毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十九章 転生者編

第百六十話 歩み始めた歌姫

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それからも三人は、あらゆる可能性を探して動き続けた。
別の芸能事務所に駆け込み、プロデューサーに直談判し、テレビ局にも足を運んだ。

だが、結果はどこも同じだった。

評価されるのは、いつもティアだけ。
ミミィとアーシャは、現実の厳しさを思い知らされるだけに終わった。

「もう嫌だ~!」

お馴染みのカフェで、ミミィはテーブルに突っ伏す。

「どうしてそんなにティアの歌声って凄いのよ~!
私たちが隣に立つと、余計に下手に聞こえちゃうじゃない!」

「仕方ないわ」

アーシャは苦笑しながらも、どこか達観した様子だった。

「私たちは、所詮おまけ。
ミミィも、もう分かってるでしょ?」

「……」

ティアは、二人にどう声をかけていいのか分からず、視線を落とす。

「もう、あれね」

ミミィが顔を上げる。

「学園での活動だけ、頑張りましょ」

「……」

「ティアはプロになりなさい」

ミミィは真剣な表情で、まっすぐティアを見る。

「私たちが一緒にいるせいで、ティアの将来を台無しにしてるみたいで……
それが、嫌なのよ」

「私もミミィの意見に賛成」

アーシャも静かに頷いた。

「ティアは本当に特別な才能の持ち主。
プロになって、世界中の人を癒すべきよ」

「大袈裟よ」

ティアは苦笑する。

「私たちは、三人で楽しいからやってるのよ」

「だからこそよ」

ミミィは畳みかける。

「三人でのアイドル活動は、学園で続ければいい。
プロの世界では、グループだってソロだってやってるでしょ?」

「ティアの歌声はね、世界を救うのよ」

ティアは少し困ったような顔をする。

「……ミミィもアーシャも、それでいいの?
アイドルとしてデビューする夢、諦めるの?」

「諦めないわよ!」
ミミィが勢いよく立ち上がる。
「私もアーシャも、絶対に諦めない!
今はただ、力が足りないだけよ!」

「そう!」
アーシャも立ち上がり、ミミィの肩に腕を回す。
「これから練習して、歌もダンスも上手くなって、
いつか必ず認めさせるの!」

二人は肩を組み、笑い合う。

その姿を見て、ティアの表情がふっと和らいだ。

「……わかったわ」
ティアは静かに頷く。
「私、カムナムさんと話してみる」

「うん!」

「私たち、ティアのプロデビューを全力で応援するから!」

「ありがとう」

三人は、再び笑顔を取り戻し、カフェでしばらく夢を語り合った。


次の日。
ティアはプロデューサーのカムナムを訪ねることにした。
放課後、以前渡された名刺に書かれた番号へ電話をかける。

「はい、カムナムです」

「あのう、先日はありがとうございました。
ティアです」

「おお! 待っていましたよ。
考えてくれましたか?」

「はい。それで、改めてお話を伺いたくて」

「なるほど。では、こちらから近くまで行きましょうか。
今どちらです?」

「いえ、私が伺います」

「そうですか。ではATSまで来てください。
受付には伝えておきます」

「はい、分かりました」
電話を切ると、ティアはそのまま転送魔法でATS放送局の前へと移動した。
建物に入って受付へ向かう。

「あのう、プロデューサーのカムナムさんにお会いしたいのですが」

「はい、伺っております。
少々お待ちください」

受付の女性が内線で連絡を取る。

しばらくすると――
廊下の奥から、息を切らせたカムナムが駆けてきた。

「やあ! お待たせ!
来てくれて本当に嬉しいよ! 
さあ、どうぞ!」

慌てて走ってきたのか、額にはうっすら汗が浮かんでいる。

「そんなに急がなくても大丈夫でしたのに……すみません」
ティアが苦笑すると、

「いやいや! 
連絡が来なくて落ち込んでたんだ。
だから、電話が来た瞬間、嬉しくてさ」
照れたように笑うカムナムに、ティアも自然と微笑み返す。

エレベーターで上階へ上がり、会議室の前に到着した。

「さあ、どうぞ」
カムナムはドアを開け、手で押さえながらティアを招き入れる。

部屋の中には、以前会ったキャシーとロベルト、
そして見覚えのない男性が一人、席に座って待っていた。

「ティアさん!」
キャシーはティアの姿を見るなり立ち上がり、勢いよく駆け寄ってきて、軽く抱きしめる。

「ど、どうも……」
突然の距離感に、ティアは少し驚きつつも応じた。

全員がテーブルを囲んで腰を下ろすと、カムナムが切り出す。

「今日はね、ATSの社長にも同席してもらっている」

先ほどの男性が軽く会釈する。

「ATS代表取締役社長のドルーラです。
カムナムから“とんでもない才能の子がいる”と聞いてね。
ぜひ会ってみたいと思ったんだが……」
ドルーラはティアを見つめ、目を丸くした。
「想像以上に素敵な子で驚いていますよ」

