毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十八章 夏休み編

第百五十三話 絡み合う運命

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避暑地での最終日。
いつもより少し遅く目を覚ましたティアは、眠たげに目を擦りながらリビングへと向かった。

「……おはよ……」

「お嬢様。
おはようございます。」

優雅に一礼するバアミルの声に、ティアは小さく微笑む。

「バアミル、おはよう。」

「ミミィさんとアーシャさんは、既にお出かけになられました。」

「そうなんだ……」

ティアは軽く頷くと、まだ完全に覚めきらない頭のまま、テーブルの椅子に腰を下ろした。
テレビでは昼前の情報番組が流れており、楽しげな音楽と軽快な司会者の声が部屋に満ちている。

「お嬢様。
お食事はいかがなさいますか?
すでに昼時になってしまいますが。」

「食べる……。
バアミル、お願い。」

「かしこまりました。
このバアミル、腕によりをかけてご用意いたします。」

「ふふ、楽しみ。」

そう答えつつも、ティアはぼんやりと画面を眺めていた。
ミミィとアーシャがどこへ行ったのか、少し気にはなったが、考えはすぐにテレビの話題へと流れていく。

その時、リビングの扉が開いた。

「お嬢様。
おはようございます。
……あら? まだお着替えではありませんの?」

マーガレットが少しだけ呆れたように、しかし柔らかな声で尋ねる。

「あ、そうね。
着替えてくるわ。」

ティアは立ち上がり、自室へ戻ると部屋着から外出用の服へと着替えた。
食事のあと、街へ出てみよう——そんなことをぼんやり考えながら。

再びリビングに戻ると、バアミルが次々と料理をテーブルに並べていた。

「お嬢様。
温かいうちに召し上がりください。」

「うん、ありがとう。」

椅子に腰掛け、箸を取って一口。

「……美味しい!」

思わず声が漏れ、自然と頬が緩む。

「それは何よりでございます。」

穏やかな時間の中で食事を終え、身支度を整えると、ティアは一人で街へ向かうことにした。


潮の香りを含んだ風が、金色の髪をやさしく揺らす。
長閑な道、夏の光、遠くに見える海。
避暑地らしい、穏やかで平和な景色が広がっていた。

「ミミィとアーシャ、どこに行ったのかしら……」

バアミルやマーガレットにも聞いてみたが、二人とも行き先は知らないらしい。

やがて街に辿り着くと、ティアの目に一軒の店が留まった。

——《占い》。

控えめな看板を掲げたその店は、どこか引き寄せられるような雰囲気をまとっている。

「……占い、か。」

少し考えた後、ティアはドアを開けた。

中は想像していたよりも明るく、壁や棚には不思議な小物や装飾品が並んでいる。
カウンターの向こうには、五十代ほどの女性が静かに座っていた。

「不思議な気配を持った子だね。
何かお悩みかい?」

低く落ち着いた声が、ティアを見据える。

「悩み……は特にないけど。
占いって、何を占ってくれるのかしら?」

「仕事、学校、人間関係……それに、心の流れもね。」

「そうなんですね……」

少し考えてから、ティアは小さく微笑んだ。

「じゃあ、せっかくだし……占ってもらおうかしら?」

「ふふ、いいだろう。」

占い師の女性は立ち上がり、奥の部屋へと案内する。

二人は静かな占い部屋で向かい合い、椅子に腰を下ろした。

「占いって、人を導く力があるものだと私は思っているんですけど……あなたには、何か見えるのかしら?」

ティアは小さく微笑みながらも、真剣な眼差しで占い師に問いかけた。

「“導く”だなんて大層なものじゃないわ。」
占い師は肩をすくめ、落ち着いた声で続ける。
「私にできるのは、その人の未来が少しだけ見えたり、迷いに対して人生経験を交えて話すことくらいね。」

