毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十四章 セイントスター世界学園へ

第百十五話 神の意思と決闘

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教室のざわめきが落ち着き、談笑が弾んでいたそのとき――
ガチャリ、と静かな音を立ててドアが開いた。

「――さあ、全員、席に着いてください。」

入ってきたのは、整った顔立ちの男性だった。
その瞬間、ティアの全身に電流のような衝撃が走る。

「……う、そ……でしょ……?」

思わず椅子から立ち上がり、目を見開く。
彼女の青い瞳が、まるで時間を止められたかのようにその人物を見つめた。

――その顔を、忘れるはずがなかった。

男性は特に動揺も見せず、静かに笑みを浮かべると前へと進み出る。
「それでは始めましょう。
本日よりこのクラスの担任を務めます――ダクトスと申します。」

(やっぱり……ダクトス……!)
ティアの心臓が大きく脈打つ。
その名を耳にした瞬間、封じたはずの記憶が脳裏をかすめた。
天界の頃、審問官ユスティティアだった時代に見た“あの男”――。

「まずは、楽しい一年にしましょう。」
柔らかく笑うその声は、今でも人の心を包み込むように優しい。

彼女はゆっくりと椅子に腰を下ろす。
ダクトスが一瞬、微笑みながらティアの方へ視線を送る。
まるで「よく来たね」と言わんばかりの穏やかな瞳だった。

「先ほど講堂でも話がありましたが――」
彼は教壇の前に立ち、教室を見渡す。

「この学園では、一年間で一つ、“神の領域の魔法”を習得してもらいます。
もちろん、容易ではありません。ですが――あなたたちは選ばれし存在です。
努力と理解があれば、必ず到達できます。」

教室の空気が静まり返る。
生徒たちの表情は真剣で、誰一人としてふざけている者はいない。
ティアはその光景に、少しだけ驚いていた。
(誰も動揺していない……精神系の魔法の形跡はないが……。)

ダクトスは続けて、背後の魔導モニターを指し示した。
「そして、もう一つ重要なこと。
神の魔法を学ぶためには――“神域の知識”を修めねばなりません。
これは避けては通れません。
授業で扱う理論や歴史を怠ると、魔法は決して開花しません。気をつけてくださいね。」

彼の言葉に、生徒たちは静かにうなずいた。

「さて。」
ダクトスが手をかざすと、前方の壁に魔法の光が走る。
クラス全員の名前と、決闘の組み合わせ表が浮かび上がった。

「これが今日の決闘カードです。
お互いに都合のいい時間を相談し、地下の決闘場で試合を行ってください。
審判が常駐しているので、ルールや勝敗の記録は彼らに任せて構いません。」

生徒たちの目が輝く。
決闘――その言葉に、眠っていた闘志が燃え上がる。

「授業の時間割もここに表示します。
一日の半分は“実戦時間”です。
実践を重ね、互いを高め合ってください。」

そして、穏やかに締めくくるように言った。
「――では、最初の授業を始めましょう。」


それから約一時間。
ダクトスによる「神の領域の基礎理論」の講義が続いた。
難解な内容だったが、彼の説明は驚くほどわかりやすく、
生徒たちは息をのむほど集中していた。

ティアも例外ではない。
彼の声を聞くたび、過去の記憶が心の奥をかすめた。
だが、今は“神魔族ティア”として、しっかりと前を向くしかない。

授業が終わると同時に、教室は一気に賑やかになった。
生徒たちは次々と決闘の申し込みを始める。
戦いを待ちわびていた者たちの顔は、どこか楽しげですらある。

そんな中――

「おい! 当然、一番最初の決闘は俺だよな!」

ティアの目の前に、鬼神族のザフラが仁王立ちしていた。
腕を組み、獰猛な笑みを浮かべる。

ティアは呆れたように片眉を上げ、ため息をつく。
「……またあなたなのね。
懲りないわね、ザフラ。」

「へっ、昨日の口ぶり、忘れてねぇぞ。
俺がてめぇを地面に沈める、その瞬間を楽しみにしてろ!」

ティアは微笑を浮かべる。
その笑みは、戦う者だけが見せる静かな闘志を秘めていた。

――“最初の決闘”、悪くないかもね。

地下闘技場――そこは何層にも重なった広大な空間で、魔法転移によって各階層へと瞬時に移動できる造りになっていた。
重厚な石壁の中、光を灯す魔石が天井に並び、幻想的な輝きを放っている。

