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第九章 新学期編
第七十二話 邪竜の眷属
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ティアは、瞬時に自分が結界に閉じ込められたことを悟った。
周囲の空気は重く淀み、現実の山岳とは違う、不気味な気配が渦巻いている。
――ここは、邪竜の眷属にとって有利な空間。
そう感じるのと同時に、相手の魔力が膨張していくのを肌で知覚した。
「……私を殺すための空間ってわけかしら?」
挑発気味に言うティアに、眷属は嗤う。
「人間どもの浅はかな策など知ったことではない。
だが、こうして我と対峙している――それこそが答えだろう。」
「ふふ、可哀想に。
相手が私で残念だったわね。」
「それはどうかな。
この異空間では、我が主――邪竜アヴェスターの力が常に降り注ぐ。
我は無限に力を得るのだ!」
次の瞬間、眷属の巨大な翼が閃光のように振り下ろされる。
ティアは避けきれず直撃を受け、地面を転がるほど吹き飛ばされた。
「哀れなのはお前かもしれんな!」
眷属の声が轟き渡る。
しかし、土煙の中からゆっくりと歩み出たティアは、涼しい顔で立ち上がった。
衣服すら乱れず、無傷のまま。
服とスカートのゴミを手で払う。
「同情してもらえるなんて、光栄ね。」
その姿を見た眷属の瞳が怪訝に細められる。
「……ただの人間ではないな。
何者だ?」
ティアは静かに微笑んだ。
「ちょうどいいわ。
この空間なら――抑えていたものを解放できそう。」
言うなり、ティアの身体を覆っていた制御の障壁が解かれる。
瞬間、爆発的な魔力が迸った。
紫の炎のような魔力がティアの体から立ち上り、異空間そのものを揺るがす。
「なんと……!
この圧は……!」
眷属が思わず身を引くほどの力。
ティアは長い髪を揺らしながら、唇に笑みを刻んだ。
「さあ――少し遊んであげる。」
こうして、ティアと邪竜の眷属との決戦が幕を開けた。
その頃、ゲドとヨルは再びゴルドー山脈の高原に降り立っていた。
だが、そこに広がっていたのは荒れ果てた残骸。テントは崩れ、巨大な転移魔法陣も跡形もなく消え去っている。
「……やはり、ここから異空間に主様は飛ばされたか。」
ヨルが冷静に言葉を洩らす。
「どうする?」
「決まっている。
我らが主様は、あのような下賎の眷属に屈するお方ではない。
ならば我らは――主様の学園の者達を探し出すまでだ。」
「なるほど……確かに、それが主様の望みであろうな。」
ゲドは頷くと、指を弾いた。
瞬間、無数の蟲が空へ、森へ、地中へと散っていく。
「この国全土を覆うほどの網だ。
必ず痕跡を捕らえる。」
***
一方その頃。
アーサーは学園の自室に籠り、拳を握りしめたまま沈んでいた。
悔しさと無力感に苛まれ、ただ机を睨みつけていたその時――。
「アーサー殿。」
ヨルが静かに部屋へ現れた。
「……ヨル殿か。
俺は……何をしているんだろうな。」
「落ち込んでいる場合ではないぞ。」
ヨルの声音は鋭くも、どこか温かさを帯びていた。
「どういうことだ?」
「ゲドが見つけた。
空を往く航空艇――教団のものだ。
主様の安否は問題ない。
ならば今我らがすべきは、攫われた学園の者達を救うこと。」
アーサーははっと顔を上げる。
「……そうだな。
俺まで膝を折っていては、ティアに顔向けできない。」
ちょうどその時、ゲドが転移で現れた。
「見つけたぞ。
学園の女子生徒達は航空艇に囚われている。」
「アーサー殿、行くぞ。」
ヨルが言い、ゲドが転移陣を展開する。
「……ああ!」
三人の姿は光に包まれ、次の瞬間、空を行く敵の航空艇へと転移していった。
ゲドは蟲が見つけた場所に転移出来る。
ティアは邪竜の眷属と睨み合い、わずかに口元を歪めて挑発した。
「さあ――来なさい。」
細い指先で手招きをするその仕草は、余裕そのものだった。
「舐めるなよ!」
邪竜の眷属は咆哮し、全身から夥しい黒の魔力を噴き上げる。
翼の一撃、口から吐き出す劫火、鋭い爪の連撃――。
だが、そのすべてはティアには届かない。
彼女は舞うように、一瞬で交わし切ってしまう。
「……もういいわね。」
