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第十章 悪魔王ディアボロス
第八十二話 勇者ロイス
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クリストナの街の宿で夜ロイスは一人寝付けない夜を迎えていた。
ロイスが闇の宝玉を探すために旅立つ直前、彼はティアの寮の自室に呼ばれていた。
勇者の使命を引き継いだとはいえ、彼の胸には常に不安があった。
「ロディアスのようになれるのか」――その問いが影のように付きまとっていた。
そして、その迷いはティアには見透かされていた。
「それでは……闇の宝玉を捜索するため、クリストナ遺跡へ向かいます。」
気を引き締めるようにロイスが言うと、ティアは柔らかくも鋭い視線を向けた。
「ロイス、一つ伝えておいた方がいいことがあるの。」
「はい。
何ですか?」
「おそらく――“アルビゲイツ”と名乗る悪魔が現れると思うのよ。
あなたの力なら倒せない相手ではないと思うけど……油断は禁物よ。」
「わかっています。
いつまでもティアさんに頼ってばかりでは、勇者失格ですから。
今回の任務で、必ず自分自身を成長させてきます。」
「……そう。
ならいいわ。」
ティアは小さく微笑み、それから言葉を継いだ。
「これは伝えるべきか迷ったけど……あなたが覚悟を持って行くのなら話しておくわ。
あなたはロディアスという大きな存在にどうすれば近づく事が出来るのか?
それを悩んでいるでしょ?
私は思うんだけど、ロディアスとあなたは違って良いと思うよ。
それはあなたがロディアスよりも優っているからとか劣っているとかでは無くて、勇者という言葉だけに振り回されてほしいくないの。
そもそも、ロディアスが“歴代最強の勇者”と呼ばれる理由、知ってる?」
「師匠は……何においてもずば抜けていました。
剣術も、体術も、スキルも。
そこにたどり着くのは困難を極めたはず。
だからこそ最強の称号を得たのだと。」
「まあ、それも事実ね。
けれど、それだけじゃないの。
あの人は、誰よりも“感”が鋭かった。
勇者だからじゃなく、戦いの中で常に敵より先に動く鋭い感覚を持っていたのよ。
それに、決して倒れなかった。
どんな状況でも弱さを見せず、常に仲間を安心させる背中を見せ続けた。
その姿を間近で見て、私は思ったわ――『あぁ、この人は本当に優しいんだな』って。
どんな時も、人を不安にさせたくない。
その想いが、あの人の強さだったの。」
「……俺には、まだそこまでの境地はありません。」
「そんなの当たり前よ。
あの人はそういう面ではバケモノと言えるわ。
でも、今のあなたにだってできることがあるわ。
『絶対に自分が何とかするから安心しろ』って、仲間に示せる背中を見せること。
ロディアスだって、生まれた時から強かったわけじゃない。
あなたは成長の途上よ。
やれることをやっていけば、必ず理想に近づける。」
「……はい。
俺は師匠のようになれるのか、かなり不安で仕方なかったんです。
師匠の存在は憧れであり、越えなければならない壁。
師匠が今の俺を見たら何て言うんだろう。
情けない姿は見せられませんね。
俺は俺なりにもがいてみます。」
「頑張んなさい!」
ティアは満足げに頷き、最後に少しだけ微笑む。
「仲間も頼っていいから。
くれぐれも気をつけて。」
「……わかりました。」
そのやり取りを、ロイスは今もふと思い返していた。
胸の奥で、師とティアの背中を追い続けながら。
その夜、ロイスは夢を見ていた。
それは――彼がロディアスと初めて出会った日の記憶だった。
十歳の時、ロイスは勇者として覚醒した。
