毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十章 悪魔王ディアボロス

第八十八話 悪魔界の決戦 決着

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「おい!勇者!」
ミィーニャは必死に叫んだ。

しかしロイスは絶望に囚われ、立っているのがやっとの様子で、その声は届いていない。

「ぐぅ……!役立たずが!」
ミィーニャは怒りを込め、渾身の火球を吐き出す。
轟音と共に火球は大地を灼き、通った軌跡の地面を真っ赤に溶かすほどの熱量を放ちながらディアボロスに直撃。
次の瞬間、爆炎が弾け、凄まじい衝撃が響き渡った。

「はっ……!」
爆発の衝撃にロイスの意識が引き戻される。

「おい!勇者!
しっかりしろ!」
ミィーニャの咆哮に、ロイスは荒く息を吐き、剣を握り直した。

『……俺は何を怖気づいている?
ロディアス師匠だって、幾度となく自分より強大な敵と立ち向かってきた。
その度に乗り越えてきたんだ。
俺がここで怯んでどうする!
リリア達を守れるのは――俺しかいない!』

ロイスの瞳に迷いが消え、闘志が再び燃え上がる。

「フハハ!
大したことはないな!」
ディアボロスは火炎を払い除けながら不敵に笑った。

「くっ……やはり効かねぇか!」
ミィーニャの顔に焦りが走る。

「すまない、ミィーニャ……。
ここからは任せろ!」
ロイスの声は冷静さを取り戻していた。

一気に踏み込み、剣を振り抜く。
だがその一撃は、ディアボロスの腕にあっさりと弾かれる。

「硬い……!」
ロイスはすぐに間合いを取り直し、何度も斬りかかる。
しかし、ディアボロスは避けすらせず、鋼鉄の肉体で受け止める。

「ならば――!」
ロイスは大きく後方に跳び、剣に魔力を集中させた。

全身から金色の光が溢れ、空気が振動する。
「《ギガントスラッシュ》!」

渾身の一撃を叩き込む。
凄まじい斬撃が光の奔流となり、ディアボロスを切り裂かんと迫る――が。

「――届かん。」
ディアボロスの片手がその剣を受け止めた。

「なっ……!」

「フン。」
もう片方の拳が唸りを上げる。

「ぐあぁっ!」
ロイスは直撃を受け、血を吐きながら吹き飛ばされた。
大地を転がり、剣を取り落としたまま倒れ込む。

「ロイス!」
ミィーニャの叫びが響く。
だが、立ち上がる気配はない。

「クソッ……情けねぇ勇者だ!」
ミィーニャはリリアの側に立ち、翼を広げてディアボロスを睨みつける。

「残りは貴様だけだ。」
ディアボロスは嘲笑い、瞬きする間もなくミィーニャの目の前に迫る。

「――!」
避ける暇もなく、黒い拳が振り下ろされた。

だが。

轟音。
次の瞬間、吹き飛ばされたのはディアボロスの方だった。

「な……に……?」
巨体が遥か後方まで叩き飛ばされ、岩壁を砕きながらめり込んでいく。

「これはどう言う事……?」
ミィーニャの視線の先――いつの間にか誰かが立っていた。

その声に魔力に覚えがある。
ミィーニャの全身に恐怖が走り、竜の身体がガタガタと震える。
知っているこの威圧感。

ミィーニャの目の前に立っていたのは、ティアだった。
「……ミィーニャ。
何故、私の可愛い我が子のリリアちゃんは血だらけで倒れてるの? 
何故あなたは無傷で、リリアちゃんだけが犠牲になってるの?」

その声は静かでありながら、氷の刃のように鋭かった。

「し、主様……あ、あ、それは……も、申し訳ありません!」
ミィーニャは全身を震わせ、地にひれ伏す。
恐ろしさのあまりティアを見ることすらできない。心の奥底で〈殺される〉と覚悟していた。

「答えなさい。
何故リリアちゃんがこんな目に遭ってるの?」

「そ、それは……悪魔王の攻撃を……まともに受けて……」
言い終えるより早く、ティアの蹴りがミィーニャの腹を撃ち抜いた。

「ぐはっ!」
血を吐きながら地面を転がり、ミィーニャは動けずに倒れる。

「はあ? 
何故お前が代わりに受けていないのか。
リリアちゃんが可哀想でしょ?」

「も、も……申し訳……ありませ……ん……」
瀕死の体を引きずりながら、ミィーニャはティアの足元にすがりつく。

「リリアちゃん……可哀想に」
ティアはそう呟くと、倒れるリリアに手をかざした。
温かな光が彼女を包み、傷は瞬く間に癒えていく。
だが、意識は戻らなかった。

「さて、どうするの?」

「……私では……ディアボロスには勝てません。
どうか……どうか、お助けください!」
ミィーニャは涙を滲ませ、必死に叫んだ。

その時、轟音と共に崩れた瓦礫の中からディアボロスが姿を現した。

「まったく……ロイスまで気を失ってるの? 
本当に仕方ない子たちね。
……まあ、リリアちゃんに場所を教えたのは私だし。
ディアボロスがここまで強いとは、さすがに誤算だったわね」
ティアは小さく息を吐き、ロイスたちにも次々と回復魔法を施していった。

