毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十九章 転生者編

第百五十七話 転生者に神の祝福を

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アインラット王国は、蒼炎神ティアによって創造された新たな大陸と、多様な人種によって形作られた国家である。
初代国王マイルズ・アインラットは建国に際し、世界を与えた神ティアを讃え、王都をアルカティアと名付けた。

それから数百年。
王都アルカティアは比類なき発展を遂げ、近代化と魔導技術を融合させた世界屈指の大都市へと成長していた。
今や各国の経済と文化が交差する、世界の中心都市である。

セリアと二人の転生者は、そんな王都アルカティアへと足を踏み入れた。
ダクトスとの相談の結果、二人の住まいは学園の近くに用意されている。


セリアはまず、二人を王都最大の宗教施設。
蒼炎神ティア教・大聖堂へと案内した。

「ここが王都で最も由緒ある、蒼炎神ティア教の教会です。
まずは神の祝福を受け、新たな名を授かることをおすすめします」

荘厳な内部を進みながら、セリアは静かに説明する。

「名前を……もらうんですか?」

二人は驚いた表情で顔を見合わせた。

「はい。
神ティアの祝福とともに名を授かることで、この世界に確かな居場所が刻まれます。
この国では蒼炎神ティア信仰が深く根付いていますから、神より名を与えられた者は自然と受け入れられやすくなるのです」

「なるほど……それなら俺も、新しい名前が欲しいな」

そう話していると、奥から年配の神父が近づいてきた。

「これは使徒セリア様。
本日はどのようなご用件でしょうか」

「セスン神父。
この二人に、神ティアの祝福と名付けをお願いしたく参りました」

「おお……もしや転生者の方々ですな」

「ええ。
お願いできますか?」

「もちろんです。
では、お二人はこちらへ」

神父は二人を蒼炎神ティアの女神像の前へと導いた。


「蒼炎神ティアよ。
この二人に祝福を。
そして、この世界で幸せに生きるための名をお与えください」

神父が祈りを捧げた瞬間、女神像から柔らかな光が溢れ、二人を包み込む。

空間に、文字が浮かび上がった。

牧田冬馬

その名は淡く輝き、静かに消える。

続いて、新たな名が刻まれる。

スティルン・バナス

次に現れたのは、

北田舞

その名もまた消え去り、

ユナ・アミュ

二人の新たな名が、この世界に刻まれた。

「神ティアより、新しい名が授けられました。
以前の名は、記憶と存在から完全に消え去り、新たな名があなた方そのものとなります」

「え……前の名前、思い出せない……!」

「本当だ……俺もだ」

戸惑いながらも、二人の表情には不思議な納得と安堵が浮かんでいた。
新しい名は、どこか自然に胸に馴染んでいた。


「では、次は住まいです」

セリアは二人を連れて、学園近くの共同住宅へ向かった。
整った外観の建物は、学生用の居住区として管理されている。

「ここがユナの部屋です。
鍵はこちら」

セリアはモバイル端末と鍵を手渡す。

「家賃は学園負担です。
寮のような扱いになります。
制服一式はクローゼットに用意してあります。
このモバイルには電子通貨で五十万ギドルを入れてありますので、当面の生活費に使ってください」

「え……こ、こんなに……」

「生活に慣れたら、必要に応じてアルバイトなどをしてください」

「はい……ありがとうございます」

次に、スティルンの部屋へ案内する。

「条件は同じです。
困ったことがあれば、いつでも私に連絡を。
モバイルに連絡先は入っています」

二人に向き直り、最後に告げた。

「明日、学園へ行き、学園長ダクトス殿を訪ねてください。
詳しい説明は、そこで受けられるでしょう」

「本当に……何から何までありがとうございます」

「助かりました。
感謝します」

二人は深く頭を下げ、それぞれの部屋へと入っていった。

セリアはその様子を静かに見届けると、姿を消した。


ティアの屋敷。
セリアは転送で主の前に現れる。

「主様。
転生者二名を無事、住まいへ送り届けました。
明日、学園へ向かうよう伝えてあります。
以後はダクトス殿に引き継ぎます」

「セリア、ご苦労様。
ありがとう」

「いえ。
これも私の務めです。
お言葉、ありがたく頂戴いたします」

そう一礼し、セリアは静かに姿を消した。

新たな名、新たな生活、そして新たな運命が。
王都アルカティアの夜に、確かに根を下ろし始めていた。

ユナもスティルンも、部屋に生活に必要なものは一通り揃っていたため、その日は疲れもあって早めに就寝した。
慣れない世界、慣れない身体。
だが、不思議と眠りは深かった。

