毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第七章 シャクイードの使者

第五十一話 魔王達の共演

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「――人間界に、面白い奴がいるね。」

低く、それでいてどこか愉快そうな声が響いた。
それは、玉座の奥に座る存在――魔王シャクイードの声。

誰も知らぬ地の底。光すら届かぬ深淵に、彼は己の居城を築き、数百年の眠りを経て今なお再生の時を待ち続けていた。
その長い石造りの広間には、一つの巨大な黒曜石の机が鎮座している。

机の最奥、中央に座すのは――人間の子供ほどの姿に擬態したシャクイード。
その小さな容姿とは裏腹に、周囲の空気を支配する圧倒的な覇気が漂う。

そして、その両脇には九つの影が並んでいた。
魔界で戦いに敗れながらもなお恐怖と名を残す、歴戦の魔王たち。

右手に並ぶは――
・龍牙魔王【バレル】(男)──龍をも屠る牙を持つ暴虐の巨漢。
・雷鬼魔王【レストラ】(男)──雷鳴を纏い、大地を裂く雷槌の狂鬼。
・水蛇魔王【ミケーニャ】(女)──艶やかな肢体を持ち、万の水蛇を操る妖艶なる女王。
・地貪魔王【グレコロン】(男)──大地そのものを喰らう、飢餓の巨塊。
・海伯魔王【ミロード】(女)──深海を統べ、潮流すら意のままにする蒼の女帝。

左手に並ぶは――
・風絶魔王【ヒゴール】(男)──風を断ち、嵐をも消し飛ばす虚空の刃。
・氷輪魔王【マレー】(女)──氷と輪廻を司る冷厳の魔女。
・煙霧魔王【バダルト】(男)──姿を定めぬ黒煙の支配者。
・炎凱魔王【ソトレード】(男)──業火を纏い、戦場を歓喜する炎の将軍。

かつて七魔王戦争で敗れた強者たちが、今は揃ってシャクイードの左右に並ぶ。
その光景は、まさに魔界の再来を告げる「魔王会議」であった。

「さて……僕たちの目的は人間界の支配。
そして、君達は魔界の支配。
いずれは天界も支配する。
その為の準備と思ってやってきたけど。
勇者の娘。
ティアと言う女にことごとく潰されたね。」

シャクイードは口元に笑みを浮かべ、机に指を軽く叩いた。
その小さな音だけで、場に座す魔王たちの威圧が一斉に昂ぶり、広間全体が震えた。

「――その女は強いのか?」
龍牙魔王バレルは腕組みしながら話す

「ん~、正直わからないね。
大した魔力も感じない普通の人間にも見える。
毒を使うけど、彼女の場合は眷属と言うか護衛というか、周りの者達は桁外れに強いね。」

魔王たちは誰一人言葉を発さぬまま、ただ愉悦と殺気に満ちた笑みを浮かべていた。

「その女、ティアとか言ったかしら。
私が最初に接触しても良いかしら?」

氷輪魔王マレーが自信ありげに立ち上がる。
白銀の髪を揺らし、冷ややかな視線を浮かべながら、唇に挑発的な笑みを刻む。

シャクイードは、机に肘をつきながら細めた瞳を向ける。
「……偵察程度にしてもらえると助かるよ。
相手の力は未知数だ。
ここで貴重な戦力を失いたくはないんでね。」

「わかったわ。」マレーは微笑んだ。
「どんな女か、この目で見定めてくるわ。」

――場面は転じる。

その頃、ティアは「里帰り」と称して魔界へ戻っていた。
玉座の間に集うのは、魔界を統べる傲慢・強欲・怠惰・暴食・色欲・嫉妬の魔王たち。

傲慢の魔王アルセリオス、
強欲の魔王ガルディアン、
怠惰の魔王ミゼリス、
暴食の魔王グラトーラ、
色欲の魔王ヴェリアン、
嫉妬の魔王イラエル。
「七魔王」の名を持つ者たちが、円卓を囲むようにして座していた。

ティアは軽やかな笑みを浮かべて手を振る。
「久しぶりね、みんな元気にしてた? 
人間界は楽しいよ、
みんなも来ればいいのに。
……そうそう、ザザルン王国でのことなんだけど、少し面倒なことになってるのよね。」

「面倒とはなんだ?」
アルセリオスが不機嫌そうに声を低める。

ティアはあっさりと答えた。
「オメガっていう機動兵器を作ってたんだけど、それ自体は大したことなかったの。
ただね、王様が魔王ブリュンって奴に乗っ取られてて、その裏でエルリン王子が世界征服の野望を抱いてたの。
そしてさらに裏に――始祖の魔王、シャクイードが暗躍してるのよ。」

