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第十四章 セイントスター世界学園へ
第百二十話 友の占いとティアの決意
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ティアの予想は、やはり的中していた。
神ウル──いや、ユサリスを名乗るその神の“アプローチ”は、日に日に激しさを増していった。
「神ウル。
……約束は、忘れたんですか?」
放課後の廊下で、ティアは静かにそう告げた。
次の瞬間、ユサリスが壁際に彼女を押し当てる。
両手を掴み、逃がさぬように壁に固定するその力は、まるで空間そのものを支配するかのようだった。
「約束?
ああ、そんなのもあったね。」
彼は軽く笑いながら、低く呟く。
「これが終わったら、ちゃんと守るよ。」
「……何が“終わったら”です?」
「今日は――君に、キスがしたくなった。
それが終わったら、約束を思い出すさ。」
ティアは、ゆっくりと息を吐いた。
『やっぱり、そうなるわけね。』
どんな理屈も、神の気まぐれには通じない。そう痛感していた。
神ウルは、以前と同じように彼女の両手を頭上で押さえ込み、顎をそっと持ち上げた。
「無理やりしたら、怒りますよ。」
「じゃあ、ちゃんと許可を取るよ。
……キスしてもいいかい?」
「それは“許可を取った”とは言いません。」
「そうなのか?
まあ、その辺は後で考えよう。」
彼の顔がゆっくりと近づく――。
だが、その瞬間。
ティアの右手から、黒と蒼の入り混じる炎が迸った。
神ウルの手を包み込むように燃え上がる“神炎”。
「うわっ!? あっつい!!」
ウルは慌てて彼女から飛び退いた。
ティアは冷ややかな瞳で立ち上がり、静かに言った。
「無理やりは嫌だと、言いましたよね。
私、暗黒神エレボスの加護を受けているんです。
この神炎は――神すら燃やせるそうですよ。」
「エレボスめ……! 余計な玩具を渡して!」
神ウルは手を振って炎を振り払い、眉をひそめる。
ティアは表情を崩さず、その場を離れた。
「次は“約束”を守ってくださいね、神ウル。」
この日は、辛うじて退けることに成功した。
けれど、ティアは分かっていた。
神が“遊び”をやめるはずがないことを。
その夜。
静かな部屋に、ドアを叩く音が響く。
「ティア。
少し、話せる?」
訪れたのはクラスメイトのアリーシアだった。
ティアは少し驚きながらも微笑む。
「アリーシア……どうしたの?」
二人は向かい合ってソファーに座った。
アリーシアは優しくティアを見つめる。
「ティア。
何か悩んでるでしょ?
顔に出てるわ。」
「……察して来てくれたの?」
「そう。
私はね、占いが得意なの。
困っている人の道を照らすのが、私の仕事だったの。」
「占い?」
ティアの瞳がわずかに輝いた。
「そういうの、好きよ。」
アリーシアは微笑むと、手を宙にかざした。
淡い光が揺らめき、透明なカードが十数枚、テーブルの上に現れる。
「これは“水晶宮(すいしょうきゅう)のカード”。
私の世界では、運命の流れを読むために使っていたの。」
「綺麗ね……」
「さあ、ティア。
好きなカードを一枚選んで。」
ティアは迷いながらも、左から三枚目を取ってアリーシアに渡した。
アリーシアはカードをゆっくりと捲り、静かに息を呑む。
「――なるほどね。」
「何が出たの?」
「“時読みの旅人と禁を冒した司祭”。
あなたの運命は、常に分岐と選択の狭間にある。
どの道を選んでも、決して安穏ではない……そう示してる。」
ティアは静かに目を伏せた。
「アリーシア。
……少し、話してもいい?」
「ええ、もちろん。」
「アリーシアも気づいてるかもしれないけど――
ユサリスは、遊戯神ウルなの。」
「やっぱり……。」
アリーシアは小さく息を吐いた。
「何かおかしいとは思っていたけれど、まさか神そのものだなんて。」
「私は、彼に――“運命”を握られかけてる。
このままだと、神の力に屈するかもしれない。」
「……そう。」
