間隙のヒポクライシス

ぼを

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6章:失われた夏への扉を求めて

第1話

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仮説。ねえ、あなた、アタシたちの行動を、ずっと見てるんでしょ…?


「え…と…。ここは…一体…どこだ? やけに音が木霊するな…。ここは…風呂場…なのか? 僕は…どうしたんだっけ…」
「あ、鳴海さんはここに出現しましたか。ちゃんと建物の中でよかったです」
「上小田井くん…。僕は、一体どうしたんだっけか…。なぜ、こんなところにいるのか、思い出せないんだ…」
「気分は大丈夫ですか? 起き上がれますか?」
「う…うん。大丈夫。ちょっと頭がクラクラして、なんだか浮遊感があるけれど…大丈夫だよ。ありがとう」
「よかったです」
「あ…そうか。僕たち、同人イベント会場にいて…ヘリが落ちたんだっけ。それで……ああ、なるほど。理解したよ。そっか。僕は、上小田井くんに助けてもらったのか…」
「多くの人数で逃げるよりも、ぼく1人で逃げた方がいいと思ったので…。それで、ぼくがみなさんを確率論の世界に消したんです。ぼくが死んだ場合、みなさんは永遠に確率論の世界に消えたままになってしまうので、とても怖かったけれど…でも、ちゃんと逃げられてよかったです」
「という事は、神宮前の事も、呼続ちゃんの事も、伊奈の事も…現実なんだな…。夢じゃなかったんだ…。はは…」
「ええ。残念です。ぼくも、全然気持ちの整理ができていません。呼続さんが死んだなんて…えへ、まだ、実感ありません…。そのうち、悲しく思えてくるのかな…」
「他のみんなは? 上小田井くんのおかげで、無事なのかな」
「とりあえず、豊橋さん、堀田さん、左京山さん、本星崎さんは無事に出現させる事ができました。部屋の方にみんないます」
「部屋って…。あ、そうか。ここは、例のラブホテルなのか…。でも上小田井くん、一体どうやってここに…」
「ぼ…ぼくもまさか、こんなところに隠れる事になるとは思わなかったんですが…。堀田さんに先に出現してもらって、行き先を相談したら…」
「…女子高生と男子小学生の組み合わせでここに入るのは、さすがにマズい気がするけどね…。はは。よく入ったな…」
「き…緊張しました…」
「でも、なんで堀田さんを一番に出現させたんだい?」
「あ…それは、堀田さんはコスプレをしていなかったので、外を出歩いても怪しまれないと思ったからです」
「そうか…確かに。上小田井くんはよく考えて行動しているんだな…。それで、桜とゴブリンは?」
「豊橋さんが電話をして確認をしました。ゴブリンさんは単独で逃げて、無事だったみたいです。でも、桜さんは…スマホの電源が切れていて、連絡がとれないみたいです」
「そうか…。まったく、桜は本当に、肝心な時にスマホの電源が切れてるよな…。無事だといいんだけれど…」
「大きな事故ですからテレビでニュースをやっているはずですし、ネットにも出ていると思います。もしかしたら、死人や怪我人の情報を伝えているかもしれませんよ」
「死人のリストに桜の名前がない事を祈るしかないな…。なんか、少し前にもこういう事があったよな…津波に飲まれて…。はは。そうだよ。津波に飲まれて平気な顔で生きていた桜が、今更、ヘリの墜落事故で死ぬ訳がない」
「えへ…そうですね。ぼくも、桜さんが死んじゃうなんて、想像できません」
「上小田井くん、ちなみに、モヒカンやその他の人たちは…」
「あの人達は、まだ、確率論の世界の中に消えた状態になっています。いつでも出すことはできますが、鳴海さんや豊橋さんと一緒に、ちゃんと準備をしてからのほうがいいかと思って…」
「そうか…そうだな。うん。その判断でいいと思う」
「ありがとうございます。じゃあ、部屋の方に行きましょう。みんな揃っていますから」

