毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

文字の大きさ
120 / 162
第十四章 セイントスター世界学園へ

第百二十話 友の占いとティアの決意

しおりを挟む
ティアの予想は、やはり的中していた。
神ウル──いや、ユサリスを名乗るその神の“アプローチ”は、日に日に激しさを増していった。

「神ウル。
……約束は、忘れたんですか?」

放課後の廊下で、ティアは静かにそう告げた。
次の瞬間、ユサリスが壁際に彼女を押し当てる。
両手を掴み、逃がさぬように壁に固定するその力は、まるで空間そのものを支配するかのようだった。

「約束? 
ああ、そんなのもあったね。」
彼は軽く笑いながら、低く呟く。
「これが終わったら、ちゃんと守るよ。」

「……何が“終わったら”です?」

「今日は――君に、キスがしたくなった。
それが終わったら、約束を思い出すさ。」

ティアは、ゆっくりと息を吐いた。
『やっぱり、そうなるわけね。』
どんな理屈も、神の気まぐれには通じない。そう痛感していた。

神ウルは、以前と同じように彼女の両手を頭上で押さえ込み、顎をそっと持ち上げた。

「無理やりしたら、怒りますよ。」

「じゃあ、ちゃんと許可を取るよ。
……キスしてもいいかい?」

「それは“許可を取った”とは言いません。」

「そうなのか? 
まあ、その辺は後で考えよう。」
彼の顔がゆっくりと近づく――。

だが、その瞬間。

ティアの右手から、黒と蒼の入り混じる炎が迸った。
神ウルの手を包み込むように燃え上がる“神炎”。

「うわっ!? あっつい!!」
ウルは慌てて彼女から飛び退いた。

ティアは冷ややかな瞳で立ち上がり、静かに言った。
「無理やりは嫌だと、言いましたよね。
私、暗黒神エレボスの加護を受けているんです。
この神炎は――神すら燃やせるそうですよ。」

「エレボスめ……! 余計な玩具を渡して!」
神ウルは手を振って炎を振り払い、眉をひそめる。

ティアは表情を崩さず、その場を離れた。
「次は“約束”を守ってくださいね、神ウル。」

この日は、辛うじて退けることに成功した。
けれど、ティアは分かっていた。
神が“遊び”をやめるはずがないことを。


その夜。
静かな部屋に、ドアを叩く音が響く。

「ティア。
少し、話せる?」
訪れたのはクラスメイトのアリーシアだった。

ティアは少し驚きながらも微笑む。
「アリーシア……どうしたの?」

二人は向かい合ってソファーに座った。
アリーシアは優しくティアを見つめる。

「ティア。
何か悩んでるでしょ? 
顔に出てるわ。」

「……察して来てくれたの?」

「そう。
私はね、占いが得意なの。
困っている人の道を照らすのが、私の仕事だったの。」

「占い?」
ティアの瞳がわずかに輝いた。
「そういうの、好きよ。」

アリーシアは微笑むと、手を宙にかざした。
淡い光が揺らめき、透明なカードが十数枚、テーブルの上に現れる。

「これは“水晶宮(すいしょうきゅう)のカード”。
私の世界では、運命の流れを読むために使っていたの。」

「綺麗ね……」

「さあ、ティア。
好きなカードを一枚選んで。」

ティアは迷いながらも、左から三枚目を取ってアリーシアに渡した。
アリーシアはカードをゆっくりと捲り、静かに息を呑む。

「――なるほどね。」

「何が出たの?」

「“時読みの旅人と禁を冒した司祭”。
あなたの運命は、常に分岐と選択の狭間にある。
どの道を選んでも、決して安穏ではない……そう示してる。」

ティアは静かに目を伏せた。

「アリーシア。
……少し、話してもいい?」

「ええ、もちろん。」

「アリーシアも気づいてるかもしれないけど――
ユサリスは、遊戯神ウルなの。」

「やっぱり……。」
アリーシアは小さく息を吐いた。
「何かおかしいとは思っていたけれど、まさか神そのものだなんて。」

「私は、彼に――“運命”を握られかけてる。
このままだと、神の力に屈するかもしれない。」

「……そう。」
アリーシアは再びカードを並べ、そっと言った。
「じゃあ、もう一度引いてみて。
今度は“あなたの道”を占うわ。」

ティアは中央のカードを選ぶ。
アリーシアがそれを捲ると、穏やかな光が溢れた。

「――“羅針盤を持つ愚者”。」
アリーシアは微笑んだ。

「ねえ、ティア。
このカードは、“迷いながらも自分の道を行く者”を示すの。
私、今はっきり分かったわ。
私がこの神域であなたと出会ったのは、このカードを引かせるためだったのよ。」

ティアは静かに頷く。
「……私、今までずっとそうだった。
どんな困難も、誰にも頼らず、自分の力でねじ伏せてきた。
神であっても、それが私の生き方。」

アリーシアは柔らかく微笑む。
「ええ、それでいいと思う。
どんな結末になっても、あなたが選んだ道なら、きっと間違いじゃない。
あなたはあなたのやり方を貫いて良いのよ。」

