毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第七章 シャクイードの使者

第五十七話 強き者

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カインとバロムは森を駆け、獣の気配を追い詰めていた。
「……いたな。」
三つの影――牙と岩の毛皮を持つロックウルフが唸り声を上げる。

「我に任せよ!」
バロムは黄金の鎧を鳴らし、背に負った大剣を抜いた。
その鎧はあらゆる魔法を跳ね返し、その剣は鉄すら紙同然に断ち切る。

「やる気満々だな……」
カインは一歩引き、半ば呆れたように様子を見守る。

次の瞬間、ロックウルフ三体が一斉に飛びかかった。
だがバロムの大剣が唸りを上げ――轟音と共に一刀両断。
瞬きの間に魔獣は血煙も上げず、無残な残骸と化した。

「手応えのない相手だ。」
大剣を背に収めると、黄金の従者は静かに呟いた。

◇ ◇ ◇

一方その頃、ティアたちは目的の地点に辿り着いていた。
「……あれだ!」
すでに二年生のチームがボックスを手にしている。

「略奪するしかないな。」
ジェラルが眼鏡の奥で冷静に呟く。

ティアは仲間を制して一歩前に出る。
「私に任せて。」

言葉と同時に、彼女の姿が掻き消えた。
神速――稲妻のように走り抜ける。
瞬間、二年生四人の頭上から雷撃が降り注いだ。

「うわぁっ!」
悲鳴を上げる暇もなく、全員が気絶して倒れ伏す。

「……一瞬で。」
メリルが小さく息を呑む。
「ティア、すごい……。」

ティアは軽やかにボックスを拾い上げると、仲間たちへ微笑んだ。
「行こう、ゴールへ!」
四人は勝利を掴むべく走り出した。

◇ ◇ ◇

その頃、西の森――。

「ぬぅん!」
地を震わせる大剣が唸りを上げる。
魔王グレゴロンは荒々しい剣撃を繰り出していた。

だがセリアは、ひらりと舞うようにかわし続ける。
その冷ややかな瞳は、敵を値踏みするだけで揺るがない。

「ちょこまかと!」
苛立つグレゴロンは魔力を解き放った。
地面が盛り上がり、黒々とした岩が身体を覆う。
瞬く間に全身を鎧が包み――。

「ふははは! 剣も魔法も通らぬぞ!」

セリアは眉一つ動かさず、ため息をついた。
「……まったく。主様が楽しんでおられる最中に、下品な大声をあげないでもらいたいものです。」

次の瞬間、彼女は足を踏み込み――剣ではなく拳を握った。

渾身の一撃。
轟音と共に鎧は粉々に砕け、グレゴロンの巨体は木々を薙ぎ倒して数百メートル先へと吹き飛ぶ。

森が静まり返る中、セリアはただ一言。
「……格を弁えなさい。」

セリアの拳を受け、グレゴロンの巨体は木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んだ。
岩の鎧は粉々に砕け散り、全身から夥しい血を流しつつ、それでも魔王は立ち上がる。

「ふざけるなぁぁぁっ!!」
怒りの雄叫びが森を震わせた。

しかしその声が消えるより早く――。
「魔法も剣も通らないのではなかったのですか? ああ……拳は有効だった、ということですか?」
いつの間にか、セリアは目の前に佇んでいた。氷のような眼差しを向けながら。

