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第十四章 セイントスター世界学園へ
第百二十一話 神との激戦
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闘技場には、凍てつくような緊張が満ちていた。
ただ二つの存在だけがこの世界に在るかのようだった。
――ティアと、遊戯神ウル。
神と人。
その差は絶望的。
ティアは理解していた。
神に対して勝つなど、理論上あり得ない。
けれど、それでも退けない。
心のどこかで、死を受け入れる覚悟すら出来ていた。
「……行きます!」
ティアは叫び、神魔の剣《レーヴァテイン》を呼び出す。
刃に纏うのは、暗黒神エレボスより授かった唯一の希望――神をも焼く《神炎》。
一瞬で間合いを詰め、蒼炎を閃かせた。
だが。
「こっちだよ。」
ウルの声が背後から響く。
神速を超えた動き。
まるで彼女の思考そのものを読み取るかのように、神は軽やかに現れては消える。
剣を振り抜くたび、空を切る音だけが虚しく響いた。
「くっ……!」
「まだまだだね、ユスティティア。」
ウルの表情は余裕そのもの。
ティアの全ての攻撃が神威によって無効化され、魔法もスキルも通じない。
ただの人間が神に挑む。
そんな無謀が、誰に笑えるだろう。
それでもティアは剣を振るい続けた。
読まれることを承知で、何度も、何度も。
そして、移動先を予測して放った渾身の一撃。
確かに当たった。
そう思った瞬間。
バキィッ!
ウルは片手でレーヴァテインを掴み、そのまま折り砕いた。
神炎が指先を焼いたが、それも瞬く間に再生する。
「少し熱いけど、綺麗だね。」
その言葉と同時に、神撃が放たれた。
無数の光が空を裂き、ティアの身体を撃ち抜く。
「ぐっ……!」
地面に叩きつけられ、息が漏れる。
神の攻撃は理を無視していた。
防御も回避も意味をなさない。
全身が悲鳴を上げ、骨が軋み、視界が歪む。
「痛い……こんな……の……」
膝をつくティアに、ウルは静かに歩み寄る。
「もうやめよう。
そんな醜い姿、君らしくない。
僕の好きなユスティティアは、もっと綺麗で可愛いんだ。」
「うるさい……」
ティアは震える手で神炎を放つが、それも簡単に避けられる。
地面に倒れ込み、視界がぼやけていく。
そして心が折れた。
『もう……いい。
疲れた……。
どうでもいい……』
絶望が胸を満たすその時。
ティア! ティア! ティア!
懐かしい声が、心の奥底から響いた。
『……ロディアス?』
『ああ、俺だ。
光の神ベレヌスが少しだけ力を貸してくれた。
だからこうして……お前に会いに来たんだ。』
声は、暖かくて、懐かしくて。
『ティア、お前は負けない。
俺も負けない。
立て!
こんなところでお前は終わるやつじゃない!
足がなければ、手で這いつくばれ、手が無いなら口で剣を取れ!
まだやれる!』
ティアの目から、一筋の涙がこぼれた。
「……ふふ、死んだくせに偉そうね。」
だがその瞳には、再び強い光が宿る。
「あなたに言われなくても、まだ死なないわ。
リリアの成長も見届けたい。
メリルとお茶もしてないし、アーサーも待ってる。
クラスのみんなだって……!
――こんなところで、死ねるわけない!!!」
その瞬間、ティアの身体がまばゆい蒼白の光に包まれた。
空間が震え、神域が軋む。
「な、なんだ……この力は!」
ウルが目を背けるほどの神聖な輝き。
ティアの背から、蒼炎の翼が広がった。
その炎は神炎を超え、純粋なる創造の光と破壊の闇を兼ね備えていた。
「……軽い。
まるで、空気と一体になったみたい。」
彼女は静かに微笑んだ。
「ユスティティア……なのか?」
「いいえ。」
ティアの声は、神のそれに近かった。
「私は《蒼炎の神・ティア》。
触れるものすべてを光へと還す炎を守護する者。
神ウル。
私はあなたを超えた。
神を超える、神の深淵領域へと至ったのよ。」
「……ははは!
