毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十六章 神ティアとアルマ

第百三十九話 それぞれの苦悩

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決闘が終わってからというもの、
ディアスとティアの間に、妙にひんやりした距離が生まれてしまった。

ディアスは「自分のせいでティアを危険に巻き込んだ」という負い目を拭いきれず、廊下ですれ違っても視線をすっと逸らす始末。

ティアもティアで、特に追うわけでもなく、いつも通りに過ごしていた。

だが。

なぜか、この状況に一番気を揉んでいたのはミミィだった。

「ねぇ、ちょっと。 
放課後あけといて。」

そんなメッセージで呼び出されたディアスは、街のカフェでミミィと向かい合っていた。
ここ数週間この様な形でミミィとディアスは合っていた。

「でさぁ……最近ティアと全然話してないでしょう?」

ミミィはストローをくわえながら、目だけは鋭い。

「その話か。
うん、話してないよ。
でも、気を揉まなくて大丈夫だ。」

「よくないってば!」
ミミィは机をバンっと叩く。

店内の客が振り向くほどだった。

「ティアの親友としてはねぇ……気になるのよ。
っていうか、最近のディアス、見てて暗いんだもん。」

「……好きなんだ。
ティアさんのことが。
だから……あの閉じ込められた件が、どうしても引っかかっててさ。」

ディアスは苦い顔でコーヒーを見つめる。

「怖い思いをさせたんじゃないかって思うと、
“友達の顔”なんて出来ないんだよ。」

ミミィは大きく息を吐き、ふっと微笑んだ。

「……やっぱり、あんたは優しいね。
だからほっとけないんだよ、ほんと。」

「ありがとう。
でも俺は大丈夫。
それよりミミィ、魔法士二級試験は?」

「はぁ~~、それ聞く? 
センス無いんだってば。
ティアにも教えてもらってるけど、炎ですら“ボフッ”て煙出るだけなの。」

「……がんばれよ。」

2人はやがて他愛もない話で盛り上がり、気がつくと夕闇が落ちていた。
友達、という言葉が自然と浮かぶほどに距離は縮まっていた。


一方その頃、寮では。

久々に帰還したセリアとティアが部屋で向かい合っていた。

「主様、戻りました。
アルマの侵攻はほぼ終息です。
リシェラ、ルシェア、カイル、皆よく働いてくれました。
勇者ミンデも……素晴らしい成長でした。」

「そう。
皆に“お疲れさま”って伝えておいてね。」

ティアが紅茶を淹れようと立ち上がろうとしたとき。

「神ティア、実はお話がありまして。」

使徒ダクトスが、いつもの直立不動スタイルで現れた。

「あら、ダクトス。
どうしたの?」

「はい。
『神在し日』が近づいております。
絶神ゼファスの使徒より、神ティアへ出席要請が来ています。」

その言葉に、ティアは露骨に肩を落とした。

「来ちゃったかぁ……その行事。
呼ばれなきゃラッキーだったんだけどね。
はぁ~、ゼファスには会いたくない。」

「主様。
絶神ゼファスとは、どんな神なのです?」

セリアは首をかしげている。
まだ神界の事情には疎かった。

ティアはあからさまに嫌そうな声で言った。

「女たらしで、自分大好きで、我儘で、
“神”ってより“災害”みたいな神よ。
本当に嫌い。
会うだけで寿命縮むわ。」

「ですが、絶神の呼び出しに背けば……この世界も消されかねません。」
ダクトスは真面目に告げる。

「わかってるわよ……はぁぁぁ……気が重い。」

『神在し日』
それは十一月に行われる、神々の大集会。

まだ先のはずなのに、ティアはすでに胃が痛そうだった。


それから数週間が過ぎた頃。
ティア・ミミィ・アーシャの学園アイドル活動は、じわじわと学園内で話題になり始めていた。

そんなある日、生徒会からミミィへ一本の連絡が入る。

曰く。
「ティア達のライブを正式に開催してほしい」という生徒からの要望が爆増している、とのことだった。

当然、誰よりも乗り気なのはミミィである。
もはやチームの「名ばかりリーダー」ではなく、完全に“最前線で突っ走る指揮官”と化していた。


「それで!来週!!講堂で初ライブ決定!!」

ミミィは教室のど真ん中で、ティアとアーシャの机をバンッと掴んで大はしゃぎした。

ティアは椅子ごと後ろに下がる。

「ね、ねぇミミィ?
……魔法士二級試験はどうするの?
ライブより勉強した方が絶対いいと思うんだけど……」

隣からアーシャが指を二本立てて、にこっと笑う。

「私は二級合格したよ~。
ミミィ、次は君の番だよ、うん!」

「ちょ、ちょっと!
二人して現実を突きつけないで!
これは青春の…。
そう!
青春の大イベントなの!
ライブで生徒達を元気づけるの!!」

ミミィは拳を握りしめ、なぜか熱血スポ根顔。

ティアは苦笑しながら肩をぽんぽん。

「わかった、わかったから……。
ライブはやるわ。
でもね、合格もちゃんと頑張りなさいよ?」

「は、はい……努力します……!」
