毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十章 悪魔王ディアボロス

第八十一話 その名もミィーニャ

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ロイスたちはアルビゲイツの襲撃を退け、目的を果たした後、クリストナの街へ戻ってきた。
次の行動を決めるため、宿に腰を落ち着けて作戦会議を開くことにした。


「それにしても、リリアって本当にすごいよね。
あんな悪魔、相当やばい相手だったのに、撃退しちゃうなんて。」
宿の部屋で、同室のサーシャが感嘆の声を上げる。

「う、うん……なんとか、頑張ったよ。」
リリアは照れながらも、胸の前で小さく拳を握る。

「でもさ、勇者のロイスが気絶してどうすんのよ。」

「そうそう、勇者様には“カッコいい背中”見せてもらわないと困るよね~。
『あとは任せろ!』って決め台詞のひとつでも欲しいところ!」

「本当よね」

「ふふっ……私のババも、すごく強かったってママが言ってたの。
ロイスさんも、頑張らないとね。」

「へぇ~。
リリアのお父さんって、そんなに凄い人なの?」

「うん。
私が生まれたときにはもう亡くなってたんだけど……ママの話では、世界一強い剣士だったらしいの。」

「……そっか、ごめん。
変なこと聞いちゃった。」

「いいの。
私はババを誇りに思ってるから。
気にしないで。」
リリアはふわりと笑みを浮かべた。その健気さにサーシャの胸がじんと温かくなる。

そのとき――コンコン、とドアがノックされた。

「どうぞー。」

「リリア、サーシャ。
次の目的地の相談をしたいんだが……ついでに昼飯でもどうだ?」
扉の隙間から、ロイスが顔をのぞかせる。

「やった! 
行く行く!」
ふたりは元気よく返事をし、準備を整えて部屋を出た。


宿の近くにある料理店に入り、全員でテーブルを囲んだ。
香ばしい匂いに包まれながら、食事会と作戦会議が始まる。

「まずは……リリア。
今回は本当に助かった。
ありがとう。」
ロイスがまっすぐ彼女に頭を下げた。

「えっ、そ、そんな。
大したことじゃ……それに、これが私の仕事ですから……」
リリアは恥ずかしそうに顔を伏せる。
頬が赤く染まり、うつむきながら小さな笑みを浮かべた。

