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本題に入らなければ。
「おこじゅかい、ほしい」
「おこずかい?」
「う!こえ、りっとにもやったの」
ヘルヴィルは首から下げている金細工に縁どられた青い石のペンダントの鎖部分を持って、グレンによく見えるように示してみせた。
グレンの眉間に皺が一本追加される。
鋭い眼差しがエイプリルを一瞥した。
この父親は顔の造形がすべて鋭いなと、ヘルヴィルはぽやっと思う。
「これは?」
「ああああ、あの、殿下がヘルヴィル様にプレゼントだと」
エイプリルが動揺を前面に出した声で言い募る。
後ろを振り向いて見れば、今にも倒れそうな顔色だ。
「エイプリル。以前から何かあればすべて報告するように言っていたはずですね」
クリーズの声がヒヤリと響く。
「あ!す、すみません」
あと一息で泣きそうだった。
業務を忘れていたらしい。
クリーズの言い方的にこの注意を受けるのは、はじめてではないようだった。
業務に慣れていないのかもしれない。
「それで、何故小遣いになるのだ」
小さくなるエイプリルにふむふむと見やっていると、グレンが静かに口を開いた。
そちらに向き直ると、ヘルヴィルはペンダントを堂々と掲げて見せる。
「ぷえぜんとこうかん、しゅゆ」
「交換?」
「おかえし、かう」
鎖から手を離してふんと鼻息を出すと、グレンがこれ以上ないくらい眉を寄せた。
限界まで寄せられた眉に大丈夫かと心配してしまう。
指で伸ばしてあげるべきではないだろうか。
(おこじゅかい、やっぱりらめけいかな?)
この反応はアウトだろうか。
こてんと首を傾ける。
「……殿下には私から何か贈ろう」
「ええ!」
そんな、と思う。
せっかくのプレゼントを渡す第一号なのに、それではあまりに味気ない。
女子高生がクリスマスに友人とプレゼント交換をするとキャッキャッと楽しそうにしていたので、自分もぜひやってみたいのに。
「びうがわたしゅ!」
「……」
勢い込んで、しぱっと右手をまっすぐ上げる。
ぷくぷくの指先までピンと伸ばした。
グレンがじっとヘルヴィルを五秒ほど見つめてから、クリーズをチラリと見やる。
クリーズが心得たように柔和に笑った。
生前、祖父母などいなかったし年配の人とも関わりがなかったので、クリーズと話すのは新鮮だ。
執事なんてグレンといつも一緒にいるのだから、広義で祖父母枠に入れてしまってもいいのではないだろうかと思ってしまう。
しかしエイプリルやカスティ同様に仕事でもあるわけなので、難しいかもしれない。
「商人を呼んで、ヘルヴィル様に選んでいただくのはどうでしょうか」
「……そうだな」
「びうがえやぶの?えやんでいい?」
商人を呼ぶというのがいまいちわからないけれど、プレゼントは自分で選んでいいらしい。
グイグイ質問を投げかけると、わずかに顎を引いたあとグレンは頷いた。
いいらしい。
「おこじゅかいは?」
結局、商人とやらを呼んでもお金はいるだろうと不思議に思う。
「ヘルヴィル様が払う必要はありません」
クリーズが穏やかに言うけれど、ヘルヴィルには衝撃が走っていた。
え、お金は払わないのか、と。
駄目ではないだろうか。
お金持ちだからツケとか言っちゃう系だろうか。
(つけってらいじょぶなの?)