最高だよ、ユスティティア!」
ウルが無数の神撃を放つ。だが、全てがティアを避けて空を裂く。
攻撃が「彼女を恐れ」、当たることを拒んでいる。
「深淵蒼炎。」
ティアの掌から生まれた蒼白の炎が、意思を持つかのように神ウルを追い詰める。
どれほど転移しても、その先に炎は現れる。
そして――ついに、神を包み込んだ。
「ぎゃああああああっ!!!」
神の叫びが天を裂く。
蒼炎が燃え尽きる頃、そこに立っていたはずの神の姿は光の粒となり、風に溶けた。
「……これで、しばらく会えないね。寂しいよ……」
最後に残った声は、微かな笑みを含んで消えた。
ティアはふっと力を抜き、静かに地上へと落ちた。
そのまま、意識を失う直前――。
「お見事です、ティアさん。」
いつの間にか、ダクトスがそこに立っていた。
「神ウルは……まあ、千年は眠ったままでしょう。
迷惑ばかりかけるから、こうなるんですよ。」
「うぅ……体が、痛い……」
「当然です。
神域に到達して限界を超えたのですから。まだ神としては未完成ですね。
あと千年ほど生きれば、完全な神となれるでしょう。」
「……そんなに……」
「それと、神ウルが消えたので、この神域も崩壊します。
あなたも、他の英雄たちも、それぞれの世界へ還るでしょう。
私は暫くバカンスでも楽しみます。
そうそう、神ウルがあなたに授けようとしていた加護をプレゼントしますね。
それではまた、お会いするのを楽しみにしてますよ。」
ティアは意識を失った。
ティアは、どれほど眠っていたのかも分からないほど、深い眠りの底からゆっくりと意識を取り戻した。
まぶたを開けると、そこは薄暗く、岩肌の壁に囲まれた洞窟の最深部――
それでも、彼女の身を包むベッドはまるで聖域のように柔らかく、心地よい温もりを保っていた。
「うぅ……頭がくらくらする……。ここは……?」
かすれた声が洞窟に響いた瞬間、静寂の中から聞き慣れた声が返ってくる。
「主様。お目覚めですか?」
「……セリア?」
薄闇の中に現れたのは、銀の髪を揺らす副翼の従者セリア。
その姿を見た瞬間、ティアの胸に安堵が広がった。
自分の姿を見ると、セイントスター学園の制服を身につけている。
「私は……眠っていたの?」
「はい。
およそ――四百年ほど、深い眠りについておられました。
私がここにお連れいたしました。」
「四百年……そんなに……?」
ティアは軽く息を呑んだ。
まるで夢の続きを見ていたかのようだ。
「リリアちゃんは?
彼女は……無事なの?」
「ええ。
リリアお嬢様はとうに目を覚まし、今も健在です。
ただ、あまりに主様を探し回るので――少々、うるさかったのでございます。
ですので、この場所のことは内緒にしております。」
「ふふ……あなたらしいわね、セリア。
でも……リリアちゃんが生きているなら、それだけで十分。」
ティアはゆっくりと身体を起こし、深呼吸をひとつ。
その動作ひとつひとつに、四百年という時の重みを感じた。
「外に出られますか?」
「ええ。
世界がどれほど変わったのか……確かめないとね。」
セリアの指先が淡く光を帯び、転移の魔法陣が床に広がる。
瞬間、二人の姿は洞窟の最深部から掻き消えるようにして地上へと現れた。
そこに広がっていたのは、ティアの記憶とはまるで異なる世界だった。
遥か彼方まで伸びる鉄とガラスの高層建築群。
空を切り裂くように浮遊する機械の影。
街全体を囲むのは、魔力と科学が融合した巨大な城壁。
「……これは、私の知っている世界じゃないわね。」
「はい、主様。
この時代の世界は“アルマ”と呼ばれる未知の生命体による侵略を受けております。」
「アルマ?」
「はい。あれをご覧ください。」
セリアが指差した先、瓦礫の中をうごめく“何か”がいた。
それは金属のような装甲に覆われながらも、内側には脈動する生体の光を宿している。
機械とも生物ともつかない、異様な存在だった。
「……気持ち悪いわね。」
「はい。
生命反応を感知すると、見境なく襲いかかってまいります。」
「そう。
なら――始末するしかないわね。」
ティアはため息をひとつつき、右手を軽く掲げた。
掌に淡い蒼炎が灯り、それが瞬く間に球状へと膨れ上がる。
「蒼炎――《神焔(しんえん)》。」
放たれた瞬間、空気が震え、青白い閃光が辺り一面を覆った。
