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第十五章 400年後の未来
第百二十三話 学園生活が始まる
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「この学園では、世界中から集められた達人級の講師によって、魔法・剣術・幻術・気術などを学ぶことができます。
卒業後はアルマと戦う冒険者、政府直属の魔法局、国を護る騎士団など――数多の未来が皆さんを待っています。
そして、蒼炎神ティアの福音が、皆に幸せをもたらすでしょう。
信仰心を忘れず、日々邁進するように。」
講堂の中央で語るダクトスの声が、荘厳に響き渡った。
彼の言葉と同時に、聖なる光が天井を照らし、まるで神の祝福を受けているかのようだった。
その中に、ティアも新入生の列に混ざって静かに立っていた。
『なるほど……ダクトス。
ちゃんと信仰心を植え付けてるのね。
さすが“使徒”ってところかしら。』
内心で苦笑しつつも、ティアはどこか満足げだった。
式典は厳かでありながらも、不思議と温かい空気に包まれていた。
ティアは久しぶりに、“ただの一人の少女”としてその空気を味わっていた。
講堂を出ると、新入生たちがざわめきながら掲示板へ群がっている。
クラス分けの発表だ。
「ティアさん!」
元気な声が響く。振り向くと、朝出会ったミミィが駆け寄ってきた。
「あら、ミミィさん。
クラス分け、もう見た?」
「今から見るとこ!」
2人で掲示板を覗き込む。
「あっ!
ティアさん、私たち同じ三組だよ!」
「本当ね。
嬉しいわ。」
クラス分けは、式典前に行われた魔力測定と筆記試験の結果によって決まる。
ティアは魔力測定の際、意図的に“平均的な数値”を出して目立たないようにしていた。
一・二組は天才揃い。
三組から下は平均的な魔力量と成績で構成される。
「同じクラスだし、これからも仲良くしてね!」
「もちろん。私のことは“ティア”って呼んで。」
「じゃあ私も“ミミィ”でお願い!」
「ええ、よろしくね。」
すぐに意気投合した2人は、笑いながら教室へ向かった。
「ねぇ、ティアは魔法得意なの?」
「ええ、人並みにはね。」
「いいなぁ~。
私、魔法苦手でさ。
ちゃんと勉強しないとヤバいの!」
ミミィはショートカットの元気な少女。
どこかメリルを思い出させる明るさがあった。
三組の教室に入ると、既に何人かの生徒たちが談笑していた。
「ちょっと!
そこの2人もこっち来なよ!」
声をかけてきたのは、金髪に光を反射させるような美しい少女。
「私は聖霊族のセレノア。
あなたは?」
「私は人間族のティアよ。」
「わぁ……すっごい美人!
それに“蒼炎神ティア”と同じ名前なんて、縁起が良いわ!」
「そうかしら?
でもセレノアもとても綺麗よ。」
ティアが微笑むと、周囲の女子たちも一斉に頬を染める。
(この学園……女子のレベルが高すぎるわね。)
ティアは苦笑を浮かべた。
「私はエルフ族。
魔法が得意なの。」
「私も魔法は得意な方よ。」
「え~!
いいなぁ!」
和やかな空気の中、突然男子の声が割り込んだ。
「おーい!
俺たちも混ぜてくれよ!」
「はいはい、今女子会中!
男子は後で!」
「うぐっ……!」
男子たちは撃沈し、しょんぼりと席へ戻った。
すると――教室のドアが開き、黒髪の女性教師が入ってきた。
「はい、皆さん着席!
席に名前が貼ってあるから確認してね。」
彼女は明るくも凛とした声で言った。
「私はこのクラスの担任、人間族のアスハです。
よろしくお願いします。
今日は顔合わせ程度で下校となります。
明日から“魔法技術”の授業と実技訓練があります。
魔法書と実技用の制服を忘れずに持ってくるように!」
軽い挨拶のあと、初日の授業は終了した。
放課後、ティアは職員室へ向かった。
「学園生活で必要なものはセリアに渡しておいて。」
「わかりました。」
ダクトスは軽く頷いた。
その足でティアは、リリアの住むマンションへ向かった。
高層の20階に住んでいるらしく、エレベーターのドアが開くと――
「主様、お帰りなさいませ。」
セリアが笑顔で出迎えた。
「リリアちゃんは?」
「まだ帰っておりません。
私はダクトス殿から学園用品を受け取ってまいります。
主様はごゆっくり。」
「わかったわ。」
ティアはソファーに腰を下ろし、大きなテレビを眺めた。
立派な家具が並び、部屋の中には温かな生活の気配があった。
やがてセリアが戻ってくる。
「主様、荷物を受け取ってまいりました。」
「ありがとう。
それと……お願いがあるの。」
「何なりと。」
「私も一人暮らしを始めたいの。
部屋を探してもらえる?」
「承知しました。
心当たりがございますのでお任せください。」
セリアは一礼し、ふっと姿を消した。
夕方。
玄関のドアが開き、明るい声が響いた。
「ママ!」
ティアが振り向くと、そこにはリリアが立っていた。
少し大人びた顔。だが笑顔は昔のままだった。
「久しぶりね、リリアちゃん。
元気そうで何より。」
「ママも元気そう!