ティアは片手を掲げ、虚空から光を裂いて一本の剣を呼び出す。
神魔の剣――レーヴァティン。
禍々しくも神々しい光を宿したその刃は、握った瞬間に周囲の空間すら震わせた。
「久しぶりに使うけど――ごめんなさい。
この剣を抜いた時点で、あなたに勝ち目はないの。」
一瞬にして邪竜の眷属の懐へと踏み込み、紅蓮の軌跡を描いて剣を振り下ろす。
刃は重々しい翼を易々と裂き、黒い羽根が散る。
「グヮァァ!!」
眷属の翼は崩れ落ち、断末魔が虚空に響く。
「まだだ!」
狂気に駆られたように、黒炎を撒き散らす邪竜の眷属。
だが、ティアには傷一つつけられない。
「ならば――凍てつけ!」
眷属は口を大きく開き、絶対零度の吐息を解き放つ。
周囲は瞬時に凍りつき、世界は白銀の牢獄と化した。
だが、次の瞬間――ティアの身体を中心に紅蓮の業火が噴き上がり、氷の世界を焼き崩す。
白い景色はたちまち真紅の炎に呑まれた。
「な、なんだ貴様は……!
ここは我が主の加護に満ちた空間……!
人間如きの力で抗えるはずが……!」
「そう。
じゃあ――この空間ごと壊しちゃうね。」
ティアはレーヴァティンを天に突き立てた。
刹那、黒と白の光が渦を巻き、天を貫いて奔流となる。
空間そのものが悲鳴を上げ、崩壊を始めた。
光は邪竜の眷属を捕らえ、その身を白と黒の炎で灼き尽くす。
「ば、バカな……こんな……!」
その叫びを最後に、邪竜の眷属は音もなく消滅した。
虚無に戻った空間の中、ただ一人。
ティアだけが、静かに立っていた。
その場所はゴルドー山脈の高原転移陣があった場所だった。
ゲドとヨル、そしてアーサーは雲の上に浮かぶ巨大な航空艇へと転移した。
「侵入開始。」
ゲドは指を鳴らすと、無数の蟲を撒き散らし、船体の外壁から内部の回廊に至るまで瞬く間に侵食していく。
悲鳴があがり、混乱に陥る教団の信徒たち。
ヨルは影のように姿を消し、現れては敵を斬り伏せていく。
「……斬る。」
その冷ややかな声とともに、血風が走った。
アーサーもまた剣を抜き、内部へ突入する。
目指すは――攫われた学園の女子生徒たち。
奥へと駆け抜けた先、大広間に彼女たちの姿があった。
「おい!大丈夫か!」
「アーサー君!」
生徒たちの中から安堵の声があがる。その中にはメリルの姿もあった。
「良かった……もう大丈夫だ。」
だが、その直後。
重々しい足音と共に、巨躯の戦士が姿を現す。
「小僧……よくも好き勝手してくれたな!」
片手で大剣を軽々と振るい、厚い鎧を纏った男は、ただならぬ殺気を放っていた。
「来い!」
アーサーは剣を構え、真正面からぶつかる。
鉄と鉄が打ち合い、火花が散る。
「きゃぁ!」
女子生徒たちは部屋の隅で震えながら、その戦いを見守っていた。
「大丈夫だ。
俺は――負けない!」
その瞬間、アーサーの内に宿る固有スキルが目覚める。
《救済者(セオイシモノ)》。
守るべき者を背負う時、彼のステータスは倍増する。
力が漲り、剣が冴え渡る。
防具ごと斬り裂く鋭い斬撃が、ついに巨戦士を圧倒し――。
「ぐっ……馬鹿な……!」
最後の一撃とともに、戦士は崩れ落ちた。
その間に、ゲドとヨルは船内の制圧を完了していた。
蟲に覆われた船体は既に掌握され、操縦権は奪われている。
「制圧完了。
主様の学園へ向かう。」
ゲドの無機質な声が響き、航空艇はゆっくりと進路を変える。
やがて巨大な船影は学園の校庭に降り立ち、攫われた女子生徒たちは無事に寮へと移された。
「……ふう、なんとかなったな。」
アーサーは深く息を吐き、胸を撫で下ろした。
その背後で、助けられた生徒たちの安堵の涙が広がっていた。
周囲の空気は重く淀み、現実の山岳とは違う、不気味な気配が渦巻いている。
――ここは、邪竜の眷属にとって有利な空間。
そう感じるのと同時に、相手の魔力が膨張していくのを肌で知覚した。
「……私を殺すための空間ってわけかしら?」
挑発気味に言うティアに、眷属は嗤う。
「人間どもの浅はかな策など知ったことではない。
だが、こうして我と対峙している――それこそが答えだろう。」
「ふふ、可哀想に。
相手が私で残念だったわね。」
「それはどうかな。
この異空間では、我が主――邪竜アヴェスターの力が常に降り注ぐ。