「未来が少し……」
ティアの瞳がきらりと輝く。
「私には、何が見えるのかしら? 
楽しみだわ。」

「ふふ、じゃあ占ってみましょう。」
占い師はそう言うと、ティアに向かって両手を差し出し、静かに目を閉じた。

次の瞬間、ティアの身体をふわりと包む柔らかな魔力。
魔法で占うのね。
占い師のスキルによるものだと分かっていても、胸が少し高鳴る。

「まずは……年頃の女の子だもの。」
占い師が口を開く。
「やっぱり恋愛の話からいきましょうか。
興味、あるでしょう?」

「ええ、あります!」
その言葉に、ティアは思わず身を乗り出した。

「ここ最近、良い出会いがあったみたいね。」
占い師は静かに頷く。
「でも、すぐに発展する相手ではなさそう。
焦らず、少しずつ距離を縮めていくのが吉ね。」

「ふむふむ……。」

「あなたはね、自分から追いかけるより、相手から想われた方が上手くいくタイプ。」
占い師は意味深に微笑む。
「待つ勇気も大事よ。」

「最近出会った彼とは……運命的なものはあるのかしら?」
ティアは少し声を潜めて尋ねた。

「悪くはないわ。」
占い師は慎重に言葉を選ぶ。
「ただ、距離を置きすぎると縁が薄れそうね。
近くにも、別の良い出会いが潜んでいるわ。

いろんな人と交流を持つと運が動く。」

「へぇ……それ、気になる!」

「次は学業ね。」
占い師は話題を切り替えた。
「あなた、学生でしょう?」

「はい。
セイントスター魔法学園です。」

「あら。」
占い師の表情が柔らぐ。
「あの有名な魔法学校ね。
実は私、そこの卒業生なのよ。」

「えっ、そうなんですか!?」
ティアは目を丸くする。
「こんな所で先輩に出会うなんて……世界は狭いですね。」

「本当にね。」
占い師は楽しそうに笑う。
「学業はかなり優秀よ。
このまま進めば、自然と良い道が開けるわ。
特に大きな心配はなさそう。」

「へへ……嬉しい!」

「最後は、総合的な運勢ね。」
占い師は少し真剣な表情になる。
「基本的には平穏。
ただ、冬頃に少し不穏な影が見えるわ。」

「え……?」

「何が起こるかまでは分からないけど、注意はしておきなさい。」
占い師はゆっくりと続ける。
「あなたは強い幸運を持っている。
自分を信じていれば、流れは味方してくれる人よ。
妥協しない強さもね。」

「なるほど……。」

「他に、知りたいことはあるかしら?」

「そうね……」
ティアは少し考えてから、照れくさそうに微笑んだ。
「親友たちとアイドル活動を始める予定なんだけど……それは上手くいくかしら?」

「アイドル活動?」
占い師は驚いたように目を細める。
「それは……あなたにとって、とても良いわ。」

「本当ですか?」

「ええ。」
占い師ははっきりと頷いた。
「華やかな世界は、あなたの性質に合っている。
その容姿と雰囲気……人気者になる可能性は高いわ。」

「わぁ……!」

「占いでは親友たちの詳細までは見えないけれど。」
占い師は穏やかに言葉を締めくくる。
「周囲の助けもあって、やがて活動から仕事へと繋がっていきそうね。
成功の兆しは十分あるわ。」

「へへ……。」
ティアは頬を緩めた。

「それにしても。」
占い師は感心したように笑う。
「アイドルだなんて……なかなか面白い未来を持った子ね。」

占い部屋には、少しだけ未来のきらめきが漂っていた。

占いを終えたティアは、店内をひと通り見て回ることにした。
棚には色とりどりのアクセサリーや、不思議な文様が刻まれた雑貨が並び、どれも微かに魔力を帯びている。

「可愛い……これもいいし、こっちも……」

迷った末、気に入った小物をいくつか選んで購入すると、胸の奥がほっと温かくなる。
潮風が穏やかに吹き抜ける避暑地の街は、相変わらずのんびりとしていて。

帰ろうとしていると、占い師が思い出したのか。
「あ、そうそう。
一つ伝えないといけない事があったわ。
運命線が複雑に絡んでいて、そのルーツ自体が不鮮明なんだけど、古い縁の誰かと再会の兆しがあるわね。
それがこの先あなたの運命を左右する可能性もあるわ。
良い風に作用するか、悪い方向に作用するかは未知よ。
よく考えて行動した方が良いわよ。」
と占い師は付け加えた。

「そうなんですね。
わかりました。
ありがとうございます。」
ティアは一礼して店を出た。
脳裏によぎる事は有るには有るが今は深く考えない事にした。

暫く街を歩いていると、雑貨屋の店先にミミィとアーシャが二人で何かを見ていた。
「ミミィ!アーシャ!」
ティアは声をかけると駆け寄った。

「ティア!おはよう。」
ミミィとアーシャはティアに気がつくと笑顔で迎える。

「何してたの?」
ティアは二人が見ていた雑貨に目をやった。

「ああ、お土産見てたのよ。」
「そうそう、彼氏にお土産だってさ。」
アーシャはミミィに向かって指差しながら照れ笑いをしている。
「アーシャもでしょ!」
ミミィは恥ずかしそうに顔を赤くしている。

お土産と聞いてティアも一緒になってお土産を選ぶ事にした。
3人はその後もいろいろ店を回ってお土産を物色すると施設に話しながら戻った。
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