毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第八章 謎の転校生

第六十二話 豪華クルージング旅行

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書類の電子化によって生徒会の業務は一気に効率化され、ティアの余計な仕事は激減した。
そのおかげで、以前のように友達と遊びに行く時間も増え、学園生活を存分に楽しめるようになった。

――だが。

真夜中。
ティアは寮の自室に、臣下たちを呼び集めていた。

「主様。全員、揃いました。」
一歩前に出て頭を垂れるセリアの声に、ティアは微笑む。

「ありがとう、セリア。」

その場に跪くのは、忠誠を誓う七人の臣下――
セリア、カイン、ルシェルとリシェル、ゲド、ヨル、バロム。
皆の視線がティアに注がれると、先ほどまでの学園生徒会長の顔は消え、冷徹で威厳に満ちた主の姿へと変わる。

「シャクイードの動きは、今のところ様子見……そう判断していいわね。
けれど気になることがあるの。
調べてもらいたいことが幾つかあるわ。」

臣下たちが息を呑み、耳を傾ける。

「セリア。
あなたは魔界に戻って、各魔王の様子を探ってきて。不審な動きがあればすぐに報告を。」

「御意。」

「カイン。
ロイスは来年、アインレット王国に帰還する予定。
その間、一緒に行動して監視役を務めなさい。」

「御意。」

「ルシェル、リシェル。
あなたたちはそのまま私の身辺を守りつつ、フィレンツ第二王子の現状を調べて。表も裏もね。」

「御意。」

「ゲドとヨルは引き続きザザルン王国の内情調査。

「御意。」

「バロム。
冒険者ギルドに登録しなさい。
この国に蔓延る魔物の動向、国力、ギルド内部の思惑……すべて洗い出してちょうだい。」

「御意。」

静かに指示を下すティア。
その声音には、昼間の朗らかな学園会長の面影はない。

「――それでは、動きなさい。」

セリアが最初に身を翻し、光の粒となって闇に消える。
続いて他の臣下たちも次々と姿を消し、部屋にはティアひとりだけが残された。

月明かりに照らされたその横顔は、美しくも冷酷な統治者のものだった。

学園は秋休みに入り、二週間の長期休暇が訪れた。
夏休みほどの長さではないが、学生たちにとっては待ちに待った憩いの時。

そして――
学園祭のミスコンで優勝したティアへの賞品、「豪華クルージングの旅」がいよいよ幕を開ける。

港に到着すると、目の前に現れたのは学園所有の巨大なクルージング船だった。
白銀の船体は陽光を受けて輝き、甲板には真新しい装飾ときらびやかなシャンデリアまで設置されている。

「うわぁ!すごい豪華な船!」
思わず歓声を上げるティアに、友人たちも口々に感嘆の声を漏らす。

「これもティアとブライトンのおかげね。まさかこんな立派な船で旅ができるなんて!」

船内に足を踏み入れれば、そこはまるで別世界。
煌びやかなシャンデリアが輝き、廊下には赤い絨毯が敷かれている。
豪奢な調度品が並び、まるで王侯貴族の館を思わせる空間だった。

さらに驚くべきことに――
全員に広々とした個室が用意されていた。
その部屋は学園の寮の自室と比べても遜色なく、むしろ快適さでは大きく上回っている。

「え、これ……私たち、本当に学生よね?」
「豪華すぎて落ち着かないわ……!」

そんな冗談交じりの会話を交わす間にも、全員が船に乗り込み、甲板では出港の準備が進められていく。

そして――
汽笛が大きく鳴り響き、ゆっくりと港を離れる巨大クルージング船。

こうして、七日間の豪華な船旅が幕を開けた。

船旅初日。
大広間では乗客――つまりは学園の生徒たちに向けて、盛大なレクリエーションが開催された。

まずは――
「宝探しゲーム!」

広い船内の至る所に小さな魔石が隠されていて、時間内に多く見つけた者が勝ち、という単純なルール。

「よーし!絶対優勝してやる!」
男子生徒たちが燃える一方で――ティアはというと、
「ええ……こんなの、すぐ見つけちゃったら悪目立ちしそうよね……」
と、やや手加減モード。

