ヘルヴィルのまったり日和

やらぎはら響

文字の大きさ
15 / 27

3

しおりを挟む
 室内に戻りテーブルセッティングされた場所に来ると、シュークリットにエスコートされたまま椅子に乗せられた。
 カスティとエイプリルは座らずに待機なのは、いつものことだ。

「今日は色んな種類のチョコを持って来たんだ」

 シュークリットの言葉に、待機していたメイドが長方形の白い皿をテーブルに置いた。
 覗き込むと、等間隔にトリュフ型のチョコレートが並んでいる。
 すっかりチョコレートにハマッてしまったヘルヴィルにとっては嬉しいお土産だ。
 いつもと違って茶色のチョコレートだけでなく、白や赤などのチョコレートも並んでいてヘルヴィルは首を傾げた。
 白いのはホワイトチョコレートだろう。
 食べたことはないが知っている。
 赤はさっぱり味の検討がつかなかった。

「いろ、ちあうねー」
「白いのは一番甘いよ。赤いのはベリー系で、ヘルヴィルには少し酸味があるかもしれないね」
「おぉ」

 説明してくれるのを聞きながら、ヘルヴィルは目を輝かせた。
 どれも綺麗で美味しそうだ。

「好きなの食べていいよ。どれがいい?」
「んん……しろいの!」

 悩んで一番甘いものにした。
 ベリー系とやらも迷ったけれど、変わり種っぽいのでまずは普通のものからだ。
 シュークリットが白いチョコレートを一粒ひょいとつまんだ。
 取ってくれるのを優しいなとヘルヴィルは思う。
 ヘルヴィルの腕も指も短いので、座っていると動きが制限されるのだ。
 正直、食事もお茶もするのは好きだけれど難しいと感じている。
 シュークリットが取ってくれるのなら楽ちんだ。
 ヘルヴィルは何のためらいもなく、あーんと口を開けた。

「……」
「……」

 何故かチョコレートを持ってシュークリットが動きを止めた。
 何故だろう。
 早くチョコレートを食べたいとじっと見上げてしまう。

「ヘ、ヘルヴィル様!」
「う?」

 何故かエイプリルが慌てたように名前を呼んでオロオロしていた。
 ますます意味がわからない。
 とりあえず口を開けているのが疲れてきたなと思ったら。

「……っふ」

 シュークリットが吐息で笑った。
 どこか色づいたような笑い方だ。
 そのままやっと白い指先がホワイトチョコレートを口に入れてくれた。

「ほらヘルヴィル」
「んむ」

 ぱくりと勢い余って指ごと口に入れてしまった。
 再び口を開けようとしたけれど、想像以上に甘いチョコレートに夢中になって指ごともごもごしてしまった。

「くく、くすぐったいよ」
「んむ、ごめんなしゃい」

 口を小さく開けて謝罪すれば、子供にしては長い指が引き抜かれる。

「ふふ、いいよ」

 すっかりベトベトになった指に、ササッとカスティがハンカチを差し出す。
 それで丁寧に指を拭くシュークリットを見ながら、いつもより甘いチョコレートがなくなるまで堪能した。

「おいしい?」
「これしゅき!」

 普段のチョコレートよりも甘いけれど、優しい甘さだからくどくない。
 たった一粒でヘルヴィルはホワイトチョコレートを気に入った。

「いつものより?」
「むむ……むじゅかしい。まろやか」

 眉を小さく寄せて悩む姿に、シュークリットがおかしそうに笑う。
 そして今度は赤いチョコレートをつまみ上げた。

「じゃあ次はこっち。ベリー系だよ」
「あー」

 ぱかりと口を開ける。
 さっきとは違ってすぐにチョコレートは口に入れられた。
 今度は指を食べないように、シュークリットが手を引いてから口を閉じる。
 もぐもぐすれば、甘酸っぱい味が口内に広がった。
 チョコレートの甘さもしっかりあるのに、酸味もある。

