毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十二章 最悪のノエル

第百二話 クラスの仲間とノエル

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決闘は静寂のうちに幕を閉じた。
観客席には息を呑むような緊張感が残り、ノエルと三人の間に横たわる圧倒的な実力差を誰もが理解していた。

その空気を破ったのは、三組のクラスメイトの怒声だった。
「おい! 三人で寄ってたかってノエルと戦うなんて、卑怯じゃないか!」

その声に、エリオットは眉ひとつ動かさず応じる。
「勘違いしているな。
決闘はすべて一対一で行った。
こちらは形式を守ったまでだ」

「一度に首席・次席・三席を相手にして、どう実力を出せるっていうんだ!」

静かな抗議に、エリオットはわずかに口角を上げた。
「なるほど……そこまで言うのなら証明しよう。
三組全員、まとめてかかってこい。
私ひとりで相手をしてやる」

その傲岸不遜な宣言に、三組の生徒たちは逆上した。
「ふざけるな! 
後悔させてやる!」

次の瞬間、三組全員による決闘が開始された。
だが、勝敗は開始と同時に決していた。
雷撃が次々と放たれ、襲いかかる生徒たちを容赦なく薙ぎ倒していく。
気づけば、立っているのはエリオットただ一人。
闘技場の地面には呻き声をあげる三組の生徒たちが倒れ伏していた。

「行こう」
エリオットの一言で、エルミナとグリオンも立ち上がり、三人は静かに闘技場を後にする。

観客席にいたティアもまた、何も言わず立ち去った。

残されたのは敗北の痕跡と、這いつくばる三組の生徒たち。
やがて誰かが叫ぶ。
「くそぉぉぉぉぉ!」

ノエルはただ呆然と、その光景を見ているしかなかった。

「すまん、ノエル! 
仇は取れなかった!」
「ごめん!」
「つ、強すぎだ……あいつら半端じゃねぇ!」

次々と声をあげ、いつの間にかノエルの周りにクラスメイトが集まっていた。

「お前たち……」
ノエルは項垂れる。

「仕方ねぇさ! 
あれじゃノエルでも勝てない!」
「そうそう。
私たちだって一緒にやられたんだから!」

そう言って、三組の生徒たちは笑いながら肩を叩き合い、ノエルを励ました。
敗北の中に、不思議な一体感が芽生えていた。


――決闘前の裏話。

ティアに相談を終えたエリオットたちは、突然ハンカチを三枚取り出して深く頭を下げた。

「ティア先輩! 
どうかこのハンカチにサインをお願いします!」

「え? 
サイン? 
べ、別にいいけど……そんなの欲しいの?」
ティアは困惑の表情を浮かべる。

「できれば、一言添えていただけると……!」
エリオットの真剣な眼差しに続き、エルミナも瞳を輝かせる。
「私も! 
ティア先輩の一言が欲しいです!」
「俺もだ!」とグリオンも身を乗り出した。

