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第十一章 覚醒編
第九十三話 ティアの想い
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ティアは夜、一人で部屋に寛いでいた。
ふと、数日前のミュウオケでの出来事が頭をよぎる。
――アーサーから「好きだ」と告白された。
改めて思い返すと、胸の奥が少し熱くなり、どうしようもなく恥ずかしくなる。
メリルの恋人ができたことは心から嬉しい。
けれど同時に、アーサーへの返事をどうすべきか、ティアは悩んでいた。
それから数日。
アーサーとは変わらず接しているが、ティアは以前よりも彼を意識してしまう。
――これが、ブライトンがメリルに抱いた感情と同じなのかもしれない。
一方で、ロイスはオメガとの訓練で次第に対等に渡り合えるようになり、
リリアもセリアと共に一人で出向くほどに成長していた。
誇らしい反面、ティアの心には「寂しさ」が芽生えていた。
――いつかリリアも、自分のもとを離れて行く。
分かっていても、その思いが胸を締め付ける。
ある日、学園の講堂で行事の後片付けをしていた時のこと。
生徒会メンバーとして働くティアは、ふとエドバンとマリアの様子に気づいた。
マリアの視線や仕草が、以前とは明らかに違う。
「ねえ?エドバン先輩とマリアって、付き合ってたりするの?」
ティアが声をかけると、二人は息を呑んだ。
「……ああ、そうなのね。
もう良いわ。」
ティアは答えを聞く前に片付けに戻ろうとする。
「ティア。
……そうなんだ。
俺たち、付き合ってる。」
「ティア、ごめんね。
別に隠すつもりはなかったんだけど……言い出せなくて。」
二人は恥ずかしそうに駆け寄ってきた。
「別に気にしてないわ。
私の親友も彼氏ができて浮かれてるし、二人を見たらそれっぽいし。
……まあ、私の周りは浮かれてる人ばかりだなぁって思っただけ。」
ティアは肩をすくめ、笑みを浮かべた。
片付けを終え、寮へ戻ろうとした時。
学園の入り口でアーサーが待っていた。
「ティア。
……一緒に寮まで帰らないか?」
「うん、いいわよ。」
二人はしばらく沈黙のまま歩いた。
やがて、アーサーが口を開く。
「ティア。
この前の返事を聞かせてくれないか?」
ティアは立ち止まり、小さく息をついた。
「……うん、ごめんね。
すぐに答えを出せなくて。
真剣に考えたの。確かにアーサーの言う通り、私たちは同じ時間を生きられる。
……それは、とても素敵なことよね。
わかってる。
でも、あと少しだけ待ってほしいの。
……三日間だけ。考えたいことがあるの。
ダメかな?」
「待つよ。」
アーサーは真っ直ぐに答えた。
「そこまで真剣に考えてくれて……俺は嬉しい。
わかった。」
二人はそれ以上言葉を交わさず、それぞれの部屋へと戻っていった。
翌日。
ティアは久しぶりに、ひとりでロディアスの墓参りへ向かった。
二人が過ごした山小屋はもう取り壊され、跡形もない。
だが、その場所の近くにロディアスとティアが好きだった場所がある。
その場所にティアが作った小さな墓が残っている。
ロディアスの遺骨は「世界の英雄」として王国の国営墓地に埋葬されているが――
この墓には、彼の遺品の一部をひっそりと納めていた。
墓前に花を添えると、ティアは静かに語りかける。
「ねえ、聞いてくれる?
……私ね、あなたが居なくなってから二人の男性に告白されたの。
えへへ、モテるでしょ?
あなたが聞いたら嫉妬してくれるかしら?