アルマは悲鳴を上げる間もなく爆散し、粒子となって風に溶けていく。
「これで一体……。
ずいぶん厄介な時代に目覚めたものね。」
「主様好みの、楽しい世界でございますよ。」
ティアは小さく笑い、空に広がる人工の光を見上げた。
「リリアちゃんはどこに?」
「はい。
あの都市で冒険者として活動しております。」
「そう。
なら――行きましょう。」
セリアが軽く頷くと、再び魔法陣が二人を包み込む。
次の瞬間、蒼い光が弾け、ティアとセリアの姿は未来の都市の上空へと消えていった。
――四百年の眠りから蘇った“蒼炎の神ティア”。
新たな時代で、再び彼女の物語が動き出そうとしていた。
ただ二つの存在だけがこの世界に在るかのようだった。
――ティアと、遊戯神ウル。
神と人。
その差は絶望的。
ティアは理解していた。
神に対して勝つなど、理論上あり得ない。
けれど、それでも退けない。
心のどこかで、死を受け入れる覚悟すら出来ていた。
「……行きます!」
ティアは叫び、神魔の剣《レーヴァテイン》を呼び出す。
刃に纏うのは、暗黒神エレボスより授かった唯一の希望――神をも焼く《神炎》。
一瞬で間合いを詰め、蒼炎を閃かせた。
だが。
「こっちだよ。」
ウルの声が背後から響く。
神速を超えた動き。
まるで彼女の思考そのものを読み取るかのように、神は軽やかに現れては消える。
剣を振り抜くたび、空を切る音だけが虚しく響いた。
「くっ……!」
「まだまだだね、ユスティティア。」
ウルの表情は余裕そのもの。
ティアの全ての攻撃が神威によって無効化され、魔法もスキルも通じない。
ただの人間が神に挑む。
そんな無謀が、誰に笑えるだろう。
それでもティアは剣を振るい続けた。
読まれることを承知で、何度も、何度も。
そして、移動先を予測して放った渾身の一撃。
確かに当たった。
そう思った瞬間。
バキィッ!
ウルは片手でレーヴァテインを掴み、そのまま折り砕いた。
神炎が指先を焼いたが、それも瞬く間に再生する。
「少し熱いけど、綺麗だね。」
その言葉と同時に、神撃が放たれた。
無数の光が空を裂き、ティアの身体を撃ち抜く。
「ぐっ……!」
地面に叩きつけられ、息が漏れる。
神の攻撃は理を無視していた。
防御も回避も意味をなさない。
全身が悲鳴を上げ、骨が軋み、視界が歪む。
「痛い……こんな……の……」
膝をつくティアに、ウルは静かに歩み寄る。
「もうやめよう。
そんな醜い姿、君らしくない。
僕の好きなユスティティアは、もっと綺麗で可愛いんだ。」
「うるさい……」
ティアは震える手で神炎を放つが、それも簡単に避けられる。
地面に倒れ込み、視界がぼやけていく。
そして心が折れた。
『もう……いい。
疲れた……。
どうでもいい……』
絶望が胸を満たすその時。
ティア! ティア! ティア!
懐かしい声が、心の奥底から響いた。
『……ロディアス?』
『ああ、俺だ。
光の神ベレヌスが少しだけ力を貸してくれた。
だからこうして……お前に会いに来たんだ。』
声は、暖かくて、懐かしくて。
『ティア、お前は負けない。
俺も負けない。
立て!
こんなところでお前は終わるやつじゃない!
足がなければ、手で這いつくばれ、手が無いなら口で剣を取れ!
まだやれる!』
ティアの目から、一筋の涙がこぼれた。
「……ふふ、死んだくせに偉そうね。」
だがその瞳には、再び強い光が宿る。
「あなたに言われなくても、まだ死なないわ。
リリアの成長も見届けたい。
メリルとお茶もしてないし、アーサーも待ってる。
クラスのみんなだって……!
――こんなところで、死ねるわけない!!!」
その瞬間、ティアの身体がまばゆい蒼白の光に包まれた。
空間が震え、神域が軋む。
「な、なんだ……この力は!」
ウルが目を背けるほどの神聖な輝き。
ティアの背から、蒼炎の翼が広がった。
その炎は神炎を超え、純粋なる創造の光と破壊の闇を兼ね備えていた。
「……軽い。
まるで、空気と一体になったみたい。」
彼女は静かに微笑んだ。
「ユスティティア……なのか?」
「いいえ。」
ティアの声は、神のそれに近かった。
「私は《蒼炎の神・ティア》。
触れるものすべてを光へと還す炎を守護する者。
神ウル。
私はあなたを超えた。
神を超える、神の深淵領域へと至ったのよ。」
「……ははは!