思わずどよんとした空気で眉を八の字にしてしまう。
そんなヘルヴィルを見てか、グレンの目尻がわずかにピクピクと動いた。
眉といい、表情は変わらないのに何故一部だけ動くのだろうと不思議でしかない。
じっとグレンを見上げると、顔を背けられた。
視線の先にはクリーズがいる。
「……ヘルヴィルに小遣いを」
グレンの固く強張った声に、クリーズがわずかに眉を上げていたけれど、すぐに準備してまいりますと部屋を出て行った。
そのあいだグレンの顔を何とはなしに、じっと見上げる。
視線に気づいたのか、再びヘルヴィルに目線を向けたグレンは、そのままじっと見つめてくる。
美中年だなあとまじまじ見ているヘルヴィルに対して、グレンは何を考えているのかわからない顔でヘルヴィルから視線をそらさない。
しばらくお互い微動だにせず見つめ合っていると、クリーズが戻ってきた。
その手には小さな袋が載せられている。
「ヘルヴィル様、こちらが旦那様からのお小遣いです。これはお部屋に大事に置いててくださいね」
「あい!」
目の前に膝をついたクリーズへとヘルヴィルが両手を差し出したら、袋を載せてくれた。
意外と重い。
ジャラリと音がするので、結構入っているらしい。
やはり子供のお小遣いだと小銭ジャラジャラになるよな、と納得する。
「ありあとー」
立ち上がってグレンの方へ控えたクリーズと父親に、にぱりと笑う。
お礼は大事である。
(へやにもどって、リットにあげゆものかんがえよ)
何となくでも決めておいたほうがいいだろう。
商人を呼ぶのがどういう感じなのかは、あとでエイプリルに聞けばいい。
買い物に行くのとは違うかもしれないけれど、とりあえず目的は達成できた。
くるりとエイプリルのいる扉の方へ振り返ると、彼女は真っ青な顔で伏し目にしている。
「おへやもどゆ」
「は、はい!」
扉の方へてこてこ歩くと、エイプリルが慌てて失礼しますと一礼した。
「……ヘルヴィル」
「う?」
完全に背中を向けていたグレンに名前を呼ばれて、ヘルヴィルは体を振りかえらせてグレンを見上げた。
まだ何か用があるのだろうか。
「……」
「……」
しばらく見つめ合いが続く。
お別れの挨拶かな? と思い、バイバイと手を小さく振ってみた。
その様子に、グレンがじっとりとした眼差しのあと、ぎこちなく頷いた。
やはりお別れの挨拶だったらしい。
うむと満足して頷くと、ヘルヴィルはエイプリルと連れ立って執務室を後にした。
「おこじゅかい、ほしい」
「おこずかい?」
「う!こえ、りっとにもやったの」
ヘルヴィルは首から下げている金細工に縁どられた青い石のペンダントの鎖部分を持って、グレンによく見えるように示してみせた。
グレンの眉間に皺が一本追加される。
鋭い眼差しがエイプリルを一瞥した。
この父親は顔の造形がすべて鋭いなと、ヘルヴィルはぽやっと思う。
「これは?」
「ああああ、あの、殿下がヘルヴィル様にプレゼントだと」
エイプリルが動揺を前面に出した声で言い募る。
後ろを振り向いて見れば、今にも倒れそうな顔色だ。
「エイプリル。以前から何かあればすべて報告するように言っていたはずですね」
クリーズの声がヒヤリと響く。
「あ!す、すみません」
あと一息で泣きそうだった。
業務を忘れていたらしい。
クリーズの言い方的にこの注意を受けるのは、はじめてではないようだった。
業務に慣れていないのかもしれない。
「それで、何故小遣いになるのだ」
小さくなるエイプリルにふむふむと見やっていると、グレンが静かに口を開いた。
そちらに向き直ると、ヘルヴィルはペンダントを堂々と掲げて見せる。
「ぷえぜんとこうかん、しゅゆ」
「交換?」
「おかえし、かう」
鎖から手を離してふんと鼻息を出すと、グレンがこれ以上ないくらい眉を寄せた。
限界まで寄せられた眉に大丈夫かと心配してしまう。
指で伸ばしてあげるべきではないだろうか。
(おこじゅかい、やっぱりらめけいかな?)
