お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀

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52話 対人実技試験 2/2

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「《筋肉の唄マッスル・ソング》《飛燕の唄ソニック・ソング》《鋼鉄の唄アイアン・ソング》」

「(なッ、多連詠唱シークェルですって!?)」

「その反応も飽きたな」

 3つの魔術を、オレンジ髪に唱えた。

「(ぐッ……舌の上の唾液が……沸騰・・している!!)」

「唾液の沸騰なんて、貴重な体験だな」

「(い、一体……私に何をしたんですか!!)」

「仕方ない、そろそろ教えてやるか」

 地面に座り、笑いながら答える。

「お前の周りを、真空・・にした」


 ◆


 空気がなくなると、当然真空状態になる。
 そして真空状態は、人体に甚大な被害を及ぼすのだ。

「真空に晒された水分は、瞬時に沸騰する。だから、お前の口内では、唾液の沸騰が起こっているんだ」

「(ぐッ……苦しい……!!)」

「空気が無いから、話すこともできないな。当然、呼吸もできないだろう」

「(た、助けて……)」

「通常であれば、真空状態では15秒程度で人間は気絶する。だが幸運なことに、お前は支援術を唱えられて、肉体が強化されている」

「(く、苦しい……)」

「このままだと、15年程度は生き続けるだろうな」

「(ぐ、ぐぅ……)」

「と言っても、空気がないから俺の声も届いていないんだろうが」

「(ぐッ……)」

 以前、ミミズ野郎に行った酸素操作。
 今オレンジ髪に行っているのは、それの応用だ。
 
 俺が手に入れたスキルは、スキル名こそ【酸素操作】だったが、実態は空気を操作する魔術だった。
 そのため、俺は今オレンジ髪の周りの空気を排除し、真空状態を作りだしている。

「とりあえず、スキルだけでも奪盗うばっておくか」

 オレンジ頭の元へ駆け、肩に手を触れる。

「(奪盗術クリアネス)」

【魔術スキル:上級の光輝フォトン・ライトを習得しました】
【魔術スキル:上級の光刃フォトン・ギロチンを習得しました】
【魔術スキル:上級の光線フォトン・レイを習得しました】
【固有スキル:矮小な卑怯者カワード・マンを習得しました】

 オレンジ髪の周りには空気が無いため、一瞬でその場を離れた。

「ふぅ……有用なスキルが3つと……なんだこのスキル」

 手に入れたスキルを、確認してみる。

【魔術スキル:上級の光輝フォトン・ライト
 上級魔術の一種。
 強力な光を放射し、周りを灼く。
 消費魔力:40

【魔術スキル:上級の光刃フォトン・ギロチン
 上級の魔術の一種。
 強力な光刃で、敵を裂く。
 消費魔力:21

【魔術スキル:上級の光線フォトン・レイ
 上級魔術の一種。
 強力な光線で、敵を灼く。
 消費魔力:30

【固有スキル:矮小な卑怯者カワード・マン
 固体名:カラマリ・イ・クラーケンが有するスキル。
 不意打ち攻撃の威力が、2倍に上昇する。
 敵から逃げる際、走力が2倍に上昇する。

「有用なスキルではあるが……何とも情けないな」

 使えないこともないため、一応手に入れておくか。

「(な、何をした……!!)」

「このまま1時間放っておくのもアリだが……それでは映えないな」

 地味な戦いも嫌いではないが、派手な方が性に合う。
 『最強不良物語ツッパリファンタジー』の主人公であるシュンも、派手に敵を倒していた。
 彼に憧れたからこそ、俺も派手な戦いが好きなのだ。

「シュンも俺と同じく、敵から数々の能力を吸収していた。もちろん、奪盗術クリアネスとは違って、格闘術などの単純な技術の習得のみだが」

「(あ、アナタの声が……聞こえません!!)」

「だから俺も、彼を見習って……お前の技で制してやる」

 指を鳴らし、魔術を唱える。

「《上級の光刃フォトン・ギロチン》」

 放たれるは、光のカッター
 半月型をした光のカッターは、光速でオレンジ髪目掛けて進んでいく。

「(そ、それは……私の魔術────)」

 一刀両断。
 オレンジ髪はロクに感想も伝えられずに、真っ二つに引き裂かれてしまった。
 
「……先生、終わりましたよ」

 久寿くす玉のように臓物が飛び散り、酸素を失ったせいで黄色く変色した血液が滴る。
 如何に強化された肉体とはいえ、光速の刃には敵わなかったようだ。

「えっと……勝者! アルカ受験生!!」

 レモネード先生の、かわいらしい声がコロッセオに響き渡った。

「ふぅ、疲れた」

「アルカ受験生、ちょっと良い?」

最強不良物語ツッパリファンタジーについて語りますか?」

「ううん、それは後で良いんだけど……ちょっと、学院長が呼んでいるみたいなの」

「え?」

「だから……ちょっと学院長室に向かってくれる?」

「あ、はい」

 何だろう、コロッセオを破壊したことの請求をされるのだろうか。
 仮にそうだとすれば、非常にマズい。
 公爵家を追放された俺は、カネに余裕がないのだ。

「わ、わかりました」

 ビクビク震えながら、学院長室へと向かった。
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