アリーシアは再びカードを並べ、そっと言った。
「じゃあ、もう一度引いてみて。
今度は“あなたの道”を占うわ。」
ティアは中央のカードを選ぶ。
アリーシアがそれを捲ると、穏やかな光が溢れた。
「――“羅針盤を持つ愚者”。」
アリーシアは微笑んだ。
「ねえ、ティア。
このカードは、“迷いながらも自分の道を行く者”を示すの。
私、今はっきり分かったわ。
私がこの神域であなたと出会ったのは、このカードを引かせるためだったのよ。」
ティアは静かに頷く。
「……私、今までずっとそうだった。
どんな困難も、誰にも頼らず、自分の力でねじ伏せてきた。
神であっても、それが私の生き方。」
アリーシアは柔らかく微笑む。
「ええ、それでいいと思う。
どんな結末になっても、あなたが選んだ道なら、きっと間違いじゃない。
あなたはあなたのやり方を貫いて良いのよ。」
ティアの瞳に、決意の炎が宿る。
その光は、どんな神威よりも強く、まっすぐに燃えていた。
アリーシアは立ち上がり、静かに微笑んで手を差し伸べた。
「――行きなさい、ティア。
あなたの羅針盤は、もう迷っていない。」
ティアはその手を握り、静かに答える。
「ありがとう、アリーシア。
もう迷わない。」
夜の静寂の中、アリーシアが去ったあとも――
ティアの胸には、確かに新しい決意が灯っていた。
翌朝──薄曇りの空が低く垂れこめる中、ティアは闘技場の中心に立っていた。
空気は張りつめ、いつもの冗談めいたざわめきは消え失せていた。
対するは、ユサリス──遊戯神ウル。普段の軽やかな仕草は影を潜め、神としての威厳がその外貌を支配している。
だが彼の瞳にはまだ、どこか冷たい遊び心が残っていた。
風がふわりと二人の間を吹き抜ける。
数時間前、朝の教室でティアは言い放ったのだ。
「神ウル。
貴方に決闘を申し込みます。
ユサリスとしてのあなたではなく、遊戯神ウルそのものとして。私は、貴方を倒す。」
その言葉は皮肉でもない、挑発でもない。
揺るぎない決意の表明だった。
遊戯を好む神に対して、ティアは遊戯ではなく命懸けの戦いを選んだ。
ウルは当初、いつものようにからかうように答えた。
「へぇ、僕を倒すの?
面白い。
勝ったら僕のものになってくれるなら、受けてあげる。」
だがティアは引かなかった。
表情は静かで、声は冷たく明確だった。
「いいでしょう。
条件は一つ。
私が勝つときは、貴方が死ぬと宣言します。」
その瞬間、会場の空気が凍った。
神に「死」を宣告することの重さを、誰もが直感したからだ。
ティアの眼は揺らがなかった。
彼女の中にあるのは、恐れを越えた覚悟だけだった。
ウルは短く笑った。
だがその笑みは以前の、それほど軽やかではない。
「ますます面白い。
いいよ。
僕を殺してみなよ。」
この空間は神域の演習場だ。
「ここでは絶対に死なない」という常識は、神ウルが作り上げた摂理は無くなり、ティアも間違えば死んでしまう。
天罰、摂理、そして神々の意志。
そうしたものが交錯する中で、ティアはなおも前へ出る。
彼女は深く息を吸い、握りしめた拳をゆっくり開いた。
眼差しは静かに凛としている。
「行くわよ、神ウル。
私は、あなたを超える!」
ウルは微笑みを消し、いつもの戯れを脱いだ。
神としての力をゆっくりと顕現させると、その場全体に重力のように存在感が広がった。
ティアもまた、神炎の残り香を胸に、己の力を整えた。
彼女の背後には、これまで自分を愛してくれた人達の想いだけが支えとなっていた。
ふたりの間――時が凍りつく一瞬が訪れる。
ティアは短く頷き、ウルは淡い笑みを残して身を翻した。
闘技場に、ふたりだけの戦いの音だけが響き始める。
神ウル──いや、ユサリスを名乗るその神の“アプローチ”は、日に日に激しさを増していった。
「神ウル。
……約束は、忘れたんですか?」
放課後の廊下で、ティアは静かにそう告げた。
次の瞬間、ユサリスが壁際に彼女を押し当てる。
両手を掴み、逃がさぬように壁に固定するその力は、まるで空間そのものを支配するかのようだった。
「約束?
