇の住人達

第四十話 全てが終わっても

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生徒会室に足を踏み入れると、すぐにエルリン殿下に別室へと招かれた。
重苦しい空気の中、殿下は深く眉をひそめていた。

「……昨日、何があったんだい? 
気がついたら皆が床に倒れていて……私は何も思い出せないのだ」
エルリン殿下は頭を抱えるようにして言った。

ロイスは静かに一礼し、口を開いた。
「全て、説明させていただきます。
――私は勇者ロイス。
この国の内情を探るため、身分を隠し学園に潜入しておりました。
その点について、まずはお詫び申し上げます」

殿下の目がわずかに揺れる。

「そして……ティアさんは、私の師匠である前任の勇者ロディアスの娘です」
(※ここはティアの強い要望で、そう説明することになっていた)

ロイスは言葉を区切り、昨夜の真実を語り始めた。
「殿下たちはザザルン王国の暗殺部隊隊長メザウスによって眠らされました。
奴は生徒会室に現れ、ティアさんを捕らえ、私を決戦場に誘い出しました。
……そこで投入されたのが、彼らが秘密裏に開発していた機動兵器《オメガ》。
勇者を相手に、その性能を試すためだったようです」

「……オメガ……。
まさか、バザルトン王国を滅ぼしたというのは……」

「はい。
あの壊滅も試運転にすぎなかったのです」
ロイスは静かに頷く。
「そして、その首謀者は国王ゼフェルント――ではなく、その名を騙る魔王ブリュンでした。
オメガを量産し、世界を混沌へと陥れる。
それが奴の目的でした」

殿下は絶句し、椅子の背にもたれた。
「そんなことが……私の知らぬところで……
父上が魔王とは。」

「魔王は討ち滅ぼされました。
しかし、この国に課せられた問題は大きい。
バザルトン王国の壊滅は必ず世界の非難を招きます。
軍事産業は衰退し、魔道具の輸出も制限されるでしょう」

ロイスは真っ直ぐに殿下を見据えた。
「それでも、私は勇者として、この国が立ち直るために力になりたいと考えています」

場の空気を引き締めるように言い切ると、隣で聞いていたティアが肩を竦めた。

「ああ、私はもう少し学園で生活させてもらえれば、それで十分よ」

「……ティア嬢」
殿下は胸に手を当て、深く頭を下げる。
「我が国の者の企みで危険な目に遭わせてしまった。
謝罪で許されるとは思わぬが、この失態は私が必ず責任を負う……どうか、お許し願いたい」

ティアは首を傾げ、さらりと返した。
「私? 何も覚えて居ませんわ
……ああ、そうだ。
メリルとお昼を食べる約束してたんだった。
じゃあ、あとはロイスお兄様にお任せするわね」

くるりと踵を返し、ひらひらと手を振りながら、生徒会室を後にする。

残されたのはロイスとエルリン。
勇者と王族。
重く現実的な話は、ここから始まるのだった――。

第一王子エルリンは、事件の責任を果たすために学園を休学し、国政に専念することとなった。
その代わりに、副会長レゼントが一時的に会長代理を務め、生徒会の運営を担うこととなる。

一方ロイスは、エルリンの命によりサザルン王国の暗殺部隊の解体を手伝っていた。
表向きには解散したものの、隊員たちは散り散りとなり、各地でゲリラ的な犯罪を繰り返していたからだ。