ミミィは背筋を伸ばし、なぜか軍人並みの敬礼。


「そ、それでね!
生徒会から提案があって……
入場料を取った方がいいんじゃないかって!」

「なるほど。
活動資金になるし、見たい人だけ集まるし……悪くないわね。」

「料金取るの賛成!
……美味しいもの食べられる!」

アーシャは即答し、目的が完全に食欲。


「あとね、衣装だけど……。
思い切ってプロに頼もうかな、って!」

ミミィの目はキラッキラ。

ティアは即座に聞いた。

「ミミィ、プロのあてはあるの?」

「――ない!!」

「うん、知ってた。」
「だよね。」
ティアとアーシャは見事なハモりでため息を漏らす。

ミミィは机に突っ伏しそう。

そんな様子を見て、ティアは柔らかく微笑んだ。

「じゃあ、私が心当たりに頼んでみるわ。」

「えっ!?
あるの!?」

アーシャが胸を張る。
「ティアは大金持ちのお嬢様。
顔も広いのは当たり前!」

「アーシャ、なぜあなたが誇らしげなの……」

ミミィはティアの手をぎゅっと掴み、大真面目に言った。

「頼りにしてるよ、ティア!」

「任せて。」


こうして、
ティア達の初ライブに向けて、アイドルユニットは本格的に動き出した。
ライブの話で盛り上がっていたミミィは、ふいに椅子へ腰を下ろすと、じいっとティアを見つめて固まってしまった。

「ん? ミミィ? 
どうしたの?」

ティアが首をかしげると、ミミィはもじもじと指を合わせ、顔を赤くして俯いた。

「あのね、ティア。
謝らないといけない事があるの…」

「え? 
なに?」

そのしおらしい様子にティアは目を丸くしたが、すぐ横からアーシャがキリッとした顔で身を乗り出す。

「はっ! 
ミミィ……またティアのお弁当を早弁したな!」

「ち、違うわよ!! 
ぜんっぜん違う!!」

「じゃあ何なの?」

ミミィは深呼吸を一つしてから、恥ずかしそうにティアへ告げた。

「……ディアスのことなの。」

「ディアスくん? 
どうかした?」

「う、うん。
あのね……最近ティアとディアスがぎこちない感じになってるでしょ?
だから、私いろいろ話してたの。
相談乗ったり……励ましたり……」

ミミィは胸の前で指を絡め、さらに顔を赤くした。

「そしたらね……なんか……私のほうがディアスの事、気になっちゃって……」

「あ~……なるほどね」
「好きになっちゃった」

ティアとアーシャは同時にニヤ~ッとした笑みを浮かべ、俯くミミィの顔を覗き込む。

「もうっ……そ、そうよ! 
好きになっちゃったの!
それでね……ティアはどう思うかなって。
私たち親友じゃない?
だからもしティアがディアスのこと好きだったら……どうしようって……」

「ミミィ、大丈夫よ。」

ティアはふわりと笑ってミミィの手を取った。

「私はディアスくんのこと、友達以上には思ってないわ。
だから気にしなくていいの。」

「ほ、ほんと!? 
本当に!?」

「ええ。
ティアは嘘つかないわよ。」
アーシャも腕を組んで頷く。

ミミィは感極まったように目を潤ませ――

「よかったぁ……っ!
 ……今日告白する!!」

「今日!?」
ティアとアーシャが叫んだ。


そして放課後。

中庭。
誰もいない放課後の静かな空間に、ミミィは緊張した面持ちで立っていた。

ティアとアーシャは、見つからない場所から物陰に隠れ、そわそわして様子を見守る。

「ひぇえ……ミミィより私の方が緊張してきた……」
ティアは胸を押さえて息を呑む。

やがて、ディアスが姿を見せた。

「どうしたんだ、ミミィ。
珍しいな、こんな場所に呼び出すなんて。」

普段通りの落ち着いた声。
ミミィはギュッと拳を握りしめ、一気に叫んだ。

「ごめん! 
急に呼び出して!
あのね……回りくどいの苦手だからストレートに言うね!」

そして、真正面に手を差し伸べる。

「ディアス!!
あなたが好きです!!
付き合ってください!!!」

ティアとアーシャは遠くで声も出ず固まった。

「え……そ、そういう事……?」

ディアスもさすがに動揺していた。

「……ちょっと考える時間をくれよ。
すぐには答えられない。」

「うんっ! 
私、待ってるから!!」

ミミィは全力疾走で校舎へ駆けていった。

「……ミミィらしいわ」
「うん……ぶれない強さというか……勢いが違うよね」

ティアとアーシャは顔を見合わせて微笑んだ。


数日後

ディアスは悩みに悩んだ末、ミミィの告白を受け入れた。

この数週間、ミミィと話すうちに、彼女の明るさと真っ直ぐさに自然と惹かれていたのだという。

ミミィは忙しい試験勉強の合間にもふわふわと幸せオーラを出し、
ティアとアーシャにも嬉しそうに惚気話をしてくる。

「ディアスね、真面目すぎて困るのよ~!」
「はいはい、幸せそうね~」
「はいはい、青春ね~」

ティアとアーシャは親友の幸せにホッとしつつ、
ようやく動き出した恋模様に頬を緩ませていた。
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