ああ、そんなのもあったね。」
彼は軽く笑いながら、低く呟く。
「これが終わったら、ちゃんと守るよ。」
「……何が“終わったら”です?」
「今日は――君に、キスがしたくなった。
それが終わったら、約束を思い出すさ。」
ティアは、ゆっくりと息を吐いた。
『やっぱり、そうなるわけね。』
どんな理屈も、神の気まぐれには通じない。そう痛感していた。
神ウルは、以前と同じように彼女の両手を頭上で押さえ込み、顎をそっと持ち上げた。
「無理やりしたら、怒りますよ。」
「じゃあ、ちゃんと許可を取るよ。
……キスしてもいいかい?」
「それは“許可を取った”とは言いません。」
「そうなのか?
まあ、その辺は後で考えよう。」
彼の顔がゆっくりと近づく――。
だが、その瞬間。
ティアの右手から、黒と蒼の入り混じる炎が迸った。
神ウルの手を包み込むように燃え上がる“神炎”。
「うわっ!? あっつい!!」
ウルは慌てて彼女から飛び退いた。
ティアは冷ややかな瞳で立ち上がり、静かに言った。
「無理やりは嫌だと、言いましたよね。
私、暗黒神エレボスの加護を受けているんです。
この神炎は――神すら燃やせるそうですよ。」
「エレボスめ……! 余計な玩具を渡して!」
神ウルは手を振って炎を振り払い、眉をひそめる。
ティアは表情を崩さず、その場を離れた。
「次は“約束”を守ってくださいね、神ウル。」
この日は、辛うじて退けることに成功した。
けれど、ティアは分かっていた。
神が“遊び”をやめるはずがないことを。
その夜。
静かな部屋に、ドアを叩く音が響く。
「ティア。
少し、話せる?」
訪れたのはクラスメイトのアリーシアだった。
ティアは少し驚きながらも微笑む。
「アリーシア……どうしたの?」
二人は向かい合ってソファーに座った。
アリーシアは優しくティアを見つめる。
「ティア。
何か悩んでるでしょ?
顔に出てるわ。」
「……察して来てくれたの?」
「そう。
私はね、占いが得意なの。
困っている人の道を照らすのが、私の仕事だったの。」
「占い?」
ティアの瞳がわずかに輝いた。
「そういうの、好きよ。」
アリーシアは微笑むと、手を宙にかざした。
淡い光が揺らめき、透明なカードが十数枚、テーブルの上に現れる。
「これは“水晶宮(すいしょうきゅう)のカード”。
私の世界では、運命の流れを読むために使っていたの。」
「綺麗ね……」
「さあ、ティア。
好きなカードを一枚選んで。」
ティアは迷いながらも、左から三枚目を取ってアリーシアに渡した。
アリーシアはカードをゆっくりと捲り、静かに息を呑む。
「――なるほどね。」
「何が出たの?」
「“時読みの旅人と禁を冒した司祭”。
あなたの運命は、常に分岐と選択の狭間にある。
どの道を選んでも、決して安穏ではない……そう示してる。」
ティアは静かに目を伏せた。
「アリーシア。
……少し、話してもいい?」
「ええ、もちろん。」
「アリーシアも気づいてるかもしれないけど――
ユサリスは、遊戯神ウルなの。」
「やっぱり……。」
アリーシアは小さく息を吐いた。
「何かおかしいとは思っていたけれど、まさか神そのものだなんて。」
「私は、彼に――“運命”を握られかけてる。
このままだと、神の力に屈するかもしれない。」
「……そう。」
アリーシアは再びカードを並べ、そっと言った。
「じゃあ、もう一度引いてみて。
今度は“あなたの道”を占うわ。」
ティアは中央のカードを選ぶ。
アリーシアがそれを捲ると、穏やかな光が溢れた。
「――“羅針盤を持つ愚者”。」
