毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十六章 神ティアとアルマ

第百三十八話 ディアスの正義

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昼休みの中庭は、穏やかな陽射しとは裏腹に、どこか張りつめた空気が漂っていた。
ディアスと五組の男子3人が、互いに一歩も引かず睨み合っている。

「お前らだろ、
俺とティアさんを用具入れに閉じ込めたのは!」

ディアスが怒気を込めて言い放つ。
その気迫に対して、五組の1人は肩をすくめて薄笑いを浮かべた。

「何のことだか? 
変な言いがかり付けんなよ。
証拠でもあるのか?」

確かに、押された瞬間は後ろを見られなかった。
その隙を突くように、三人はにやりと余裕の笑みを見せる。

「白々しい。
お前達以外に誰がやる必要があるんだ!
ティアさんに怖い思いをさせたんだぞ!
わかってんのか!」

ディアスの怒りは限界に達していた。

「知らねぇな。
もう帰るわ。
お前の妄想には付き合ってられねぇ。」

三人はくるりと背を向ける。

「おい! 
話は終わってない!」

ディアスが詰め寄ろうとした、その時だった。

「ディアスくん。
そこまでよ」

背後からそっと肩に手が置かれる。
振り向くと、ティアが申し訳なさそうに、しかし毅然と立っていた。

「ティアさん……」

その一言で、ディアスの怒りはまるで氷が溶けるように静まっていく。

気がつけば、五組の3人はすでに視界から消えていた。

ティアは優しく微笑み、かすかに頬を染めた。

「ディアスくん、いいのよ。
本当に気にしてないから。
ああいう事して楽しむ子達に時間を使うのはもったいないよ。
ディアスくんは、将来王国魔法士団に入るんでしょ?
なら、その夢のために今はそっちに力を使わないと。
ね?」

その穏やかな笑顔に、ディアスの胸にあった怒りは完全に消えた。

「……ティアさん。
ありがとう。
俺のせいで怖い思い、させて本当にごめん。
証拠はないけど、あいつらがやったのは間違いないんだ。
でも……ティアさんの言う通りだ。
こんなのに時間使ってる場合じゃないよな。」

悔しさの影を残しつつも、ディアスはどこか吹っ切れたように笑った。
二人は照れながらも穏やかに会話を続け、それぞれの教室へ戻った。


ティアが教室へ入るなり、ミミィが椅子から飛び起きる。

「ティア! 
どうだったの!? 
ディアスくん、怒ってたでしょう?」

どうやら、ディアスと五組が中庭で睨み合っている。
その情報を教えてくれたのもミミィだった。
他クラスの男子達が「喧嘩か!?」と騒いでいたという。

ティアは苦笑して肩をすくめた。

「ミミィのおかげで間に合ったよ。
ありがとう。
ディアスくん、正義感がすごいのね。
……まだ少し納得いってないみたいだったけど。」

「まあ良かったよー。
ここ校内でトラブル起きると退学だからね!
“恋と喧嘩は校外で”がこの学園のルールよ!」

「そんなルールあるの?!」

ティアが思わずツッコむと、アーシャがノートを抱いて近寄ってきた。

「でも本当に良かった。
ティアは怖くなかった?」

「……ちょっとね。
でも、もう大丈夫よ。」


しかし数日後。
学園中に不穏な噂が広がる。

ディアスが五組の3人に“決闘”を申し込んだ、と。

「ティア! 
聞いた!? 
ディアスくんが五組の3人と決闘するって!」

朝からミミィが教室の扉を勢いよく開けて飛び込んできた。

ティアはうつむき気味に答える。

「……知ってるわ。」

ミミィが隣に座り、心配そうに眉を寄せた。

「どうするの? 
止めに行く?」

アーシャもそばへ来て、静かにティアを見守る。

ティアは俯いたまま、窓の外の青空を見上げた。

「どうしようもないよ……。
これはディアスくんの“正義”の問題だから。
私は自分の気持ちを伝えた。
それでも彼が“許すために戦う”と決めたんなら……見守るしかない。」