最初の人は、その時まだロディアスのことが好きだったから断っちゃった。
……そんな簡単に忘れられるわけないし。
でもね、最近告白してきた人は――あなたと違って、私と同じ時間を生きられる人なの。
すごく迷ってる。
この先、こんな人に出会えるかどうかもわからない。
とても素敵な人なの。
……それは、わかってる。
ここに来たのはね、もしロディアスだったら何て言うかなぁって思ったから。
……だから話しに来たの。」
もちろん、返事があるはずもない。
けれど、ティアはただ一方的に話し続ける。
「そうそう、リリアも頑張ってるのよ。
あなたに似て真面目で、一生懸命で。
……きっと、あなたも褒めてくれると思う。
じゃあ、また来るね。」
ティアは墓に一礼すると、王都の自宅に立ち寄り、その後学園へと戻っていった。
ティアは学園へ戻ると、ひとり魔界へ来ている。
そこで見たのは、オメガと互角に渡り合うロイスの姿だった。
鋭い剣戟と、揺るがぬ気迫。
その戦いぶりは、もはや「人間」という枠を超えている。
そしてついに、ロイスはオメガを行動不能に追い込み、悪魔王をも凌駕する強さを手に入れた。
「ロイス……よく頑張ったわね。
顔つきまで変わったじゃない。」
「はい。
ティアさんのおかげです。」
ロイスは深く頭を下げた後、少し真剣な表情になる。
「それで……不躾なお願いがあります。」
「何?
言ってみて。」
「はい。
あのオメガとは、生死を分かち合いながら鍛錬を積んできました。
だから……俺の相棒として、譲っていただけませんか?」
ティアは目を細め、ロイスの決意を見極めるように彼を見つめた。
「気に入ったのね。
……いいわよ。
ただし、少し改良させてもらうわ。
だから、もう少し待ってちょうだい。」
「ありがとうございます!
……あいつがどう改良されるのか、楽しみです。」
ティアはアダミルを呼び出し、その場でオメガの改良について話し合った。
「なるほどのう……面白い依頼じゃ。
任せておけ!」
「アダミルが改造を引き受けてくれるそうよ。」
「よろしくお願いします!」
「うむ!……で、スタイルは男と女、どちらにする?
性能はどちらでも変わらん。
好みで選べばよいぞ。」
ロイスは少し考え込み、きっぱりと言った。
「……相棒ですから。
男でお願いします。」
「わかった!
数日待っとれ!」
こうして、ロイスの長き訓練はついに一区切りを迎えた。
一方のリリアはというと、昼間からセリアと共にダンジョンへ入り浸っていた。
セリアの話では、すでに冒険者登録まで済ませているという。
ティアは内心寂しさを覚えながらも、成長を見守ることに決めた。
その日の放課後。
ティアはアーサーに歩み寄り、穏やかに声をかけた。
「アーサー。
……夜、私の部屋に来て。
話をしましょう。」
アーサーは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに笑みを浮かべた。
「ああ、わかった。
いいお酒を持っていくよ。」
「ふふ……楽しみにしてるわ。」
ティアもまた、彼の笑顔に優しく微笑み返した。
その夜。
アーサーは転移魔法でティアの部屋を訪れた。
「どうぞ。」
ティアは柔らかく微笑み、彼を招き入れる。
「今日はルフール産のビットキャットを持ってきたんだ。
以前飲んだとき美味しくてね。
ティアと一緒に飲みたくて、大切に取っておいたんだ。」
「まあ、それは楽しみね。」
ふたりはテーブルを挟んで向かい合う。
アーサーが丁寧にコルクを抜き、赤い液体をゆっくりとグラスへ注ぐ。
深い色合いと芳醇な香りが部屋に広がり、落ち着いた空気をさらに彩った。
「アーサー。
……この前の返事をさせてもらうわ。
待たせてごめんね。
その前に、まずは乾杯しましょう。」
「乾杯!」
グラスが軽やかに鳴り合った。
ティアはグラスを置くと、真剣な眼差しで口を開いた。
「その前に……私のことを、少し知っておいてほしいの。」
「ああ。
聞かせてくれ。」
「ロディアスのことは話したと思うけど……彼は本当に大切な人だった。