でも……なんでセイントスター学園の制服なの!?」
ティアは得意げにポーズを取った。
「似合うでしょ?
学園に通うのよ!
ちょっとワクワクしてるの。」
「もう、ママったら!」
2人はソファーに座り、止まらないおしゃべりを続けた。
ティアが眠りについていた400年のこと。
リリアが冒険者として活動していた日々。
語り合ううちに、夜が更けていく。
部屋の明かりがやさしく2人を照らす中――
再会した母と娘の時間は、途切れることなく続いていった。
夜も更けた頃。
静かなリリアの部屋に、セリアが音もなく戻ってきた。
「主様。お住まいのご用意が整いそうです。
少し郊外にはなりますが、何とかなりそうです。」
「ほんと?
ありがとう、セリア。
助かるわ。」
「いえ。
主様のお世話をするのが、私の存在意義ですから。」
セリアは当たり前のように言うが、ティアにはどうしても少し照れくさい。
「準備が整い次第ご入居いただけます。
それまではリリアお嬢様のお部屋をお使いください。」
「わかったわ。
……それにしても、何でも抜かりないのね、あなた。」
「当然です。」
淡々と答えるセリア。そこに一切の迷いはない。
「それと、街での生活設定を決めておきました。」
「せ、設定?」
「はい。主様は大富豪の冒険者、ビント・クラウスの一人娘。
遺産を相続され、この街に移り住んだことになっています。」
「……また壮大な設定を。」
「必要です。
社会的身分の裏付けがないと、怪しまれますから。」
「で、そのビントさんって実在するの?」
「ええ。
実は旧知の仲です。
先日亡くなりまして。」
翌日、学園生活が本格的に始まった。
ティアは「平凡な少女」として魔法の授業を受けている。
「ファイヤーボール!」
教室のあちこちで小さな爆音が上がる。
ティアは人並みに火の玉を出して、ふんわりと笑った。
(ふふ、何百年ぶりかしら……初歩魔法なんて。)
魔法理論の講義もなかなか面白く、彼女は思いのほか楽しんでいた。
一方で、クラスでは委員長を決める話し合いも進んでいたが、
ティアは平凡を演じるため、終始おとなしく微笑んでいた。
数日後。
リリアの部屋にセリアが戻ってきた。
「主様。
お住まいの準備が整いました。」
「もう?
早いわね。」
「当然です。
ご案内いたします。」
郊外の住宅街を抜け、セリアの案内で到着したのは
とても“少し郊外”とは思えない、立派な邸宅だった。
「ねぇ、セリア……。
これ、“ちょっと大きい”どころじゃないわよ?」
「大富豪ビント・クラウスの邸宅を譲り受けました。
神が住まうには、これくらいは“最低限”です。」
「最低限て……神界の基準高すぎじゃない?」
玄関をくぐると、三人のメイドが整列していた。
「主様の身の回りの世話をするメイドを雇いました。」
「雇ったの!?」
ティアは少し狼狽した。
「リシェルとルシェルがいなくなって、少し寂しかったのよね。
……でも私、自分のことは自分で…。」
「いえ、必要ありません。
身の回りはメイドに任せてください。」
「そ、そう……(完全に主導権ないわね)」
ティアは苦笑いでごまかした。
その3時間前。
屋敷のキッチンではセリアがメイド3人を前にしていた。
「これから私がお仕えしている主様をお連れします。
主様のことは“お嬢様”とお呼びください。
失礼のないように。」
「お、お嬢様はどんな方でしょうか?」
一人のメイドが恐る恐る尋ねた。
「聡明で、美しく、お優しいお方です。
……ただし、主様の目に入る場所に埃ひとつあってはなりません。」
メイドたちは青ざめた。
「チェックは私が行います。
気を抜いたら即・解雇です。」
「ひ、ひぇぇ……!」
三人の顔は石のように固まった。
そして今――。
ティアが笑顔で3人に歩み寄った。
「今日からよろしくお願いします。
お名前、聞かせてもらえる?」
「き、綺麗……」
3人は一瞬で魂を抜かれたように見惚れていた。
「主様がお尋ねだ!」
セリアの鋭い声に3人がビクリと立ち直る。
「あっ、も、申し訳ありません!
