毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

文字の大きさ
133 / 162
第十六章 神ティアとアルマ

第百三十三話 世界の矛盾

しおりを挟む
街全体に、張り詰めた空気が流れていた。

警備隊は城門を閉ざし、城壁には弓兵と監視が整然と並ぶ。
街路は封鎖され、住民は屋内待機。
いつも賑やかな鉱山都市は、今はまるで息を潜めた獣の巣だ。

さらに、街の冒険者たちが招集され、その中に――リリアの姿もあった。

「勇者ミンデ。
我らも力を尽くそう。」

冒険者達の前に立つのは、若くして剣聖と呼ばれる男、グリフィル。
落ち着いた威風と自信に満ちた眼差し。まさに“強者”だった。

リリアは一歩離れてその様子を見つめる。

『……ママが言ってた通りね。
勇者って、まだまだこれからって感じ。
器はあるけど、力はまだ完成していないわ。』

肩の上で尻尾を揺らす小さなドラゴン――ミィーニャが鼻で笑った。

『へっ。こいつら、アルマの大群を見たら目ひんむいて逃げるんじゃねぇか?』

『ミィーニャ、そんな事言わないの。
念話でも態度は小さめにね。
でも……正直、少し心配なのは同意。』

周りには聞こえない。
だが、観察だけは抜かりない。


作戦がまとまると、ミンデたちは城壁上へ。
薄曇りの空の下、遠くの森がじわりと黒く波打つように蠢いていた。

「……来るな。」
ミンデは苦い息を飲み込む。


― 都市上空 ―

その頃。
ティアはセリアと共に、街の真上に転移していた。
地上からは見えない、神の領域の光に包まれた姿。

「……本当に私がアルマを全て倒していいのかしら?」
ティアの声は静かで、迷いがあった。
「人間は困難に直面したとき、自分の力で乗り越えてこそ強くなる。
もし私が何でも解決したら――」

「人は神に依存するようになるでしょう。」
セリアは淡々と続ける。

「ええ。
神に縋りたいのは自然なこと。
でも、それでは駄目なのよ。」

「主様は、よくお考えになっています。」
セリアは微かに微笑む。

「アルマを殲滅することは容易い。
けれど神となった今、解ける問題が増えた分……迷うことも増えたのでしょう。」

「そうね。」
ティアは空の向こうを見た。

「――街を襲うアルマは、ミンデ達に戦わせるわ。
彼らは強くならないといけない。」

「では、主様は?」

「森の奥よ。」

ティアの視線は、ただ一点を射抜いていた。
そこには凄まじい“気配”が潜んでいる。

「人間ではない。
アルマとも違う。
神の私ですら識別できない存在なんて――久しぶりで、胸が躍る。」

「……やはり、主様は戦いを楽しんでおられる。」

「違うわよ。
ただ――緊張感が懐かしいだけ。」

ティアは楽しげに微笑んだ。
その横顔は、神でありながらどこか少女らしく、そして強かった。

「行きましょう、セリア。」

「御意。」

蒼炎がゆらりと揺れ、二つの影は森の奥へと消えた。


城壁の向こう側で、黒い影の群れが波のように揺れていた。
──人型アルマの軍勢。
その数は、見ただけで士気を削ぐほど膨大である。

勇者ミンデは蒼炎を宿した剣を真っ直ぐ掲げ、声を張り上げた。

「みんな、力を貸してください!
この蒼炎神ティア様より授かった剣に誓い、街を守り抜く!」

その瞬間、青白い光がミンデから周囲へ広がる。
勇者スキル《戦意奮闘》。
仲間たちの筋力・敏捷・精神が一斉に底上げされ、張り詰めた空気に火が灯る。

「魔法部隊、撃てぇっ!」

城壁の上から、火球・雷撃・氷槍が次々と降り注ぎ、人型アルマの隊列が揺らぐ。
陣形が崩れ、動きが乱れ、足並みがばらける。

「アルマ達の陣形が乱れた! 
今なら出られる!」

伝令の声と同時に、城門が軋む音を立てて開いた。

「行くぞぉっ!!」

ミンデを先頭に、前衛が地面を蹴り飛び出した。
冒険者たちが叫びながら斬り込み、魔法と剣閃が目の前で交差する。
城壁上からも支援魔法が途切れず降り注ぎ、アルマ達は次第に押し戻されていく。