つい先日、お墓参りにも行ってきたのよ。
あの人と出会ったのは、もう百年近く前かしら。
当時彼は冒険者で、勇者として“歴代最強”と呼ばれていたわ。
凄く強靭な肉体なのに、女の子には免疫がなくてね。
当時私はギルドの受付嬢をしてて、苦手なのに彼はぎこちなくも毎回私を口説いてきて……そんな不器用さに惹かれていったのだと思うわ。
彼を世界に知らしめる事になった邪神復活をふたりで阻止して、彼に告白されて共に生きることを決めた。
その後は何十年も旅をして……いい思い出ばかりよ。」
ティアの表情には懐かしさと愛しさが滲んでいた。
「……そうか。」
アーサーは静かに頷く。
「ロディアスがどれだけ愛されていたのか、伝わってくるよ。
彼は幸せ者だな。
亡くなっても、これほど想われ続けているなんて。」
一息ついて、今度はアーサーが自分の過去を語った。
「そういえば、俺も話してなかったな。
俺はこの世界に来る前、アメリカに住んでいた。ニューヨーク市警の警官だったんだ。
ある事件で強盗に撃たれて死んだ。
……どうしてこの世界に転生したのかは、いまだにわからない。」
「警察官だったのね。
……私は日本でアイドルをしてたの。
でも、ファンの男性に刺されて死んでしまった。
私も、なぜこの世界に呼ばれたのかはわからないわ。」
「アイドルだったのか……。
それは、見てみたかったな。」
ティアは小さく笑みをこぼす。
「それで……話が逸れちゃったけど。
アーサーの“付き合いたい”って言葉に、返事をしなくちゃね。
あなたと付き合ってみようと思うわ。
何が正解なのかはわからないけど……何かを始めなきゃ、この人生を楽しめない気がするから。」
そう言ってティアは微笑んだ。
アーサーの顔がぱっと明るくなる。
「……やった!
ありがとう、ティア。
楽しいことも、嬉しいことも、時には悲しいことや辛いことも――全部一緒に過ごしていけたら嬉しい。」
「うん。
……でも、ひとつだけ言っておくわ。
もし私を大事にしてくれないと分かったら、その時は即座に別れるからね。」
「わかってる。
そんなことには絶対ならない。
全力で努力するよ。」
ふたりは再びグラスを掲げ、ワインを飲み干した。
ティアは酔うことはなかったが、アーサーの頬は赤く染まり、それでも今夜は以前のように眠り込むことはなかった。
「……ティア。
キスがしたい。」
「えっ?
……今なの?」
「今、すぐに。」
ティアはわずかに目を伏せ、それから静かに頷いた。
「……わかったわ。
いいよ。」
ふたりの唇がそっと重なり、温かで優しい口づけが交わされた。
ふと、数日前のミュウオケでの出来事が頭をよぎる。
――アーサーから「好きだ」と告白された。
改めて思い返すと、胸の奥が少し熱くなり、どうしようもなく恥ずかしくなる。
メリルの恋人ができたことは心から嬉しい。
けれど同時に、アーサーへの返事をどうすべきか、ティアは悩んでいた。
それから数日。
アーサーとは変わらず接しているが、ティアは以前よりも彼を意識してしまう。
――これが、ブライトンがメリルに抱いた感情と同じなのかもしれない。
一方で、ロイスはオメガとの訓練で次第に対等に渡り合えるようになり、
リリアもセリアと共に一人で出向くほどに成長していた。
誇らしい反面、ティアの心には「寂しさ」が芽生えていた。
――いつかリリアも、自分のもとを離れて行く。
分かっていても、その思いが胸を締め付ける。
ある日、学園の講堂で行事の後片付けをしていた時のこと。
生徒会メンバーとして働くティアは、ふとエドバンとマリアの様子に気づいた。
マリアの視線や仕草が、以前とは明らかに違う。
「ねえ?エドバン先輩とマリアって、付き合ってたりするの?」
ティアが声をかけると、二人は息を呑んだ。
「……ああ、そうなのね。
もう良いわ。」
ティアは答えを聞く前に片付けに戻ろうとする。
「ティア。
……そうなんだ。
俺たち、付き合ってる。」
「ティア、ごめんね。
別に隠すつもりはなかったんだけど……言い出せなくて。」
二人は恥ずかしそうに駆け寄ってきた。