「いや、期待以上だ。
ティアさんが紹介するだけのことはある。」

「……よかったです。」
照れ笑いを浮かべるリリア。
その微笑みに、皆の心がほっと和らぐ。

「さて、次の目的地だが……“デフトロ魔王城跡地”だ。」

「……うわぁ……とんでもない場所じゃない。」
サーシャの顔が一気に引きつる。

「デフトロまで、どうやって行くつもりなんだ?」
オースティンが怪訝そうに眉をひそめる。

「……歩くしかないだろう。」

「やっぱり……そうですよね。」
ディックは腕を組み、渋々うなずいた。

「ここからなら、最寄りの街までは電車で行ける。その先は徒歩だな。」
オースティンがそう補足すると、サーシャも「仕方ないかぁ」とため息を漏らす。

そんな中、リリアがおずおずと手を挙げた。

「あ、あの……」

「ん? どうした、リリア。」

「わ、私の……つ、使い魔なら……みんなを運べると思います。
ど、どうでしょうか……」
頬を赤く染めて、恥ずかしそうに目をそらす。

「使い魔? 
リリアにそんなものが?」
ロイスは不思議そうに首をかしげた。

「は、はい……召喚しますね。
――おいで、ミィーニャ!」

テーブルの上に小さな魔法陣が浮かび上がり。
「……ミィーニャ?」
全員の頭の中に“猫”のイメージがよぎる。
そこから掌に収まるほどの小さなドラゴンが姿を現した。

「ちぇっ……昼寝中だったのに! 
まったく、何の用だ!」

『……口悪っ!』
全員の心に同じツッコミが走った。

「ちょっと、ミィーニャ! 
皆さんの前でそんな言い方しないの!」

「おい! 
だからその名前が気に入らねぇんだよ! 
俺はドラゴンだぞ! 
もっと威厳ある名前があるだろ!」

「ダメよ。
私は猫が好きなの。
だから“ミィーニャ”なの!」

『……なんだこれ……』
ロイスたちは頭を抱えた。

「ふざけんな! 
俺はドラゴンだぞ!」

「もう、照れちゃって……困った子ね。」

「ちょっといいか、リリア。」
ロイスが思わず会話に割り込む。

「え、あ……皆さん。
この子がミィーニャです。」
ドラゴンは不機嫌そうに顔をしかめ、ふわりと飛んでリリアの肩に着地した。

「何だコイツらは!?」
ミィーニャはロイスたちを睨みつける。

「こら、ミィーニャ! 
そんな言い方ダメ!」

「あ? 
誰だか知らねぇから聞いただけだろ!」

リリアがぷくっと頬を膨らませて怒ると、ミィーニャは牙を剥き、今にも噛みつきそうな勢いで威嚇した。

「お、おいリリア……本当に大丈夫か? 
そのドラゴン……」
ロイスは引きつった笑みを浮かべる。

「え? 大丈夫ですよ。
ミィーニャは良い子です。
ちょっと口が悪いだけで。」
リリアはにっこりと笑う。

ロイスの心配をよそに、少女と小さなドラゴンのやりとりは、周囲を呆れさせつつも、どこか温かい空気を生み出していた。

「リリア。
そのドラゴンが俺たちを運んでくれるのか?」

「は、はい。
ミィーニャちゃんは大きくなれるので……皆さんを乗せられると思います。」
そう言いながら肩に目をやると、当のドラゴンはもう丸くなって寝息を立てていた。

「……さっき、ちょっと怖かったけどね。」
サーシャが小さくつぶやく。

「ご、ごめんね。
ママからもらった使い魔なんだけど……ちょっと口が悪くて。」

「その理由、私わかったかも。」
サーシャが得意げに言った。

「え?そうなの?」
リリアが目を丸くする。

「うん、多分……名前が気に入らないんだと思うよ。」

「そうかなぁ? 可愛い名前だと思うけどなぁ。」

「いや、ドラゴンに“可愛い”は求めちゃダメでしょ。」

「え?そ、そうなの? 
じゃあ、もうひとつの候補にすればよかったかな?」

「……もうひとつ?」
全員の背筋に冷たい予感が走る。

「えっとね、“ペローニャ”。
猫ってペロペロ舐めるでしょ? 
あれが可愛いなって思って。」

『……どっちもどっちだ!』
全員が心の中で同時に叫んだ。

「あはは……ま、まあ、リリアがいいなら、それでいいんじゃないかな……」
誰もそれ以上つっこめず、空気が妙に和んでしまう。

「それで、リリア。
明日、出発しようと思うんだが……大丈夫か?」
ロイスが話題を切り替える。

「え、ええ。
だ、大丈夫です!」
リリアは少し慌てながらも笑顔でうなずいた。

こうしてその日の話し合いは終わり、それぞれ部屋に戻っていった。


翌朝。
一行はクリストナの駅から電車に乗り込み、一路“デフトロ魔王城跡地”の最寄りの街を目指す。

「やっぱり電車って便利だね。馬車と違って揺れも少ないし。」
サーシャが車窓から流れる景色を眺めながら、嬉しそうに言った。

「一時間くらいで着くんだろ? 
楽なもんだな。」
オースティンは腕を組み、安堵の息を吐く。

「……そのあとドラゴンに乗って飛行だな。」
ディックが冷静に付け加えると、皆の顔が同時に渋くなった。

一方、リリアの肩の上では――

「すぴー……すぴー……」
ミィーニャが相変わらず気持ちよさそうに寝ていた。

目的地の街に到着したロイス達は、休む間もなくデフトロ魔王城跡地を目指すことにした。

「ミィーニャ、竜化!」
リリアの呼びかけに応じ、小さな黒いドラゴンは瞬く間に巨大な竜へと姿を変える。

「おお……!」
その威容に、ロイス達は思わず声を上げた。

「さぁ、ミィーニャの背中に乗ってください。」
リリアが手を差し伸べると、一同は慎重に竜の背へと登った。

「それで――どこまで飛ぶんだ?」
ミィーニャが鋭い視線を向ける。

「デフトロ魔王城跡地よ。」

「はぁ? 
あんな魔境に行くのか? 
魔王城は潰れたとはいえ、残留魔力が瘴気みたいに溢れてるんだぞ。
正気か?」

「うん、大丈夫だよ。」
リリアはあっけらかんと答える。

「チッ……知らねぇぞ。」
舌打ちと共に、ミィーニャは大きく翼を広げ、空へ舞い上がった。

強烈な風が吹き荒れるはずなのに、不思議と一同は風圧をまるで感じなかった。

「すごい……! 
こんな速度で飛んでるのに、風が全然来ない。」
サーシャが感嘆の声をあげる。

「ミィーニャの《竜覇気》のおかげよ。
だからみんな安心して乗っていられるの。」
リリアはそう言いながら、愛おしそうに竜の背を撫でた。

「へっ、とろいこと言ってると振り落とすぞ。」
口調だけは相変わらず乱暴だ。

やがて遠くに、黒々とした城の影が見えてきた。かつて魔族の栄華を誇ったデフトロ魔王城。
今では瓦礫と化し、廃墟と呼ぶのがふさわしい。

ミィーニャは静かに広間へと降り立ち、全員を背から下ろす。

「……じゃあな、リリア。」
短く告げると、その巨体はふっと掻き消えるように姿を消した。

「さぁ、行くぞ。」
ロイスが声を掛ける。

魔王の残滓が濃く残る城の廃墟には、外よりも強力な魔物が巣くっている。緊張を胸に、ロイス達は崩れた入り口から中へと足を踏み入れた。
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