我は無限に力を得るのだ!」
次の瞬間、眷属の巨大な翼が閃光のように振り下ろされる。
ティアは避けきれず直撃を受け、地面を転がるほど吹き飛ばされた。
「哀れなのはお前かもしれんな!」
眷属の声が轟き渡る。
しかし、土煙の中からゆっくりと歩み出たティアは、涼しい顔で立ち上がった。
衣服すら乱れず、無傷のまま。
服とスカートのゴミを手で払う。
「同情してもらえるなんて、光栄ね。」
その姿を見た眷属の瞳が怪訝に細められる。
「……ただの人間ではないな。
何者だ?」
ティアは静かに微笑んだ。
「ちょうどいいわ。
この空間なら――抑えていたものを解放できそう。」
言うなり、ティアの身体を覆っていた制御の障壁が解かれる。
瞬間、爆発的な魔力が迸った。
紫の炎のような魔力がティアの体から立ち上り、異空間そのものを揺るがす。
「なんと……!
この圧は……!」
眷属が思わず身を引くほどの力。
ティアは長い髪を揺らしながら、唇に笑みを刻んだ。
「さあ――少し遊んであげる。」
こうして、ティアと邪竜の眷属との決戦が幕を開けた。
その頃、ゲドとヨルは再びゴルドー山脈の高原に降り立っていた。
だが、そこに広がっていたのは荒れ果てた残骸。テントは崩れ、巨大な転移魔法陣も跡形もなく消え去っている。
「……やはり、ここから異空間に主様は飛ばされたか。」
ヨルが冷静に言葉を洩らす。
「どうする?」
「決まっている。
我らが主様は、あのような下賎の眷属に屈するお方ではない。
ならば我らは――主様の学園の者達を探し出すまでだ。」
「なるほど……確かに、それが主様の望みであろうな。」
ゲドは頷くと、指を弾いた。
瞬間、無数の蟲が空へ、森へ、地中へと散っていく。
「この国全土を覆うほどの網だ。
必ず痕跡を捕らえる。」
***
一方その頃。
アーサーは学園の自室に籠り、拳を握りしめたまま沈んでいた。
悔しさと無力感に苛まれ、ただ机を睨みつけていたその時――。
「アーサー殿。」
ヨルが静かに部屋へ現れた。
「……ヨル殿か。
俺は……何をしているんだろうな。」
「落ち込んでいる場合ではないぞ。」
ヨルの声音は鋭くも、どこか温かさを帯びていた。
「どういうことだ?」
「ゲドが見つけた。
空を往く航空艇――教団のものだ。
主様の安否は問題ない。
ならば今我らがすべきは、攫われた学園の者達を救うこと。」
アーサーははっと顔を上げる。
「……そうだな。
俺まで膝を折っていては、ティアに顔向けできない。」
ちょうどその時、ゲドが転移で現れた。
「見つけたぞ。
学園の女子生徒達は航空艇に囚われている。」
「アーサー殿、行くぞ。」
ヨルが言い、ゲドが転移陣を展開する。
「……ああ!」
三人の姿は光に包まれ、次の瞬間、空を行く敵の航空艇へと転移していった。
ゲドは蟲が見つけた場所に転移出来る。
ティアは邪竜の眷属と睨み合い、わずかに口元を歪めて挑発した。
「さあ――来なさい。」
細い指先で手招きをするその仕草は、余裕そのものだった。
「舐めるなよ!」
邪竜の眷属は咆哮し、全身から夥しい黒の魔力を噴き上げる。
翼の一撃、口から吐き出す劫火、鋭い爪の連撃――。
だが、そのすべてはティアには届かない。
彼女は舞うように、一瞬で交わし切ってしまう。
「……もういいわね。」
ティアは片手を掲げ、虚空から光を裂いて一本の剣を呼び出す。
神魔の剣――レーヴァティン。
禍々しくも神々しい光を宿したその刃は、握った瞬間に周囲の空間すら震わせた。
「久しぶりに使うけど――ごめんなさい。
この剣を抜いた時点で、あなたに勝ち目はないの。」
一瞬にして邪竜の眷属の懐へと踏み込み、紅蓮の軌跡を描いて剣を振り下ろす。
刃は重々しい翼を易々と裂き、黒い羽根が散る。
「グヮァァ!!」
眷属の翼は崩れ落ち、断末魔が虚空に響く。
「まだだ!」
狂気に駆られたように、黒炎を撒き散らす邪竜の眷属。
だが、ティアには傷一つつけられない。
「ならば――凍てつけ!」
眷属は口を大きく開き、絶対零度の吐息を解き放つ。
周囲は瞬時に凍りつき、世界は白銀の牢獄と化した。
だが、次の瞬間――ティアの身体を中心に紅蓮の業火が噴き上がり、氷の世界を焼き崩す。
白い景色はたちまち真紅の炎に呑まれた。
「な、なんだ貴様は……!
