毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第九章 新学期編

第七十五話 進撃

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準備が整い、ティアたちは新型航空艇《ミネルヴァ》に乗り込んだ。
船体中央には広々としたコックピットがあり、その奥には堂々たる船長席が設けられている。
ティアが腰を下ろすと、場の空気が自然と引き締まった。

「主よ、いつでも発進可能じゃ!」
アダミルは計器を細かく確認しつつ、得意げに胸を張る。

ティアは静かに頷き、艦内に声を響かせた。
「みんな! 行くわよ! 
目標――レベスター! ミネルヴァ発進!」

「おうっ!」
「御意!」
臣下たちの声が重なり、ミネルヴァの魔力炉が唸りを上げる。
次の瞬間、船体は凄まじい加速を見せ、滑るように大地を離れた。
雲を突き抜け、蒼穹の高みへ――しかし驚くほどの安定感で、揺れ一つない。

「どれくらいで到着できそう?」
ティアは視線を前に向けたまま問う。

「およそ一時間じゃな。」
アダミルは満足げに答える。

「わかったわ。
……セリア、みんな。
到着次第すぐ戦闘態勢に入って。」

「御意。」
臣下たちは一斉に姿を消し、それぞれの機動兵器《オメガΣ》の待機デッキへと転移した。

「アダミル、ここは任せるわ。
到着が近づいたら呼んで。」

「心得た!」
アダミルは誇らしげに胸を叩く。

ティアは船長席を離れ、艦内に用意された自室へと向かった。
そこには簡易の通信システムが備わっており、魔導端末を通して外部と映像通話が可能だ。

ティアは装置を起動し、学園に残るロイスへ連絡を入れる。
「ロイス。
こちらはあと一時間ほどでレベスターに到着するわ。
そっちは問題ないかしら?」

映し出されたロイスは真剣な表情で答えた。
「今のところ異常はありません。
ただ……考えたくはありませんが、ティアさんたちが攻撃を開始すれば、こちらも狙われる可能性があります。
後方を混乱させるのは常套手段ですから。」

「その時は任せるわ。
こっちはなるべく早く片付けるつもりだから。」

「……ですが、邪竜アヴェスターには十分にご注意を。
シャクイードの動向も不明です。」

「わかったわ。
ロイスも気をつけて。」

通信を終えると、ティアは深く息を整え、再び立ち上がった。
向かうのは、臣下たちが待つ機動兵器デッキ――。
決戦の時は、もう間近に迫っていた。

ティアは機動兵器のデッキに到着すると、臣下たちへ指示を下した。
「――セリアとカインで先陣を切ってもらうわ。
相手の出方はわからないけど、私たちの接近は必ず察知されるはず。
ミネルヴァは地上付近にみんなを下ろしたら一旦亜空間へ退避。
リシェルとルシェルはセリアたちの後方支援。
ゲドとヨルは左右に分かれて周辺掌握。
バロムは私と後方から残存兵力を潰しながら進行する。
――以上、よろしくね。」

「御意!」
全員の声が揃い、戦場に臨む覚悟が響き渡る。

ティアは再び船長席に戻ると、アダミルが待ち構えていた。
「主よ、もうすぐ到着じゃ!」

「到着したら、アダミルは一旦戻っていいわ。」

「なんと? 
わしも戦えるぞ!」

「必要な時は呼ぶわ。
その時まで亜空間で待機していて。」

「ふん、了解じゃ!」
アダミルは口を尖らせながらも計器を操作し、ミネルヴァを下降させていく。

雲を抜けた瞬間、眼下に濃紺の海が広がり、その先には黒々とした大陸の影が横たわっていた。
「着いたぞよ……おおっと、前方に無数のドラゴンじゃ! どうする?」

「ドラゴン程度なら問題ないわ。――ミネルヴァの力を見せてあげる。
アダミル、私をリンクさせて。」

「よしきた! 
主とミネルヴァを精神リンク、いつでも発射可能じゃ!」

ティアが船長席に深く腰を下ろすと、視界に情報が流れ込み、ミネルヴァと意識が直結する。
前方の船体が唸りを上げ、巨大な主砲が展開された。

「――消えなさい。」
ティアが冷ややかに呟くと同時に、主砲が閃光を放つ。

凄まじい熱量を帯びた光の奔流が空を薙ぎ払い、迫り来るドラゴンの群れを一瞬で呑み込んだ。
轟音と爆風が大気を揺るがし、爆炎に包まれた竜たちが次々と燃え落ちていく。
空間そのものが熱で歪み、視界が揺らいだ。