「貴様……従者ごときが、生意気な!」

「私が何であれ、あなたが“弱い”ことには変わりありません。」

怒りに任せ、グレゴロンは巨腕を振りかざす。
だが振り下ろされる前に――。

光の軌跡が幾重にも走った。
セリアの剣が、音すら追いつけぬ速さで閃く。

「……」

次の瞬間、グレゴロンの身体は幾筋にも断たれ、血飛沫と肉片を撒き散らしながらバラバラに飛び散った。

魔王の命は、あまりに呆気なく絶たれた。
セリアは剣を一振りし、滴る血を払うと静かに呟く。

「――主様の前に出るには、あまりにも格が足りませんね。」

森に、再び静寂が戻った。

数刻後。
地下宮殿の奥、薄闇に沈む広間。

ひざまずく眷属の魔族が、震える声で報告をする。
「……ま、魔王グレゴロン様が……討たれました。
相手は……ティアの従者と名乗る者です。」

「……従者?」
玉座に腰かけていたシャクイードが、興味深げに目を細める。

「はい。名はセリアと……。
グレゴロン様は岩の鎧を纏って応戦しましたが、一瞬で……。」

沈黙。広間を満たすのは、重苦しい空気。
やがてシャクイードは鼻で笑った。

「所詮は負け犬の魔王か。あれほど虚勢を張っておきながら、従者ひとりに敗れるとはね。」

低く笑いながらも、その視線は冷静で鋭い。
「……とはいえ。
勇者の娘ティアの“従者”が、そこまでの力を持つとは予想外だ。
あの娘自身がどの程度か、測るのはもう少し先でもいい。」

指先で顎を撫で、しばし思案する。
「ふむ……こんな小物が何人集まったところで、状況を覆せる力にはならない。問題は……その娘と、背後に控える力だ。」

静かな呟きが、広間に鈍く響いた。

魔法探索競技は、その後大きな妨害もなく進行した。
しかし結果は誰の目にも明らかだった。

ティアの圧倒的な実力の前に、各クラスのチームが手にしたボックスは次々と奪われていった。
雷光の速さで迫り、一瞬で制圧する姿はもはや“競技”を超えていた。

「……やっぱり勝てない……」
「すごすぎる……あれが同じ一年生だなんて……」

観客席や参加者たちの間に、驚きと感嘆の声が広がる。
最終的にティアのチームは全勝し、堂々の優勝を収めた。

こうして学園最大の行事──魔法大祭典は幕を閉じる。

だが、生徒達の心に最も強く刻まれたのは、どの競技の勝敗でもなく。
ただひとり、ティアという存在の圧倒的な力と輝きだった。

やがて、囁く者が現れ始める。
「ティアがもし生徒会を引っ張ってくれたら……」
「生徒会長になれば、学園ももっと盛り上がるんじゃないか?」

憧れと尊敬の眼差しが、自然と彼女に集まっていく。
その流れはやがて、思いもよらぬ形となって──。

次なる舞台、「生徒会会長選挙」へと繋がっていった。

生徒会長エルリンの死去に伴い、学園では次期生徒会長を決める選挙が行われることになった。
有力候補は現副会長のレゼント。
その経歴と実力から「次は彼しかいない」と大方の生徒が思っていた。

──だがその裏で、男子生徒達が妙な動きを始めていた。

一つは「ティア・ファンクラブ」の設立である。
発起人は同学年のマクラレン。彼が声を上げるや否や、入会希望者は雪崩のように押し寄せ、瞬く間に学園男子の三分の一に迫る勢いを見せた。

もちろん、当のティアはそんなこと知るはずもなく──。

「ここに、ティア嬢のファンクラブを設立する!」
マクラレンが高らかに宣言した瞬間、拍手と歓声が湧き上がった。

そしてある日、彼は教室に姿を現す。
「ティア嬢。少しお時間を頂けないだろうか?」

「え? わ、私?」
ティアは目を丸くし、メリルも含めクラス中がその場に釘付けとなった。

ティアとメリルは半ば強引にマクラレンに連れられ、講堂へ。
そこには──ぎっしり詰めかけた男子生徒達の姿があった。

「え? え? な、なにこれ!?」
ティアは思わず一歩後ずさる。

「ティア……私、戻ろうかな~……」
メリルも心細そうに後退り。

「ティア嬢。壇上へ」
マクラレンに促され、戸惑いつつ壇上に上がるティア。

入り口付近に隠れるように立ったメリルは、その様子を固唾を飲んで見守っていた。

「ティア嬢!」
壇上でマクラレンが宣言する。
「我らはティアファンクラブを設立した! そして今ここに──ティア嬢を次期生徒会長として推すことを誓う!」

「え!? あ、は、はい……?」
講堂に響き渡る声援と拍手の渦の中、ティアは顔を真っ赤にして縮こまり、居心地悪そうに返事をしてしまう。

「ティア……!?」
メリルは驚きのあまり口を押さえ、どうしたらいいかわからずその場に立ち尽くした。
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