両親や町の人々、友人たちからも、一斉に期待を寄せられる存在となった。
幼いながらも彼自身、勇者は憧れであり、将来を夢見る希望そのものだった。
その噂はすぐにロディアスの耳にも届いた。
やがて、ロイスの家の戸口に、歴代最強と名高い勇者が姿を現した。
「君が……ロイスくんか。」
現れたのは、少年が想像していた勇者像とはかけ離れた、体つきの良い老練の男だった。
ロイスは思わず言葉を詰まらせる。
「は、はい……。」
彼の隣には、見たこともないほど美しい女性がいた。
幼いロイスも、その美貌に一瞬心を奪われた。
「ロイスくん、この人ね。
ロディアスっていうのよ。
すごく強い勇者なの。」
ティアの紹介に、ロイスは改めてロディアスをじっと見つめた。
その瞬間――老いた体から溢れ出る圧倒的な気迫に晒され、少年の目からは堪えきれない涙が零れ落ちた。
思い出すのは、その直後の光景だ。
涙を流す自分を前に、ロディアスがティアから小言を食らい、頭を下げて謝っている姿。
「勇者って、こんな人なのか……」――その時の幼い心には、不思議な感覚だけが残った。
やがてロイスは、正式にロディアスから勇者の継承を受けた。
勇者の継承とは、先代から新たな勇者へと能力を託す儀式。
だが全てがそのまま引き継がれるわけではない。
受け継ぐ側の力量によっては、スキルや固有能力の一部は失われる。
それでも、勇者としての高い戦闘能力と可能性は確実に受け継がれ、ロイスは魔物との初めての戦闘ですら、驚くほど自然に体が動いた。
そして――約十年。
ロディアスのもとで修行を積み、人々からは立派な勇者として認められるまでになった。
だが、肝心の師には最後まで一度も勝てなかった。
百歳を超える老勇者はなお健在で、模擬戦では常に圧倒され続けた。
やがてロディアスは静かに世を去り、ロイスは一人残された。
その死は、彼に深い喪失をもたらした。
自信を支える背中を失い、不安だけが胸に残った。
――そして、その弱さは先日の戦いで露見した。
アルビゲイツとの戦闘。
相手の行動を見抜けず、先手を奪われ続け、幾度も攻撃を受けて気を失った。
おそらくロディアスなら――幻術を見破り、雷撃を耐え抜き、最後には悪魔を打ち倒して仲間を守っただろう。
その背中はきっと、大きな安心を皆に与えたに違いない。
……だが自分は――。
朝、目を覚ましたロイスの胸を占めていたのは、苦い自己嫌悪だった。
未熟。
何が勇者か――。
自問自答が止まらず、胸の奥を重く締め付けていった。
ロイスが闇の宝玉を探すために旅立つ直前、彼はティアの寮の自室に呼ばれていた。
勇者の使命を引き継いだとはいえ、彼の胸には常に不安があった。
「ロディアスのようになれるのか」――その問いが影のように付きまとっていた。
そして、その迷いはティアには見透かされていた。
「それでは……闇の宝玉を捜索するため、クリストナ遺跡へ向かいます。」
気を引き締めるようにロイスが言うと、ティアは柔らかくも鋭い視線を向けた。
「ロイス、一つ伝えておいた方がいいことがあるの。」
「はい。
何ですか?」
「おそらく――“アルビゲイツ”と名乗る悪魔が現れると思うのよ。
あなたの力なら倒せない相手ではないと思うけど……油断は禁物よ。」
「わかっています。
いつまでもティアさんに頼ってばかりでは、勇者失格ですから。
今回の任務で、必ず自分自身を成長させてきます。」
「……そう。
ならいいわ。」
ティアは小さく微笑み、それから言葉を継いだ。
「これは伝えるべきか迷ったけど……あなたが覚悟を持って行くのなら話しておくわ。
あなたはロディアスという大きな存在にどうすれば近づく事が出来るのか?
それを悩んでいるでしょ?