「別に気にしてないわ。
私の親友も彼氏ができて浮かれてるし、二人を見たらそれっぽいし。
……まあ、私の周りは浮かれてる人ばかりだなぁって思っただけ。」
ティアは肩をすくめ、笑みを浮かべた。
片付けを終え、寮へ戻ろうとした時。
学園の入り口でアーサーが待っていた。
「ティア。
……一緒に寮まで帰らないか?」
「うん、いいわよ。」
二人はしばらく沈黙のまま歩いた。
やがて、アーサーが口を開く。
「ティア。
この前の返事を聞かせてくれないか?」
ティアは立ち止まり、小さく息をついた。
「……うん、ごめんね。
すぐに答えを出せなくて。
真剣に考えたの。確かにアーサーの言う通り、私たちは同じ時間を生きられる。
……それは、とても素敵なことよね。
わかってる。
でも、あと少しだけ待ってほしいの。
……三日間だけ。考えたいことがあるの。
ダメかな?」
「待つよ。」
アーサーは真っ直ぐに答えた。
「そこまで真剣に考えてくれて……俺は嬉しい。
わかった。」
二人はそれ以上言葉を交わさず、それぞれの部屋へと戻っていった。
翌日。
ティアは久しぶりに、ひとりでロディアスの墓参りへ向かった。
二人が過ごした山小屋はもう取り壊され、跡形もない。
だが、その場所の近くにロディアスとティアが好きだった場所がある。
その場所にティアが作った小さな墓が残っている。
ロディアスの遺骨は「世界の英雄」として王国の国営墓地に埋葬されているが――
この墓には、彼の遺品の一部をひっそりと納めていた。
墓前に花を添えると、ティアは静かに語りかける。
「ねえ、聞いてくれる?
……私ね、あなたが居なくなってから二人の男性に告白されたの。
えへへ、モテるでしょ?
あなたが聞いたら嫉妬してくれるかしら?
最初の人は、その時まだロディアスのことが好きだったから断っちゃった。
……そんな簡単に忘れられるわけないし。
でもね、最近告白してきた人は――あなたと違って、私と同じ時間を生きられる人なの。
すごく迷ってる。
この先、こんな人に出会えるかどうかもわからない。
とても素敵な人なの。
……それは、わかってる。
ここに来たのはね、もしロディアスだったら何て言うかなぁって思ったから。
……だから話しに来たの。」
もちろん、返事があるはずもない。
けれど、ティアはただ一方的に話し続ける。
「そうそう、リリアも頑張ってるのよ。
あなたに似て真面目で、一生懸命で。
……きっと、あなたも褒めてくれると思う。
じゃあ、また来るね。」
ティアは墓に一礼すると、王都の自宅に立ち寄り、その後学園へと戻っていった。
ティアは学園へ戻ると、ひとり魔界へ来ている。
そこで見たのは、オメガと互角に渡り合うロイスの姿だった。
鋭い剣戟と、揺るがぬ気迫。
その戦いぶりは、もはや「人間」という枠を超えている。
そしてついに、ロイスはオメガを行動不能に追い込み、悪魔王をも凌駕する強さを手に入れた。
「ロイス……よく頑張ったわね。
顔つきまで変わったじゃない。」
「はい。
ティアさんのおかげです。」
ロイスは深く頭を下げた後、少し真剣な表情になる。
「それで……不躾なお願いがあります。」
「何?
言ってみて。」
「はい。
あのオメガとは、生死を分かち合いながら鍛錬を積んできました。
だから……俺の相棒として、譲っていただけませんか?」
ティアは目を細め、ロイスの決意を見極めるように彼を見つめた。
「気に入ったのね。
……いいわよ。
ただし、少し改良させてもらうわ。
だから、もう少し待ってちょうだい。」
「ありがとうございます!
……あいつがどう改良されるのか、楽しみです。」
ティアはアダミルを呼び出し、その場でオメガの改良について話し合った。
「なるほどのう……面白い依頼じゃ。
任せておけ!」
「アダミルが改造を引き受けてくれるそうよ。」
「よろしくお願いします!」
「うむ!……で、スタイルは男と女、どちらにする?
性能はどちらでも変わらん。
好みで選べばよいぞ。」
ロイスは少し考え込み、きっぱりと言った。
「……相棒ですから。
男でお願いします。」
「わかった!
