毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十八章 夏休み編

第百五十二話 楽しいと言う事

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施設へ戻ってきたティアたちを、バアミルがまるで舞踏会の執事のように優雅な所作で出迎えた。

「お嬢様方。
朝食の準備が整っております。」

「お腹すいた~!!」
ミミィはもう限界だったのか、椅子にダイブする勢いで着席した。

「もう…ミミィったら。
勝手にいろいろ決めちゃうんだから。」
ティアは呆れつつも、ゆっくり席につく。
頬がうっすら赤いのは、さっきのニールとの遭遇が原因だ。

アーシャも隣に座りながら、少し微笑む。
「で、ティアは……その、ニールくんと仲良くなりたいの?」

「え?えーと、その……まあ、気にはなるけど。」
ティアは視線をそらし、トーストをつつく。
耳まで赤い。

そんなティアの様子を見て、ミミィの目がキラーンと光った。
「ふふふ……わかったわティア。
今日、私たちが全力で協力するっ!」

「絶対、楽しんでるよね!? ミミィ!」
ティアの抗議もむなしく、ミミィはすでに作戦会議モードだ。

「ニールくん、誠実そうだったよ。」
アーシャは優しくフォローしながら笑う。

ティアは深呼吸して覚悟を決める。
「……もう、いいわ!
今日は楽しむ!全力で!」

その言葉にミミィとアーシャは同時に親指を立てた。

「お嬢様。」と、そこへバアミルが声をかける。
「お出かけ用のお洋服をマーガレットが数点ご用意してございます。
お気に召すものをお選びくださいませ。」

「ありがとう。」
ティアは食事を終え、部屋へ向かった。


ティアの部屋ではマーガレットがファッションショーのスタイリストのようなテンションで服を並べていた。

「お嬢様!
わたくしのイチ押しは、この淡いピンクのミニワンピースです!
男子受け、間違いなしです!」

「だ、男子受けって……別にそういうつもりじゃ……」
と言いながらも、ティアはその可愛さにちょっと心が揺れる。

マーガレットはまるで押しの強い姉のように迫る。
「何をおっしゃいますか!
お嬢様は元より可愛いのです!
せっかくの機会です、もっと輝いていただきます!」

「う、うん……わ、わかったわ……」
圧に負けたティアはワンピースにお着替え。


リビングでは、すでにミミィとアーシャがラフで動きやすい格好で待機していた。

ティアが姿を見せると、2人が同時に弾けるような声を出す。

「ティア可愛い!!」
「うん、めちゃくちゃ可愛い!」

「え?
2人とも意外とシンプルなのね?」
ティアは首をかしげる。

「当然でしょ!
主役はティアなんだから!」
「そう!
わたしたちは控えめでちょうどいいの!」

ティアは思わず笑うが、同時に不安も押し寄せる。
「……ねぇ、ほんとにやりすぎないでよ?
今日は楽しむだけなんだから。」

「任せなさーい!」
ミミィの自信満々な笑顔ほど不安を生むものはない。

アーシャがティアの肩をぽん、と叩く。
「安心してティア。
私がミミィを監視しておくから。」

「ちょっと!
私は暴走しないよ!? 
私はティアを幸せにするために全力を尽くすだけなの!」

「いや、それが一番怖いのよ……」
ティアはぺたんと肩を落とした。


リビングで待っていると、バアミルが颯爽と姿を表す。

「お嬢様方。
お迎えの殿方がお見えです。」

「ティア!
行くわよ!!」
ミミィはロケットのような勢いで玄関へ突撃。

「だ、大丈夫かしら……」
ティアは胸を押さえながら後を追った。

青春のドキドキを抱えたまま、3人は玄関へ向かう。
玄関から出ると――ニールたちが楽しげに話をしながら待っていた。
ドアが開くと、彼らがそろって真剣な声で。

「可愛い……。」

と呟く。
声はきこえなかったけど、ティアはその視線を直に感じて、思わず頬を赤らめながら一歩一歩歩み寄る。

「お待たせ。」
ティアが照れくさく微笑むと、その背後からミミィが跳びついた。

「ティア、可愛いでしょ!」
「だってティアは彼氏いないんだから、今がチャンスよ!」
アーシャも続けて言う。

「ちょっと! 
ミミィもアーシャも恥ずかしいじゃない!」
ティアは慌てて言うけど、その顔はどこか嬉しそうで。

「そ、そうだな。
それじゃあ、行こうか」
ニールがぎこちなく笑って、背を伸ばす。

こうして、6人で商店街へ。
ぎこちなさが和らぎ、話もはずみ、みんなの顔に自然な笑顔が戻る。

「何か食べ歩きできそうなの、あるかな?」
ティア、ミミィ、アーシャの3人は店を見回し、クレープ屋さんを発見。
「私はチョコとイチゴのクレープ!」
「んじゃ私は生クリームとフルーツで!」
「私はチョコ+フルーツで決まりね!」