この反応はアウトだろうか。
こてんと首を傾ける。
「……殿下には私から何か贈ろう」
「ええ!」
そんな、と思う。
せっかくのプレゼントを渡す第一号なのに、それではあまりに味気ない。
女子高生がクリスマスに友人とプレゼント交換をするとキャッキャッと楽しそうにしていたので、自分もぜひやってみたいのに。
「びうがわたしゅ!」
「……」
勢い込んで、しぱっと右手をまっすぐ上げる。
ぷくぷくの指先までピンと伸ばした。
グレンがじっとヘルヴィルを五秒ほど見つめてから、クリーズをチラリと見やる。
クリーズが心得たように柔和に笑った。
生前、祖父母などいなかったし年配の人とも関わりがなかったので、クリーズと話すのは新鮮だ。
執事なんてグレンといつも一緒にいるのだから、広義で祖父母枠に入れてしまってもいいのではないだろうかと思ってしまう。
しかしエイプリルやカスティ同様に仕事でもあるわけなので、難しいかもしれない。
「商人を呼んで、ヘルヴィル様に選んでいただくのはどうでしょうか」
「……そうだな」
「びうがえやぶの?えやんでいい?」
商人を呼ぶというのがいまいちわからないけれど、プレゼントは自分で選んでいいらしい。
グイグイ質問を投げかけると、わずかに顎を引いたあとグレンは頷いた。
いいらしい。
「おこじゅかいは?」
結局、商人とやらを呼んでもお金はいるだろうと不思議に思う。
「ヘルヴィル様が払う必要はありません」
クリーズが穏やかに言うけれど、ヘルヴィルには衝撃が走っていた。
え、お金は払わないのか、と。
駄目ではないだろうか。
お金持ちだからツケとか言っちゃう系だろうか。
(つけってらいじょぶなの?)
思わずどよんとした空気で眉を八の字にしてしまう。
そんなヘルヴィルを見てか、グレンの目尻がわずかにピクピクと動いた。
眉といい、表情は変わらないのに何故一部だけ動くのだろうと不思議でしかない。
じっとグレンを見上げると、顔を背けられた。
視線の先にはクリーズがいる。
「……ヘルヴィルに小遣いを」
グレンの固く強張った声に、クリーズがわずかに眉を上げていたけれど、すぐに準備してまいりますと部屋を出て行った。
そのあいだグレンの顔を何とはなしに、じっと見上げる。
視線に気づいたのか、再びヘルヴィルに目線を向けたグレンは、そのままじっと見つめてくる。
美中年だなあとまじまじ見ているヘルヴィルに対して、グレンは何を考えているのかわからない顔でヘルヴィルから視線をそらさない。
しばらくお互い微動だにせず見つめ合っていると、クリーズが戻ってきた。
その手には小さな袋が載せられている。
「ヘルヴィル様、こちらが旦那様からのお小遣いです。これはお部屋に大事に置いててくださいね」
「あい!」
目の前に膝をついたクリーズへとヘルヴィルが両手を差し出したら、袋を載せてくれた。
意外と重い。
ジャラリと音がするので、結構入っているらしい。
やはり子供のお小遣いだと小銭ジャラジャラになるよな、と納得する。
「ありあとー」
立ち上がってグレンの方へ控えたクリーズと父親に、にぱりと笑う。
お礼は大事である。
(へやにもどって、リットにあげゆものかんがえよ)
何となくでも決めておいたほうがいいだろう。
商人を呼ぶのがどういう感じなのかは、あとでエイプリルに聞けばいい。
買い物に行くのとは違うかもしれないけれど、とりあえず目的は達成できた。
くるりとエイプリルのいる扉の方へ振り返ると、彼女は真っ青な顔で伏し目にしている。
「おへやもどゆ」
「は、はい!」
扉の方へてこてこ歩くと、エイプリルが慌てて失礼しますと一礼した。
「……ヘルヴィル」
「う?」
完全に背中を向けていたグレンに名前を呼ばれて、ヘルヴィルは体を振りかえらせてグレンを見上げた。
まだ何か用があるのだろうか。
「……」
「……」
しばらく見つめ合いが続く。
お別れの挨拶かな? と思い、バイバイと手を小さく振ってみた。
その様子に、グレンがじっとりとした眼差しのあと、ぎこちなく頷いた。
やはりお別れの挨拶だったらしい。
うむと満足して頷くと、ヘルヴィルはエイプリルと連れ立って執務室を後にした。
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