「……何者だ、お前は?」
立ち上がったディアボロスが睨みつける。
その表情から余裕の笑みは消えていた。

「私は別に、悪魔界に干渉するつもりはないわ。
ただ――人間界に手を出さないというなら、この子たちを連れて帰るけど?」

「フハハハ! 
人間界は滅ぼす! 
それが俺様の答えだ!」

ティアは小さく肩を竦めた。
「まったく……どいつもこいつも“人間界を滅ぼす”って。
それしか言えないの?」

次の瞬間、ディアボロスは瞬間移動でティアの目の前に迫り、拳を叩きつけた。
だが――ティアは片手でそれを軽く受け止める。

「な、に……!」
ディアボロスは信じられないとばかりに飛び退き、間合いを取った。

「もう一度言うわ。
私はあなたの世界に興味はない。
大人しくしてるなら帰る。
どうするの?」

「フハハ……余裕ぶるな。
何故そこまで人間界に執着する? 
お前は人間ではないだろう!」

「理由なんて単純よ。
私が愛した人が……守りたいと願った世界だから」

「人間ごときに……唆されたのか!」

「バカね。
人間だとか、悪魔だとか、魔族だとか……そんなものどうでもいいじゃない。
みんな仲良くすればいいだけの話でしょう?」

「人間は我らの餌だ! 
一度味わえば、その生命の甘美さは忘れられん!」

「……話は平行線ね」

「ならば死ね!」
ディアボロスが黒き霧と雷撃を渦巻かせ、ティアへと放つ。

ティアの目が冷たく光った。
「リリアちゃんをこんな目に遭わせたこと――絶対に許さない」

その手から解き放たれたのは、黒と白の炎。
光線のごとく一直線に放たれ、ディアボロスの霧も雷撃も呑み込み、直撃した。

轟音。
ディアボロスの上半身が蒸発し、消し飛んだ。

しかし――下半身から新たな肉体が再生していく。

「ぐぅ……な、なんだ……キサマは……!」
怒りと恐怖を滲ませた声でディアボロスが吠える。

「……丈夫なのね」
ティアは一歩も動じず、ただ静かに呟いた。

ディアボロスは怒りに任せて拳を振るった。
殴打、爪撃、蹴撃――その全てがティアに命中する。だが、ティアは微動だにしない。

「な、なに……!」
必死の攻撃を浴びせても、ティアの衣の一枚すら乱れない。
彼女はただ冷たい眼差しを返すのみだった。

「もうわかったでしょ? 
あなたでは私に勝てない。
――諦めて降伏したら?」

「馬鹿にするな! 
我は悪魔界の王だぞ!」
怒号と共に空間が軋み、地面がひび割れ始める。

次の瞬間、ディアボロスの全身を黒い光が包んだ。
「〈地獄門・滅殺地獄〉!」
轟音と共に魔法陣が展開し、ティアの周囲に巨大な黒の門が召喚される。
その門は不気味な音を立てて開き、黒い霧が津波のように溢れ出した。

「フハハハ! 地獄の苦しみを味わえ!」

しかし――ティアは静かに片手を横に振った。
それだけで魔法陣も門も霧も、一瞬で光に呑まれ、消滅した。

「……もういいわ。
消えなさい」

ティアは手を地に向けて翳す。
瞬間、ディアボロスの足元に神々しい光の魔法陣が走った。
次に手のひらを上へ返すと、光の帯が轟々と立ち昇り、ディアボロスの肉体を絡め取っていく。

「な、なんだこれは……! ぐあああっ!」

『光輪天布(こうりんてんぷ)――《神のあまねく裁き》』

天より降り注ぐ光が悪魔王を包み、その巨体は粒子となって崩れ始める。
絶望の咆哮を残し、ディアボロスは塵も残さず浄化され、消滅した。

――圧倒的だった。
ディアボロスは何ひとつ抵抗できぬまま、ティアの力に葬られた。

「……ミィーニャ。
帰りますよ」

「ぎょ、御意……!」
血に塗れながらも、ミィーニャは震える声で答えた。

ティアは人間界へ戻ると、悪魔界への転移陣を指先一つで破壊する。
これで二度と干渉を受けることはない。

ロイスたちはミィーニャの背に乗せられ、転送によって宿屋の部屋へと戻された。
リリアだけは、特別にティアが学園寮の自室ベッドへ寝かせる。

「ゆっくりお休みなさい、リリアちゃん……」
ティアの声は、戦場の冷たさから一転し、柔らかな響きを帯びていた。
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