「……」

 無言でもぐもぐしていると、シュークリットが首を小さく傾げた。

「あれ?苦手だった?」

 どうやら無言だから気に入らなかったように見えたらしい。
 そうではない。
 不思議な味に浸っていただけだ。
 しっかり飲み込んでから、ヘルヴィルはふるふると首を振った。

「んーん、おいしー!でもふしぎなあじ」
「不思議……ベリー系食べたことない?そうだな、苺とか」
「……ない?」

 なかったような、どうだっただろうかと記憶を掘り起こす。
 なかった気がする。
 生前の施設でクリスマスだけ小さな苺のショートケーキが出てきたけれど、下の子たちにいつも取られて食べられなかった。
 結構家庭に問題ある子を引き取ったりもしていた施設らしく、癇癪持ちなどが多かったから生前のヘルヴィルは巻き込まれるくらいならと言われるままに何でも渡していた。
 おかげで日々、不人気のおかずくらいしか口にしていない。
 バイト代を貯めて貯金に余裕が出来たら、ケーキ屋で自分の好きなケーキを食べるのが目標であり楽しみだった。
 そんなわけで美食大国で生まれ育ったのに、あんまり美味しい食べ物の記憶がない。
 ちょっと残念だなとヘルヴィルは思った。
 そんなヘルヴィルの脳内などわからないシュークリットが、エイプリルに視線を向ける。
 エイプリルは一瞬びくついたあと、一歩前に出た。

「ヘルヴィル様は最近まで食にまったく興味を示さなくて、ほんの少し口にすればいい方だったんです」

 そうなのだ。
 新生ヘルヴィルになる前のヘルヴィルの記憶に、食事を美味しいとか楽しいとか感じた思い出がまったくない。
 実は家族で食事をするようになったのは記憶によれば二歳半からだ。
 それまでは一人自室だったらしい。
 二歳からしか記憶がないので実質半年しか一人の食事の思い出はないけれど、もしかしたら小さかったから自室だったのではとヘルヴィルは思っている。
 エイプリルの説明にカスティがなるほどというように頷いた。

「だから食べる量が少ないんですね。食べなきゃ胃が大きくならない」
「もしかしてヘルヴィルは同じ年の子供に比べても、食べる量が少ないのかな」

 シュークリットが確認するようにエイプリルへ視線を流す。
 エイプリルがごきゅっと一瞬喉を鳴らすと、頬をわずかに染めてから首をゆるく振った。

「申し訳ありません。私はヘルヴィル様以外の幼子と関わったことがないので、わかりません」
「俺も関わりがあるなかでの最年少はシュークリット殿下ですね」
「私も自分が一番年下だな」

 年上組三人は無言で視線を交わし合った。
 ヘルヴィルはチョコレートをもうひとつ食べたいけれど、自分で取ってしまってもいいだろうかとチラチラと皿に視線を向ける。
 数秒のあいだ無言だったシュークリットが、二人から目線を外してヘルヴィルに向き直った。
 その目はどこか真剣だ。

「ヘルヴィル、これからはなるべくお菓子を持ってくるようにするから、量を食べられるようになろう」
「いやいや、お菓子ばっかりはよくないですよ。今の許容量じゃお菓子食べたらご飯入らなくなるの目に見えてますって」

 シュークリットの言葉に返事をする間もなく、カスティが慌てて言い募る。
 シュークリットは「そうか……」と真剣な顔のまま顎に手を当てた。
 何かを考えるように唇を親指でなぞる仕草がどこか卑猥さを醸し出していた。

「何か栄養のとれるスープでもこまめに飲ませる方がいいのか……」

 しかしエイプリルがサッと顔色を悪くして、ブンブンと首を振った。

「それはそれで水分ばかりだとお腹壊してしまうのでは……脱水になって死んでしまうかもしれません!」
「最悪の事態を想定しすぎでしょ」

 ひいいと顔をひきつらせるエイプリルに、カスティが冷静に言葉を挟む。
 相変わらずネガティブだなあとヘルヴィルはいっそ関心していた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

処理中です...