「わ、分かったわよ……」
ティアは仕方なく、それぞれに短い言葉と名前を記した。

「誠実であれ。
……ありがとうございます!」
エリオットは感動のあまり目を潤ませる。

「可憐であれ。
……ありがとうございます!」
エルミナはすでに泣いていた。

「豪快であれ。
……ありがとうございます!」
グリオンは固まったまま動かない。

そして極めつけに、エリオットがさらに身を乗り出す。
「最後のお願いです! 
このハンカチで先輩の首筋を拭っていただけませんか!」

「え、ええっ!? 
どういうこと……?」

「きゃあぁぁ! 
私もお願いします!」
「おい、抜け駆けするな!」

三人が一斉にハンカチを差し出す。

「ちょ、ちょっと……わ、分かったから!」
ティアは仕方なく一人ずつのハンカチで首筋を軽く拭き、返してやった。

「こ、こんなのでいいの?」
ティアは恥ずかしいそうに顔が赤くなっていた。

「うぅ……もう一生このハンカチは洗いません……!」
三人は涙を流しながら喜び、ティアは頭を抱える。

「いやいや、洗って! 
お願いだから!」

だがその声は、三人の耳には届いていなかった。

「ティア先輩のいい匂いがする。」
エルミナがハンカチの匂いを嗅いでいた。

「何だって!」
2人もハンカチの匂いを嗅ぐ。

「ちょ!ちょっと!
恥ずかしいからやめて!」
ティアは顔を真っ赤にして立ち上がる。

「この事はファンクラブ会員には秘密だからな!」
「わかってるわ!」
「家宝にする。」
3人は大事にハンカチを折りたたむとポケットにしまった。

「毎日、朝に匂いを嗅いで手を合わせて感謝します。」
エリオットは真面目な顔で深く深く余韻に浸っている。

「うぅ、も、もうやめて。
お願いだから。」
ティアは恥ずかしさのあまり手で顔を覆った。


決闘後の裏話――。
ティアからサイン入りのハンカチを手に入れた三人は、胸の奥に熱い誓いを抱いていた。

「これこそ……俺たちの宝だ……!」
「絶対に誰にも言わない……!」
「墓場まで持って行こう……!」

そう固く誓い合った――はずだった。

……が。

数時間後。
人気のない廊下の隅で。

「すぅぅぅ~~っ……! 
はぁぁぁ……尊い……!」
グリオンが例のハンカチを両手で抱きしめ、鼻に押し当てていた。

「ぐふっ……先輩の残り香……! 
これが生きる力だ……!」
完全に我を忘れ、うっとりと腰を抜かしている。

その瞬間。

「……ほぉぉぉおおお!?」
背後から怪鳥のような叫び声が響いた。

「ひっ!?」
グリオンが振り返ると――そこには、ティアファンクラブ会長マクラレンが仁王立ちしていた。

「な、な、なんでマクラレン会長がここに……!?」

マクラレンの瞳は怪しく光っていた。
「グリオン……今、貴様……ティア嬢のサイン入りハンカチを嗅いでいたな……?」

「い、いやこれは、その……えっと……!」
グリオンは必死に隠そうとするが、手の中のハンカチは煌々と輝いて見えた。

「その柄……! 
そしてその香りへの陶酔ぶり……間違いないッ!」
マクラレンが拳を震わせる。
「まさか……ティア嬢直筆サイン入り……!? 我らファンクラブの伝説級お宝が……お前の手に渡っていたとはぁぁぁっ!!」

「ち、違っ……あ、ああああっ!!!」
グリオンの絶叫は虚しく、翌日にはファンクラブ全会員に知れ渡ることになった。


会員たちは大騒ぎ。

「裏切りだ! なぜ黙っていた!」
「羨ましいっ! 俺も嗅ぎたかった!」
「ちょっと! 会員特典は平等じゃなきゃダメでしょ!」

その場に駆けつけたエリオットとエルミナは、頭を抱えて叫んだ。

「バカかグリオン! 
墓場まで持ってけって言っただろ!」
「うぅぅ! 
香りが誘惑して……身体が勝手に……!」

そして――混乱の中心でティアはただひとり、頭を抱えながら小さくつぶやいた。

「……やっぱりファンクラブって怖い……」


ファンクラブ通信・特別号

会員No.358、グリオン。
彼は密かに「ティア先輩のサイン入りハンカチ」を隠し持っていた。
その噂は瞬く間にファンクラブ内に広まり、ついに彼は上級生会員たちに捕縛される。

ファンクラブ専用の個室。
重苦しい空気の中、会長マクラレンが椅子に腰かけ、机を指でトントンと叩いた。

「……さて、グリオンくん。
何故、君が“ティア嬢のサイン入りハンカチ”を所持しているのか――答えてもらおう。」

「うぅ……! 
そ、それは言えない!」
グリオンは必死に口を閉ざした。
ティアに迷惑をかけたくなかったのだ。

するとマクラレンはにやりと笑い、机の引き出しから一本のペンを取り出した。

「では……こうしよう。
ここに“ティア嬢が実際に使用した”ペンがある。話してくれるなら……君に譲ろう。」

その瞬間、グリオンの瞳がギラリと輝く。
「な、なんと! 
ティア先輩が使われたペン……! 
ま、まさか夢にまで見たその一品を……!」

理性が吹き飛んだ。
「わ、わかりましたぁぁぁ! 
すべて話しますぅぅぅ!」

かくして、グリオンの口から全てが暴露される。
その結果――会員No.350エリオット、会員No.354エルミナも捕縛。

「裏切ったなグリオン!」
「情けない……仲間を売るなんて!」

しかし当の本人は、ペンを抱きしめながらニヤニヤ。
「ふふ……見よ、この“ティア先輩使用済みペン”を……!」

こうして三人が持っていた「サイン入りハンカチ」は没収され、ファンクラブ室に厳重保管されることとなった。



数日後。
その話を聞きつけたティアは、直接マクラレンを訪ねる。

「ねぇ、エリオットたちから取り上げたって聞いたんだけど、本当?」

「その通りだ。
あのサイン入りハンカチは、ただの布ではない。
ティア嬢自らの直筆サイン……さらに直にお身体を拭かれた“聖遺物”!
伝説級のお宝として、皆で鑑賞し、崇める必要がある!」

「な!何を!大袈裟すぎるでしょ! 
エリオットたちが可哀想じゃない!」

「では伺おう。
もし会員全員がハンカチを持参し、サインと直に肌を拭いてほしいと願ったら……ティア嬢は嫌がらずに応じるのか?」
マクラレンの視線がギラリ。

「うぅっ……そ、それは絶対イヤ!」
ティアは顔をしかめて即答した。

「ならば仕方あるまい。
皆が群がるのを防ぐためにも……その“聖ハンカチ”は会員たちに公開し、鑑賞し、手を合わせ……匂いを嗅ぐことを認めてもらうしかない!」

「ちょっ! ちょっと待って! 
鑑賞や崇めるのは好きにしたらいいとして……匂いを嗅ぐのはやめてよ! 
恥ずかしいし……き、気持ち悪いわよ!」
ティアは顔を真っ赤にして抗議する。

「だが、それを認めれば……ティア嬢を守る盾となる。」

「うぅ……そ、それを言われると返せない……」
ティアは悔しそうに唇を噛みしめた。

「では確認しよう。
“サイン入りであり、ティア嬢のお身体を拭いたハンカチ”を、会員たちが鑑賞し、崇め、匂いを嗅ぐことを……認める、で良いんだな?」

「その言い方やめてってば!
……はぁ……わかったわよ、好きにしなさい! 
でも、ほんと匂いだけは勘弁してほしいのに……!」

ティアは頬を膨らませ、羞恥に耐えきれず顔を真っ赤にするのだった。
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