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第十五章 400年後の未来
第百二十六話 神ティアは世界を救う為の神の仕事をする
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魔法競技大会での「光のショー」以来、ティアの名前はすっかり一年生の間で噂になっていた。
「一年三組に、めちゃくちゃ綺麗な子がいる!」
「魔法研究部のティアちゃんって、光の女神みたいだった!」
そんな噂が学園中を駆け抜け、ついにはティアの耳にも届く。
「……静かに、ひっそりと暮らしたいのに。」
ティアは部屋着のままベッドに転がり、ぐでんと天井を見上げていた。
手元のクッションをむぎゅっと抱きしめながら、ふてくされた声を漏らす。
「なんでこうなるのよ……。
目立つ気ゼロなのに。」
その時――
部屋の中央に光の魔法陣が浮かび上がり、セリアが転送されてきた。
「主様。」
「うわっ! セリア、ノックぐらいしてよ!」
「転移魔法にノック機能はございません。」
「そういう問題じゃないのよ……」
セリアは軽く頭を下げると、真剣な表情で告げた。
「少し気になる噂を耳にいたしました。
西方の都市で、人型アルマが出現。
街に甚大な被害を出しているとのことです。」
ティアは軽く片眉を上げた。
「それならもう把握してるわ。
あのアルマ……進化してるのよね。」
「進化、ですか?」
「そう。単なるアルマの延長じゃなく、“学習”と“適応”を始めている。
……つまり、人類にとって次の天敵になりかねない存在よ。」
セリアは感嘆の息を漏らす。
「さすがは神となられた主様。
すでに全てをお見通しなのですね。」
ティアは手をひらひらさせた。
「見通してるというより、“見えちゃう”の。
世界の異変は、自然と意識の中に流れ込んでくるのよ。」
「なるほど……。
では、どうなさいますか?
放置するのは危険かと。」
ティアはふっと笑みを浮かべる。
「決まってるじゃない。
――勇者を出現させるわ。」
セリアの瞳が輝いた。
「神の尖兵、“勇者”を……。
なるほど、それは名案です。
しかし……その候補は?」
ティアはクッションをぽんと膝に置き、にやりと微笑む。
「ふふ、昔ながらのやり方でいいのよ。」
そう言うと、ティアは手を掲げた。
眩い光が部屋を満たし――次の瞬間、彼女の手には一本の聖剣が現れていた。
「聖剣……!」
セリアが思わず跪く。
「これを使うのですね!」
「ええ。
この剣を封じる場所も、もう決めてあるわ。」
ティアは聖剣をセリアに手渡す。
「ここからは、神の使徒セリアの出番よ。」
数時間後――
西方のとある山奥。
ティアが400年の眠りについていた“神の洞窟”の最奥に、聖剣が突き立てられた。
石造りの台座には淡く蒼い光が走り、ティアの声が響く。
「勇者以外が抜けぬよう、概念を固定“選定の楔”を刻む。」
その瞬間、聖剣はまばゆい光を放ち、天井を照らした。
セリアは深く頭を垂れる。
「これで、選ばれし者のみが聖剣を抜けるのですね。」
「ええ。
あとは――勇者の種を蒔くだけ。」
ティアが目を閉じると、身体が柔らかな光に包まれる。
その光が大地を這い、空へと舞い上がり、世界全体へと広がっていった。
「これで、勇者の素質を持つ者に覚醒の兆しが現れるわ。」
「……神の奇跡ですね。」
ティアはふっと微笑んだ。
「奇跡というより、“ちょっとした仕事”よ。
……さて、最後の仕上げね。
セリア、世界への告知をお願い。」
「御意。」
ティアがセリアに手を翳すと、セリアの身体が光に包まれた。
そして。
世界中の空に、巨大なセリアの幻影が現れる。
都市の上空、砂漠、森、海。
あらゆる場所で、人々は息を呑んだ。
「私は、蒼炎の神ティアの使徒、セリア。
これより神の言葉を伝える。
数ヶ月以内に、勇者が現れるだろう。
それはアルマによる危機が迫っているためだ。
勇者に覚醒した者は、神の祠にて聖剣を抜き、世界を救う使命を負う。」
セリアの言葉は、世界中のすべての人々の心に響き渡った。
光が消え、静けさが戻る。
「これで準備完了ね。」
ティアは肩をすくめる。
「主様……。
やはり神とは偉大な存在です。」
「そんなことないわよ。」
ティアはソファにごろんと寝転がった。
「だって私、別に支配したいわけじゃないもの。
勇者が世界を救ってくれるなら、私は……」
くるりと寝返りを打って、クッションを抱きしめる。
「のんびり暮らして、お昼寝して、お菓子食べて……。
それで十分幸せなの。」
セリアは苦笑した。
「相変わらず、神らしからぬお方です。」
「いいのよ。
“平穏を愛する神”って肩書き、悪くないでしょ?」
ティアの小さな笑い声が、夜の静寂に溶けていった。
数週間後。
ティアは珍しく真剣な顔でセリアを呼び寄せた。
「セリア。
……勇者が出現したわ。」
「おお!
