毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十九章 転生者編

第百五十六話 転生者とティアのアイドル活動

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ティアの部屋に、影のようにダクトスが現れた。

「神ティア。
転生者の処置、無事に完了したようですね」

「ええ。一応はね」

ティアは椅子に腰掛けたまま、小さく息を吐いた。

「ただし、監視はしておくことをおすすめします。
転生者は世界にとって不確定要素。
災いになるか、救いになるかは予測不能ですから」

「……やっぱり、そうよね」

「過去には、魔王となった転生者や、黒き混沌の魔女と呼ばれる存在に変貌し、封印するしかなかった例もありました」

「うわぁ……それは嫌だわ」

ティアは思わず肩をすくめる。

「ですので、十五歳から転生した二人については、セリア殿と共に学園へ迎える準備を進めております」

「え? 学園って……まさか」

ティアは嫌な予感がして、ダクトスを見上げた。

「同じクラスに配置する予定です」

「ちょっと待って!?
それ絶対まずいでしょ!?
神だってバレたりしない?」

「問題ないでしょう。
転生の儀では神装でしたし、普段の姿であれば気づかれません」

「それ、全部私次第ってことじゃない……?」

ティアは頬をぷくっと膨らませる。

「えぇ。
ですが、監視の効率を考えれば最善です」

「もう……ほんとに無茶言うんだから」

しばらくむっとした顔をしていたティアだったが、やがて観念したように肩を落とした。

「……わかったわよ。
やるわよ。
やればいいんでしょ」

「ありがとうございます」

ダクトスは深く一礼すると、そのまま霧のように消えていった。


その日の夕方。
ティアはバイト先へと向かっていた。

少し早めに着いたティアは、店長のクレスンとカウンター越しに話している。

「店長。
前に話してくれていた芸能関係のプロデューサーさんの件なんですけど……
もし可能でしたら、お話させていただけませんか?」

「ああ、その件か。
実はもう、軽く話は振ってあるんだよ」

「えっ、本当ですか!?」

ティアの顔がぱっと明るくなる。

「近いうちに連絡を取ってみる。
タイミングが合えば、場を作れると思うぞ」

「ありがとうございます!」

ティアは思わず立ち上がり、満面の笑みを浮かべた。


バイトを終え、屋敷へ戻ると、リビングでバアミルが静かに待っていた。

「お嬢様、おかえりなさいませ」

「ただいま、バアミル」

「……ふふ。
何か、良いことがありましたね?」

「え? どうしてわかるの?」

ティアは荷物を渡しながら、驚いた顔で見上げる。

「お嬢様の表情を拝見すれば、このバアミルには一目瞭然でございます」

バアミルは柔らかく微笑み、丁寧に一礼した。

「実はね……」

ティアは少し照れながら、嬉しそうに話し始める。

「バイト先の店長が、芸能関係のプロデューサーさんを紹介してくれそうなの。
ミミィとアーシャにも連絡したら、すっごく喜んでて……
それが、なんだか私まで嬉しくなっちゃって」