広間に沈黙が走る。

「シャクイード……だと?」
「奴は千年前に人間界を支配しようとして勇者に敗れたはずでは?」

「完全体じゃないって本人が言ってたけどね。
しかも、七魔王になり損ねた連中を配下にしてるみたい。」

「な、なんと……」

強欲の魔王ガルディアンが唸る。
「……あまり良い状況とは言えないな。
全盛期を知らずとも、伝説級の魔王だ。
軽く見積もっても脅威だ。」

ティアは肩を竦め、笑顔のまま言った。
「だからね、
この件、みんなに振ってもいいかな? 
私、学園生活で忙しいし。」

「バカを言うな!」
アルセリオスとガルディアンが同時に立ち上がる。
「我らとて魔界を離れられぬ。
シャクイードの眷属とやらが魔界を狙うこともあるのだぞ!」

「え~、面倒なんだよね。
あなた達6人でかかれば、シャクイードくらいあっという間に倒せるでしょ?」

「無茶を言うな!」
「人間界の事に魔王全員で関わるなどあり得ん!」

ティアは少し唇を尖らせる。
「じゃあ、私一人でやれってこと?」

「放っておけばよい!」

「そうはいかないの。
もう首を突っ込んじゃったし、シャクイードは必ず魔界にも手を伸ばすわよ?」

一同は黙り込む。

「まあいいわ。
頼りにならないわね。」
ティアは笑顔のまま肩を竦める。
「学園生活もあるのに、変なシャクイードって奴の相手もしなきゃいけないなんて、ハードワークすぎるわ。
……でも、私もこの前よりかなりレベル上がったし、なんとかなるかな。」

「ん? またレベルが上がったのか?」

「ええ、魔力障壁と物理障壁を常時維持してるでしょ? 
あれだけでも膨大な魔力を消費するから、自然とレベルが上がっちゃうの。」

「そ、それで今は幾つだ?」

ティアは小首を傾げて微笑む。
「えっと……25000よ。
障壁もそれ用に合わせて組み直すのがちょっと面倒なのよね。」

「に、25000……!」
魔王たちは顔を見合わせ、声を失った。

「まあ、魔界のことは任せるわ。
私の領土は分身が守ってるし、分身だけでも私の三分の一の力はあるから。
大丈夫だから、気にしないで。」

「さん、三分の一……レベル8000……」

一同は呆然とする。

ティアは手を振りながらあっさりと立ち去った。
「夏休みはまだ続くの。
学園も楽しいから、みんなも遊びに来ればいいのに。
――じゃ、そういうことで!」

彼女の姿が消えた後、重苦しい沈黙が広間を支配した。

「……レベル25000とは、一体どれほどの強さなのだ……?」
「想像すらできん……」


マレーは地下から地上に出てくると、大きな魔力を探した。
だが、シャクイードが言うような強者の気配は感じられない。

「……隠れているのか?」

ひとまずザザルン王国へ向かうことにした。勇者の娘なら相応の魔力を有しているはず。
それを当てにしていたが──見込み違いだった。

王都に到着したマレーは、人間の姿に擬態する。
情報を集めるうちに、フェルミナンス学園にティアがいると知る。

「此処かしら。」

夏休みの学園は人影もない。だが内部に入ると、いくつかの高い魔力の存在が感じられた。

――その頃。

ティアは寮の自室で寛いでいた。

「ん? リシェル! ルシェル!」

「主様。」

「見てきて。何か来てるでしょ。」

「来てますね。……それでは。」

二人は消えていった。



マレーの前に、リシェルとルシェルが突然転移して現れる。

「誰だ!」
マレーは思わず警戒の声を上げる。

「ここは部外者が入ってはならない場所。」
「ここは主様が寛ぐ場所。
故に、すぐ立ち去れ。」

「……主様? 
もしかして、ティアとか言う人間の護衛か?」

「主様の名を呼ぶとは、何者?」

「ああ、なるほど。
主様が言っていた通りだね……そろそろ偵察が来るはずだと。
お前がそれか。」

「今日は偵察だけだ。
……中々の強さを感じる。
他にも数人いるな。
ここは引かせてもらう。」

そう言って転移を試みるが、魔法陣は発動しない。

「……なに? 
転移できない……? 
ど、どういうことだ!」

マレーの頭に動揺が走る。

「あなた、シャクイードとか言う魔王の配下の魔王? 
……魔王の配下の魔王って、ややこしいわね。」

いつの間にかそこにティアが立っていた。

「お……お前が、ティアとか言う小娘か。
ふん、大した魔力も感じないな。
護衛に守られるだけの存在か。」

「ちなみに、転移できないのは私がそれを封じてるからよ。」
ティアは軽く肩を竦める。
「それはいいとして……あなたも魔王なんでしょ? 私に興味でも湧いたのかしら?」

転移を封じている?
ただの人間にそんな事が…。

「今日は……どんな女なのかを見に来ただけだ。」

「そう。
私はね、夏休みが終わったら学園生活で忙しいの。
だから、問題は起こさないでね?」

にこりと笑ったその瞬間、マレーの背筋を冷たい刃が撫でた。
彼女から発せられる魔力は表面的には微弱。
だがその奥底には、底知れぬ奈落の気配が眠っている。

「(こ、こいつは……人間なのか? 
それとも……!)」

ティアと従者たちは霧のように掻き消えた。
結界が解けたのを確認すると、マレーは慌てて転移で逃走する。

「……報告しなくては。あれは、ただの人間ではない……!」

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