間隙のヒポクライシス

ぼを

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5章:ある少女に花束を

第31話

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「おい。モヒカン」
「なんだと? へっ。ガキがなめた口をききやがるじゃねえか。神父のコスプレよりも一休さんのコスプレの方がよかったんじゃねえのか?」
(豊橋先輩、あまり挑発しあわない方がいいんじゃないスか…?)
「挑発だと? 神宮前よ。これは紳士の挨拶だ。ちなみに、あのモヒカンのコスプレは何というキャラクタかわかるか」
(ボクも詳しい方じゃないスけど…多分…ザンギエフだと思いますよ)
「モヒカン、お前の名前はザンギエフと言うのか」
「俺がザンギエフだと? 似ても似つかん。聖書ばかり読んでいて目でも悪くしたか。このサングラスと白衣が目に入らないのか?」
(金山さん…挑発に乗らないでください。あまり時間がありません)
「挑発だと? 2216番よ。これは掛け合いというものだ。それに、問題ない。時間がないのは俺たちじゃない。奴らだ」
「おい、ザンギエフよ。呼続がお前たちの指示に従い、俺たちを陥れようとしていた事はわかっている。更に言えば、呼続のスキルがお前たちにとって、かけがえがない事もな」
「へっ。笑わせるぜ。スキル鑑定のスキル者など、俺たちの組織には腐るほどいる。2117番は捨て駒に過ぎん」
(金山さん、それはブラフですか?)
「お前はちょっと黙ってろ」
「ほう。いいのか。防衛省という公権力が、たかだか11歳の女子小学生を見殺しにしても。このやり取りを、会場の誰がリアルタイム配信しているかも知れんぞ」
「ははは。そう思うなら、自分のスマホの電波を確認してみることだな」
「ふん。やはり会場全体をジャミングしているのか。まあいい。ザンギエフよ。もう一度きこう。呼続の崩壊フェイズが進行している。お前たちは、本当にこのガキを見捨てるつもりか」
「哀れな神父よ。お前はその聖書の名において、2117番を救いたいのかもしれん。だが、そのガキの崩壊は、俺たちにとって計画通りの進行にすぎん」
「…そうか。それはめでたい。…だそうだ。呼続よ、悪いが、誰もお前を助けるつもりはないらしい」
「そ…そんな…! 金山のおじさん…わたし…こんなにがんばったのに…。い、一生懸命、言う事をきいて、鳴海お兄ちゃんにも、上小田井くんにも、ウソをつきとおしたのに…。助けて…助けてよぉおお!」
(豊橋先輩、もうボク、見てられないです! 呼続チャンを助けてもいいですか!?)
「だめだ。お前は何もするな。お前が呼続を助けた時点で、俺たちはそれ以上の犠牲を払う事になる」
(そ、そんな…。でもっ…! …ごめん…ごめんね、呼続チャン…うぅぅぅ。ボク…なんにもできない…)
「ザンギエフよ。取引だ。もし、お前たちが、スキル者が崩壊フェイズに怯える事なく生き残る方法…たとえば、スキル自体を消失させるとかだ…について、俺たちに情報提供をするのであれば、俺たちは呼続の崩壊フェイズをパスさせてやってもいい。悪い取引ではない筈だ。現時点において、お前たちが呼続の崩壊フェイズを止めるには、その魔法使いのコスプレの女か、目隠しのガキを犠牲にする必要があろう」
「へっ。どうやって2117番の崩壊フェイズをパスするつもりだ」
「ほう。わからんのかザンギエフよ。俺たちには、呼続を崩壊フェイズから救う方法が3通りある」
「なんだと? 3通りだと!?」
「3通りだ。むしろ、お前がそれに驚いた事の方が、俺たちにとっては驚きだ。いいのか? 迷っている時間はあるまい。俺たちは、呼続が崩壊して爆発したところで一切の影響はない。だが、お前たちは、この公の場でスキル者が爆発した場合、大きなリスクがあるんじゃないのか。例えば、この会場にいる数千人のオタクども全員を殺さねばならんくらいのな」
(豊橋先輩、本当に3通りもあるんスか!? だ、だったら、どれかの方法で助けてあげましょうよ!)
「神宮前よ。お前は黙って見ていろ」
(金山さん、3通りは、流石にブラフではないでしょうか…)
「防衛省側で実行できる手段でも、崩壊フェイズのパスの方法は3通りも存在しない。間違いなくブラフだ。あの神父、なかなかの食わせ者だぜ」
(どうしますか? 彼らにパスさせた方が、あたしたちが得られる利益や情報は多いと思います。…もっとも、代わりに彼らに提供できる、スキル消失に関する情報なんてありませんが…)
「まあ、全くないという訳でもないがな…。それとも、お前が2117番のパスの為に犠牲になってくれてもいいんだぞ?」
(そ…そんな…)
「へっ。どのみち、だ。もうあそこまで2117番の崩壊が進んでしまったら、お前を犠牲にしてパスさせたところで、助からん。取引は決裂だ。このまま2117番を放置する。奴らがギリギリで、その3つの手段のうちの1つでも使ってくれた方が俺たちにとっては有利だし、奴らが何もせずに2117番を見殺しにしたところで、俺たちの計画通りである事にはなんら変わらん」
「痛い…痛いイタイいたい痛いイタイいたい痛いよぉお…うぅうぅうううううぅぅぅぅ…ケホッ! ゲホッ! ゲホッ!! あ…! な、なにコレ…。ま、前が見えないよぉ…。あ…! ああああ! そんなぁああ! め、目が…目が取れちゃったよぉ…。見えない…前が見えないよぉおお…暗いのいやだあぁああああぁああ…あぁあああああ! 痛いよぉおおお! あああぁああああああん!」
「へっ。見ていられんな。おい2216番。2089番にスキルを使わせる準備をしろ。爆発寸前だ」
「わ、わかりました…。2089番ちゃん、ちょっとだけ、目隠しをとるからね…」

