毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十二章 最悪のノエル

第百一話 挫折するノエル

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翌朝――。
ティアとアーサーは、生徒会長室の大きなベッドで朝日を浴びながら目を覚ました。
週末は特に、この“秘密の朝”を共に過ごすことが多い。互いに求め合い、寄り添い、欲を満たす――そんな関係が自然と習慣になっていた。

「おはよう」
ティアが微笑む。

「おはよう。
……しかし、生徒会長の部屋のベッドで、こんな朝を迎えていいのか?」
アーサーは半ば冗談めかして呟いた。

「ふふ、ダメに決まってるじゃない。
バレたらアーサーは退学ね」

「なんで俺だけなんだよ」

「だって、アーサーは私を守ってくれるでしょ?」
上目遣いで悪戯っぽく笑うティアに、アーサーは肩をすくめる。

「なんとも都合のいい話だな。
……そろそろ戻るよ。
準備もしないといけないしな」
アーサーがベッドを出ようとすると――

「ちょっと。お目覚めのキスは?」
ティアはシーツの上で小さく身を起こし、潤んだ瞳で見上げる。

アーサーは苦笑しつつも彼女を抱き寄せ、しっかりと唇を重ねた。
余韻を残して部屋を出ていくアーサーの背を、ティアは小さく手を振って見送る。

扉が閉まると、ぽつりと呟いた。
「……寂しい」


ティア達との話し合いをした夜、ノエルは部屋でぼんやりと天井を見つめていた。
ティアとアーサーとの会話が頭から離れない。

――自分はどうしたいのか?

クラスメイトたちは優しく、興味を持ってくれる。
それに応えるべきなのか。
だが、方法が分からない。
本当に信用していいのか。

考えれば考えるほど、疑心暗鬼に飲み込まれていく。


翌日。
ノエルがいつものように三組の教室に入ると、見慣れぬ三人の生徒がクラスメイトと話していた。

「ノエルに何の用だ?」
怪訝そうに問いかけると、三人は同時にこちらを振り返った。

「やあ、君がノエルくんか」
金髪に整った顔立ち、眼鏡をかけた男子がニヤリと笑った。
「僕は一年一組の首席、
エリオット・スタンディだ」

「同じく一組、次席のエルミナ・バルエルよ」
茶色の長髪を揺らす美しい女子が優雅に名乗る。

「同じく一組三席、グリオン・スターナだ」
筋肉質の大柄な男子が短く名乗りを上げた。

ノエルは眉をひそめる。
「で、俺に何の用だ?」

エリオットが一歩前に出た。
「聞いたぞ。
先日、生徒会長のティア先輩に決闘を申し込んだそうだな」

「……それがどうした」

「我々、一年の首席・次席・三席を差し置いて、いきなり学園最強のティア先輩に挑むとは――我らの面子を潰されたも同然だ」

「面子?
俺はただ、あいつが気に入らなかったから挑んだだけだ」

「それでは困るの」
エルミナが冷ややかに言い放つ。
「決闘には順序があるのよ」

グリオンも腕を組んで頷いた。
「まずは一年三席である俺に挑み、その後に次席、そして首席……それを越えて初めて、ティア先輩へ挑むのが筋ってもんだ」

「……結局はお前たちのプライドか」

「その通りだ。
我らを無視してティア先輩に挑むなど、許せん」

ノエルは小さく肩をすくめた。
「……そうか。
それは悪かったな。
今度は気をつける」

「言葉だけで済むと思うなよ」
エリオットが鋭い笑みを浮かべる。
「放課後、闘技場に来い。
俺たちと決闘だ」

ノエルは深く息を吐き、眉間に皺を寄せた。
――面倒なことになった。

「……わかった」
本心では事情を飲み込めていなかったが、それでも決闘を受け入れるしかなかった。

放課後、闘技場。
観客席には一年生たちを中心に多くの生徒が集まっていた。
三組の教室で交わされたやり取りはすぐに広まり、今日の決闘は小さな祭りのような空気を生んでいた。

そして、観客席にティアがゆっくりと歩いて登場すると、観客席に響めきが上がる。
「ティア嬢だ!」
「一年の決闘を見に来るなんて。」
とざわめきが起こった。

中央の決闘場に立つノエルの前に、一組の三席――グリオン・スターナが大きな体を揺らして現れる。

「順序ってやつを教えてやる。
全力でいくぜ!」

ノエルも剣を構えた。だが――

次の瞬間、グリオンの圧倒的な膂力に吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられ、息が詰まった。
立ち上がる間もなく、何度も叩き伏せられ、結局は防戦一方のまま決着がついた。

「三席の俺にすら触れられねぇとはな」
グリオンは勝ち誇るでもなく、淡々と宣告する。その冷静さが逆にノエルを追い詰めた。
ノエルは回復魔法を立会人から施されると次の決闘が始まる。

