毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十一章 覚醒編

第九十五話 ロイスの意地とアーサーの覚悟

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数日後。
ロイスがアーサーの寮室を訪ねてきた。

「アーサー。
外で話せるか。」
真剣な表情にただならぬ気配を感じ、アーサーは頷いた。

人気の少ない中庭に出ると、ロイスは静かに告げた。

「ティアさんと交際を始めたらしいな。」

「……そうだ。
文句でもあるのか?」

「文句ではない。
ただ、俺には確かめる義務がある。
ティアさんは俺にとって憧れであり、尊敬する師匠の大事な人。
本当にお前がその隣に立てる人間か――見極めさせてもらう。」

「やっぱり来たか、この手のくだり……」
アーサーは小さく苦笑した。
「いいさ。
どう証明すればいい?」

「せめて俺よりも強い男でなければ認めん!」
ロイスの眼光が鋭く光る。

「……わかりやすい解決方法だな。」

「学園の地下武道場を使う。
模擬戦で俺を超えてみせろ。」

「よし、受けて立つ。」


武道場。
いつの間にか噂が広まり、男子も女子も大勢が集まっていた。
「え、決闘?」
「アーサーがロイスと?」
観客席はすでに立ち見で埋め尽くされている。

「……あの二人、何してるの?」
騒ぎを聞きつけたティアが駆け込んできた。

「ちょっと、ロイス!」
武道場中央で睨み合う二人の間に割って入る。

ロイスは深く頭を下げた。
「ティアさん。
アーサーという男が、あなたの隣に立つに値するのか確かめるため、決闘を申し込みました。
これは俺が勝手に始めたこと。
だが……師匠ロディアスなら、きっと同じように相手を推し量ったはずです。
どうか、その目で見届けてください。」

ロイスの身体から迸る気迫に、観客たちが息を呑む。

「もう……わかったわ。
私、見ていればいいのね。」
ティアは肩を落とし、観客席へ下がった。

「アーサー! 
頑張って!」
声援に手を振り返し、アーサーは笑った。

「任せろ!」

その笑顔を見てロイスが凄む。
「その余裕がいつまで続くかな。」

「真剣だな。
でも……たかが恋愛の一つや二つで、そこまで気張る必要あるのか?」

「違う!」ロイスが声を張り上げる。
「ティアさんは俺にとって尊敬する師匠の伴侶であり、憧れの人。
だからこそ、ただの恋愛ごっこで終わらせることは許されない!
ティアさんには本物の幸せを掴んでほしいんだ!」

アーサーは目を細め、剣の柄に手をかけた。
「わかったよ。
俺は真剣だ。
ティアのすべてを守る覚悟がある。
彼女の隣に立てるのは俺だけだ――その証明を見せてやる!」

「……いい覚悟だ!」
ロイスは一息に剣を抜き、構えた。

アーサーもまた剣を引き抜き、正眼に構える。

次の瞬間、ロイスが神速で踏み込み――鋭い一撃を振り下ろす!
アーサーはなんとか受け止めたが、重い剣圧に押され、後方へ弾き飛ばされた。

「くっ……なんて重さだ!」
アーサーは踏みとどまったものの、その一撃の凄まじさに背筋が冷える。

「仕方ないな……。
少し本気を出すか…。」
アーサーが小さく呟いた。

次の瞬間――彼の身体から張り詰めた覇気のような気が滲み出す。
ティアはそれを敏感に感じ取り、思わず息を呑んだ。

「アーサー……本気を出す気ね。」

武道場の空気が一気に張り詰めていった。

アーサーは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出すと口角を上げた。
「……さあ、始めようか。」
手招きで挑発すると、観客席がざわめいた。

