間隙のヒポクライシス

ぼを

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7章:ラプラスの悪魔はシュレーディンガーの猫の夢を見るか

第1話

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仮説。おねがい…アタシたちの声が聞こえているのなら、返事をして…。協力して欲しいの…。

「ゴブリン、来たぞ~。調子はどうだい?」
「お、ナルルンにさっちゃん。制服じゃん。そうか、今日から新学期なんだね」
「全員が新学期を迎えられたわけじゃないけど…。それでも、夏休みを超えることはできないと、何度も思ったから、こうしてまた学校に行けることは、なんだか嬉しいのは事実だね」
「ねえ、鳴海くん、この病室、扉が閉まらないよ? ほら。レバーがくるくる回っちゃう」
「え? 僕がやってみようか。…あ、本当だ。レバーがくるくる回る…」
「ああ、それね。なんか、知らない間に壊れてたんだ。まあ自衛隊病院の個室だから、誰かが侵入して何か盗んでいくなんて事は、そうそうないだろうからね。そのままにしてるんだよ」
「思ったよりも安普請なんだな…。大丈夫なのか? 医療設備の方は」
「おいおい。とりあえずオレは、ここまで回復したんだぜ? それで充分だろ?」
「まあいいけどさ。しかし、こんな壊れ方するかねえ? 普通。くるくる」
「あんまり回すなよ。扉自体が開けられなくなっちゃうよ」
「ははは。悪い悪い。ほら、お土産。ケーキ買ってきたよ」
「おっ! バスキン&ロビンスのアイスクリームケーキじゃん。うれしいね~」
「既にちょっと溶けちゃってるから、早いところ冷凍庫に入れたほうがいいよ」
「おいおい。病室に冷凍庫があると思うかい?」
「え? ないの?」
「ビジネスホテルと同じ、小型の冷蔵庫がひとつだよ」
「え~、じゃあゴブさん、急いで全部食べなくちゃ!」
「へへ。大丈夫だよ。オレのスキルで、冷蔵庫はいくらでも冷凍庫になるからさ」
「へえ~! ゴブさんのスキルって、やっぱり便利なのね」
「ゴブリン…自分の寿命を削ってまで、アイスクリームケーキを冷やすなよな…」
「いいのいいの。せっかく与えられた力だもの。有効に使わなくちゃ」
「有効に…ねえ」
「ちょうどよかったよ。今日、上小田井くんもお見舞いに来てくれるみたいなんだ。みんなでアイスクリームケーキを食べよう」
「どうでもいいけど、ゴブリンって、呼続ちゃんと上小田井くんはアダ名で呼ばないんだな」
「そりゃあ、善良な高校生として、子どもたちとは適切な距離感を保っているのさ」
「適切な距離感ねえ…。まあいいけどさ。僕たちも、上小田井くんと会えるのは嬉しいな。ちょっと久しぶりだからさ」
「そうだろ? 彼、今はちょっとした要人扱いだそうだぜ? 普段は護衛がついている、とか言ってたもんな」
「要人か~。まあそうだろうな。僕たちの命はともかく、この国の行く末は、上小田井くんにかかっていると言っても過言じゃないもんな」
「彼は偉いよな~。小学生とは思えないよな」
「あ、あたしも同感…。だって、あたしよりも大人びてるんだもん。…ちょっと、やんなっちゃう」
「ずっと防衛省で量子コンピュータの開発だろ? とこちゃんが寂しがってないといいけどな…」
「とこちゃん、今はお父さんが一緒だから大丈夫だと思うけど…。たまには、あたしたちも顔を出した方がいいよね」
「そうだな…。もう、僕たちが死ぬまでに、何回も会えないだろう事を考えると、あまり仲良くなるのも、悩ましいところではあるけどね」
「そっか…。そっだね~…」
「…と、ところで、ナルルン。あの霧の正体については、何かわかったのかい?」
「ああ、その話か。そうだよね。気になるよな」
「オレの体をこんなにしてくれた霧だからね…」
「それが、全く進捗していない。防衛省でも調査しているけれど、まだ何もわかっていないのが正直なところだよ。そもそもスキル攻撃だったのか、すら怪しくなってきてる」
