毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十八章 夏休み編

第百五十一話 運命の出会い

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ミミィとアーシャは、はしゃぎすぎた疲れが一気に押し寄せたのか、リビングのソファに並んで身を寄せ合うようにして眠ってしまっていた。

静かに上下する小さな寝息を横目に、ティアはブランケットをそっと二人にかける。

(……私は相変わらず、眠くならないのね)

眠りを必要としない身体。
けれど心は、じっとしていられなかった。

窓の外から、波の音がかすかに届く。
それに引き寄せられるように、ティアはそっと扉を開け、ひとり外へ出た。

施設から少し歩けば、そこはプライベートビーチ。
夜の海は月光を受けて、漆黒のヴェールを纏ったように静まり返っていた。

砂浜へ降りた時、不意に視界の端が揺れた。

微かな光。

砂に反射する、淡い輝き。

導かれるように近づくと、そこには一人の少年が立っていた。
どこかの学園の制服を身にまとい、海に向かって両手を差し出している。

その掌から、やわらかな光が溢れ、波間へと溶けていっていた。

ティアはそっと声をかける。

「こんばんは。
……何をしているの?」

少年は驚いた様子もなく、静かに微笑んだ。

「こんばんは。
今、霊魂に祝福を施していたところです」

波打ち際に向けられた光は、まるで無数の星屑のように海へ消えていく。

「もしかして……聖霊族の方ですか?」

「はい。
8月1日は“霊送りの日”なんです。
僕の家系は霊御師で……今日はたまたま学校の施設に来ていたので、この海に彷徨う霊を癒していたんです」

「……立派なことをしているのね」

ティアは、素直にそう思った。

「ちなみに、学校はどこなんですか?」

「アインレット魔法高等学校です」

「王国立の……」

「はい」

「私は、セイントスター魔法学園よ」

少年は少し目を見開いて、くすりと笑った。

「それは……すごいですね」

「そんなことないわ。
アインレットとセイントスターは、王国の二大魔法学校でしょ?
あなたも誇っていいと思うけど」

「……そうですね」

少し照れたように少年は頷いた。

「そういえば……名乗ってませんでしたね。
僕は、ニール・マーラーといいます」

「私はティア・クラウス」

「ティア……素敵な名前ですね。
女神と同じ名前にふさわしい、美しい方です」

「……ありがとう。
あなたも、結構イケメンよ」

「はは……そんなこと言われたのは初めてです」

少し照れたように視線を逸らすニール。

彼はふと、真剣な表情になった。

「……ティアさんは、人間族ですか?」

「ええ。
……一応は」

「……少しだけ、人間族とは違うエネルギーを感じたので。
もしかして……長命種のエネルギー生命体ですか?」

ティアは一瞬、言葉に詰まった。

「……ええ、まあ……そんな感じ、かもしれないわ」

「やっぱり……僕たちも寿命が長くて。僕はまだ15歳ですけど、両親はもう400年を超えてます」

「……そうなのね」

潮騒の音が、静かに二人の間を流れる。

ティアは、ふと何かに引っかかるように口を開いた。

「……マーラー、って言ったわよね?」

「はい」

「お母さんの名前は……?」

ニールは、何の疑いもなく答えた。

「アリーシア・マーラーです」

心臓が、強く脈打った。

「……そう……なんだ」

それ以上、声が出なかった。

「……ごめんなさい。
そろそろ戻らないと」

ティアは小さく頭を下げた。

「また、どこかで会ったら……声をかけて」

「ええ。
……また」

背中越しに、やさしい声が返ってくる。

ティアはその場を離れ、足早に砂浜を後にした。

施設へ戻り、静まり返ったリビングで、大きな窓の前に立つ。

闇に溶けるような海を、ただ見つめながら。

小さく、息を吐いた。

「……アリーシア……?」

遠い記憶の底で、何かがかすかに、ざわめいていた。

月明かりが、静かに揺れていた。

バアミルに頼んでミミィとアーシャをそれぞれの部屋まで運んでもらうと、ティアも自室に戻り、ふわりとベッドに身を沈めた。
夜の砂浜での出来事が胸の奥でざらりと残っていたが、いつしか意識は眠りへとゆっくり落ちていった。


翌朝。
柔らかな光がカーテン越しに差し込み、ティアは自然と目を覚ました。
施設を利用している間は制服を着る事になっているので、壁にかけられてマーガレットが用意してくれている洗濯されて綺麗な制服に着替える。
リビングに足を踏み入れると、既に気配を察したバアミルが振り返る。