ついに……!
意外と早かったですね。
それで、どこの誰です?」
「東の都市アマンデル。
十五歳の男子ミンデ・クラウシス。」
「十五歳……。
またずいぶん若いですね。」
「まぁ、“若き魂”ってやつよ。
使徒として、あなたの出番ね。」
「御意。
すぐに会ってまいります!」
セリアは転送の光に包まれ、アマンデルの街へと降り立った。
……しかし、そこで彼女を迎えたのは、まったく“勇者感”のない高校生だった。
通学カバンを肩に下げ、欠伸を噛み殺しながら校門を出てくるひとりの少年。
彼の体から、ほのかに金の光が滲んでいる。
(あの頼りなさそうな子が……?
勇者、ですって……?)
セリアは軽くため息をつきつつ、歩み寄った。
「ミンデ・クラウシス、ですね?」
「え?
……あの、誰ですか?」
校門前がざわつく。
“美人すぎる謎の銀髪美女”が声をかけたのだ。
当然、通りすがりの生徒達も興味津々である。
「私は蒼炎の神ティアの使徒、セリア。
あなたは勇者として覚醒しました。」
「……え、うそでしょ。
ドッキリですか?
カメラどこです?」
「冗談ではありません。
あなたは神に選ばれし者。
世界を救う宿命を負っています。」
「ちょ、ちょっと待ってください。
俺、今日これから部活あるんですけど!」
「そんな暇はないわ!」
有無を言わせず、セリアはミンデの手を掴み、転送陣を展開した。
「うわっ!?
ちょ、なにこれぇぇぇぇっ!!」
光が弾けたかと思うと――
次の瞬間、二人はティアの祠の奥に立っていた。
ミンデは腰を抜かし、地面に尻もちをつく。
「我が主ティアよ。
勇者をお連れしました。」
「セリア、よくやったわ。」
聖剣の背後に、神々しい光が集まり、眩い光の神が現れる。
彼女の姿を見て、ミンデは口をパクパクさせた。
「も、もしかして……本当に、蒼炎の神ティア様……?」
「ええ。
ようこそ、勇者ミンデ。
あなたには、世界を救う使命があります。」
「いや、いやいや!
無理無理無理!
俺ただの高校生ですって!
