間隙のヒポクライシス

ぼを

文字の大きさ
47 / 141
4章:仮死451

第12話

しおりを挟む
「広島までは、だいたい1時間30分くらいか。夕方までには着きそうだな」
「ねえ、鳴海くん。見て、神宮ちゃん…」
「あ…。今度は神宮前が寝るとは…。気疲れしたのかな」
「いつ、自分が死んじゃうか、わからない不安を抱えたまま、生活してるんだもんね…。今日は、少し気が抜けたのかもしれないよ?」
「ああ。でも、これで満足しちゃって、生きる希望を失わなければいいけどね」
「大丈夫だよ。明日からは、あたしが神宮ちゃんの小説執筆を進めるために、おしりを叩くからさ!」
「はは。逆効果にならないことを祈るよ」
「もう。あたしと神宮ちゃんの仲だから、心配ご無用だよ」
「はいはい。信頼してますよ。…あ、そうだ。僕も、桜にききたい事があったんだ」
「あたしに? なあに?」
「いや…ほら、なんていうかさ。最近、桜は、体調は大丈夫なのかな…って」
「体調? あたしの? ご覧のとおり、ピンピンしてるよ? なんで?」
「いや、なんでって…。だって、病院で精密検査とか受けてただろ? 気になってさ」
「あー、その事か」
「その事だよ」
「そっかあ…。えへへ。だったら、大丈夫だよ。鳴海くんが心配するような事にはなってないから」
「妙に含みのある言い方をするんだな。実は命にかかわるような重病を桜が患っているんじゃないかとか、気にしてるんだぜ?」
「そんな重病にかかっていたら、こうして一緒に遊びに来られてないでしょ? でも、えへへ、心配してくれて、嬉しいな」
(…じゃあ、なんで僕と付き合うことができないんだよ…)
「ん? どうしたの?」
「いや。…桜は、その後、特にスキル発現を自分で認識していたりはしない?」
「スキル? あ、そっか。あたしと鳴海くん、スキルが発現するかも、って話だっけ?」
「そうそう。桜はなんともない?」
「う~ん。そうねえ。言われるまで思い出さなかったくらい、なんともないかな~」
「僕も同じだな…。スキル発現の兆候はない。なんかさ、神宮前もスキルが自分でわからないって言うから、とこちゃんが読んだ、本星崎の心の中のアンケート自体が間違ってるんじゃないか、って気さえしてくるんだよね。本当は、神宮前も、桜も、僕も、スキル発現なんかしなくって、普通に生きられるんじゃないか、ってね」

「ちょっと、夕飯には時間が早いっスね」
「僕はまだ、お昼のお好み焼きがお腹に溜まっているよ…。ここに更にお好み焼きを食べるのか…」
「じゃあ、せっかくだから、少し移動しません? 夕方頃からの夜景がキレイな場所を知ってるんスよ」
「夜景かあ…。悪くないな」

「わあ…ステキなところだね…」
「タワー、という名前にしてはそんなに高いビルじゃないと思ったけれど、展望フロア自体が凝った作りなんだな」
「ね? いいでしょ。この時間帯に射し込む夕陽が最高なんスよ。って、ボクも今日、初めて来たんスけどね」
「じゃあ、あらかじめ調べておいてくれたのか」
「へへへ。その通りです」
「神宮ちゃん、鳴海くん、あたし、ちょっと疲れちゃったから、そこの段差になっているところに座ってるね。よかったら2人で景色を見てきなよ」
「桜チャン、いいの?」
「うん。だって、今日は神宮ちゃんの日だもん」
「そっか…。じゃあ、ちょっと一周してくるね」