「ほう、ようやくお目覚めか。インキュバスのお嬢様よ」
「ん? 豊橋、何を言って…あ、そうか。僕、コスプレのままだったのか…」
「鳴海くんも無事でよかったわ。カチューシャとウィッグを取って、化粧を落としてきたら? アタシのクレンジング貸してあげるから」
「あ…ああ、ありがとうございます。ウィッグを外して化粧も落としたら、それこそ、神宮前にキモいって言われてしまいそうだ…」
「…鳴海、わかってると思うけれど、神宮前は死んだのよ…。生きているのかもしれないけれど…少なくとも、私たちにとっては、死んだ。神宮前だけじゃない。今回は多くが死んだ。これからは、きっと、もっと死ぬわ…。早く受け入れた方がいいんじゃないかしら?」
「…………化粧を落としてくる」
「か、か、かみ、上小田井くん…わ、わた、わ、私の、お、お、お、お姉ちゃんは、ぶじ、ぶ、無事なのかしら…?」
「無事だと思いますけど…ずっと地面に四つん這いになって、苦しそうにしていましたよね…。なんともないといいんですけれど…」
「お、おね、お、お姉ちゃんを、しゅ、しゅ、出現させる事は、できるの? は、は、は、早く会いたい…」
「できますけれど…一応、ぼくたちの敵かどうかわからないので…」
「上小田井よ。その心配は無用だ。あの魔法使いのコスプレの女は、もはや俺たちの敵ではない」
「…豊橋さん? どうして、そう言い切れるんでしょうか…?」
「出現させてみればわかる。だが、本星崎にとって、それがいい結果かどうかはわからん」
「と、とよ、豊橋くん…そ、それって、い、い、い、一体、どういう意味なの…?」
「…本星崎、気にする必要なんかないわよ。結局、誰一人として助ける事ができなかった豊橋に、何がわかるって言うのかしら」
「ほう。言うではないか。まあ、よかろう。あそこで指揮をしたのが俺でなければ、より多くの人間が死んでいたであろう未来には目をつぶるとしよう」
「…ふん。未来ね。あんたに一番、似合わない言葉かもしれないわね」
「左京山よ…。お前はまた、パラレルワールドにメッセージを送ったのか」
「…ほうっておいてくれるかしら。だったらなんなの?」
「哀れなスキルだな。誰かを救えるようでありながら、誰も救えんとは」
「…役に立つスキルが発現していないあんたに言われるのは、いい気分じゃないんだけど」
「役に立つスキルが発現していない、か。果たしてそうかな」
「ねえ、みんな、テレビを観てくれるかしら! ほら、事故のニュースが始まったわよ…。ああ…あんなに酷い事故だったのね」
「事故…か。ふん。とても、民間のヘリ1機が墜落したレベルの爆発規模ではないな。なんらか爆薬でも積んでいたと見るのが正しかろう。だが、それも無駄だったな。結局、あの場所で爆ぜたスキル者はひとりもいなかった」
「すごい数の死者が出たのね…。怪我人も沢山…。これって、アタシたちのせい…なのかしら…」
「堀田よ。それは違う。そもそも、俺たちにスキルが発現したのも、俺たちが防衛省に狙われるのも、一切が俺たちの責任ではない。俺たちは常に被害者である事を忘れるな」
「…そう思わなければ、アタシ、平常心をとても保てそうにないわ…。そうでなくても、神宮前さんも、伊奈さんも、呼続ちゃんも…ああ…呼続ちゃんまで…。うう…」
「し、し、し、死人の個人名は、で、で、出ているのかしら…。さ、さ、さ、桜さん…無事だといいけど…」
「…本星崎。まだ、死者の個人名を特定できるような状況ではないみたいね。被害の把握なんて、火災が収まってからじゃないかしら」
「とりあえず、アタシから桜ちゃんにはメッセンジャーを送っておいたから…。気づいたら、連絡をしてくると思うわ。結局…こんなに多くの人が死ぬ事態にまでなったのに…アタシたちにどうしてスキルが発現したのか…肝心なことはまだ、何一つ、わかっていないのよね…」
「ふむ。だが、その謎の解明の手がかりは、既に俺たちの手中にある」
「…豊橋、それって、どういう意味?」
「どういう意味もない。上小田井が確率論の世界に消した、ザンギエフがいるではないか」
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