「はっはっは! ドラゴンども、見事に全滅じゃ!」
アダミルは大笑いし、操舵輪を誇らしげに叩く。

ティアは静かに頷き、前方に目を凝らした。
「……あれがそうね。
封印の施設。
恐らく、邪竜アヴェスターが眠る場所。」

黒い霧に包まれた巨大な建造物が大陸の中心に姿を現す。
その不気味な輪郭は、まるで大地そのものが邪竜の墓標となったかのようだった。

「アダミル、着陸地点を確保して。」

「承知じゃ!」
ミネルヴァは炎に包まれて墜落していく竜の群れをすり抜け、一直線に目的地へと突き進む。
大地が迫りくるその瞬間――いよいよ決戦の幕が開こうとしていた。

ミネルヴァは草原の平地に静かに着陸した。
同時に格納庫が開き、セリアとカインがそれぞれの機動兵器と共に飛び出す。

「カイン、遅れないでね。
殲滅するわよ。」

「任せろ! 
行くぞ、拳丸!」

「……拳丸?」セリアが目を瞬かせる。

「サウザンドフィストって長いだろ? 
だから愛称だ。
コブシマルって呼んでんだ。」

「ああ、そう。
――ミッドナイト、前方のドラゴン軍を掃討する!」
セリアは呆れを残しつつも指令を飛ばし、機体は疾風のように加速。
その眼前にアースドラゴンの群れが立ち塞がった瞬間、双剣が煌めき、竜の巨体を次々と薙ぎ払っていく。

「おお、やるな! 
拳丸、俺たちも行くぞ!」
カインは笑みを浮かべ、巨拳を振り抜いた。
サウザンドフィストの連撃が轟音を響かせ、竜の群れを打ち砕いていく。

その後方で、リシェルとルシェルが手を取り合った。
「行くわよ、リシェル。」
「ええ。アルテミス、ツクヨミ――支援開始!」
二人とその機体は宙に舞い上がり、魔法陣を展開。
無数の光弾が雨のように降り注ぎ、前衛を援護する。

「ゲド、動くぞ。」
「ヨルは右へ。
俺は左だ。」

「了解。」
ベルゼバブから放たれた無数の蟲型ビットが火竜の群れを包み込み、焼き潰していく。一方、ヨルのダズルは銀色の機体ごと幻影に紛れ、敵を翻弄。妖術の閃光で竜を貫いていった。

「さあ、バロム。
私たちも行くわよ。」

「御意。」

ティアが振り返ると、アダミルは親指を立てる。
「わしは亜空間で待機じゃな?」

「ええ。
出番が来たら呼ぶわ。」

「心得た!」
その声を最後に、ミネルヴァは眩い光を残して亜空間へと消えた。

――その時。

ズキィィィン!!!!

天地を震わせるほどの凄まじい波動が戦場を駆け抜ける。
セリアもカインも、他の者たちも思わず動きを止め、全身を恐怖が支配した。

「な、何だ……この力は……」
誰もが息を呑む中、ただ一人、ティアだけが異様な光を瞳に宿していた。

「……ふふ。
そう。
面白くなってきたじゃない。」
驚きの色など一片もなく、むしろ愉快そうに口元を吊り上げる。

「主様、いかがなさいますか?」とバロムが問う。

「気にしなくていいわ。
あの波動の源に向かう。
バロム――道を切り拓きなさい。」

「御意。」
バルムンクの全身が眩い金色のオーラに包まれる。次の瞬間、巨剣が振り抜かれ、波動の方角へと途轍もないエネルギーの斬撃が放たれた。
大地が震え、前方の竜たちはその一撃でまとめて霧散する。

「ご苦労さま、バロム。
あなた達も一緒に来なさい。」
ティアは微笑むと、魔力を解き放った。
彼女の周囲に展開した赤黒い奔流が仲間たちを包み込み、一斉に高速移動を開始する。
切り拓かれた道を一直線に駆け抜け、戦場を突き破る。

やがて、黒い霧に覆われた巨大な神殿が眼前に姿を現した。
その門前には、邪竜の尖兵が三体、行く手を阻むかのように立ちはだかる。

「――邪魔よ。」
ティアの右手に迸った火球は、太陽の如き熱量を宿して放たれる。
轟音と共に炸裂し、尖兵たちは一瞬で蒸発し、跡形もなく消え失せた。

そのまま進軍を続け、彼女たちはついに神殿の大扉の前へと辿り着いた。
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