私は思うんだけど、ロディアスとあなたは違って良いと思うよ。
それはあなたがロディアスよりも優っているからとか劣っているとかでは無くて、勇者という言葉だけに振り回されてほしいくないの。
そもそも、ロディアスが“歴代最強の勇者”と呼ばれる理由、知ってる?」
「師匠は……何においてもずば抜けていました。
剣術も、体術も、スキルも。
そこにたどり着くのは困難を極めたはず。
だからこそ最強の称号を得たのだと。」
「まあ、それも事実ね。
けれど、それだけじゃないの。
あの人は、誰よりも“感”が鋭かった。
勇者だからじゃなく、戦いの中で常に敵より先に動く鋭い感覚を持っていたのよ。
それに、決して倒れなかった。
どんな状況でも弱さを見せず、常に仲間を安心させる背中を見せ続けた。
その姿を間近で見て、私は思ったわ――『あぁ、この人は本当に優しいんだな』って。
どんな時も、人を不安にさせたくない。
その想いが、あの人の強さだったの。」
「……俺には、まだそこまでの境地はありません。」
「そんなの当たり前よ。
あの人はそういう面ではバケモノと言えるわ。
でも、今のあなたにだってできることがあるわ。
『絶対に自分が何とかするから安心しろ』って、仲間に示せる背中を見せること。
ロディアスだって、生まれた時から強かったわけじゃない。
あなたは成長の途上よ。
やれることをやっていけば、必ず理想に近づける。」
「……はい。
俺は師匠のようになれるのか、かなり不安で仕方なかったんです。
師匠の存在は憧れであり、越えなければならない壁。
師匠が今の俺を見たら何て言うんだろう。
情けない姿は見せられませんね。
俺は俺なりにもがいてみます。」
「頑張んなさい!」
ティアは満足げに頷き、最後に少しだけ微笑む。
「仲間も頼っていいから。
くれぐれも気をつけて。」
「……わかりました。」
そのやり取りを、ロイスは今もふと思い返していた。
胸の奥で、師とティアの背中を追い続けながら。
その夜、ロイスは夢を見ていた。
それは――彼がロディアスと初めて出会った日の記憶だった。
十歳の時、ロイスは勇者として覚醒した。
両親や町の人々、友人たちからも、一斉に期待を寄せられる存在となった。
幼いながらも彼自身、勇者は憧れであり、将来を夢見る希望そのものだった。
その噂はすぐにロディアスの耳にも届いた。
やがて、ロイスの家の戸口に、歴代最強と名高い勇者が姿を現した。
「君が……ロイスくんか。」
現れたのは、少年が想像していた勇者像とはかけ離れた、体つきの良い老練の男だった。
ロイスは思わず言葉を詰まらせる。
「は、はい……。」
彼の隣には、見たこともないほど美しい女性がいた。
幼いロイスも、その美貌に一瞬心を奪われた。
「ロイスくん、この人ね。
ロディアスっていうのよ。
すごく強い勇者なの。」
ティアの紹介に、ロイスは改めてロディアスをじっと見つめた。
その瞬間――老いた体から溢れ出る圧倒的な気迫に晒され、少年の目からは堪えきれない涙が零れ落ちた。
思い出すのは、その直後の光景だ。
涙を流す自分を前に、ロディアスがティアから小言を食らい、頭を下げて謝っている姿。
「勇者って、こんな人なのか……」――その時の幼い心には、不思議な感覚だけが残った。
やがてロイスは、正式にロディアスから勇者の継承を受けた。
勇者の継承とは、先代から新たな勇者へと能力を託す儀式。
だが全てがそのまま引き継がれるわけではない。
受け継ぐ側の力量によっては、スキルや固有能力の一部は失われる。
それでも、勇者としての高い戦闘能力と可能性は確実に受け継がれ、ロイスは魔物との初めての戦闘ですら、驚くほど自然に体が動いた。
そして――約十年。
ロディアスのもとで修行を積み、人々からは立派な勇者として認められるまでになった。
だが、肝心の師には最後まで一度も勝てなかった。
百歳を超える老勇者はなお健在で、模擬戦では常に圧倒され続けた。
やがてロディアスは静かに世を去り、ロイスは一人残された。
その死は、彼に深い喪失をもたらした。
自信を支える背中を失い、不安だけが胸に残った。
――そして、その弱さは先日の戦いで露見した。
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相手の行動を見抜けず、先手を奪われ続け、幾度も攻撃を受けて気を失った。
おそらくロディアスなら――幻術を見破り、雷撃を耐え抜き、最後には悪魔を打ち倒して仲間を守っただろう。
その背中はきっと、大きな安心を皆に与えたに違いない。
……だが自分は――。
朝、目を覚ましたロイスの胸を占めていたのは、苦い自己嫌悪だった。
未熟。
何が勇者か――。
自問自答が止まらず、胸の奥を重く締め付けていった。
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