「原爆ドームが凄く近いな。平和記念公園はこの位置関係になるのか…」
「鳴海先輩、行ったことありますか?」
「いや、現物を見たのは、今日が初めてだよ。ここまで来て資料館に行かないのはもったいない、と思いつつ、多分、今日はもう閉館してるだろうな。はは。気軽に、また来ればいい、なんて言えないのがつらいところだな」
「鳴海先輩は来られるんじゃないスか?」
「いや、僕らもいずれは神宮前と同じだよ。特に、僕と桜は、神宮前の次にスキルが発現する可能性があるって豊橋の予想だ」
「予想は予想でしょ?」
「それが、なかなか合理的な根拠のある予想なんだよね。だから、神宮前を死なせない事は、僕たちが死なない事でもあるんだ」
「そうだったんだ…。なんか、悪いことしちゃったな。鳴海先輩にも、桜チャンにも」
「あ、いや、そういうつもりじゃなかったんだけどな」
「あはは。大丈夫ですよ。ボク、そんなに気をつかえる性格じゃないスから」
「そんなものなのかな」
「そんなものなんス。それよりも、ボク、やっぱり、まだ受け入れられていないんですよね、きっと」
「自分のスキルの事?」
「それもあるんスけど…ほら、今日一緒に行った、お墓の子の事です」
「ああ、なるほど。その子が亡くなった実感が、まだない、ということ?」
「う~ん。そうでもないんスよね。なんというか…。特にここ最近なんスけど、あの子が死ぬ瞬間、どんな事を思ったのか、とか、頭の中で何回も考えちゃうんです。だって、交通事故なんて、自分が次の一瞬のうちに死ぬなんて、微塵も思わないわけじゃないスか。その日の夕飯に食べる予定のものだったり、次の日の授業の準備だったり、将来の夢だったり…そういう物が突然、なかった事にされてしまう。でも、そんな事さえ考える時間もなく、突然に死が訪れちゃったわけで…」
「あ~…。確かに。神宮前の言いたいこと、なんとなくわかるな」
「今、目の前の原爆ドームを見て、そっか、何十年も前に、この場所で、同じ様に一瞬で亡くなった凄く沢山の人がいたんだな、って思っちゃったんです」
「確かにね」
「なんで自分が死んだかもわからなかったんだろうな…。無念かどうかすら、わからないくらいに…」
「その兵器が、今はお互いの国家を牽制し合う道具になってしまっているんだもんな…」
「あ、鳴海先輩。今の話をきいて思っちゃったんですけど、ボクたちのスキルって、もしかして、兵器だったりするんじゃないかな」
「兵器? スキルが? それはちょっと飛躍しすぎてる気がするけどな」
「じゃなかったら、自衛隊とかに追われる意味がわかんないですもん」
「それだったら、殺害対象じゃなくて捕縛対象になるはずだろ? それに、兵器と言える程のスキルは、いまのところきいた事がないよ。まあ、伊奈のスキルは使いようによっては、だけど」
「そうっすねえ…。じゃあ、なんでこんな面倒なスキルが、ボクたちには出てきちゃうんでしょうね~。自衛隊とか警察とかに、直接きけたらいいのに…。それか、SNSで同じ悩みを持っている人を探してみるとかさ」
「公権力は全て敵対していると考えたほうがいいな。SNSは常に監視されているから難しいよ。でも…確かに、同じ悩みを持っている人は他にもいる可能性があるな。伊奈や本星崎は、僕たちとは独立してスキルが発現してるわけだし」
「その中の誰かが、謎を解明して教えてくれたらいいのにな…」
「まあ、だから、その謎を解明するために、豊橋と僕とで色々と情報を集めているわけなんだけどね」
「そっか。そうでしたね。へへへ。ボク、それに期待していいんスかね?」
「期待していい。と断言すると、また豊橋に怒られるかな」
「あはは。ありがとう、鳴海先輩。嘘だったとしても…嬉しいっス」
「どういたしまして…でいいのかな。…それにしても、だいぶ陽が傾いてきたな…。西陽が眩しいや…」
「ねえ、鳴海先輩…。手、つないじゃっても、いいスか?」
「手? 僕と?」
「他に誰がいるっていうんスか?」
「…んっと…。えっと…。そうか…」
「ね? ほら、先輩。デート、デート」
「う、うん…。はい」
「んふふ。やったあ。あ、鳴海先輩の手、暖かいスね。あ~。なんかいいな。恋人みたいで…。ふふ。ボク、胸がドキドキしてます。先輩はどうスか?」
「そりゃあ…意識しない訳がないだろ? 僕だって、女の子と手をつないだ経験なんて、ほとんどないもんな」
「じゃあさ、じゃあ、キスはどうスか?」
「キキキ、キスはさすがに、経験がないよ…」
「あは。先輩がうろたえてる」
「そそ、そういう神宮前はどうなんだよ…」
「ボクですか? う~ん。小さい頃に冗談で、くらいはあったかもですけど、ちゃんと恋人としてのキスは未経験っス」
「そ、そうなんだ…」
「ねえ…。ボク…鳴海先輩と、キスしてみたいな…」
「…え?」
「だから…。んもう。何回も言わせないでくださいよ」
「で、でも…桜が…」
「鳴海先輩は、桜チャンの事が好きなんですよね? 多分、ボクの事なんか、女の子として意識したことなんてなかったと思うんスよ。だからボク、鳴海先輩のボクに対する愛情なんて期待してないんです。むしろ、同情でいいんです。同情でいいから、キスして欲しいな…」
「う…うん」
(ごめんね、桜チャン。ボク、桜チャンを気づかっていられるほど、時間が残っていないと思うんだ)

 ちゅっ

「あはは。鳴海先輩とチューしちゃった。あ~、おっかしい」
「な、なんだよ。おかしいはないだろ…。僕にとっては、ファ、ファーストキスだったんだぞ…」
「そっかあ。ボク、鳴海先輩のファーストキス、頂いちゃったんだ。まあ、いいじゃないスか。減るもんじゃないし」
「へ、減るもんじゃないのかな…。ファーストキスは、減るもんだろ…」
「鳴海先輩っ」
「な、なんだよ」
「ありがと! へへへ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする

エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》  16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。  告白されて付き合うのは2か月後。  それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。  3人のサブヒロインもまた曲者揃い。  猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。  この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?  もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!  5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生! ※カクヨム、小説家になろうでも連載中!

先輩から恋人のふりをして欲しいと頼まれた件 ~明らかにふりではないけど毎日が最高に楽しい~

桜井正宗
青春
“恋人のふり”をして欲しい。 高校二年の愁(しゅう)は、先輩の『柚』からそう頼まれた。 見知らずの後輩である自分になぜと思った。 でも、ふりならいいかと快諾する。 すると、明らかに恋人のような毎日が始まっていった。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...