ところが――
「きゃー!あそこにあった!」
「こっちも見つけたぞ!」
大盛り上がりの会場をよそに、ティアの足元の床板が不意にカコンと外れて、山ほどの魔石がドサドサと転がり落ちた。

「……え?」
「ティア嬢!?」
「一網打尽!?」
「チートすぎる!!」

その瞬間、会場は大爆笑と大ブーイングの嵐に包まれる。

「ち、違うのよ!
わざとじゃないのよ!!」
ティアは顔を真っ赤にして慌てふためいた。



次のイベントは「大食い大会」。
「まさかこんなものまで……」と呆れながら見ていたティアだが――
出場者の中にメリルが参戦していた。

「メリル!?
あなたが!?」
「だ、だって……豪華料理食べ放題だし……」

周囲を驚かせたものの、結果は意外な大健闘。
細身の体からは想像できない勢いでケーキやステーキを平らげ、観客をどよめかせる。

そして最後に――
「ミュウオケ大会~!」

船内に設けられた舞台で、順番に生徒が歌っていく。
「もしかして……」ティアは嫌な予感しかしない。

予感は的中した。
男子三人組が「俺たちの友情!」と題して歌い出したが……音程は外れ、リズムもバラバラ。

「うぅ、耳がぁ~!」
観客は笑いと悲鳴で大盛り上がり。

続いて登場したエマは――まさかの透き通るような美声を披露し、観客を一瞬で静まり返らせた。
「す、すごい……」
誰もがうっとりと聞き入る。

そしてトリを飾ったのは――ナディア。
「では……私の曲を」
まさかの選曲は、誰も予想しなかった勇ましい軍歌。

「えぇぇぇぇ!?」
生徒たちが総立ちでツッコみ、会場は爆笑に包まれた。



こうして、笑いあり、驚きありのレクリエーション初日は幕を閉じる。
ティアは夜、豪華なベッドに腰を下ろしながらため息をついた。

「……もう。
普通にクルージングを楽しみたいだけなのに。
なんで毎回こうなるのかしら……」

しかし――
その頬はどこか楽しげに緩んでいた。

昼過ぎ、船内の廊下や食堂は男子達のざわめきで包まれていた。
原因は――船内イベント日程に大きく書かれていた一行。

「夜:舞踏会」

「お、おい……舞踏会って、あれだよな?
男女ペアで踊るやつ……」
「ま、まさか……ティア嬢も踊るんだよな?」
「そ、それは当然だろう!
問題は……だ、誰と踊るか……だ!」

その言葉に、空気が一瞬にしてピリッと張り詰める。
視線と視線がぶつかり合い――男子たちは自然と互いを牽制し始めた。

特に危険なのはティアファンクラブ会員たちだ。
彼らはそれぞれ「自分こそティア嬢と踊るべき!」と心の中で燃えている。

「はっ!お前なんかに譲るか!」
「ぬかせ!ティア嬢の隣に立つのは俺だ!」
「いや、俺こそが推し活の代表として――!」

小声のはずが段々と熱がこもり、ついには周囲に聞こえるほど大声で言い争いになっていた。

一方その頃、当のティアは……。
「ふわぁ……おやつまだかしら」
メリルとケーキを頬張りながらのんきに過ごしていた。

「ティア……知らないの?
男子達がすごいことになってるよ」
「え?なにが?」
「舞踏会よ!舞踏会!
ティアのパートナー争奪戦!」

「えぇぇ!?
ちょ、ちょっと待って!
私、そんな予定ないんだけど!」
ケーキを飲み込みながら慌てふためくティア。

だが男子たちの争いは既に本格化していた。
「ティア嬢は俺と踊るんだああああ!」
「いや俺だああああ!」
「お前らまとめてかかってこい!」

船内の一角は、まるで決闘前夜の戦場のような緊張感に包まれていた。

――夜の舞踏会、果たしてティアの相手は誰になるのか!?
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