「よし! 押せ! 追撃だ!」

ミンデは勢いに乗り、振り返らずに前へ進む。

しかし――

「待て、ミンデ! 深追いは危険だ!」
剣聖グリフィルの声が響いた。
戦場を見渡し、状況を読む者の声だ。

「ここで引き返すべきだ! 
城の援護範囲を外れるぞ!」

「今こそ数を減らす好機だ! 
行くぞ!」

ミンデは勢いのまま駆けた。
仲間達を信じ、力を信じ、まだ余裕があると思っていた。

「あのバカ、悪いところが出たな……!」
ミナンザとホールディが顔を見合わせ、後を追う。

「ミンデ! 
先行しすぎるな!」
ホールディの叫びが戦場にかき消される。

 
ミンデは確かにアルマを押し切っていた。
だが、その足元にわずかな違和感が走る。

周囲の足音。
土を踏みしめる重い気配。
いつの間にか、左右から黒い影が迫っていた。

「ミンデ!」

ホールディとミナンザが追いつき、ミンデの肩を掴んだ。

「おい、周りを見ろ!」

ミンデは息を呑んだ。

黒い壁のように、人型アルマ達が取り囲んでいた。
前にも、後ろにも、左右にも退路は無い。

「……な、なんだ……こんな……!」

勢いは、もはや逃れられない包囲へと変わっていた。
空気が重く、喉が焼けるように硬直する。

勇者一行は――
完全に、孤立していた。


街を囲む森の、そのさらに奥。
陽光が届かない静寂の深層に、異様な気配が揺らいでいた。
ティアはゆっくりと、その「違和感」へ歩を進める。

そこに立つのは、漆黒の人影。
闇ではなく、光の存在を否定する“概念の空洞”のようなもの。

「……神が自ら干渉に来るか。」

その声は地の底から響くように低く重い。

「セリア。
ミンデが危ないわ。
助けに行って。」

「御意。」

言葉の瞬間、セリアの姿は空気に溶けて消えた。

ティアは正面の闇に視線を戻す。

「待たせたわね。
今回は、干渉するつもりよ。」

「そうか。
では問おう。
神よ、私は何に見えている?」

「あなたは──私が創った世界から零れ落ちた“影”。
秩序の裏で蓄積した、理の外側。」

「その認識で正しい。
私はお前の世界が生んだ、不要とされた側の真実。」

「……なら、処理する必要があるわね。」

闇は微かに笑う。

「神の神威が万能とでも? 
私には通じんぞ。」

「神威だけだと思ってるの?」
ティアは静かに腕を伸ばした。

空間が震え、蒼炎が迸り、
《蒼炎の神剣ソリッシュクレイヴ》が手に馴染むように現れる。

その蒼火は存在そのものを浄化する神性の熱。
森の空気は震え、闇を押し退けた。

「私は“戦いの神”でもある。
闇や穢れを祓うのは、神が担う務めよ。
さあ、始めましょう。」

闇が静かに腕を広げると、周囲の影が形を得ていく。
数多の人型アルマが波のように生まれ、ティアへ殺到する。

「神よ。
私は抵抗し、争おう。」

「その覚悟──良し。」

ティアは剣を振る。
蒼炎が走り、迫るアルマ達は一瞬で光の粒となって消えた。

闇は空間に深い闇を流し込むように広げる。

「光が世界を照らすほど、影は濃くなる。
お前自身がそれを証明している。」

「確かにね。
でも、だからといって放置はできない。」

ティアの蒼炎が広がり、アルマを次々と浄化していく。
空間そのものが震え、森が光に包まれる。

「終わりにしましょう。」

ティアの身体から、剣を媒介して蒼炎が解き放たれた。
燃え盛る蒼き浄化の波が闇を包み込み、崩壊させる。
黒い存在は、言葉もなく塵のように消えていった。

森は静まった。
ただ、微かな余韻だけが残る。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。 世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。 王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。 その犯人は5体の神獣。 そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。 一件落着かと思えたこの事件。 だが、そんな中、叫ぶ男が1人。 「ふざけんなぁぁぁあ!!」 王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。 神獣達のママ(男)であった……。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

異世界でカイゼン

soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)  この物語は、よくある「異世界転生」ものです。  ただ ・転生時にチート能力はもらえません ・魔物退治用アイテムももらえません ・そもそも魔物退治はしません ・農業もしません ・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます  そこで主人公はなにをするのか。  改善手法を使った問題解決です。  主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。  そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。 「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」 ということになります。

建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF
ファンタジー
死後に転生した魔界にて突然無敵の身体を与えられた地野改(ちの かい)。 その身体は物理的な攻撃に対して金属音がするほど硬く、マグマや高電圧、零度以下の寒さ、猛毒や強酸、腐食ガスにも耐え得る超高スペックの肉体。   その上で与えられたのはイメージ次第で命以外は何でも作り出せるという『創成魔法』という特異な能力。しかし、『イメージ次第で作り出せる』というのが落とし穴! それはイメージ出来なければ作れないのと同義! 生前職人や技師というわけでもなかった彼女には機械など生活を豊かにするものは作ることができない! 中々に持て余す能力だったが、周囲の協力を得つつその力を上手く使って魔界を住み心地良くしようと画策する。    近隣の村を拠点と定め、光の無かった世界に疑似太陽を作り、川を作り、生活基盤を整え、家を建て、魔道具による害獣対策や収穫方法を考案。 更には他国の手を借りて、水道を整備し、銀行・通貨制度を作り、発電施設を作り、村は町へと徐々に発展、ついには大国に国として認められることに!?   何でもできるけど何度も失敗する。 成り行きで居ついてしまったケルベロス、レッドドラゴン、クラーケン、歩く大根もどき、元・書物の自動人形らと共に送る失敗と試行錯誤だらけの魔界ライフ。 様々な物を創り出しては実験実験また実験。果たして住み心地は改善できるのか?   誤字脱字衍字の指摘、矛盾の指摘大歓迎です! 見つけたらご報告ください!   2024/05/02改題しました。旧タイトル 『魔界の天使 (?)アルトラの国造り奮闘譚』 2023/07/22改題しました。旧々タイトル 『天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉体と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~』 この作品は以下の投稿サイトにも掲載しています。  『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4480hc/)』  『ノベルバ(https://novelba.com/indies/works/929419)』  『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/64078938/329538044)』  『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093076594693131)』

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...