剣も握ったことないし!」
ティアは微笑みながらも、額に小さく青筋を浮かべた。
「だーいじょうぶ。
勇者になれば誰でも強いのよ。
……ねぇ、セリア?」
「はい。
だいたい強くなります。」
「だいたいって何!?」
ミンデのツッコミが反射的に出る。
「ほら、怖がらずに聖剣を抜きなさい。」
「えぇ……、抜けなかったらどうするんですか。」
「抜けたら勇者、抜けなかったら……まぁ、帰れないわね。」
「ひぃっ!」
震える手でミンデは柄を握り、ぐっと力を込めた。
――すぽん。あっけなく抜けた。
「あ、抜けた。」
ティアもセリアも一瞬、沈黙。
「……なんか、もっと劇的な感じを想像してたんだけど。」
「ですよね。」
三人の間に流れる、微妙な空気。
ティアは頬を押さえ、小さくため息をついた。
「……ま、まぁいいわ。
勇者、誕生……ということで。」
「う、うん……。
なんか、俺、世界救う感じしないけど……。」
「気のせいよ。
がんばってね、勇者ミンデ。」
こうして、世界の命運を握る勇者が――
最も頼りなさげな形で、静かに誕生したのであった。
「一年三組に、めちゃくちゃ綺麗な子がいる!」
「魔法研究部のティアちゃんって、光の女神みたいだった!」
そんな噂が学園中を駆け抜け、ついにはティアの耳にも届く。
「……静かに、ひっそりと暮らしたいのに。」
ティアは部屋着のままベッドに転がり、ぐでんと天井を見上げていた。
手元のクッションをむぎゅっと抱きしめながら、ふてくされた声を漏らす。
「なんでこうなるのよ……。
目立つ気ゼロなのに。」
その時――
部屋の中央に光の魔法陣が浮かび上がり、セリアが転送されてきた。
「主様。」
「うわっ! セリア、ノックぐらいしてよ!」
「転移魔法にノック機能はございません。」
「そういう問題じゃないのよ……」
セリアは軽く頭を下げると、真剣な表情で告げた。
「少し気になる噂を耳にいたしました。
西方の都市で、人型アルマが出現。
街に甚大な被害を出しているとのことです。」
ティアは軽く片眉を上げた。
「それならもう把握してるわ。
あのアルマ……進化してるのよね。」
「進化、ですか?」
「そう。単なるアルマの延長じゃなく、“学習”と“適応”を始めている。
……つまり、人類にとって次の天敵になりかねない存在よ。」
セリアは感嘆の息を漏らす。
「さすがは神となられた主様。
すでに全てをお見通しなのですね。」
ティアは手をひらひらさせた。
「見通してるというより、“見えちゃう”の。
世界の異変は、自然と意識の中に流れ込んでくるのよ。」
「なるほど……。
では、どうなさいますか?
放置するのは危険かと。」
ティアはふっと笑みを浮かべる。
「決まってるじゃない。
――勇者を出現させるわ。」
セリアの瞳が輝いた。
「神の尖兵、“勇者”を……。
なるほど、それは名案です。
しかし……その候補は?」
ティアはクッションをぽんと膝に置き、にやりと微笑む。
「ふふ、昔ながらのやり方でいいのよ。」
そう言うと、ティアは手を掲げた。
眩い光が部屋を満たし――次の瞬間、彼女の手には一本の聖剣が現れていた。
「聖剣……!」
セリアが思わず跪く。
「これを使うのですね!」
「ええ。
この剣を封じる場所も、もう決めてあるわ。」
ティアは聖剣をセリアに手渡す。
「ここからは、神の使徒セリアの出番よ。」
数時間後――
西方のとある山奥。
ティアが400年の眠りについていた“神の洞窟”の最奥に、聖剣が突き立てられた。
石造りの台座には淡く蒼い光が走り、ティアの声が響く。
「勇者以外が抜けぬよう、概念を固定“選定の楔”を刻む。」
その瞬間、聖剣はまばゆい光を放ち、天井を照らした。
セリアは深く頭を垂れる。
「これで、選ばれし者のみが聖剣を抜けるのですね。」
「ええ。
あとは――勇者の種を蒔くだけ。」
ティアが目を閉じると、身体が柔らかな光に包まれる。
その光が大地を這い、空へと舞い上がり、世界全体へと広がっていった。
「これで、勇者の素質を持つ者に覚醒の兆しが現れるわ。」
「……神の奇跡ですね。」
ティアはふっと微笑んだ。
「奇跡というより、“ちょっとした仕事”よ。
……さて、最後の仕上げね。
セリア、世界への告知をお願い。」
「御意。」
ティアがセリアに手を翳すと、セリアの身体が光に包まれた。
そして。
世界中の空に、巨大なセリアの幻影が現れる。
都市の上空、砂漠、森、海。
あらゆる場所で、人々は息を呑んだ。
「私は、蒼炎の神ティアの使徒、セリア。
これより神の言葉を伝える。
数ヶ月以内に、勇者が現れるだろう。
それはアルマによる危機が迫っているためだ。
勇者に覚醒した者は、神の祠にて聖剣を抜き、世界を救う使命を負う。」
セリアの言葉は、世界中のすべての人々の心に響き渡った。
光が消え、静けさが戻る。
「これで準備完了ね。」
ティアは肩をすくめる。
「主様……。
やはり神とは偉大な存在です。」
「そんなことないわよ。」
ティアはソファにごろんと寝転がった。
「だって私、別に支配したいわけじゃないもの。
勇者が世界を救ってくれるなら、私は……」
くるりと寝返りを打って、クッションを抱きしめる。
「のんびり暮らして、お昼寝して、お菓子食べて……。
それで十分幸せなの。」
セリアは苦笑した。
「相変わらず、神らしからぬお方です。」
「いいのよ。
“平穏を愛する神”って肩書き、悪くないでしょ?」
ティアの小さな笑い声が、夜の静寂に溶けていった。
数週間後。
ティアは珍しく真剣な顔でセリアを呼び寄せた。
「セリア。
……勇者が出現したわ。」
「おお!
