毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十五章 400年後の未来

第百二十四話 神ティアはアルバイトをする

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その日の放課後、ティアは街を散策していた。
理由は──セリアに「お小遣いくらいは自分で稼ぎなさい」と言われたからだ。

モバイルで探して見つけたのは、全国展開しているチェーン店《マクリルバーガー》。
時給も良くて、何より制服が可愛い。
「お小遣いくらい、私だって稼げるんだから!」
そう自分に言い聞かせながら、ティアは街角を軽やかに歩いた。

まずは偵察。
店に入ると、カウンター越しに明るい声が響く。

「いらっしゃいませ!」

「あ、ダブルバーガーください。」

支払いはモバイルを端末にかざすだけ。
文明の進化は本当に便利だと、ティアは感心した。

一口食べると──
「……美味しい! 転生する前に食べた味と、そんなに変わってないのね。」
思わず頬がゆるむ。
そして、ふとスタッフの制服に目がとまる。

赤と黒を基調にしたキャップ。
白いブラウスに赤黒のベスト。
タイトめのミニスカートにショートブーツ。
「……これ、可愛い!」
気づけばティアのテンションはすっかり上がっていた。


数日後。
面接の日がやってきた。

ティアはモバイルに履歴書を携帯して、緊張の面持ちで店舗に入る。
「あのう、今日、アルバイトの面接で来ました。」

「はい、少々お待ちくださいね。」
対応してくれた女性スタッフが奥へ消え、数分後に男性スタッフが現れた。

「こちらへどうぞ。」

案内されたのは小さな応接室。
ティアはテーブルを挟んで座ると、面接が始まった。

「では、モバイルから履歴書を受け取りますね……。
えっと、セイントスター学園のティア・クラウスさんですか。」

「はい。」

「優秀なんですね。
あそこの生徒さんがアルバイトに来るのは珍しいですよ。
お小遣い稼ぎですか?」

「ええ。
自分の交友費は自分で稼ぐように言われたので。」

「なるほど。
アルバイト経験は?」

「ありません。
初めてです。」

「そうですか。
三ヶ月は試用期間になりますが、主にカウンターとホール業務です。
大丈夫ですか?」

「はい、頑張ります!」

「うん、いい返事ですね。
正直、あなたのように明るくて可愛らしい方がカウンターに立ってくれたら、お客様の印象もぐっと良くなりますよ。」

ティアは少し頬を染めて「ありがとうございます」と微笑んだ。
面接は無事に終わり、結果は後日通知されることになった。


「お帰りなさいませ、お嬢様。」
玄関で迎えたのは、執事兼メイドのマーガレットだった。

「ただいま~。
あ~、面接疲れた~。」

「本当にアルバイトをなさるのですか?」
マーガレットは苦笑しながらティアの荷物を受け取る。

「そうなのよ。
セリアがお小遣いくらいは自分で稼げって言うの。」

「真面目な方ですものね。」

「うん、真面目すぎるのよ~。
でも、学費とか全部出してくれてるから文句も言えないし。」

「確かセリアさん、冒険者をなさっているとか。」

「そう。
かなり優秀な冒険者よ。
この国では冒険者以上に稼げる仕事はないらしいけど……私はやりたくないわ。」

「お嬢様には危険すぎますもの。
セリアさんも反対なさるでしょうね。」

「ははは、言いそう!」
ティアは笑いながら自室に戻り、制服を脱いで部屋着に着替えた。



「お嬢様、夕食は何時頃にお持ちしましょうか?」

「うーん、七時くらいでお願い。」

「かしこまりました。」

学園では宿題も出る。
モバイルから回答するスタイルで、定期的に提出すれば単位がもらえる仕組みだ。
ティアは机に向かい、問題を開いて黙々と入力していく。
こうしていると、かつて高校生だった頃を思い出す。

夕食を済ませた後は、部屋でテレビを見ながら過ごすのが日課。
最近は音楽番組をチェックして、街にある《ミュウオケ》で歌う曲を練習していた。

夜の屋敷。
ティアの部屋からは、どこか懐かしく、どこまでも澄んだ歌声が流れてくる。
それはまるで、天にいた頃の神の旋律のように。
メイドたちの心を、優しく癒していた。