ティアの瞳に、決意の炎が宿る。
その光は、どんな神威よりも強く、まっすぐに燃えていた。

アリーシアは立ち上がり、静かに微笑んで手を差し伸べた。
「――行きなさい、ティア。
あなたの羅針盤は、もう迷っていない。」

ティアはその手を握り、静かに答える。
「ありがとう、アリーシア。
もう迷わない。」

夜の静寂の中、アリーシアが去ったあとも――
ティアの胸には、確かに新しい決意が灯っていた。

翌朝──薄曇りの空が低く垂れこめる中、ティアは闘技場の中心に立っていた。
空気は張りつめ、いつもの冗談めいたざわめきは消え失せていた。

対するは、ユサリス──遊戯神ウル。普段の軽やかな仕草は影を潜め、神としての威厳がその外貌を支配している。
だが彼の瞳にはまだ、どこか冷たい遊び心が残っていた。
風がふわりと二人の間を吹き抜ける。

数時間前、朝の教室でティアは言い放ったのだ。

「神ウル。
貴方に決闘を申し込みます。
ユサリスとしてのあなたではなく、遊戯神ウルそのものとして。私は、貴方を倒す。」

その言葉は皮肉でもない、挑発でもない。
揺るぎない決意の表明だった。
遊戯を好む神に対して、ティアは遊戯ではなく命懸けの戦いを選んだ。

ウルは当初、いつものようにからかうように答えた。

「へぇ、僕を倒すの? 
面白い。
勝ったら僕のものになってくれるなら、受けてあげる。」

だがティアは引かなかった。
表情は静かで、声は冷たく明確だった。

「いいでしょう。
条件は一つ。
私が勝つときは、貴方が死ぬと宣言します。」

その瞬間、会場の空気が凍った。
神に「死」を宣告することの重さを、誰もが直感したからだ。
ティアの眼は揺らがなかった。
彼女の中にあるのは、恐れを越えた覚悟だけだった。

ウルは短く笑った。
だがその笑みは以前の、それほど軽やかではない。

「ますます面白い。
いいよ。
僕を殺してみなよ。」

この空間は神域の演習場だ。
「ここでは絶対に死なない」という常識は、神ウルが作り上げた摂理は無くなり、ティアも間違えば死んでしまう。
天罰、摂理、そして神々の意志。
そうしたものが交錯する中で、ティアはなおも前へ出る。

彼女は深く息を吸い、握りしめた拳をゆっくり開いた。
眼差しは静かに凛としている。

「行くわよ、神ウル。
私は、あなたを超える!」

ウルは微笑みを消し、いつもの戯れを脱いだ。
神としての力をゆっくりと顕現させると、その場全体に重力のように存在感が広がった。
ティアもまた、神炎の残り香を胸に、己の力を整えた。
彼女の背後には、これまで自分を愛してくれた人達の想いだけが支えとなっていた。

ふたりの間――時が凍りつく一瞬が訪れる。
ティアは短く頷き、ウルは淡い笑みを残して身を翻した。
闘技場に、ふたりだけの戦いの音だけが響き始める。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。 世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。 王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。 その犯人は5体の神獣。 そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。 一件落着かと思えたこの事件。 だが、そんな中、叫ぶ男が1人。 「ふざけんなぁぁぁあ!!」 王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。 神獣達のママ(男)であった……。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

異世界でカイゼン

soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)  この物語は、よくある「異世界転生」ものです。  ただ ・転生時にチート能力はもらえません ・魔物退治用アイテムももらえません ・そもそも魔物退治はしません ・農業もしません ・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます  そこで主人公はなにをするのか。  改善手法を使った問題解決です。  主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。  そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。 「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」 ということになります。

建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF
ファンタジー
死後に転生した魔界にて突然無敵の身体を与えられた地野改(ちの かい)。 その身体は物理的な攻撃に対して金属音がするほど硬く、マグマや高電圧、零度以下の寒さ、猛毒や強酸、腐食ガスにも耐え得る超高スペックの肉体。   その上で与えられたのはイメージ次第で命以外は何でも作り出せるという『創成魔法』という特異な能力。しかし、『イメージ次第で作り出せる』というのが落とし穴! それはイメージ出来なければ作れないのと同義! 生前職人や技師というわけでもなかった彼女には機械など生活を豊かにするものは作ることができない! 中々に持て余す能力だったが、周囲の協力を得つつその力を上手く使って魔界を住み心地良くしようと画策する。    近隣の村を拠点と定め、光の無かった世界に疑似太陽を作り、川を作り、生活基盤を整え、家を建て、魔道具による害獣対策や収穫方法を考案。 更には他国の手を借りて、水道を整備し、銀行・通貨制度を作り、発電施設を作り、村は町へと徐々に発展、ついには大国に国として認められることに!?   何でもできるけど何度も失敗する。 成り行きで居ついてしまったケルベロス、レッドドラゴン、クラーケン、歩く大根もどき、元・書物の自動人形らと共に送る失敗と試行錯誤だらけの魔界ライフ。 様々な物を創り出しては実験実験また実験。果たして住み心地は改善できるのか?   誤字脱字衍字の指摘、矛盾の指摘大歓迎です! 見つけたらご報告ください!   2024/05/02改題しました。旧タイトル 『魔界の天使 (?)アルトラの国造り奮闘譚』 2023/07/22改題しました。旧々タイトル 『天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉体と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~』 この作品は以下の投稿サイトにも掲載しています。  『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4480hc/)』  『ノベルバ(https://novelba.com/indies/works/929419)』  『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/64078938/329538044)』  『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093076594693131)』

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...