数日待っとれ!」
こうして、ロイスの長き訓練はついに一区切りを迎えた。
一方のリリアはというと、昼間からセリアと共にダンジョンへ入り浸っていた。
セリアの話では、すでに冒険者登録まで済ませているという。
ティアは内心寂しさを覚えながらも、成長を見守ることに決めた。
その日の放課後。
ティアはアーサーに歩み寄り、穏やかに声をかけた。
「アーサー。
……夜、私の部屋に来て。
話をしましょう。」
アーサーは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに笑みを浮かべた。
「ああ、わかった。
いいお酒を持っていくよ。」
「ふふ……楽しみにしてるわ。」
ティアもまた、彼の笑顔に優しく微笑み返した。
その夜。
アーサーは転移魔法でティアの部屋を訪れた。
「どうぞ。」
ティアは柔らかく微笑み、彼を招き入れる。
「今日はルフール産のビットキャットを持ってきたんだ。
以前飲んだとき美味しくてね。
ティアと一緒に飲みたくて、大切に取っておいたんだ。」
「まあ、それは楽しみね。」
ふたりはテーブルを挟んで向かい合う。
アーサーが丁寧にコルクを抜き、赤い液体をゆっくりとグラスへ注ぐ。
深い色合いと芳醇な香りが部屋に広がり、落ち着いた空気をさらに彩った。
「アーサー。
……この前の返事をさせてもらうわ。
待たせてごめんね。
その前に、まずは乾杯しましょう。」
「乾杯!」
グラスが軽やかに鳴り合った。
ティアはグラスを置くと、真剣な眼差しで口を開いた。
「その前に……私のことを、少し知っておいてほしいの。」
「ああ。
聞かせてくれ。」
「ロディアスのことは話したと思うけど……彼は本当に大切な人だった。
つい先日、お墓参りにも行ってきたのよ。
あの人と出会ったのは、もう百年近く前かしら。
当時彼は冒険者で、勇者として“歴代最強”と呼ばれていたわ。
凄く強靭な肉体なのに、女の子には免疫がなくてね。
当時私はギルドの受付嬢をしてて、苦手なのに彼はぎこちなくも毎回私を口説いてきて……そんな不器用さに惹かれていったのだと思うわ。
彼を世界に知らしめる事になった邪神復活をふたりで阻止して、彼に告白されて共に生きることを決めた。
その後は何十年も旅をして……いい思い出ばかりよ。」
ティアの表情には懐かしさと愛しさが滲んでいた。
「……そうか。」
アーサーは静かに頷く。
「ロディアスがどれだけ愛されていたのか、伝わってくるよ。
彼は幸せ者だな。
亡くなっても、これほど想われ続けているなんて。」
一息ついて、今度はアーサーが自分の過去を語った。
「そういえば、俺も話してなかったな。
俺はこの世界に来る前、アメリカに住んでいた。ニューヨーク市警の警官だったんだ。
ある事件で強盗に撃たれて死んだ。
……どうしてこの世界に転生したのかは、いまだにわからない。」
「警察官だったのね。
……私は日本でアイドルをしてたの。
でも、ファンの男性に刺されて死んでしまった。
私も、なぜこの世界に呼ばれたのかはわからないわ。」
「アイドルだったのか……。
それは、見てみたかったな。」
ティアは小さく笑みをこぼす。
「それで……話が逸れちゃったけど。
アーサーの“付き合いたい”って言葉に、返事をしなくちゃね。
あなたと付き合ってみようと思うわ。
何が正解なのかはわからないけど……何かを始めなきゃ、この人生を楽しめない気がするから。」
そう言ってティアは微笑んだ。
アーサーの顔がぱっと明るくなる。
「……やった!
ありがとう、ティア。
楽しいことも、嬉しいことも、時には悲しいことや辛いことも――全部一緒に過ごしていけたら嬉しい。」
「うん。
……でも、ひとつだけ言っておくわ。
もし私を大事にしてくれないと分かったら、その時は即座に別れるからね。」
「わかってる。
そんなことには絶対ならない。
全力で努力するよ。」
ふたりは再びグラスを掲げ、ワインを飲み干した。
ティアは酔うことはなかったが、アーサーの頬は赤く染まり、それでも今夜は以前のように眠り込むことはなかった。
「……ティア。
キスがしたい。」
「えっ?
……今なの?」
「今、すぐに。」
ティアはわずかに目を伏せ、それから静かに頷いた。
「……わかったわ。
いいよ。」
ふたりの唇がそっと重なり、温かで優しい口づけが交わされた。
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