「おはようございます、お嬢様。
よくお休みになられましたか?」

「ええ、まあね。」
ティアは曖昧に微笑む。
昨夜の出会い──海辺の聖霊族の少年、ニール・マーラーの名前。
胸の奥を掻き混ぜるように思考だけが続いていた。

「お嬢様。
今朝は外の空気がひときわ気持ちがよろしゅうございます。
朝食まで少しございますし、お散歩など如何でしょう?」

「そうね……ちょっと行ってくるわ。」

ティアはサンダルを履き、海へと続く小径を抜けた。
朝の浜辺は夜とはまるで違う表情をしていた。
淡い金色の光が海面を静かに照らし、潮風がティアの金の髪をさらりと揺らす。

その優しい時間の中──

「ティア!」
「おはよー!」

背後から弾む声が重なった。
振り向くと、ミミィとアーシャが制服の裾をひらひらさせながら全力で走ってくる。

「ミミィ! アーシャ! おはよう!」

「おはよっ!」
勢いよく抱きつかれ、ティアは少しよろけながらも笑みが漏れた。

「今日は何しようか?」
ミミィがそのまま腕に絡みついたまま、ティアの横顔を覗き込む。

「私は……街に出てみたいな。
昨日、施設の人が言ってた商店街、面白そうだよ?」
アーシャが瞳を輝かせながら言う。

「いいじゃん! 
買い物もできるし、ついでにミュウオケも寄ってみよ!」
ミミィが楽しげに提案し、3人は砂浜をぱしゃぱしゃ踏みしめながら歩き出す。

朝日を受けた海はきらめき、制服のスカートがふわふわ揺れる。
3人の笑い声が波音に紛れて、夏の空気に溶けていった。

その時。

前方から数人の男性が歩いてくるのが見えた。

そして、ティアとその中のひとりが、お互いに気づいた瞬間。

「「あっ!」」

声がぴたりと重なった。

ティアの胸が一瞬だけ大きく跳ねた。

昨日、月光の下の浜辺で出会った。
聖霊族の少年、ニール・マーラーがそこにいた。

「あ、おはよう。」
ティアは、砂浜の上で風に金色の髪を揺らしながら、少しだけ照れた笑顔を向けた。

「おはよう。
昨日ぶりですね。」
ニールはきょとんとしつつも、すぐに心配そうに眉を下げる。
「なんだか急に帰っちゃったから……何かあったのかと思って。」

「べ、別に!
な、何もないわよ!」
ティアは両手をブンブン振って必死に否定。
(嘘よ……めちゃくちゃ動揺して帰ったのよ……!)
顔がほんのり赤い。

「ティア、誰なの?」
ミミィとアーシャが、じーっと横から覗き込む。
完全に「新キャラチェック」の目だ。

「ああ、えっと……昨日の夜、海で少し話したの。
こちらはニール・マーラーくん。」

すると男子側の二人もソワソワ。
ニールが苦笑しながら手で示す。

「この二人は友達のアリストンとベクトーです。」

「ミミィとアーシャ。
私の親友。」
ティアは紹介しながらも、どことなく恥ずかしそうに肩をすくめた。

そんな中――
ミミィが突然バッと一歩前に出る。

「ねぇ!
嫌じゃなかったら、この後いっしょに街に行かない?」

「み、ミミィ!?
勝手に言わないでぇぇ!」
ティアがミミィの肩をわしっと掴んで真っ赤。
まるで顔から湯気が出そう。

しかしニールは、ちょっと照れたように首を傾げる。
「僕たちもちょうど街に行こうと思ってたんだ。
ティアさん達が嫌じゃなければ……こっちとしては嬉しいけど。」

その後ろでアリストンとベクトーが、
「行きたい!!」
とばかりに力強く頷いている。

「決まりね!」
ミミィが満面の笑みで手を叩く。
「私たちの施設はすぐそこだから、朝食食べて準備したら……1時間後に迎えに来て!」

「み、ミミィぃぃ!!
勝手に決めないでよぉ!」
ティアは泣きそうな顔でバタバタと抗議。

「いいのいいの!
青春は勢いが大事!」
ミミィがアーシャを見ると、アーシャもにっこり。

「うん、楽しそうだしね。」

「アーシャまで味方するの!?
もうっ!」
ティアは両手で頬を押さえながら耳まで真っ赤なので、嬉しくないわけがなかった。

こうして3人は施設に戻り――
リビングに入ると、バアミルの用意した朝食が美しく並んでいた。
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