注文が済むと、男子たちはちょっと遅れて店の奥へ。

「俺、甘いの苦手なんだ。
甘いのはお前ら頼めよ」
ニールが遠慮がちに言うと、アリストンとベクトーは元気にクレープを注文。

「じゃあニール君は、この先にイカ団子の店があるよ。
気にならない?」
ティアは微笑みながら言って、二人でそちらに向かうことに。

「イカ団子6個、お願いします!」
「俺もそれで。」
焼き上がりを待っている間、二人は並んで座る。

「ティアさん、ここにはいつまでいるの?」
「うん、明日の夜までよ」
「そうか。
俺たちはもう少し残る予定だけど……帰っても、また会えたら嬉しいな」

ティアは驚きとともに、頬を赤くして――

「え?
じゃあ、連絡先、交換しようか」

スマホを取り出し、ふたりは連絡先を交換。
空気が、ふっと軽くなる。

「この後、ミュウオケ、行かない?」
ニールが少し照れながら誘うと、ティアも微笑んでうなずいた。

不器用だけど、優しくて誠実な人。
慣れないドキドキと期待とこの日の街歩きは、きっと何年たっても色あせない、青春の一ページ。

6人は避暑地の最新ミュウオケへとやってきた。
最新式の採点システムに、魔法演出まで付いている豪華仕様。

「はい! 
とりあえずフリータイムで!」
ミミィはこういう場での行動力が半端ない。
スタッフに連れられ、広めの大部屋へ通された。


「さあ! 
歌うわよーっ!」
勢いよくミミィが曲を選び、マイクを構える。

「私も!」
「負けないから!」
ティアとアーシャも楽しそうに選曲開始。

男子3人はというと――
圧倒されて控えめにリモコンを握る。

曲が始まると、ミミィの歌声と同時に
光の星が舞い、光線が走り、キラキラした雪が降りそそぐ魔法エフェクト が展開!

「うわぁ! きれい!」
ティアは目を輝かせる。

「ティア、見て! これ触れるよ!」
アーシャが手のひらに光の雪を受け止める。

「ほんとだ! すごーい!」
ティアとアーシャがキャッキャっとはしゃぐ姿に、男子は思わず笑みがこぼれる。

ミミィが歌い終えると。
採点表示。

90点!

「やった! 高得点!」
ミミィは得意げにウインク。

「すごいな……歌上手いんだね」
男子3人も拍手。


「じゃあ、次は私ね!」
ティアがマイクを握って壇上へ。
ほんのり頬を赤くしながらも、音楽が流れると。

その声は、
柔らかく、透明感があって、何より……綺麗だった。

「すご……」
ニールは途中から口が閉じなくなる。
アリストンとベクトーも完全に聴き入っていた。
ミミィとアーシャですら言葉が出ない。

そして――採点。

100点。

「ティアやばい!!」
「本気でプロじゃん!」
ミミィ&アーシャが跳び上がる。

「えへ、そんなに? 
歌いやすかったからかなぁ」
ティアは照れながら席に戻る。

ニールたちは固まったまま。

「だ、大丈夫?」
ティアが心配そうにのぞき込むと、

「い、いや……すごすぎて……」
「この後に歌うの無理じゃね?」
「うん、ハードルの高さが異次元」

男子全員、完全に打ちのめされていた。


「次は私!」
アーシャがマイクを取り、落ち着いた低めの歌声を響かせる。

「アーシャ良い声ー!」
「かっこいい!」
ティアとミミィが歓声。

採点は――92点!

「うそ、私より高い……!」
ミミィは肩を落とす。

男子3人は「ちょっとレベル高すぎる」と本気で嘆いていた。


ついにニールの番。

「緊張するな……」
苦笑しながら壇上へ。
歌声は低音も高音も綺麗で、ティアは素直に聞き惚れる。

採点は――86点。

「やっぱり俺はこんなもんだよ」
苦笑するニールに、

「とっても上手だったよ! 私、その声好きかも」
ティアがふんわり微笑む。

「……ありがとう」
ニールは耳まで真っ赤になりながら席へ戻った。

アリストンとベクトーも80点台前半で健闘。


気づくと外はオレンジ色。
6人は歌いまくり、笑いまくり、最高の時間を過ごした。

帰り際、それぞれ連絡先を交換して外へ。

「ニール君。またね」
ティアが可愛らしく笑顔で手を振る。

「また!」
ニールも照れ隠し気味に手を振り返す。

2人とも頬がほんのり赤い。

歩き出してしばらくすると。

「ねぇティア! 
ニール君と連絡先交換したんでしょ?」
ミミィがずいっと顔を寄せる。

「う、うん……また会えたらいいけど……」
ティアは少し照れつつも嬉しそう。

「2人で遊び行くのもアリよ」
アーシャがにやり。

「今日は最高だったね! 
またやろ!」
ミミィは満面の笑み。

ティア達は楽しげにおしゃべりしながら、自分たちの施設まで帰っていった。

青春の夜が、もう少し続けばいいのに。
そんな余韻を残しながら。

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