その頃――ティアは相変わらず学園に通い、いつものように何事もない日常を楽しんでいた。
だが、夜。寮の一室に彼女の臣下たちが呼び集められていた。

ティアはソファに腰かけ、微笑を浮かべながら口を開いた。
「暗殺部隊の隊長を捕らえて欲しいの。
激しく抵抗するなら……その時は任せるわ」

四人の臣下が静かに頷く。

「あの部隊は隠密任務に特化してるでしょう? 
全員を潰すのは惜しいのよ。
むしろ、私の配下に迎えたいのよね。」

ティアの瞳が怪しく光る。

「特に狙うのは二人――
第二部隊隊長《ヨル》。擬態とステルスの使い手。
第三部隊隊長《ゲド》。蟲使いの達人」

臣下たちの表情が緊張で引き締まった。

「この二人は絶対に捕らえてちょうだい。
できれば生け捕りで」

ティアの言葉が終わると同時に、臣下たちは音もなく姿を消し、それぞれの影へと飛んでいった。

残されたティアは、窓辺に立ち、夜空を見上げる。
「ふふ……また面白い駒が増えるかもしれないわね」

セリアたちは各地を巡り、暗殺部隊の隊長たちの行方を追っていた。
やがて、西の町で「元暗殺部隊員を見かけた」という情報を掴み、山間の廃墟へと足を運ぶ。

そこには――数十名規模の残党が野営を張っていた。

「見つけたわ」
セリアが低く呟く。

「ヨルとゲドの所在は?」
カインが尋ねると、リシェルが胸を張った。

「大丈夫よ!」
「……私は知らないけど」
双子の妹ルシェルが不思議そうに見返すと、リシェルはけろりとした顔で答えた。

「聞けばいいのよ!」

次の瞬間――
「おーい! ヨルとゲドはいるか~!」
リシェルの朗々とした声が廃墟に響き渡った。

残党たちは一斉にどよめき、慌てふためく。

「仕方ないわね。
行きましょう」
セリアが歩を進めると、野営地の中心から一人の男が現れた。

「誰だ、お前たち!」
鋭い眼光を放つその男は、この部隊のリーダーらしい。

セリアは静かに告げる。
「我が主の命により、ヨルとゲドを探している。
お前がそうか?」

「……ああ、俺がヨルだ。
何の用だ?」

その時、空気がざわめいた。
無数の蟲が地を這い、うねり、やがて人の形を形作る。
「どうした、ヨル」
それは蟲の群れから姿を現したもう一人の男――第三部隊隊長ゲドだった。

「我が主様が、あなたたちを配下に望んでいる」
セリアが告げる。

「主様、だと? 
誰だそいつは」

「憤怒の魔王ユスティティア様。
あなた方の力に興味をお持ちだ」

「魔王……? 
くだらん!」
ゲドの顔が怒りに歪む。

しかしヨルは、部下たちの不安げな表情を見やり、低く問うた。
「……部下を保護してくれるのか?」

「それは主様次第だ。
だが、国軍に追われ殺される未来よりは確かだろう」

葛藤の末、ヨルは頷いた。
「……話だけでも聞こう」



二人はセリアたちによって、その場からティアの寮室へと転送した。

「よく来たわね」
ティアは柔らかな笑みを浮かべ、玉座のように椅子に腰かけていた。

「……ここは学園の寮か。
お前はただの学生じゃないか。」
ヨルが訝しげに眉をひそめる。

ティアは小さく首を振った。
「まあ、あなたたちの意見なんてどうでもいいわ。だって、これから死ぬんですもの。」

「な……!」
二人の顔が蒼ざめる。

「でも心配するな。
主様の愛を賜れる。
すぐ終わる。」
カインが2人の前に立ちはだかる。
その言葉と同時に、二人の体は何かに縛られたように硬直した。

「くっ……動かん!」
「くそっ、何をした!」

ティアは優雅に歩み寄り、淡く輝く《玉卵》を二人の胸へと押し当てる。

「ぐああああああっ!」

悲鳴をあげてのたうち回る二人は、やがて光に包まれ、繭へと変わった。
繭は眩い光を放ち、やがて――再び人の形を結んでいく。

「……ふぅ、身体が軽いな」
「全くだ。これは……」

ヨルとゲドの繭が崩れ落ちると、光の粒が舞い散り、二つの影がゆっくりと姿を現した。

最初に歩み出たのはヨルだった。
彼の体は細身ながら鋭さを増し、夜の闇そのもののような黒光りを帯びている。
銀と黒が混ざり合った長い髪が闇に溶け、金色の双眸が猫のように光を放った。
背からは薄布のように透き通る黒翼が広がり、揺らめきながら周囲の空気に消えかけている。
まるでそこにいるのに「存在が霞んでいく」ようで、暗殺者としての資質がそのまま異形の姿に昇華していた。

次に立ち上がったのはゲドだった。
逞しい体躯に浮かぶ皮膚は、黒と赤の甲殻のような紋様で覆われている。
深緑と黒が混じる短い髪は硬質な光沢を放ち、真紅の瞳孔は縦に裂け、獲物を射抜く蜘蛛のようにぎらついていた。
両腕に走る黒い紋章からは小さな蟲が蠢き這い出し、すぐに霧のように消える。
さらに背中には六本の甲殻質の脚がせり出し、カチリと音を立てて床を掴んだ。
その姿は人と怪異の境界を踏み越えた、まさに「蟲王」と呼ぶに相応しい威容であった。

二人は同時に跪き、頭を垂れる。

ティアは満足げに微笑んだ。
「ヨルとゲド。
これからあなた達は私の可愛い臣下よ。
――しっかり働いてね。」

「御意。」

声を揃えて放たれた言葉は、かつての反抗も疑念も欠片もなく、ただ主への絶対の忠誠を示していた。

「セリア。
残党は?」
ティアは椅子に座り直す

「それでしたら、リシェルとルシェルが後始末を遂行しております。」

「そう。
セリア、カイン、ルシェルにリシェル。
良くやってくれました。
ありがとう。
ヨルとゲドにわからない事は教えてあげてね。」

「御意。」
そう言うとそこから掻き消えた。
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