学園生活にもすっかり慣れ、クラスの女子たちとも仲良くなってきたティア。
特に仲が良いのは、明るく元気なミミィと、ちょっとクールなアーシャの二人。

部活動は「魔法研究部」。
もちろんミミィもアーシャも一緒だ。
放課後は三人で街のミュウオケに行ったり、ショッピングしたり、カフェ巡りをしたり……気づけばモバイル残高があっという間にピンチになっていた。

「うそでしょ……10万ギドルが、もうこんなに減ってる……!?」
そんな経済危機(?)の中、ティアはマクリルバーガーのアルバイト面接に見事合格!
そして、いよいよ初出勤の日がやってきた。


更衣室で新品の制服に袖を通す。
赤と黒のベストに、白いブラウス。
黒のタイトスカートにショートブーツ。
鏡の前でくるりと一回転。

「やっぱり可愛い~!」
思わず自分にうっとりするティア。

そこに店長──マネージャーのクレスンが現れた。
「ティアさんですね。
今日からよろしくお願いします。
まずは接客の基本と、挨拶の練習から始めましょう。」

「はいっ!」
元気に返事をするものの、その日は実際の接客には立たず、メニューや作業の流れを覚える座学デーとなった。
あっという間に時間が過ぎ、初日は終了。

帰宅後、ティアはソファにばふっと倒れ込みながらため息。
「はぁ~、疲れた~……けど、ちょっと楽しかったかも。」

週3日のシフトも無事決まり、こうしてティアのアルバイト生活が始まった。


数日後、昼休みの教室。
三組の窓際の席で、ティア・ミミィ・アーシャの三人が弁当を広げていた。

「ねぇティア、聞いたんだけど……マクリルバーガーでバイトしてるって本当?」
ミミィがウインナーをつまみながら身を乗り出す。

「うん、本当よ。」

「なんでまた?」
アーシャが小首をかしげる。

「お小遣いを稼ぐため。
従者のセリアに“遊ぶお金は自分で稼げ”って言われちゃって。」

「へぇ~、従者にそんなこと言われるんだ。」
「厳しい~!」とミミィが笑う。

「私なんて親から小遣い貰ってるけど……バイトって楽しいの?」
興味津々のミミィにティアは少し得意げに言う。

「楽しいよ! 
制服も可愛いし、みんな優しいし!」

「いいなぁ~。
でも、親が絶対ダメって言うわ。」

「うちも。」
二人は顔を見合わせて同時にため息。

そんな他愛もないおしゃべりをしながら、昼休みは笑い声で包まれていた。


放課後。
ティアは制服を脱ぎ、マクリルバーガーの制服に着替えて店へ。
今日からついにカウンターデビュー!

「緊張する……変な汗が……」
顔がこわばっているティアに、先輩スタッフのアリサが優しく声をかけた。

「ティアさん、リラックス。
お客様も笑顔が見たいのよ。」

「は、はいっ!」
カウンターに立つと、目の前にはお客さんがずらり。
テンパりながらも「い、いらっしゃいませっ!」となんとか対応を続ける。

笑顔を作るのも、商品の名前を間違えないようにするのも一苦労。
それでも一生懸命に頑張り、初日は無事終了した。


更衣室で、ティアは椅子にどさっと座り込む。
「ふぁ~……つ、疲れたぁ……。」

「お疲れ様。初日どうだった?」
先輩のアリサが笑いながら声をかけてくる。

「もう、ずっと緊張してて……途中から自分の名前も忘れそうでした……。」
ティアの苦笑にアリサもつられて笑う。

「最初はみんなそうよ。
わからないことがあったら、私たちがフォローするから大丈夫。」

「ありがとうございますっ。
が、頑張りますっ!」

その夜。
帰宅したティアはベッドに倒れ込みながら、天井を見上げて微笑んだ。

「大変だったけど……私、ちゃんと頑張れたかも。」

そう呟くその声には、どこか誇らしげな響きがあった。
神だった頃には味わえなかった、ちょっと人間らしい疲労と、ほんのりとした充実感。

ティアの“現代アルバイト物語”は、こうして幕を開けたのだった。
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