「行くぞ!」
ロイスが地を蹴り、神速で斬りかかる。
鋭い一閃を、アーサーは身体をわずかに傾けて受け流した。

ガァンッ!
剣先は床を抉り、粉塵が舞い上がる。視界が白く霞んだ。
次の瞬間、ロイスの剣閃が霧を裂いたが、そこにアーサーの姿はなく――

「甘いな。」
腹部に重い衝撃。
アーサーの蹴りが直撃し、ロイスは吹き飛ばされて床に膝をつく。
辛うじて剣を突き立てて体を支えた。

「まだ本気じゃないだろう?」
アーサーは余裕の笑みを崩さず、さらに挑発した。

「くっ……!」
ロイスの全身から魔力が噴き上がる。
次の瞬間、剣身に濃縮した魔力が宿った。

観客席から悲鳴が漏れる。
「危ないんじゃない!?」
「結界は大丈夫か!?」

「あらあら……仕方ないわね。」
ティアは観客に悟られないよう、魔法障壁と物理障壁を重ねて展開していた。

「――《無碍の超刀》!」
空間を断つ神速の斬撃が、回避不可能の一撃となってアーサーを襲う。

ギィィィンッ!
だが、アーサーはその一撃を真正面から受け止めた。

「まだまだだ!」
力強い声と同時に、アーサーの全身から圧のような衝撃波が解き放たれる。
ロイスの体は宙を舞い、床に叩きつけられた。

「ロイス……君はまだ若い。」
アーサーは低く語りかける。
「スキルも技も一流だ。
だが使い所を誤っている。
経験不足が否めない。
俺は百年以上、この世界で剣を振るってきた。
数えきれない強者と斬り結び、死線を潜ってきた。
小手先の技では、俺には届かない。」

「百年……? 
やはり……師匠と剣を交えた時と同じ感覚……」
ロイスの目に驚きと理解が宿る。

剣を鞘に納め、ロイスは雄叫びを上げて突進した。
「うおおおおお!!!」
技も理屈も捨て、ただ拳を叩き込む。
だが――アーサーには一発も当たらない。

力尽き、膝をついたロイスは深く頭を垂れた。
「……俺の負けだ。認めるよ。
ティアさんを……どうか、よろしくお願いします。」
ロイスはゆっくり立ち上がると重い足取りで闘技場から出ていった。

静まり返る武道場。
観客たちは何が起こったのか理解できず騒然としたが、やがて一人、また一人と立ち去っていった。

「ふぅ……」
アーサーは剣を収め、息を整えた。

「アーサー、ご苦労様。
素晴らしかったわ。
とても……かっこよかった。」
ティアが微笑む。

「久しぶりに真剣に剣を振った気がする。
勘が鈍っていないか不安だったが……どうやら彼に俺の覚悟は伝わったみたいだ。」

「ロイスには、私からも話しておくわ。」

「ああ。
……それが一番いいだろうな。」

決闘の後。
武道場を出たティアは歩いているロイスを見つけると、その背に、澄んだ声がかかった。

「ロイス」

ロイスは足を止め、振り返らずに答える。
「……ティアさん」

ティアは彼に歩み寄り、真剣な瞳で見つめた。
「まったく、何やってるの?」

「アーサーがあなたに相応しいか俺の目で確かめたかったんです。
……俺は、師匠に教わったんです。
大切なものを守るためには、時に愚直でなければならないって。
だから……あなたには、絶対に幸せでいてほしいんです」

ティアは柔らかく微笑むと、そっと頭を下げた。
「大丈夫よ。
私は十分幸せよ。
でも、ありがとうね。
私の事を心配してくれて。」

「心配しますよ。
だってあなたは俺の憧れの人なんですよ。
誰よりも幸せになって欲しいし、そうでなくては師匠も悲しむでしょ。
その為なら俺はいつでもこの剣を振るいますよ。」

「憧れだなんて、勿体無いわ。
ありがとう。」

照れた表情を見せたロイスは、やがて深く頷いた。
「……アーサーがあなたを蔑ろにしたら許しませんから。
その時は本気の全力であいつを殴り倒します。」

「そうね。
その時はロイスにお願いするわね。
その前に私がボコボコにしてると思うけど。」

「そうですよね。」
2人は周りを気にせず大笑いした。
そして、ロイスは深く頭を下げて去っていく。
その背はまだ未熟ながらも、確かな誇りと決意を帯びていた。
ティアは静かにその背を見送った。
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