「それは何よりでございます」

バアミルは深く頷いた。

「お嬢様なら、必ず皆様の心を掴まれるでしょう。
その可愛らしさと、内に秘めた輝き……
このバアミルが保証いたします」

「もう、バアミルったら」

ティアは少し照れくさそうに笑ったあと、ふと思い出したように言う。

「……ねぇ、バアミル。
お腹すいた~」

「はい。
すでにご用意しております」

バアミルは流れるような動作で料理を並べていく。

「いただきます!」

嬉しそうに食事を始めるティアの横顔は、
神でありながら、年相応の少女そのものだった。


冒険者として各地を巡っているセリアは、すでにティアが転生させた二人と接触していた。

最初に見つけたのは、男性の転生者――牧田。
彼はシグリスの街で落ち着きなく歩き回り、通りすがりの人々に話しかけては周囲を観察していた。

「転生者、牧田ですね?」

背後から落ち着いた声をかけられ、牧田は思わず振り返る。

「え……誰ですか?」

突然現れた銀髪の女性を凝視し、警戒心を隠さない。

「私はセリアと申します。
神ティアの使徒。
あなたを保護しに参りました」

「女神様の……使い?」

「はい。
神ティアは、あなた方転生者のことを案じておられます。
その命を受け、私が迎えに来たのです。
これから別の街へ向かいますが、よろしいですか?」

「は、はい……お願いします」

半信半疑ながらも、牧田は頷いた。


次に向かったのは、別の街――クタリス。
そこにいたのが、もう一人の転生者、北田舞だった。

転生して間もない彼女は、街の喧騒に完全に飲み込まれ、挙動不審な動きを繰り返していた。
だが、それ以上に転生者特有の魔力の質が、セリアにははっきりと感じ取れていた。

「北田舞ですね」

背後から声をかけられ、少女はびくりと肩を震わせる。

「えっ……?」

「私はセリアと申します。
神ティアの使徒で、あなたを迎えに来ました」

北田舞の不安そうな様子を見て、セリアは少しだけ声音を柔らかくする。

「今の様子を見る限り、かなり戸惑われているようでしたので。
神ティアも、あなた方の身をとても心配されています。
安全な街へご案内します」

「え……女神様が、私たちを……?」

「ええ。
神ティアは、お優しいお方です」

その言葉に、北田舞は一瞬ほっとしたような表情を見せたが、すぐに眉をひそめた。

「あの……失礼ですけど。
本当に女神様の使いなんですか?
いきなり声をかけられて、信じろって言われても……」

「当然の反応ですね」

セリアは少しも動じることなく、静かに頷いた。

「警戒心を持つのは大切なことです。
ですが、私が神ティアの使徒であることは事実です。
それでも不安でしたら……神ティアご本人に来ていただくしかありませんが」

その会話を聞いていた牧田も口を挟む。

「正直、俺も全部信じてるわけじゃない。
女神様と直接話せるなら、本物だって信じられるけどさ」

「なるほど」

セリアは少し考えるように目を伏せた。

「では、ここで少々お待ちください」

そう告げると、セリアの姿はふっと掻き消えた。


次の瞬間、セリアは屋敷で寛いでいたティアの前に現れる。

「主様。
少々、ご相談がございます」

その真剣な表情に、ティアはすぐに異変を察する。

「どうしたの?」

「転生者二名を保護しようとしましたが、
私が神ティアの使徒であることを信じてもらえませんでした」

「ああ……」

ティアは納得したように小さく頷く。

「ダクトスから聞いてたわ。
知らない人にいきなり神の使徒ですって言われても、信じないわよね」

「はい。
そこで、主様に直接お姿をお見せいただきたいのですが」

「……なるほど」

一瞬考えた後、ティアはきっぱりと言った。

「じゃあ、こう伝えて。
信じないなら自分たちで生き延びなさいって。
私は行かないわ」

「……御意」

セリアは一礼し、再び転生者たちのもとへ戻った。


「神ティアからの伝言です」

セリアは二人を前に、淡々と告げる。

「私を信じられないのであれば、
自分たちの力で生き延びなさい、とのことです。
保護を受けるかどうかは、お二人に任されました。
今ここで、お決めください」

「そ、そんな……見放されるんですか?」

「それに、本当に女神様がそう言ったのか、どう信じればいいんだよ……」

二人は顔を見合わせ、不安と疑念に揺れていた。

「わかりました」

セリアはきっぱりと言い切る。

「では、自力で生き抜くということでよろしいですね?」

「えっ、ま、待ってください!」

北田舞が慌てて身を乗り出す。

「もし……保護してもらえたら、何が変わるんですか?」

「住む場所と、教育を保証します」

迷いの末、北田舞は深く息を吸った。

「……わかりました。
私は、ついていきます」

「お、俺も……信じるよ」

放置されるよりは賭けるしかない――そんな表情で牧田も頷いた。

「承知しました」

セリアは静かに微笑む。

「では、移動します」

次の瞬間、転送魔法が発動し、三人の姿は光とともに消えていった。

新たな運命が、静かに動き始めていた。
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