私はユリと申します!」
「マ、マーガレットです!」
「ミ、ミクと申します!」
「よろしくね。
私はティアよ。」
ティアは微笑んで見せた。
「……セリア、怖がらせすぎじゃない?」
「彼女たちは働いてお給料を頂く立場です。
緊張感は必要です。」
「いや、緊張感通り越して生命の危機みたいな顔してたけど!?」
ティアのツッコミもどこ吹く風で、セリアは淡々と続ける。
「主様。こちらのモバイルをお持ちください。
街での支払いや通信、ネットもこれ一台で行えます。
10万ギドル入れてありますので、お使いください。」
「わぁ、ありがとう。
……え、10万!?」
「なお、遊びに使うお金はアルバイトでご自身で稼いでください。」
「えぇぇ!? 神でもバイトするの!?」
「当然です。
屋敷の維持費、メイドの給料、食費、雑費、学費は私が負担します。
遊興費はご自身で稼いでください。」
セリアは完璧な表情のまま微動だにしない。
「主様のお部屋はこちらです。」
二階の奥にある扉を開けると、広くて優雅な部屋が広がった。
「わぁ……すごい。
ありがとう、セリア。」
「喜んでいただけて光栄です。」
ティアがソファに腰を下ろすと、セリアは一礼して退出した。
数分後、キッチンでは。
「ちょっとよろしいですか?」
メイド三人の背筋が一斉に伸びた。
「主様のお部屋。
テレビ台に埃、窓に汚れがありました。
次に見つけたら解雇です。
給金は高く、衣食住も保証しています。
“完璧”を目指してください。
以上です。」
「ひ、ひぇっ!
き、気をつけます!」
セリアが去った後、メイドたちは小声で囁き合った。
「……この屋敷、神様より怖いのセリアさんよね?」
「しっ! 聞こえるわよ!」
「でも、あのティア様……ほんと綺麗だった……」
「確かに……あれは働く気力出るわ……(震えながら)」
ティアの平和な新生活は――
セリアの完璧主義と共に、波乱の幕開けを迎えていた。
卒業後はアルマと戦う冒険者、政府直属の魔法局、国を護る騎士団など――数多の未来が皆さんを待っています。
そして、蒼炎神ティアの福音が、皆に幸せをもたらすでしょう。
信仰心を忘れず、日々邁進するように。」
講堂の中央で語るダクトスの声が、荘厳に響き渡った。
彼の言葉と同時に、聖なる光が天井を照らし、まるで神の祝福を受けているかのようだった。
その中に、ティアも新入生の列に混ざって静かに立っていた。
『なるほど……ダクトス。
ちゃんと信仰心を植え付けてるのね。
さすが“使徒”ってところかしら。』
内心で苦笑しつつも、ティアはどこか満足げだった。
式典は厳かでありながらも、不思議と温かい空気に包まれていた。
ティアは久しぶりに、“ただの一人の少女”としてその空気を味わっていた。
講堂を出ると、新入生たちがざわめきながら掲示板へ群がっている。
クラス分けの発表だ。
「ティアさん!」
元気な声が響く。振り向くと、朝出会ったミミィが駆け寄ってきた。
「あら、ミミィさん。
クラス分け、もう見た?」
「今から見るとこ!」
2人で掲示板を覗き込む。
「あっ!
ティアさん、私たち同じ三組だよ!」
「本当ね。
嬉しいわ。」
クラス分けは、式典前に行われた魔力測定と筆記試験の結果によって決まる。
ティアは魔力測定の際、意図的に“平均的な数値”を出して目立たないようにしていた。
一・二組は天才揃い。
三組から下は平均的な魔力量と成績で構成される。
「同じクラスだし、これからも仲良くしてね!」
「もちろん。私のことは“ティア”って呼んで。」
「じゃあ私も“ミミィ”でお願い!」
「ええ、よろしくね。」
すぐに意気投合した2人は、笑いながら教室へ向かった。
「ねぇ、ティアは魔法得意なの?」
「ええ、人並みにはね。」
「いいなぁ~。
私、魔法苦手でさ。
ちゃんと勉強しないとヤバいの!」
ミミィはショートカットの元気な少女。
どこかメリルを思い出させる明るさがあった。
三組の教室に入ると、既に何人かの生徒たちが談笑していた。
「ちょっと!
