ヘルヴィルのまったり日和

やらぎはら響

文字の大きさ
17 / 27

5

しおりを挟む
 それ以来、シュークリットはチョコレートを少しだけ持ってきてくれるようになった。
 初日に並んだたくさんのチョコレートをヘルヴィルがすべて食べようとしたので、少し食べるだけの量しかテーブルに載せない方がいいとなったことをヘルヴィルは知らない。

「はい、今日のチョコレートだよ」

 今日も今日とてシュークリットによってチョコレートが持参されていた。
 テーブルには五粒ほどのチョコレートが並べられている。

「ちょこ!」

 うはっとヘルヴィルが嬉しそうに笑う。
 シュークリットとのお茶の時間はフォクライースト家の料理人がおやつも準備してくれるけれど、今のところ一口で幸せになるチョコレートがヘルヴィルのなかでは最優先だ。

「今日は生チョコというものが手に入ったから持ってきたよ」
「なま」

 聞いたことがあるぞと思う。
 この世界にあるのかは知らないけれど、生前の世界にはバレンタインというチョコレートの祭典があった。
 コンビニもそれ用の商品は売っていた。
 チョコレートがこんなに美味しいなら一度くらいバレンタインのチョコレート売り場に行ってみたかったなとヘルヴィルは思いつつ、そんなイベント時によく見た生チョコとやらに心躍らせた。

「フォークで刺せるから、それで食べてごらん」

 フォークで食べるのかと小さく華奢なフォークで寄せられた皿に乗っている、小さな四角いチョコレートを刺した。

「おお、やわこい」

 固いと思っていたチョコレートにやすやすとフォークが刺さって少し驚く。
 そのままあーんと口を開けて食べた。
 甘さはちょうどいい。
 いつもと違うのはその柔らかさだった。
 噛むとどんどん溶けていく。
 いつもの一粒チョコレートとは全然違った。

「おいしー」

 もむもむと口を動かして飲み込む。
 満足気に笑うと、それはよかったとシュークリットが微笑んだ。
 その笑顔が艶やかしい。

「最近はパン以外もちゃんと食べてる?」
「あい」

 ちゃんとパンの量は減らしたので元気よく頷いた。

「すーぷすき」
「スープ……」

 そうなのだ。
 先日パンを減らしてほかの料理も食べる約束をしたから、泣く泣くパンは半分でやめて一番近くにあったスープをヘルヴィルは飲んだ。
 そうしたら濃厚でとても美味しかったのだ。
 ポタージュと言われたスープはもったりとしていて、お腹にもよくたまった。
 何がどうポタージュなのかは知らない。
 生前コーンポタージュはコンビニにあったけど施設のポタージュにコーンは入ってなかった。
 だから多分なにかポタージュっぽいスープは出たけれど、材料は知らない。

「……スープだけ?」
「う?ぱんもたべてゆ」
「……」

 ヘルヴィルの返答に、シュークリットが黙ったままエイプリルへ目線を向けた。
流し目のような眼差しにエイプリルが頬を赤くしながら、姿勢をビシッと正す。

「ヘルヴィル様は最近スープが気に入ってしまって、パンの量は減ったのですが……もともと食べる量が少なすぎて、その二種類で満腹になってしまうみたいです」
「ハマったら一直線タイプみたいですね」

 エイプリルの説明にカスティが感想を呟くと、シュークリットが困惑した表情を浮かべた。
 そのあいだにヘルヴィルが最後の生チョコレートにフォークを刺して口に入れる。

「スープなんて飲み物だろう?腹にたまるものじゃないと思うんだが」
「俺もそう思いますけど……」

 シュークリットの言葉にカスティが顔を見合わせて同意する。
 そのまま二人がエイプリルに視線を向けると、びくりと肩を跳ねさせた。

「わ、私はスープが結構お腹にたまります」

 エイプリルの自己申告に、少しだけシュークリットが驚きを見せる。

「そうなのか。人と食事なんてしないし、してもカスティくらいだから量を食べるのが普通だと思っていた」
「まあ俺は育ちざかりですし。一番年上なのはエイプリルになりますけど」
「私はどちらかといえば小食なので……」

 二人の視線にエイプリルが肩を寄せて縮こまる。
 シュークリットは気にせず、うーんと腕を組んで小さく唸った。

「スープの量を減らして肉や野菜を食べる量を増やした方がいいかもしれないな。理想は満遍なく食べることだが」
「びう、すききらいない」

 くぴくぴとグラスのオレンジジュースを飲んでいたヘルヴィルが、グラスをテーブルに戻して胸を張る。

「そうなのか?」

 その誇らしげな様子にシュークリットは小さく笑って赤色の癖毛をひと撫でした。

「えらいじゃないですか」

 カスティにも褒められたので、ヘルヴィルは渾身のドヤ顔を披露した。
 緑の目がキラキラと自信満々だ。
 ぷくりと小さく鼻の穴が広がっている。
 それを見て、エイプリルが言いにくそうに口を開いた。

「あのう……ヘルヴィル様は好き嫌いするほど種類を食べたことがないです」
「……」
「……」

 エイプリルの言葉にシュークリットとカスティがチラリとヘルヴィルを見下ろす。
 ヘルヴィルはドヤ顔のまま、何だろうと首を傾げた。

「食事をまともにとりだしたのが本当に最近で、それまでは食事と呼べる量も口にしなくてですね」
「え!?それでこんなドヤ顔?」

 カスティが驚いた顔でヘルヴィルを見下ろした。
 シュークリットがはあと額に手を当ててため息を吐く。

「侯爵はヘルヴィルの食事に口を出さないのか?」
「食事は家族でとられていますが、無理をさせなくていいと……」

 シュークリットの眉間に皺が寄った。
 綺麗な顔に皺が寄ると伸ばしてあげたくなるなとヘルヴィルは思った。
 そういえば家族みんな眉間に皺が寄りがちな気がする。
 機会があれば伸ばしてあげようと、一人うむうむと頷いた。
 そんな皺を寄せたシュークリットとは対照的に、カスティが驚いたようにひょいと眉を上げた。

「家族で食事なんて意外ですね。バラバラに食べる家が多いのに」
「なかよしでごはんしてる」

 胸を張って教えてあげると、カスティが奥歯に何か挟まったような微妙な顔をしていた。
 見ればシュークリットも似たような顔をしている。

「仕方ない……しばらくは種類を増やすより量を優先して胃を大きくする方向だな」
「まあ下手に嫌いなものが出来て食事をしなくなっても困りますしね」
「とりあえず食事をとるようになったばかりなら、興味を持たせつづける方が大事だろうな」

 何やらシュークリットとカスティのあいだで結論が出たらしい。
 頷き合っているので、ヘルヴィルもつられて頷いておいた。
 そんなヘルヴィルにシュークリットが目を合わせて艶やかに微笑む。

「今は食べることが好きみたいだし」
「たべうのしゅき」

 量が入らないのは不満だけれど、生前に比べて今生は素晴らしい食生活だと思っている。
 なのでにっこにこで頷いておいた。

「うん。いっぱい食べれるようになろうね」
「あい!」

 シュークリットの言葉に、いっぱい食べれるようになるを心のやりたいことリストの項目に書き加えながら、右手をしゅぱりと上げていい子のお返事をした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...