「ちくしょう…呼続ちゃんを、このままじゃ救えない…。豊橋のやつ…本当に見殺しにするつもりなのか!? 僕が…行くべきか…」
「鳴海さん、落ち着いてください! 落ち着いて、ぼくに指示をしてください。鳴海さんのタイミングで、ぼく、呼続さんの存在を確率論の世界に消しますから」
「そ…そうか…。うん…わかった…。でも…もう、遅いかもしれない…。あそこまで崩壊が進んでしまったら…」
「ならば鳴海クン! あたくし、行きますわ! こんなの、もう、黙って見ていられませんもの! あたくし、呼続チャンの崩壊フェイズを止めてさしあげますわ!」」
「あ、待て! 伊奈、待て! 行くんじゃない! キミが行っても、無駄死にだ!」

「呼続チャン!」
「だ…だれぇええ…暗くてわからないよぉお…どこなのぉおおお…痛いよお…わたし、どうなっちゃってるのかなぁ…」
「呼続チャン、あたくしですわ! 伊奈です! あたくしの手に触れてくださいな…! あたくしの手に…ああ…もう、あなたの手が…落ちてしまったんですのね…。かわいそうに…。かわいそう…。大丈夫、あたくしが呼続チャンに触れてあげますから…!」
「い、伊奈先輩…! も、もしかして、自分の命と引き換えに呼続チャンの崩壊フェイズを止めるつもりスか!?」
「おい、伊奈よ。よせ。もう遅い。呼続の崩壊フェイズを止めたところで、もう呼続は助からん。それよりもお前のスキルを温存しておく方が重要だ」
「豊橋クン、あなた、よくそんな事が言えますわね…。あたくし、無駄死にだっていい! 仮にも淑女として、こんな小さな女の子が見殺しにされるのを、黙っているわけにはいきませんもの!」
「…つくづく救えない愚か者ばかりだ。うんざりする」

「おい、2216番、今だ。やれ」
「2089番ちゃん、目隠しをとるからね。まずは、崩壊フェイズに入っている女の子の一番近くにいるお姉さんを殺して! それから、女の子蒸発させて!」
「あ…ああああああ…ああ」