そこの2人もこっち来なよ!」
声をかけてきたのは、金髪に光を反射させるような美しい少女。
「私は聖霊族のセレノア。
あなたは?」
「私は人間族のティアよ。」
「わぁ……すっごい美人!
それに“蒼炎神ティア”と同じ名前なんて、縁起が良いわ!」
「そうかしら?
でもセレノアもとても綺麗よ。」
ティアが微笑むと、周囲の女子たちも一斉に頬を染める。
(この学園……女子のレベルが高すぎるわね。)
ティアは苦笑を浮かべた。
「私はエルフ族。
魔法が得意なの。」
「私も魔法は得意な方よ。」
「え~!
いいなぁ!」
和やかな空気の中、突然男子の声が割り込んだ。
「おーい!
俺たちも混ぜてくれよ!」
「はいはい、今女子会中!
男子は後で!」
「うぐっ……!」
男子たちは撃沈し、しょんぼりと席へ戻った。
すると――教室のドアが開き、黒髪の女性教師が入ってきた。
「はい、皆さん着席!
席に名前が貼ってあるから確認してね。」
彼女は明るくも凛とした声で言った。
「私はこのクラスの担任、人間族のアスハです。
よろしくお願いします。
今日は顔合わせ程度で下校となります。
明日から“魔法技術”の授業と実技訓練があります。
魔法書と実技用の制服を忘れずに持ってくるように!」
軽い挨拶のあと、初日の授業は終了した。
放課後、ティアは職員室へ向かった。
「学園生活で必要なものはセリアに渡しておいて。」
「わかりました。」
ダクトスは軽く頷いた。
その足でティアは、リリアの住むマンションへ向かった。
高層の20階に住んでいるらしく、エレベーターのドアが開くと――
「主様、お帰りなさいませ。」
セリアが笑顔で出迎えた。
「リリアちゃんは?」
「まだ帰っておりません。
私はダクトス殿から学園用品を受け取ってまいります。
主様はごゆっくり。」
「わかったわ。」
ティアはソファーに腰を下ろし、大きなテレビを眺めた。
立派な家具が並び、部屋の中には温かな生活の気配があった。
やがてセリアが戻ってくる。
「主様、荷物を受け取ってまいりました。」
「ありがとう。
それと……お願いがあるの。」
「何なりと。」
「私も一人暮らしを始めたいの。
部屋を探してもらえる?」
「承知しました。
心当たりがございますのでお任せください。」
セリアは一礼し、ふっと姿を消した。
夕方。
玄関のドアが開き、明るい声が響いた。
「ママ!」
ティアが振り向くと、そこにはリリアが立っていた。
少し大人びた顔。だが笑顔は昔のままだった。
「久しぶりね、リリアちゃん。
元気そうで何より。」
「ママも元気そう!
でも……なんでセイントスター学園の制服なの!?」
ティアは得意げにポーズを取った。
「似合うでしょ?
学園に通うのよ!
ちょっとワクワクしてるの。」
「もう、ママったら!」
2人はソファーに座り、止まらないおしゃべりを続けた。
ティアが眠りについていた400年のこと。
リリアが冒険者として活動していた日々。
語り合ううちに、夜が更けていく。
部屋の明かりがやさしく2人を照らす中――
再会した母と娘の時間は、途切れることなく続いていった。
夜も更けた頃。
静かなリリアの部屋に、セリアが音もなく戻ってきた。
「主様。お住まいのご用意が整いそうです。
少し郊外にはなりますが、何とかなりそうです。」
「ほんと?
ありがとう、セリア。
助かるわ。」
「いえ。
主様のお世話をするのが、私の存在意義ですから。」
セリアは当たり前のように言うが、ティアにはどうしても少し照れくさい。
「準備が整い次第ご入居いただけます。
それまではリリアお嬢様のお部屋をお使いください。」
「わかったわ。
……それにしても、何でも抜かりないのね、あなた。」
「当然です。」
淡々と答えるセリア。そこに一切の迷いはない。
「それと、街での生活設定を決めておきました。」
「せ、設定?」
「はい。主様は大富豪の冒険者、ビント・クラウスの一人娘。
遺産を相続され、この街に移り住んだことになっています。」
「……また壮大な設定を。」
「必要です。
社会的身分の裏付けがないと、怪しまれますから。」
「で、そのビントさんって実在するの?」
「ええ。
実は旧知の仲です。
先日亡くなりまして。」
翌日、学園生活が本格的に始まった。
ティアは「平凡な少女」として魔法の授業を受けている。
「ファイヤーボール!」
教室のあちこちで小さな爆音が上がる。
ティアは人並みに火の玉を出して、ふんわりと笑った。
(ふふ、何百年ぶりかしら……初歩魔法なんて。)
魔法理論の講義もなかなか面白く、彼女は思いのほか楽しんでいた。
一方で、クラスでは委員長を決める話し合いも進んでいたが、
ティアは平凡を演じるため、終始おとなしく微笑んでいた。
数日後。
リリアの部屋にセリアが戻ってきた。
「主様。
お住まいの準備が整いました。」
「もう?