決闘当日・武道場

武道場には、開始前から生徒達が押し寄せ、ひそひそ声が飛び交う。

中央では、ディアスと五組の3人が向かい合っていた。

「まったく……しつけぇんだよ!」

五組の1人が舌打ちする。

ディアスは深く息を吸い、覚悟を決めた顔で言い返す。

「すまないな。
お前達じゃない可能性もある。
だが、最初に俺へ絡んできたのはお前達だ。
俺のケジメとして、決闘を選んだ。
嫌なら断ってもよかったんだ。」

五組の3人は鼻で笑った。

「断ったら断ったで、どうせいつまでも絡むんだろ?
だったら決闘でケリつけた方が早ぇよ。」

「……受けてくれて礼を言うよ。」

武道場の空気は一気に緊張し、
その場にいた誰もが固唾を呑んで見守った。
観客席には既に多くの生徒が詰めかけ、ざわめきが波のように広がっている。

ティアもミミィ、アーシャと共にその中へ足を踏み入れた。

「まだ始まってないね。」
ミミィが空いている席にひょいと座り、横にティアとアーシャが並ぶ。

ティアはディアスと五組の三人を見つめ、胸をギュッと押さえた。
「……ディアスくんは一組だから強さは申し分ないけど、三対一って……やっぱり不公平よね。」

「でも、挑んだのはディアスくんの方なんでしょ?」
アーシャがティアの横顔を覗く。

「そう、だけど……」
ティアは眉を寄せ、不安の色が隠しきれなかった。
——あの時、自分を庇ってくれたその背中が、また傷つくかもしれない。
その考えが胸の奥でチクリと刺さる。

そんな中、武道場の扉が開き、審判役の教師が入ってきた。

「ディアス。
本当に三人同時に相手するんだな?」
教師が厳しい表情で確認する。

「はい。
今回の件は俺から一方的に申し込んだ決闘です。
だから三人全員、受けて立ちます。」

その眼差しは揺るぎなく、武道場の空気がまた少し引き締まる。

教師は数歩退き、右手を高く掲げた。

「——始め!」

号令と同時に、五組の三人が一斉に動いた。
ディアスを包囲するように散開し、息を合わせて叫ぶ。

「ファイヤーボール!」

三つの火球が同時に放たれ、轟音とともに軌跡を引く。

「ウォーターウォール!」

ディアスは迷いなく水壁を張り巡らせ、炎と水がぶつかりあった瞬間、
白い蒸気が一気に立ち込め、辺りは真っ白な霧に飲み込まれた。

「み、見えない!」
「くそっ、ディアスはどこだ!」

五組の三人が戸惑い、視界を探る。

ティアは拳を握り、椅子の上で前のめりになる。
「ディアスくん……!」

その霧の中から、鋭い声が響いた。

「ライトニング!」

「ぐあっ!!」

激しい電撃の音とともに、誰かが倒れる音。
観客席にどよめきが走る。

「一人……!」
ミミィが息を呑む。

残る二人は焦り、叫ぶ。

「ウインドッ!」

風魔法で霧を吹き飛ばす。
だが視界が開けた瞬間、彼らも悟った。

——ディアスの得意分野は速度と精密魔法。

「ライトニング!」

二人目、三人目も悲鳴を上げて崩れ落ちた。

圧倒的な静寂。
そして教師の声が響く。

「勝者、ディアス!!」

歓声が爆発する中、ディアスは倒れた三人へ歩み寄り、
汗を拭いながら手を差し伸べた。

「すまなかった。
……でも、ありがとう。
受けてくれて。」

三人は苦笑いを浮かべながらその手を取る。

「悪かったのは俺たちだ。
ティアを閉じ込めたのも、俺たち。
……本当にすまなかった。」

ディアスは小さく首を振った。
「もういい。
決闘で全部終わった。」

互いの手が固く握られる。

観客のざわめきがようやく落ち着き始めた頃、
ティア、ミミィ、アーシャが武道場の階段を降りてきた。

「ディアスくん、お疲れ様。」
ティアが駆け寄る。

「ティアさん……ごめん。
いろいろ言ってくれたのに、俺……」

そこへ、五組の三人がティアの前に来て深く頭を下げた。

「——ごめん、ティア。
閉じ込めたの、本当に俺たちだった。
許してくれ。」

ティアは一瞬だけ驚いたあと、ふわりと柔らかい笑みを見せた。

「ううん。
もう大丈夫。
ディアスくんがケジメをつけてくれたでしょ?
それで終わりよ。」

その笑顔は、武道場の張りつめた空気を一瞬で和ませた。

こうして、ディアスと五組の三人は和解し、
一連の騒動は静かに幕を下ろした。
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