お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀

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31話 決勝

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ベルに勝利後、俺は息を整えてコロッセオに向かった。
 決勝の相手は……黒ローブの男だ。


「北門から入場! まさか彼がここまで勝ち上がるとは!! 見たことのない魔術筋肉を見せたる!! アルカ・ル・ファレトだァ!!」

 実況に促され、俺はコロッセオに立つ。
 歓声は俺を侮辱するようなもの……ではなく。

「期待してるぜ!!」

「ここまで来たのなら、お前は実力者だ!!」

「アタシたち、新たにファンになりますわ!!」

「お前こそ、マジックマッスルの代名詞!!」

「強ェ魔術を見せてくれ!!」

 観客達は、ついに俺を応援しはじめた。
 ようやく、俺の実力を認めたのか。
 決勝まで登り詰めたのだから、嫌でも認めざるを得なくなったか。 

 円形闘技場コロッセオにいる観客は、目測5万人以上。
 その誰もが、これから行われる試合に期待している。

「南門から入場! 身長不明! 体重不明! 名前不明! キャリア一切不明!! 黒ローブの男だ!!」

 今度は黒ローブもやってきた。
 相変わらず無言で、不愉快な趣で。

「スゴいぞ!!」

「頑張れゾ!!」

「勝つんだぞ!!」

 サクラたちも応援に困っている。
 キャリアが一切不明であり、見た目も黒ローブ。
 そんな奴を応援するなど、困難な話だ。

「……おい、アイツ……本当に決勝まで登り詰めたんだよな?」

「……ああ。ここに立っているってことは、そういうことなんだろ」

「で、でもよ……。俺、あいつの試合覚えてないぞ?」

「……俺もだよ。というよりも、ここにいる観客は誰も覚えていないんじゃないか?」

「で、でも……おかしいだろ!! 数千人が観ている中で戦って、誰もその内容や決着を覚えていないなんて!!」

「……だから、誰もアイツのことを蔑んだりしてないだろ。あまりにも不気味すぎて、アイツを蔑む勇気が無いんだ」

 観客達も愚かなものだ。
 アイツの正体に気づけず、アイツの試合がわからないなんて。

「……」

「俺を相手にしても、無言を貫くのか?」

「……」

「ミステリアスを演じても、俺には通じないことくらいわかるだろ?」

「……」

「はぁ、これだからコミュ障は困る」

 黒ローブ男を指差す。

「”魔王”。いや……”父さん”。いったい、何が目的だ?」

 黒ローブ男は不敵に笑い出し、そのローブを脱いだ。

「……ふっふふ。ワシの正体に気づくとは、イリカを倒しただけのことはあるの」

 最初に目に映ったのは、鍛え込まれた肉体。
 60代とは思えないほどに、絞られた筋肉。
 鋼のような筋肉が、露わになった。

 次に目に映ったのは、端整な顔立ち。
 60代とは思えないほどに、肌がピチピチ。
 ローブを脱ぎ捨て、整った顔が露わになった。

「貴様の言うとおり、ワシの名はスルマ・ル・ファレト。偉大なる”魔王”の意志を継ぐ者じゃ」

 父さんは堂々と、告げた。


 ◆


 黒ローブ男の正体は俺の父、スルマ・ル・ファレトだった。
 その事実は観客を驚愕の渦に引き込む。

「く、黒ローブ男の正体が……スルマ様!!」

「スルマ様って……元宮廷魔術師の英傑よね!?」

「ドラゴンを低級魔術で倒したって話聞いたことあるぞ!!」

「お、俺は魔術学院を首席で卒業したって話を聞いたぜ!!」

「確かスルマ様って、アルカ選手の父親だよな!!」

「って、ことは……これは、親子対決!?」

「熱いわね!!」

「今はスルマ様の伝説より……スルマ様から漂う、邪悪なオーラが気になるぜ!?」

 父さんは邪悪なオーラを纏っている。
 沈むような腐るような、近くにいるだけで吐き気のする邪悪なオーラだ。

 コロッセオには結界が張り巡らされているが、それがなければ……おそらく、観客共の半分以上が死んでいるだろう。
 常人が肉眼で父さんのオーラを視認した場合、あまりの邪悪さに脳が焼き切れてしまう。
 ”魔王”とは、それほどまでにおぞましい存在なのだ。 

「……もう一度聞くぞ、この大会に参加した」

「訂正するのじゃ。ワシは既に、貴様の父ではない」

「……そうだな、”魔王”」

 見た目が若返り、忘れていた。
 彼はイリカの父親だ。
 弱者のことを蔑み、弱者のことを認めない。
 俺の天敵であることを、失念していた。

「決まっておるじゃろう。貴様への復讐じゃよ」

 魔王は俺に対し、憎しみの篭もった眼差しを送ってくる。

「我が愛息子イリカを傷つけたこと、万死に値する。才能無き貴様を育ててやった恩を、忘れたのか!」

「……俺は愛息子・・・ではないんだな」

「当然じゃろう。貴様のような愚鈍な男、息子とも思っていないわ!」

 哀しみは皆無だ。
 むしろ……吹っ切れた。

「さらに、貴様に追放宣言をして……我が家の財政は、一気に傾いた!!」

「……どういうことだ?」

「貴様を追放したことにより……貴様の業務担当の部分に穴が開いたのじゃ!! 新たに雇った経理担当も実は経歴詐称をしており……、貴様よりも仕事が遅い! その上、金貨数千枚を横領して夜逃げをした! 我が家は一気に財政難じゃ!!」

「……自業自得だろ」

「おまけに、貴様の評価をしていた担当者も、ワシに好かれたいから貴様の評価を不当に下げていた始末! 貴様と仲の良かったメイドに詳しく事情を聞いてみると、貴様の仕事が実は迅速だったと語っていた!」

「……情けない男だ」
 
 俺は無能だったため、経理の仕事を任せられていた。
 無能で家の恥じだった俺に、タダ飯喰らいは許さないスルマが、無理矢理経理をさせてきたのだ。

 そして、追放されてから、仕事をしなくて良いと言われた。
 そこからは、業務を行わずに入学可能な学院を探していたので、引き継ぎなども行なっていない。
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