アリーシアは微笑んだ。
「ねえ、ティア。
このカードは、“迷いながらも自分の道を行く者”を示すの。
私、今はっきり分かったわ。
私がこの神域であなたと出会ったのは、このカードを引かせるためだったのよ。」
ティアは静かに頷く。
「……私、今までずっとそうだった。
どんな困難も、誰にも頼らず、自分の力でねじ伏せてきた。
神であっても、それが私の生き方。」
アリーシアは柔らかく微笑む。
「ええ、それでいいと思う。
どんな結末になっても、あなたが選んだ道なら、きっと間違いじゃない。
あなたはあなたのやり方を貫いて良いのよ。」
ティアの瞳に、決意の炎が宿る。
その光は、どんな神威よりも強く、まっすぐに燃えていた。
アリーシアは立ち上がり、静かに微笑んで手を差し伸べた。
「――行きなさい、ティア。
あなたの羅針盤は、もう迷っていない。」
ティアはその手を握り、静かに答える。
「ありがとう、アリーシア。
もう迷わない。」
夜の静寂の中、アリーシアが去ったあとも――
ティアの胸には、確かに新しい決意が灯っていた。
翌朝──薄曇りの空が低く垂れこめる中、ティアは闘技場の中心に立っていた。
空気は張りつめ、いつもの冗談めいたざわめきは消え失せていた。
対するは、ユサリス──遊戯神ウル。普段の軽やかな仕草は影を潜め、神としての威厳がその外貌を支配している。
だが彼の瞳にはまだ、どこか冷たい遊び心が残っていた。
風がふわりと二人の間を吹き抜ける。
数時間前、朝の教室でティアは言い放ったのだ。
「神ウル。
貴方に決闘を申し込みます。
ユサリスとしてのあなたではなく、遊戯神ウルそのものとして。私は、貴方を倒す。」
その言葉は皮肉でもない、挑発でもない。
揺るぎない決意の表明だった。
遊戯を好む神に対して、ティアは遊戯ではなく命懸けの戦いを選んだ。
ウルは当初、いつものようにからかうように答えた。
「へぇ、僕を倒すの?
面白い。
勝ったら僕のものになってくれるなら、受けてあげる。」
だがティアは引かなかった。
表情は静かで、声は冷たく明確だった。
「いいでしょう。
条件は一つ。
私が勝つときは、貴方が死ぬと宣言します。」
その瞬間、会場の空気が凍った。
神に「死」を宣告することの重さを、誰もが直感したからだ。
ティアの眼は揺らがなかった。
彼女の中にあるのは、恐れを越えた覚悟だけだった。
ウルは短く笑った。
だがその笑みは以前の、それほど軽やかではない。
「ますます面白い。
いいよ。
僕を殺してみなよ。」
この空間は神域の演習場だ。
「ここでは絶対に死なない」という常識は、神ウルが作り上げた摂理は無くなり、ティアも間違えば死んでしまう。
天罰、摂理、そして神々の意志。
そうしたものが交錯する中で、ティアはなおも前へ出る。
彼女は深く息を吸い、握りしめた拳をゆっくり開いた。
眼差しは静かに凛としている。
「行くわよ、神ウル。
私は、あなたを超える!」
ウルは微笑みを消し、いつもの戯れを脱いだ。
神としての力をゆっくりと顕現させると、その場全体に重力のように存在感が広がった。
ティアもまた、神炎の残り香を胸に、己の力を整えた。
彼女の背後には、これまで自分を愛してくれた人達の想いだけが支えとなっていた。
ふたりの間――時が凍りつく一瞬が訪れる。
ティアは短く頷き、ウルは淡い笑みを残して身を翻した。
闘技場に、ふたりだけの戦いの音だけが響き始める。
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