「上小田井くん、今だ! 呼続ちゃんと伊奈を確率論の世界に送るんだ!」
「わ、わかりました! えっと…あ…ああ! い、伊奈さんが!」

「うっ!…………」
「ん? え? あれ? 伊奈先輩、突然倒れたりして、どうしたんスか? 伊奈先輩? 伊奈…。い、一体…何をされたんスか…?」
「クソ…。結局無駄死にだった。どいつもこいつも、度し難いとしか言いようがあるまい…」
「豊橋先輩…一体…」
「伊奈は死んだ。あの目隠しのガキのスキルだろう。理屈は分からんが、一瞬で、遠隔で、外傷もなく殺害した」
「そ…そんなぁ…。そんな訳のわからないスキル、伊奈先輩のスキルでも防ぎようが…」
「時間がない。グズグズしていると、ここにいる全員があのガキに瞬殺される。仕方があるまい…。この手段は避けたかったがな…。本星崎に恨まれる事は覚悟せねばなるまい」
「え? 豊橋先輩、何の事スか?」

「うっ…!」
「うん? おい、どうした。2216番。急に苦しそうな顔をするじゃねえか」
「お…おえぇええええ…。う、うえぇええええええ…」
「おいおいおいおい! いきなり嘔吐しやがって、どうしたってんだ? 2216番。何をされた。まさか…ガキどものスキルか? いや…2164番が死んだ今、奴らに攻撃系のスキルはない筈だ。よもや、2164番が死んだのを見て気分が悪くなった訳ではないだろうな」」
「うぅ…うぁああああぁああああ…おえぇええええ…コホッ、ゴホッ」
「ちっ。話にならん。おい、2089番、2117番を蒸発させろ。爆発まであと何秒ももたんぞ」
「あ…ああ…あ…」
「いいぞ。そうだ。やれ。お前にしかできないんだ。やれ!」
「あ…あああああ!」

 ボシュッ!!!

「あちちちちち! あっつ…! え? え? ええ!?」
「今度は閃光か…。ザンギエフのサングラスは、このスキルの使用を想定していたのか」
「えええええええ! 一体、何が起こったんスか! よ、呼続チャンが、いなくなっちゃったぁあああ!」
「落ち着け、神宮前よ。いなくなった訳ではない…。閃光に加え、この臭い…。ふん。原子を操るスキルとは、こういう事だったか」
「豊橋先輩、ボク意味がわかんないスよ! ボク、全然わけがわかんないスよぉ!」
「あの目隠しのガキのスキルで、呼続はひとつの細胞残らず、蒸発させられた。そういうことだ」
「ひとつの細胞残らず…って…」
「迂闊だったと言わざるをえまい。蒸発させてしまえば、崩壊フェイズによる爆発影響をゼロにできる訳だ。失敗した。呼続の崩壊は、奴らにとってはじめからリスクでもなんでもなかったのだ」

「2089番よ、よくやった。犠牲を出さずに崩壊フェイズをパスするスキルが本当に存在するのであれば、それを見てみたかったのが心残りだが、こうなっては仕方あるまい。2173番と1162番以外は始末しろ。蒸発させる必要はないぞ。それぞれ脳細胞のほんの一部を核融合させて、脳を破壊するだけでいい。最終的には会場にヘリを墜落させて事故火災を偽装するからな。ちなみに、嘔吐して這いつくばっている2216番も殺せ。もう役にはたたん」

「ん…? あ…だめだ。あの目隠しの子…これ以上スキルを使ってはだめだ…」
「な、鳴海さん、ど、どうしたんですか?」
「おい、目隠しの女の子! もうスキルを使うのはやめるんだ! キミの寿命は、あと6分しかない! 崩壊して爆発するぞ!」

「あのゴスロリめ、なにを言ってやがる。おい、2089番よ。聞く耳を持つ必要はない。ここが俺たちに残された最後のチャンスだ。この場で捕縛対象者以外の全員を始末しなければ、国家の危機を回避できない」
「ああ…あ…ああ…」
「な…なんだ2089番。落ち着け。どうした?」
「ああ…あああああ…あああああああああ!」
「おい、よせ。あと6分と聞いてビビったのか? 最大パワーでスキルを発動させるんじゃない。お前のスキルは強力ではないとは言え、核融合なんだぞ!? このイベント施設ごと溶解しちまう!」
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