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「颯くん、今日も帰りが遅くなるので先に眠っていてください」
翌朝、昨夜の荒淫で重怠い身体を持て余しながらコーヒーを飲んでいると由貴の口から発せられたその言葉に心まで重くなる。
俺たちの間には朝食という概念がなくて、いつもコーヒーを飲んでくつろいでから出社の準備をするのが常だったりする。
「今日は女か? それとも男か?」
皮肉っぽく聞こえないように努めて平静を装って訊ねると由貴は屈託のない笑顔で、「そうですね、男です。今日は。本当なら陽ちゃんが良かったんですけど、颯くんに取られちゃいましたし」なんて悪びれもなく言ってくる。
「そうだな……じゃあ俺が小鳥遊とでも遊ぶか。暇だし」
今日は土曜日、仕事は休みだ。
由貴がどっかの女や男と遊びに行くのは決まって週末だから、俺は毎週末気が重くてイライラしている。
「遊んでおいで? 颯くん。そうしたら鬱憤も晴れるでしょう?」
(ふざけんな……鬱憤て何だよ……。俺がお前が遊び歩くのに嫉妬してるとでも言いたいつもりか。めちゃくちゃ嫉妬してるが……絶対コイツにはそんなこと悟らせてたまるか)
「別に鬱憤なんて溜まってねぇよ。テメェがどこのどいつと遊んでようが俺には関係ねぇ話だからな。ま、楽しんでこいや」
「本当に颯くんは物分かりが良くて助かります。最高の恋人ですね。僕には勿体ないくらいです」
――そうだな、俺は本当に物分かりのいいバカだよ。
問い詰めることも出来ず、別れようと放してやることも出来ず、変なプライドと意地だけでこんなにも愛してる奴に本音を言うことが出来ないんだから。
「はっ、勝手に遊んでろ。俺は止めるつもりはない。お前の帰りが遅いんだったら、今日ここに小鳥遊を呼んでもいいか?」
由貴が秀麗な眉を少しだけひそめた。
「それはマナー違反じゃないですか? 僕が一度でもこの部屋に誰かを連れてきたことがあります? ここは僕と颯くんの部屋です。まさか僕たちのベッドで陽ちゃんを抱こうとでも思ってたりしませんよね?」
(テメェがマナー違反とか口に出すのかよ……)
「わーったよ。ここには呼ばねぇ。だけど俺も俺の好きなようにさせてもらう。それでいいな? 由貴」
「ええ、それなら構いません。じゃあ僕は出かけます」
それだけ言って由貴は玄関に向かってしまうので、思わず背中に「おい、待て」と声を掛けてしまいそうになるのを寸でのところで呑み込む。
束縛して疎ましがられたくない。
結局、小鳥遊に会う気になんて全くなれなかった俺は、また煙草に火を点けて、自分の不甲斐なさを呪うのであった。
――弱みを見せられねぇって、やっぱ恋人じゃねぇのかな……。
翌朝、昨夜の荒淫で重怠い身体を持て余しながらコーヒーを飲んでいると由貴の口から発せられたその言葉に心まで重くなる。
俺たちの間には朝食という概念がなくて、いつもコーヒーを飲んでくつろいでから出社の準備をするのが常だったりする。
「今日は女か? それとも男か?」
皮肉っぽく聞こえないように努めて平静を装って訊ねると由貴は屈託のない笑顔で、「そうですね、男です。今日は。本当なら陽ちゃんが良かったんですけど、颯くんに取られちゃいましたし」なんて悪びれもなく言ってくる。
「そうだな……じゃあ俺が小鳥遊とでも遊ぶか。暇だし」
今日は土曜日、仕事は休みだ。
由貴がどっかの女や男と遊びに行くのは決まって週末だから、俺は毎週末気が重くてイライラしている。
「遊んでおいで? 颯くん。そうしたら鬱憤も晴れるでしょう?」
(ふざけんな……鬱憤て何だよ……。俺がお前が遊び歩くのに嫉妬してるとでも言いたいつもりか。めちゃくちゃ嫉妬してるが……絶対コイツにはそんなこと悟らせてたまるか)
「別に鬱憤なんて溜まってねぇよ。テメェがどこのどいつと遊んでようが俺には関係ねぇ話だからな。ま、楽しんでこいや」
「本当に颯くんは物分かりが良くて助かります。最高の恋人ですね。僕には勿体ないくらいです」
――そうだな、俺は本当に物分かりのいいバカだよ。
問い詰めることも出来ず、別れようと放してやることも出来ず、変なプライドと意地だけでこんなにも愛してる奴に本音を言うことが出来ないんだから。
「はっ、勝手に遊んでろ。俺は止めるつもりはない。お前の帰りが遅いんだったら、今日ここに小鳥遊を呼んでもいいか?」
由貴が秀麗な眉を少しだけひそめた。
「それはマナー違反じゃないですか? 僕が一度でもこの部屋に誰かを連れてきたことがあります? ここは僕と颯くんの部屋です。まさか僕たちのベッドで陽ちゃんを抱こうとでも思ってたりしませんよね?」
(テメェがマナー違反とか口に出すのかよ……)
「わーったよ。ここには呼ばねぇ。だけど俺も俺の好きなようにさせてもらう。それでいいな? 由貴」
「ええ、それなら構いません。じゃあ僕は出かけます」
それだけ言って由貴は玄関に向かってしまうので、思わず背中に「おい、待て」と声を掛けてしまいそうになるのを寸でのところで呑み込む。
束縛して疎ましがられたくない。
結局、小鳥遊に会う気になんて全くなれなかった俺は、また煙草に火を点けて、自分の不甲斐なさを呪うのであった。
――弱みを見せられねぇって、やっぱ恋人じゃねぇのかな……。
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