「ゴブさん、あの後、ちょっと大変だったんだよ。あたしたち、現場検証のために、2回も島に連れて行かれたんだから」
「そ、それは大変だったね。で、また霧が発生したりはあったのかい?」
「それはなかったみたいだ。僕たちが遭遇した、あの1回だけ。自然現象にしては再現性がない。だから、僕はやっぱり、僕たちを狙ったスキル攻撃の線が可能性としては高いと睨んでるよ」
「ザキモトさんにはきいた? 彼女のスキルなら、スキル者の存在を確認できたんじゃないか?」
「本星崎のスキル鑑定は、せいぜい半径10mだよ。元の呼続ちゃんなら、かなりの範囲をサーチできたけれど、今の体だと、対象者に直接触れていないと鑑定できないみたいだ」
「そ、そうか…。じゃあ、本当に手がかりはないんだな…」
「僕らも防衛省も把握していないスキル者、というのが、ひっかかるんだよね。あの時、僕たち以外にも衛星に接触していた人間がいたんだろうか…。だとしても、僕たちを襲う理由がないんだよね」
「ナルルン、オレたちのスキルとは全く関係がない、って考え方はないかな。オングストロームマシンによるスキルじゃなくて、もっと別の兵器とか…」
「もっと別の兵器…?」
「日本が生物兵器を開発して他国侵略を狙っている、みたいな世論になっているんだとしたら、近隣国家も新開発の兵器を使って脅してくる可能性はあるだろ?」
「それって…どうなんだろう。EEZギリギリにミサイルを打ち込むくらいが限界なんじゃないかな。それこそ、死人がでたら、戦争になっちゃうよ」
「まあ、そうなんだけどね…」
「あ、ねえ、鳴海くん、ゴブさん、廊下から声がしない?」
「おっ、噂をすれば。上小田井くん、来てくれたみたいだぞ。お~い、上小田井くん、オレはここの病室だよ」
「ゴブリン…。声を張らなくても彼は病室を知ってると思うぞ…」
「ゴブリンさんお久しぶりです。あ、鳴海さんと桜さんも一緒だったんですね。会えて嬉しいな。ぼく、外出したの、本当に久しぶりですもん」
「上小田井くん、あたしも会えて、嬉しいな~。あ、扉のレバーはそのままでいいからね。壊れてるんだってよ」
「えへ、桜さんは、相変わらずですね。ゴブリンさん、お加減はいかがですか?」
「心配してくれて悪いな~。とりあえず、まだ鎮痛剤は点滴してるけれど、車イスで自分で移動できるくらいには、よくなったよ」
「そ、そうでしたね…。足…」
「そうそう。見る? オレの足」
「え…えっと…」
「ゴブリン。上小田井くんを困らせるなよな」
「へへ。ごめんごめん。それで、上小田井くんの方は? あのモヒカンのオッサンと順調に進んでるの?」
「う~ん。まだ、なんとも言えないところですね。とりあえず、ぼくのスキルで古典的コンピュータのCPUを量子コンピュータに応用できそうな事はわかったんですけれど、ぼくの寿命に対して、現実的な時間を連続稼働できるかがまだ全然わかっていない状態です」
「現実的な時間…か。量子ビットを多くしても、計算時間はそれなりにかかるって事か…。でもそれって、誤り補正のアルゴリズムの問題じゃないのか?」
「アルゴリズムの方は、順調だときいています。10,000量子ビットが実現できれば、計算に1年はかからないくらいの誤り訂正の精度を実現できているみたいです」
「それって、精度が高いのか低いのか、よくわからないな…」
「実は…あのおじさんは、ぼくのスキルで、誤り訂正も高精度で実現できないかを期待してるみたいです。でも、それには、観測誤差を極端に小さくする必要があって…」
「なるほどね…。小学生に期待するには、荷が重すぎるな…」
「ええ。でも、ぼくがやるしかないのであれば、できるところまでは頑張るつもりです。ただ…」
「ただ? 何か、気になる事があるのかい?」
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