毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十四章 セイントスター世界学園へ

第百十八話 神ウルの悪態

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授業の合間――
静まり返った教室に、担任のダクトスが穏やかな声で言葉を投げかけた。

「他のクラスのことは分かりませんが……
皆さんのクラスでも、“リーダー”を決めてみるのもいいと思いますよ。」

生徒たちが顔を上げる。

「何かを決める時、リーダーが先頭に立って意見をまとめる。
そうすれば混乱も起きません。
サブリーダーを一人決めておくのも良いでしょう。」

それだけ言い残すと、ダクトスは資料を抱えて静かに教室を出ていった。

残された教室には、すぐにざわめきが広がる。

「リーダーって、やっぱり強い人がやるべきかな?」
「うーん、そういうのやりたい人がやればいいんじゃない?」
「私はパス。性格的に向いてないし。」
「男子がやった方が、こういう時まとまりそうじゃない?」

ティアの周りでは女子たちが自由に意見を交わしていたが、
当のティアは微笑を浮かべながらも特に発言せず、
その話題には深入りしようとしなかった。

――そのとき。

「リーダーか! 
よし、俺がやってやるぜ!」

教室の後方から響く豪快な声。
名乗りを上げたのは鬼神族のザフラだった。
大柄な体格に角を持つ、いかにも腕力自慢といった男である。

「あなたはダメよ。
傲慢すぎるから。」
「そうそう! 
あんた、いつも喧嘩腰じゃない!」

女子たちから一斉に非難の声が上がる。

「うるせぇな! 
女どもが!
やらねぇなら口出すなってんだ!」

ザフラの怒鳴り声が響き、空気が一瞬ぴりついた。

「ふん、口も態度も悪いわね。」
「そうよ、リーダーはティアさんでしょ!」
「一番強い人がリーダーに決まってるじゃない!」
「そんなことも分からないの?」

女子たちは一斉に立ち上がり、ザフラに詰め寄る勢いで声を張り上げた。

「うるせぇ!!」

ザフラが怒鳴っても、女子たちは怯まない。
まるで炎に油を注ぐように、言葉の応酬は激しさを増していく。

そこで、ティアが静かに立ち上がった。

「わかったわ。
……私がやるわ。」

その一言で、教室の空気が一変した。

「やっぱりティアさんよね!」
「そうそう、あんなガサツな男についていけないわ!」
「もう用済みね!」
「下がりなさいよ、ザフラ!」

女子たちの声援が一斉にティアへと向かう。
ザフラは顔を引きつらせながらも拳を握りしめ、吠えるように言った。

「ティア! 
リーダーを賭けて勝負だ!」

「え? 
また決闘? 
……もういいでしょ。」
ティアは少し困ったように笑いながら、軽く肩をすくめる。

「私がリーダーで、あなたがサブ。
――それで、いいんじゃない?」

その瞬間、女子たちの冷たい視線が一斉にザフラへ突き刺さる。
まるで全方位から圧をかけられたようなその空気に、
さすがのザフラも少し怯んだ。

「ふ、ふんっ! 
仕方ねぇな!
それで……許してやるよ!」

どこかバツの悪そうな顔をしながら、
ザフラは腕を組んでそっぽを向いた。

「じゃあ、決まりね!」
女子のひとりが手を叩いて宣言する。

「リーダーはティア! 
一組の代表よ!
で、サブリーダーはザフラ!」

「お、おう……」

教室の中に、少し笑いが戻る。
ティアはそんな様子を見て、柔らかく微笑んだ。

――こうして、一組のリーダーはティアに決定した。
力でも、人格でも、誰も彼女に異を唱える者はいなかった。


放課後。
ティアは寮へ戻るため、セリアと並んで校舎の渡り廊下を歩いていた。
夕陽が差し込む中、後ろから足音が早足で近づいてくる。

「ティアさん、ちょっとお話しできますか?」

振り向くと、同じ神魔族のユサリスが従者と共に立っていた。
どこかそわそわしていて、妙に落ち着かない。

「あら、ユサリスさん。
いいですよ。
寮の広間ででも?」

「いや、その……他の人に聞かれたくない話でして。
できれば、どちらかの部屋で。」

「……うーん、まだよく知らない人を自分の部屋に入れるのは、ちょっと抵抗あるんですけど。」

「じゃあ、俺の部屋に来ます? 
歓迎しますよ。」

あっけらかんと言うユサリス。
ティアは少し考えた末に頷いた。

「はい。
じゃあ、少しだけ。」

「主様、私は先に戻っておきます。」
セリアは察したように軽く会釈して去っていった。

――そして、ユサリスの部屋。

ティアは窓際のソファに腰掛ける。
落ち着いた色調の部屋だが、どこか居心地が悪い。
向かいに座ったユサリスが、じっとティアを見つめている。

「それで、何か気になることでも?」