ティアとザフラは、転移陣の光に包まれながら指定された試合場へと姿を現した。
既に審判が待機しており、厳かな声で口を開く。

「神魔族ティア・リブンさん、鬼神族ザフラ・トフさん。
これより決闘を開始します。
ルールは単純――どちらかが意識を失うか、動けなくなった時点で終了です。
この空間では“死ぬことはありません”。
ですので、手加減は一切不要です。
ティアさん、あなたはかなり魔力を抑えていますね。
ここでは遠慮なく、本来の力を解放していただいて構いません。
ここでの決闘は、なるべく全力を出して下さい。
それも序列の参考にさせていただきますので、よろしくお願いします。」

「……見透かされてるのね。」
ティアは思わず小さく息を呑んだ。

ザフラがニヤリと笑う。
「へぇ、やっぱり抑えてたのか。
助かったぜ。
ひ弱な力では、退屈で仕方なかったからな。
さあ――遠慮はいらねえ。
全力で来いよ!」

「ええ、望むところよ。
“死なない”って聞いて、本気を出せそうだわ。」

「減らず口を叩くのも今のうちだぜ。」

2人は互いに間合いを測りながら睨み合う。
空気が震え、ティアは魔力とザフラの闘気がぶつかり合って音を立てた。

「――決闘、開始!」

審判の合図と同時に、ザフラの身体が爆ぜたように消えた。
残ったのは、彼が放った圧倒的な“殺気”の残響。

「ふっ!」

神速を超える一撃。
拳が空間を裂き、ティアの目前に突き刺さる。

「っ……!」
ティアは両腕で受け止めるも、衝撃が全身を駆け抜ける。
凄まじい打撃に体勢を崩し、彼女の身体は後方へ弾き飛ばされた。

「まだまだだ!」
ザフラは追撃の嵐を叩き込む。
拳、肘、蹴り――その全てが獣のような速さと重さを伴って迫る。

ティアは紙一重でかわしながら、相手の動きを観察していた。
(……魔力じゃない。
この力、純粋な“エネルギー”……? まるで別の世界の法則ね。)

「どうした! 
まだ半分も力を出してねぇぞ!」
ザフラが挑発的に笑う。

「審判! 
本当に全力でやっても死なないのよね!?」
ティアは声を張り上げた。

「もちろんです。
神域の加護が働いていますから、心配無用ですよ。」

「そう。
なら――遠慮なく。」

その瞬間、ティアの青い瞳が光を帯びた。
空気が震え、ティアの魔力が最高に高まる。

ザフラの目の前から、ティアの姿が――消えた。

「……なに!?」

一拍遅れて、眩い羽光が闘技場を覆う。
『天翼の羽(ヘブンウイング)』

純白の羽が無数に舞い上がり、流星のようにザフラへと殺到した。
「ふんっ!」
拳を振るい、幾枚もの羽を叩き壊すが――数が多すぎる。

「くっ!」
やがて羽が彼の身体に突き刺さり、次の瞬間、光を放って大爆発を起こした。

轟音とともに光の嵐が収まり、
ザフラは地面に叩きつけられたまま動かなくなっていた。

「そこまで!」
審判が声を上げる。

ティアは深く息を吐いた。
「……本当に死んでないのよね?」

「ええ、正確には“死んでも生き返る”仕組みです。」

「……生き返るのね。
ややこしい説明ね。」

「彼はすぐに医務室へ運ばれます。
――勝者、ティア・リブン!」

ティアは微笑んで頷く。

「まだ本気を出していませんね。
抑える必要はありませんよ。
まあ……次の決闘に期待しています。」

審判の言葉に、ティアは肩をすくめる。
「ええ、わかったわ。」

そして転移魔法陣が彼女を包み、光の粒となって教室へ戻っていった。

――地下闘技場の空気は、彼女の力の余韻を今も震わせていた。
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