そして翌朝。
二人は用意されていた学園の制服に身を包み、並んで家を出た。

「スティルン、ちゃんと眠れた?」

歩きながらユナが声をかける。

「ああ、ぐっすりだよ。
ユナは?」

学園まではそれほど遠くない。
モバイルのナビを確認しながら歩けば、数分で到着する距離だった。

「私も疲れてたみたい。
すぐ眠れたわ。
それに……学園ってどんな所なのか楽しみ」

「ああ。
もう一回学生生活ができるなんてな。
正直、ワクワクしてる」

二人の表情には、不安よりも期待の色が勝っていた。


通学路には、同じ制服を着た学園生たちが大勢行き交っている。
談笑しながら歩く者、朝食を片手に急ぐ者。
その光景は、元の世界と変わらない「日常」そのものだった。

やがて大きな門をくぐり、校舎へと入る。

「ごめんなさい」

ユナは近くにいた女子生徒に声をかけた。

「職員室はどこですか?」

「あ、編入生ですか?
職員室なら案内しますよ」

にこやかにそう言って、彼女は二人を職員室の前まで連れてきてくれた。

「ありがとうございます」

二人は丁寧に頭を下げる。

職員室の扉を開け、ユナが一歩前に出た。

「おはようございます。
あの……ダクトス学園長はいらっしゃいますか?」

その瞬間、室内の教師たちの視線が一斉に二人に集まった。

「おはようございます。
学園長ですね。
少々お待ちください」

一人の教師が奥の部屋へ向かう。

しばらくして。
扉が開き、学園長ダクトスが姿を現した。

「おはようございます。
こちらへどうぞ」


二人は学園長室に通され、ソファに腰を下ろした。

「おはようございます。
セリアさんから、学園長に会うようにと言われました」

ユナは少し緊張した面持ちでそう告げる。

「ええ、待っていましたよ」

ダクトスは終始穏やかな笑顔だった。

「昨日、神ティアの祝福も無事に終わったと聞いています。
どうですか、この世界は?
転生して間もないですし、不安も多いでしょう」

「あ……私たちが転生者だと、ご存知なんですね」

「ええ。
私も神ティアの使徒ですから」

さらりと告げられ、二人は目を見開いた。

「ちなみに、転生者であることは無理に隠す必要はありませんよ。
この世界には様々な種族がいますから、多少の違いで驚く者はいません」

「じゃあ……クラスで俺が転生者だって話しても?」

スティルンが恐る恐る尋ねる。

「問題ありません。
ご自身の判断にお任せします」

ダクトスは続けた。

「この時期の入学になりますので、最初は戸惑うことも多いでしょう。
ですが、まずはクラスの皆さんと仲良くなり、学園生活を楽しんでください。
案内役を用意しますので、少しお待ちを」

そう言って、ダクトスは一度部屋を出た。


「はぁ……緊張するな」

スティルンが肩の力を抜く。

「ええ。
それに、神の使徒が普通に学園長をしてるなんて……凄い世界ね」

「異世界感、半端ないな」

「もしかしたら……神様本人も普通に生活してたりして」

「さすがにそれは…。」

そう話していると、扉が再び開いた。

「お待たせしました」

ダクトスの後ろから、制服姿の少女が入ってくる。

「ダクトス。
私じゃなくて良いと思うんだけど」

その人物はティアだった。

少し不機嫌そうな表情のまま、ダクトスの隣に腰を下ろす。

「あ……こちらは…。」

ダクトスが紹介しかけたところで、ティアが口を開いた。

「神ティアよ。
ちなみに、あなた達とは一度会ってるから、もうバラしちゃうね」

二人は一瞬、言葉を失った。

「でも、学園では神であることは伏せてるの。
だから、ここでは普通にティアって呼んで」

「え……?」

「あ……え?」

「女神様!?」

「マジか……!」

ティアはため息をつく。

「学園案内は私がするわ。
クラスも一緒だし。
ダクトスとセリアの計らいには正直納得してないけど」

腕を組み、不満げに続ける。

「でも、迎え入れた以上は責任があるもの」

「ははは。
神ティア、それは“計らい”というより配慮ですよ」

「はいはい。
自分たちが楽したいだけでしょ。
私は暇だし」

「いえいえ、私はかなり忙しいですが」

「セリアも忙しいって言ってたわよ。
わかってるわよ」

ティアは立ち上がり、振り返る。

「さあ、二人とも行くわよ」

「は、はい!」

「よ、よろしくお願いします!」

慌てて立ち上がり、二人はティアの後を追った。

学園の廊下に響く足音の中。
転生者たちの、新しい学園生活が静かに始まろうとしていた。
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