「いや、同じ神魔族として……少し聞いてみたかったんです。
あなたのことを。」

「そんな話なら、別に他の人に聞かれても困らないでしょ?」

ユサリスは苦笑しながら立ち上がる。
そして、なぜかティアの隣へ――すっと腰を下ろした。

「……ちょっと距離が近いですよ?」

「そう? 
僕はこれくらい普通だけど。」

そのとき、ティアの右手首が掴まれた。
ふと顔を上げた瞬間、ティアの瞳が細くなる。

「……神ウル。
何がしたいんですか?」

「ええ!
もうバレた?」

ユサリスの姿がふっと揺らぎ、赤い短髪の青年――神ウルの姿へと変わった。
少年のような笑みを浮かべ、悪びれる様子もない。

「まったく……遊びが過ぎますよ。」

「ええ、いつから気づいてたの?」

「初めて会った時からですよ。」

「そんなに直ぐ?」

「ええ。
だって“同じ神魔族”なんて言い方、怪しすぎるじゃないですか。」

ウルは頬を膨らませた。
「うーん、つまらないなあ。
もうちょっと驚いてくれてもいいのに。」

そして――いきなりティアの左手も掴む。
そのままソファーに押し倒した。

「ちょ、ちょっと! 何を……」

「いやぁ、近くで見ると本当に綺麗だなと思って。」
ウルは茶目っ気たっぷりに笑いながら、彼女の手を離さない。

「お世辞は結構です。
これ以上変なことをしたら嫌いになりますよ。」

「へぇ~、そうなんだ。
それは困ったな。」
それでもウルは手を離すどころかティアの両手を頭の上で重ねると左手で手首を押さえて、右手でティアの顎をくいっと持ち上げた。

「本当に怒りますよ。」
ティアは困った顔で怒って見せた。

しかし、ウルはティアの唇に口付けると舌を絡ませてきた。
「うぅ!」
神の力は想像を絶していた。
最強に近いティアも全く身体に力が入らない。
ウルが口付けを終えて顔を上げると。
「ちょっ!
神ウル!
もうこれ以上は本当に怒りますよ。」

「“これ以上”って、どこまでなのかな?」

「はぁ!? 
そういう意味じゃありません!」

ティアが怒ると、ウルは楽しそうに目を細める。

「怒った顔も可愛いね。」

「だから!
本当に怒りますよ。」

「はいはい。
じゃあ、今日はこれくらいにしておこう。」
ウルはようやく手を放し、ソファの背にもたれて笑った。

ティアは制服の裾を整えながら立ち上がる。
「まったく……私帰ります!」

「この続きはまた今度ね。」

「うるさいですっ!」

頬を染めたままティアは転移魔法で姿を消した。

――自室のソファに倒れ込む。

「うぅ……油断したわ……。」
思い出しただけで顔が熱くなる。
そして枕を抱きしめながら、ティアは小さく叫んだ。

部屋に戻ったティアは、ソファに深く腰を下ろして天井を見上げた。
先ほどまでの出来事が、まだ胸の奥でざわめいている。
どれだけ強くなっても、神の力の前では抗う術などない——その現実を、まざまざと知らされたのだ。

「主様、どうされましたか?」
心配そうな声がして、セリアがそっと部屋に入ってくる。

ティアは苦笑して首を振った。
「大丈夫よ。
ちょっとね……神ウルに揶揄われたの。」

「神ウル様に……ですか? 
まさか、神威(カムイ)をお使いに?」

「そう。
ほんの数分だったけど……あれは本当に恐ろしいわ。
どんな生命体でも、神威の前では抵抗できない。神以外はね。」

セリアはわずかに息を呑む。
「……それほどまでに、ですか。」

「ええ。
自分の身体が、まるで糸を切られた人形みたいだった。
何もできずに、ただされるがままよ。」

セリアは少し考え込んでから、そっと言葉を選んだ。
「ですが……好かれているのでしたら、それはある意味、良いことではないのですか?」

ティアはきょとんとした顔をした。
「……え? 
もしかして、見てたの?」

「あ、い、いえっ! 
決してそのようなことはっ!」
セリアは慌てて手を振る。

ティアはふっと笑って肩をすくめた。
「もう、冗談よ。
……でもね、好かれるのはともかく、無理やりは嫌でしょ?」

「確かにそうですが……神に愛されるというのは、決して悪いことではないと思いましたので。」

「そうね。
それは正しいわ。」
ティアは窓の外を見やりながら、静かに息をつく。
「でも、嫌われたらもっと危険……。
だから、上手く立ち回らないとね。」

セリアは小さく頷いた。
「私からは、なんとも言い難いですが……主様らしいお考えです。」

「ありがと。
……はあ、明日から憂鬱だわ。」

ティアはため息をつきながらソファに背を預けた。
セリアは黙って紅茶を淹れ、カップを差し出す。

その香りに包まれながら、ティアはそっと目を閉じた。
――あの神の笑みが、まだ脳裏に焼き付いて離れない。
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