「ありがとうございます」
ティアは少し照れ、頬を淡く染める。

「さて、本題に入る前に――」
カムナムが微笑む。
「軽くレコーディングスタジオで歌ってみない?
スタジオの空気を感じた方が、イメージも湧きやすいだろう」

キャシー、ロベルト、ドルーラも頷いた。

「はい。
とても興味があります」

一同はレコーディングスタジオへ移動する。
新しく整ったスタジオに足を踏み入れた瞬間、ティアの瞳がきらめいた。

「どう? 
あのブースに入って、マイクで音を取ってみよう。
曲は、この前歌ってくれたものでいいよ」

ティアはブースに入り、マイクの前に立つ。
ヘッドフォンを装着すると、自然と胸が高鳴った。

イントロが流れ始める。
緊張は、まったくなかった。
ティアは、ただ歌い始めた。

その声は、空間を満たし、聴く者の心を掴んで離さない。
まさに究極の歌姫と呼ぶにふさわしい響きだった。

「……す、凄い……」
ドルーラは言葉を失い、呆然と呟く。

「やっぱり……別格ね」
キャシーは目を輝かせ、完全に魅了されていた。

「将来が楽しみだ」
ロベルトも、抑えきれない笑顔を浮かべる。

歌い終え、ティアがブースを出て戻ってくる。

「お疲れ様。
どうだった?」
カムナムが尋ねると、

「はい。
とても楽しかったです」
ティアは素直に答えた。

転生前、レコーディングスタジオに立った経験がある。
今ほどではなかったが、歌には自信があり、
アイドルの中でも頭ひとつ抜けた存在だった。
だからこそ、この空気はどこか懐かしく、
同時に今の自分が、さらに高みへ立っていることも、はっきりと実感していた。

「うちの練習生と混じって、やってみない?」
カムナムが唐突に切り出した。

「練習生?」
聞き慣れない言葉に、ティアは小さく首を傾げる。

「そう。
デビューを控えた卵たちさ。
ティアさんにも、同じ目標に向かって努力する子たちの熱量を感じてほしいんだ」
カムナムは身振りを交えながら、熱を込めて語る。

「……それって、お金はかかりますか?」
ティアが最初に気にしたのは、そこだった。
バイトをして生活費を稼ぎ、自分のことは自分で賄う。
それが彼女の当たり前だった。

「大丈夫。
練習生にはちゃんと報酬も出るよ。
だから安心して」

「それに、すごく楽しいわよ」

カムナムとキャシーが、穏やかな笑顔で頷く。

「お金までいただけるなんて……すごいです。」
ティアはほっとしたように微笑んだ。

「よし! 
じゃあ早速、練習生たちに会ってみよう!」
カムナムは嬉しそうに声を弾ませる。

「は、はい……」
その勢いに少し押されつつ、ティアは返事をした。

「もう、カムナム。
熱くなりすぎ。ティアさんが戸惑ってるじゃない」
キャシーが苦笑しながらカムナムの肩を軽く掴む。

「そうそう。
まあ、一度見てから、ゆっくり考えてくれていいからね」
ロベルトも優しくフォローする。

「はい」
ティアは笑顔で頷いた。


その後、ティアは別棟にある練習生用の施設へ案内された。
ATS本館のすぐ隣に建つその施設には、ダンスレッスン室、ボイストレーニング室、スポーツジムが揃い、宿泊設備や温泉まで備えられている。

その中の一室。
ダンスレッスン用スタジオに足を踏み入れると、音楽に合わせて踊る男女数人が、汗を流しながら真剣な表情で身体を動かしていた。

「ここではダンスレッスンをしているの。
もうデビューが決まっている子たちは振り付け中心。
まだの子たちは基礎からね。
ティアさんは、まずはダンスレッスンからよ」

キャシーの説明を聞きながらも、ティアの視線は自然と練習生たちに向いていた。

誰一人、こちらを気にしていない。
それほどまでに、全員がレッスンに集中している。

「……すごいですね。
私たちの存在に気づかないくらい集中してる」

その姿は、眩しいほど真剣だった。

「そうね。
じゃあ、少し紹介しようか」
キャシーが声を張り上げる。
「はいはい! みんな~! 一旦集合!」

音楽が止まり、息を整えながら練習生たちが集まってくる。

「ふぅ~!
おおっ、すげぇ! 可愛い子じゃん!」

「なに? 新しい練習生?」

「うわぁ……美人さん……」

視線が一斉にティアへ向けられる。

「この子はティアさん。
あなたたちと一緒に、練習生として参加する予定よ。
正式に決まったら、仲良くしてあげてね」
キャシーがティアの隣に立って紹介した。

「可愛い~! 私はナシー!」

「ちょっと! 私が先に声かけようと思ったのに!
私はアリスよ!」

「おいおい、ずるいぞ!
可愛いな~! タイプだぜ!
俺はマクセル!」

「抜け駆けすんなよ!
俺はイゼルだ!」

四人は我先にとティアを囲む。

「あ、ティアです。
よろしくお願いします」
その勢いに少し戸惑いながらも、ティアは丁寧に挨拶した。

「こらこら。
まだ正式に決まったわけじゃないのよ。
ティアさんには、これから考える時間が必要なの」
キャシーが間に入ると、

「待ってるぜ!」

「待ってるわ!」

そう声を掛けて、練習生たちは手を振りながら再びレッスンへ戻っていった。

「ごめんね。
元気だけが取り柄な子たちだから」
キャシーは、ティアの様子を気にしつつ苦笑する。

「いえ……」
そしてティアは、一歩前に出て、はっきりと言った。
「キャシーさん。
私、練習生をやりたいです」

「……え?」

「きっと楽しいと思います。
みんなで切磋琢磨する感じ、すごく好きです。
お願いします!」
満面の笑みで頭を下げるティアに、キャシーは一瞬言葉を失った。

「え、ええ……本当に?
もう決めちゃっていいの?」

「はい!」
迷いのない返事だった。

「……うふふ」
キャシーは、思わず笑みをこぼす。

その後、カムナム、ロベルト、ドルーラ――
誰もが、この決断を心から喜んだのは言うまでもなかった。
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