ついに……!
意外と早かったですね。
それで、どこの誰です?」
「東の都市アマンデル。
十五歳の男子ミンデ・クラウシス。」
「十五歳……。
またずいぶん若いですね。」
「まぁ、“若き魂”ってやつよ。
使徒として、あなたの出番ね。」
「御意。
すぐに会ってまいります!」
セリアは転送の光に包まれ、アマンデルの街へと降り立った。
……しかし、そこで彼女を迎えたのは、まったく“勇者感”のない高校生だった。
通学カバンを肩に下げ、欠伸を噛み殺しながら校門を出てくるひとりの少年。
彼の体から、ほのかに金の光が滲んでいる。
(あの頼りなさそうな子が……?
勇者、ですって……?)
セリアは軽くため息をつきつつ、歩み寄った。
「ミンデ・クラウシス、ですね?」
「え?
……あの、誰ですか?」
校門前がざわつく。
“美人すぎる謎の銀髪美女”が声をかけたのだ。
当然、通りすがりの生徒達も興味津々である。
「私は蒼炎の神ティアの使徒、セリア。
あなたは勇者として覚醒しました。」
「……え、うそでしょ。
ドッキリですか?
カメラどこです?」
「冗談ではありません。
あなたは神に選ばれし者。
世界を救う宿命を負っています。」
「ちょ、ちょっと待ってください。
俺、今日これから部活あるんですけど!」
「そんな暇はないわ!」
有無を言わせず、セリアはミンデの手を掴み、転送陣を展開した。
「うわっ!?
ちょ、なにこれぇぇぇぇっ!!」
光が弾けたかと思うと――
次の瞬間、二人はティアの祠の奥に立っていた。
ミンデは腰を抜かし、地面に尻もちをつく。
「我が主ティアよ。
勇者をお連れしました。」
「セリア、よくやったわ。」
聖剣の背後に、神々しい光が集まり、眩い光の神が現れる。
彼女の姿を見て、ミンデは口をパクパクさせた。
「も、もしかして……本当に、蒼炎の神ティア様……?」
「ええ。
ようこそ、勇者ミンデ。
あなたには、世界を救う使命があります。」
「いや、いやいや!
無理無理無理!
俺ただの高校生ですって!
剣も握ったことないし!」
ティアは微笑みながらも、額に小さく青筋を浮かべた。
「だーいじょうぶ。
勇者になれば誰でも強いのよ。
……ねぇ、セリア?」
「はい。
だいたい強くなります。」
「だいたいって何!?」
ミンデのツッコミが反射的に出る。
「ほら、怖がらずに聖剣を抜きなさい。」
「えぇ……、抜けなかったらどうするんですか。」
「抜けたら勇者、抜けなかったら……まぁ、帰れないわね。」
「ひぃっ!」
震える手でミンデは柄を握り、ぐっと力を込めた。
――すぽん。あっけなく抜けた。
「あ、抜けた。」
ティアもセリアも一瞬、沈黙。
「……なんか、もっと劇的な感じを想像してたんだけど。」
「ですよね。」
三人の間に流れる、微妙な空気。
ティアは頬を押さえ、小さくため息をついた。
「……ま、まぁいいわ。
勇者、誕生……ということで。」
「う、うん……。
なんか、俺、世界救う感じしないけど……。」
「気のせいよ。
がんばってね、勇者ミンデ。」
こうして、世界の命運を握る勇者が――
最も頼りなさげな形で、静かに誕生したのであった。
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