最高だよ、ユスティティア!」
ウルが無数の神撃を放つ。だが、全てがティアを避けて空を裂く。
攻撃が「彼女を恐れ」、当たることを拒んでいる。
「深淵蒼炎。」
ティアの掌から生まれた蒼白の炎が、意思を持つかのように神ウルを追い詰める。
どれほど転移しても、その先に炎は現れる。
そして――ついに、神を包み込んだ。
「ぎゃああああああっ!!!」
神の叫びが天を裂く。
蒼炎が燃え尽きる頃、そこに立っていたはずの神の姿は光の粒となり、風に溶けた。
「……これで、しばらく会えないね。寂しいよ……」
最後に残った声は、微かな笑みを含んで消えた。
ティアはふっと力を抜き、静かに地上へと落ちた。
そのまま、意識を失う直前――。
「お見事です、ティアさん。」
いつの間にか、ダクトスがそこに立っていた。
「神ウルは……まあ、千年は眠ったままでしょう。
迷惑ばかりかけるから、こうなるんですよ。」
「うぅ……体が、痛い……」
「当然です。
神域に到達して限界を超えたのですから。まだ神としては未完成ですね。
あと千年ほど生きれば、完全な神となれるでしょう。」
「……そんなに……」
「それと、神ウルが消えたので、この神域も崩壊します。
あなたも、他の英雄たちも、それぞれの世界へ還るでしょう。
私は暫くバカンスでも楽しみます。
そうそう、神ウルがあなたに授けようとしていた加護をプレゼントしますね。
それではまた、お会いするのを楽しみにしてますよ。」
ティアは意識を失った。
ティアは、どれほど眠っていたのかも分からないほど、深い眠りの底からゆっくりと意識を取り戻した。
まぶたを開けると、そこは薄暗く、岩肌の壁に囲まれた洞窟の最深部――
それでも、彼女の身を包むベッドはまるで聖域のように柔らかく、心地よい温もりを保っていた。
「うぅ……頭がくらくらする……。ここは……?」
かすれた声が洞窟に響いた瞬間、静寂の中から聞き慣れた声が返ってくる。
「主様。お目覚めですか?」
「……セリア?」
薄闇の中に現れたのは、銀の髪を揺らす副翼の従者セリア。
その姿を見た瞬間、ティアの胸に安堵が広がった。
自分の姿を見ると、セイントスター学園の制服を身につけている。
「私は……眠っていたの?」
「はい。
およそ――四百年ほど、深い眠りについておられました。
私がここにお連れいたしました。」
「四百年……そんなに……?」
ティアは軽く息を呑んだ。
まるで夢の続きを見ていたかのようだ。
「リリアちゃんは?
彼女は……無事なの?」
「ええ。
リリアお嬢様はとうに目を覚まし、今も健在です。
ただ、あまりに主様を探し回るので――少々、うるさかったのでございます。
ですので、この場所のことは内緒にしております。」
「ふふ……あなたらしいわね、セリア。
でも……リリアちゃんが生きているなら、それだけで十分。」
ティアはゆっくりと身体を起こし、深呼吸をひとつ。
その動作ひとつひとつに、四百年という時の重みを感じた。
「外に出られますか?」
「ええ。
世界がどれほど変わったのか……確かめないとね。」
セリアの指先が淡く光を帯び、転移の魔法陣が床に広がる。
瞬間、二人の姿は洞窟の最深部から掻き消えるようにして地上へと現れた。
そこに広がっていたのは、ティアの記憶とはまるで異なる世界だった。
遥か彼方まで伸びる鉄とガラスの高層建築群。
空を切り裂くように浮遊する機械の影。
街全体を囲むのは、魔力と科学が融合した巨大な城壁。
「……これは、私の知っている世界じゃないわね。」
「はい、主様。
この時代の世界は“アルマ”と呼ばれる未知の生命体による侵略を受けております。」
「アルマ?」
「はい。あれをご覧ください。」
セリアが指差した先、瓦礫の中をうごめく“何か”がいた。
それは金属のような装甲に覆われながらも、内側には脈動する生体の光を宿している。
機械とも生物ともつかない、異様な存在だった。
「……気持ち悪いわね。」
「はい。
生命反応を感知すると、見境なく襲いかかってまいります。」
「そう。
なら――始末するしかないわね。」
ティアはため息をひとつつき、右手を軽く掲げた。
掌に淡い蒼炎が灯り、それが瞬く間に球状へと膨れ上がる。
「蒼炎――《神焔(しんえん)》。」
放たれた瞬間、空気が震え、青白い閃光が辺り一面を覆った。
アルマは悲鳴を上げる間もなく爆散し、粒子となって風に溶けていく。
「これで一体……。
ずいぶん厄介な時代に目覚めたものね。」
「主様好みの、楽しい世界でございますよ。」
ティアは小さく笑い、空に広がる人工の光を見上げた。
「リリアちゃんはどこに?」
「はい。
あの都市で冒険者として活動しております。」
「そう。
なら――行きましょう。」
セリアが軽く頷くと、再び魔法陣が二人を包み込む。
次の瞬間、蒼い光が弾け、ティアとセリアの姿は未来の都市の上空へと消えていった。
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