次に現れたのは、次席のエルミナ・バルエル。

「これ以上、醜態をさらさない方がいいのではなくて?」
華奢な体からは想像できない速さと鋭さで、魔法と剣が舞う。

ノエルは必死に追いすがるが、一太刀も届かない。
視界に見えたと思えばもう背後を取られ、軽い一撃を浴びせられるたびに体力を奪われていく。

「あなた、ただの力任せね」
エルミナの言葉は冷たく、氷のようにノエルの胸を突いた。

最後には両膝をつき、剣を落とすしかなかった。
すぐ様回復魔法を施されて休む間も無く続く。

そして首席、エリオット・スタンディが歩み出る。
観客の視線が一斉に集まり、会場の空気は張り詰めた。

「最後に私だ。
……だが正直、もう勝負は見えている」
眼鏡の奥の瞳は冷徹そのものだった。

ノエルは立ち上がり、剣を握りしめる。
負け続けた悔しさが、最後の意地を奮い立たせた。

「うおおおッ!」
叫びとともに突進する。

だが――

エリオットはただ一歩横に滑っただけで、ノエルの全力の斬撃は虚しく空を切る。
その直後、胸に軽く指を突きつけられる。

「……チェックメイトだ」

一瞬の出来事。会場の誰もがノエルの完敗を悟った。


ノエルは地面に膝をつき、拳を強く握りしめる。
悔しさ、惨めさ、怒り……あらゆる感情が渦巻いて胸を締め付けた。

――こんなにも差があるのか。
――俺は……何もできないのか。

観客の歓声が遠くに聞こえる。
自分の不甲斐なさだけが、心を重く沈めていった。


決闘の数時間前。
ティアが教室でメリルと談笑していると、扉の向こうから一年生三人――エリオット、エルミナ、グリオンが姿を見せた。

「ティア先輩。
少しお話がございます。
どうかお時間をいただけませんか」

三人は一糸乱れぬ動作で深々と頭を下げる。
その気迫に、メリルが「なにか重大なことね」と目を丸くする。

「ごめん、メリル。
ちょっと行ってくるね」

「うん。」

ティアは三人を伴い、生徒会室の応接室へと移動した。



「どうしたの? 
確か君たちは、一年生の首席エリオットくん、次席エルミナさん、三席グリオンくんよね。
三人揃って、まさか私に決闘でも申し込みに来たのかしら?」

ティアは冗談めかして言ったが、三人の表情は冗談を受け取れる余裕などなかった。

「いえ、ティア先輩。
今日は決闘のお願いではありません。
三組のノエルの件で、ご相談があるのです」
エリオットが真剣な眼差しで切り出す。

「ノエル……? 
何かあったの?」
ティアの眉がわずかに寄る。

そのとき、エルミナが感極まったように身を乗り出した。
「うぅ~っ、ティア先輩と直接お話できるなんて……! 
光栄です! 
私、ずっと憧れていて……本当に感動で……!」
目を潤ませ、手を握りしめる姿は、完全に“ファン”のそれだった。

「こら、エルミナ! 今は抑えろ!」

「ご、ごめんなさいっ!」
真っ赤になって慌てて頭を下げるエルミナに、ティアは思わず苦笑した。

「……だ、大丈夫よ。
ありがとう」

場が和んだところで、グリオンが口を開く。
「まだノエルに何か起きたわけじゃありません。
ただ……先輩に決闘を挑んだことで、上級生たちの注目を集めすぎました。
このままだと、過度な干渉や圧力が予想されます」

「僕たち一年の首席、次席、三席を差し置いて、いきなり学園一のティア先輩に挑んだ。
それが“無礼”だと受け取る者もいます」
エリオットの言葉は、熱と責任感を帯びていた。

ティアは目を細め、感心したように三人を見つめる。
「なるほど……あなたたち、凄いわね。
ちゃんと周りを見ているのね。」

「いいえ。
僕たちのためでもあります。
ですから――今日、僕たちが順番にノエルと決闘します。
そこで圧倒的な実力差を見せつければ、上級生の関心も和らぐはずです」

「ただ……観客席にはぜひティア先輩にいていただきたいのです。
先輩の存在があれば、それだけで上級生たちを抑える力になる」

三人の言葉は真剣で、熱意に満ちていた。
ティアは小さく息を吐き、柔らかな笑みを浮かべる。

「分かったわ。
……そこまで考えてくれるなんて、頼もしい一年生たちね。
私も見届けるわ」

その答えに、三人は一斉に顔を上げ、力強く頷いた。

――こうして、決闘前の密かな取り決めが交わされたのだった。
しかし、ノエルは知る由もなかった。

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