早いわね。」
「当然です。
ご案内いたします。」
郊外の住宅街を抜け、セリアの案内で到着したのは
とても“少し郊外”とは思えない、立派な邸宅だった。
「ねぇ、セリア……。
これ、“ちょっと大きい”どころじゃないわよ?」
「大富豪ビント・クラウスの邸宅を譲り受けました。
神が住まうには、これくらいは“最低限”です。」
「最低限て……神界の基準高すぎじゃない?」
玄関をくぐると、三人のメイドが整列していた。
「主様の身の回りの世話をするメイドを雇いました。」
「雇ったの!?」
ティアは少し狼狽した。
「リシェルとルシェルがいなくなって、少し寂しかったのよね。
……でも私、自分のことは自分で…。」
「いえ、必要ありません。
身の回りはメイドに任せてください。」
「そ、そう……(完全に主導権ないわね)」
ティアは苦笑いでごまかした。
その3時間前。
屋敷のキッチンではセリアがメイド3人を前にしていた。
「これから私がお仕えしている主様をお連れします。
主様のことは“お嬢様”とお呼びください。
失礼のないように。」
「お、お嬢様はどんな方でしょうか?」
一人のメイドが恐る恐る尋ねた。
「聡明で、美しく、お優しいお方です。
……ただし、主様の目に入る場所に埃ひとつあってはなりません。」
メイドたちは青ざめた。
「チェックは私が行います。
気を抜いたら即・解雇です。」
「ひ、ひぇぇ……!」
三人の顔は石のように固まった。
そして今――。
ティアが笑顔で3人に歩み寄った。
「今日からよろしくお願いします。
お名前、聞かせてもらえる?」
「き、綺麗……」
3人は一瞬で魂を抜かれたように見惚れていた。
「主様がお尋ねだ!」
セリアの鋭い声に3人がビクリと立ち直る。
「あっ、も、申し訳ありません!
私はユリと申します!」
「マ、マーガレットです!」
「ミ、ミクと申します!」
「よろしくね。
私はティアよ。」
ティアは微笑んで見せた。
「……セリア、怖がらせすぎじゃない?」
「彼女たちは働いてお給料を頂く立場です。
緊張感は必要です。」
「いや、緊張感通り越して生命の危機みたいな顔してたけど!?」
ティアのツッコミもどこ吹く風で、セリアは淡々と続ける。
「主様。こちらのモバイルをお持ちください。
街での支払いや通信、ネットもこれ一台で行えます。
10万ギドル入れてありますので、お使いください。」
「わぁ、ありがとう。
……え、10万!?」
「なお、遊びに使うお金はアルバイトでご自身で稼いでください。」
「えぇぇ!? 神でもバイトするの!?」
「当然です。
屋敷の維持費、メイドの給料、食費、雑費、学費は私が負担します。
遊興費はご自身で稼いでください。」
セリアは完璧な表情のまま微動だにしない。
「主様のお部屋はこちらです。」
二階の奥にある扉を開けると、広くて優雅な部屋が広がった。
「わぁ……すごい。
ありがとう、セリア。」
「喜んでいただけて光栄です。」
ティアがソファに腰を下ろすと、セリアは一礼して退出した。
数分後、キッチンでは。
「ちょっとよろしいですか?」
メイド三人の背筋が一斉に伸びた。
「主様のお部屋。
テレビ台に埃、窓に汚れがありました。
次に見つけたら解雇です。
給金は高く、衣食住も保証しています。
“完璧”を目指してください。
以上です。」
「ひ、ひぇっ!
き、気をつけます!」
セリアが去った後、メイドたちは小声で囁き合った。
「……この屋敷、神様より怖いのセリアさんよね?」
「しっ! 聞こえるわよ!」
「でも、あのティア様……ほんと綺麗だった……」
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