ここは我が主の加護に満ちた空間……!
人間如きの力で抗えるはずが……!」
「そう。
じゃあ――この空間ごと壊しちゃうね。」
ティアはレーヴァティンを天に突き立てた。
刹那、黒と白の光が渦を巻き、天を貫いて奔流となる。
空間そのものが悲鳴を上げ、崩壊を始めた。
光は邪竜の眷属を捕らえ、その身を白と黒の炎で灼き尽くす。
「ば、バカな……こんな……!」
その叫びを最後に、邪竜の眷属は音もなく消滅した。
虚無に戻った空間の中、ただ一人。
ティアだけが、静かに立っていた。
その場所はゴルドー山脈の高原転移陣があった場所だった。
ゲドとヨル、そしてアーサーは雲の上に浮かぶ巨大な航空艇へと転移した。
「侵入開始。」
ゲドは指を鳴らすと、無数の蟲を撒き散らし、船体の外壁から内部の回廊に至るまで瞬く間に侵食していく。
悲鳴があがり、混乱に陥る教団の信徒たち。
ヨルは影のように姿を消し、現れては敵を斬り伏せていく。
「……斬る。」
その冷ややかな声とともに、血風が走った。
アーサーもまた剣を抜き、内部へ突入する。
目指すは――攫われた学園の女子生徒たち。
奥へと駆け抜けた先、大広間に彼女たちの姿があった。
「おい!大丈夫か!」
「アーサー君!」
生徒たちの中から安堵の声があがる。その中にはメリルの姿もあった。
「良かった……もう大丈夫だ。」
だが、その直後。
重々しい足音と共に、巨躯の戦士が姿を現す。
「小僧……よくも好き勝手してくれたな!」
片手で大剣を軽々と振るい、厚い鎧を纏った男は、ただならぬ殺気を放っていた。
「来い!」
アーサーは剣を構え、真正面からぶつかる。
鉄と鉄が打ち合い、火花が散る。
「きゃぁ!」
女子生徒たちは部屋の隅で震えながら、その戦いを見守っていた。
「大丈夫だ。
俺は――負けない!」
その瞬間、アーサーの内に宿る固有スキルが目覚める。
《救済者(セオイシモノ)》。
守るべき者を背負う時、彼のステータスは倍増する。
力が漲り、剣が冴え渡る。
防具ごと斬り裂く鋭い斬撃が、ついに巨戦士を圧倒し――。
「ぐっ……馬鹿な……!」
最後の一撃とともに、戦士は崩れ落ちた。
その間に、ゲドとヨルは船内の制圧を完了していた。
蟲に覆われた船体は既に掌握され、操縦権は奪われている。
「制圧完了。
主様の学園へ向かう。」
ゲドの無機質な声が響き、航空艇はゆっくりと進路を変える。
やがて巨大な船影は学園の校庭に降り立ち、攫われた女子生徒たちは無事に寮へと移された。
「……ふう、なんとかなったな。」
アーサーは深く息を吐き、胸を撫で下ろした。
その背後で、助けられた生徒たちの安堵の涙が広がっていた。
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