キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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愛47話 是が非でも生き残る覚悟

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 トムハットは完璧に船着き場までの道を覚えていたが、その一番近い場所にあるマンホールへ移動する過程は過酷を極めた。

 唯でさえ年端もいかない少年と片足の不自由な壮年男性というコンビなのだ、上り下りや梯子の移動が多い地下水路の移動で体力をジリジリ削られていく。



「パパ、大丈夫かなぁ……」



 出口を目指す移動によって疲労が溜まったディーノは、今まで敢えて考えない様にしていた不安を零してしまった。

 今状況は悪化の一途を辿っており、恐らくルチアーノは現在複数人のビッグネームに加えて裏切り者の脅威も抱えている。

 父の身が心配になるのも仕方が無いだろう。



「……大丈夫だディーノッ、何も心配は無いさ。 お前が無事に表社会まで逃げ切れば、何時か必ずお父さんと再会できるからな。あと少しで目的値だ、頑張れ」



 トムハットは慣れない杖を使った移動でゼエゼエと息を荒げながら、ディーノの様子に細心の注意を払って勇気づける。

 その言葉でディーノも再び心を立て直し、前を向いて歩き始めた。

 しかしトムハットは今自分が言った言葉が事実に成る可能性が限りなく低いことを知っていて、罪悪感を覚える。



 そして地下水路を二時間近く歩いた後、漸く二人は目的の場所に到着したのだった。

 目的の船着き場内部にあるマンホールの真下に辿り着き、漸く二人は足を止めて一息付く事が出来たのだが、二人の顔は暗い。

 しかし其れも当然で、この地下の世界から少しでも上に出れば血に飢えた兵士達が自分達を撃ち殺そうと待ち構えているのだから。



「よしッ、一端私が様子を見て来よう。もしも何か良くない事が発生したら、お前だけでも一目散に逃げて何処かに隠れるんだぞ」



「良くない事って?」



 ディーノが不安そうな顔でそう聞き返してくる。

 トムハットは自分が想定している『良くない事』をそのままディーノに教えるかどうか迷ったが、結局何もオブラートに包まず話す事にした。

 この様な緊急事態に至っては、少し運の天秤が傾いただけでトムハットが死にディーノだけが生き残るという状況も有り得るのだ。

 その時の為にも、可能な限り情報を与えて一人で逃げられる様にしなくては成らない。



「……良くない事って言うのはッ、私が敵に発見されて殺された、又は捕まった場合の話だ」



 ディーノはその言葉を聞いた瞬間凍り付いた様に固まった。

 しかしトムハットは心を鬼にして喋り続ける。



「良いか、コレはとっても残酷な事だがとっても重要な事だ。お前は今まで自分に優しくしてくれる人間にしか会った事が無いと思うが、今から外に出て出会う人間に優しい人間なんて居ない。見つかった瞬間確実にお前を殺しにくる!!」



「何で? 何で僕が殺されなきゃいけないの??」



 ディーノも薄々嫌な予感は感じていたのだろうが、実際に言葉で自分が非常に危険な状況にあると聞いて涙が零れた。

 幼い精神では堪えきれない程の恐怖であろう。

 だが、いやだからこそ言葉で頭に生き延び方を叩き込まなくては成らない。



「其れは、大人達の理不尽な理由だ。だからお前は話し合えば何とかなる等と考えては成らない。他人を信頼したらダメだ、自分を第一に行動しろッ」



 トムハットは見開いた眼で、強い口調の言葉で頭に刻み込んでいく。

 そしてディーノも非常に重要な事であると理解した様で、必死に理解しようと涙が止めどなく流れる両目でしっかりとトムハットを見詰め返した。



「常にどうやって生き延びるのかを考えろ、脱出経路や隠れる場所を想定しながら生活するんだ。無理に行動する必要は無い、生きていれば必ず誰かが助けに来てくれるッ」



 ディーノはただ黙ってコクコクと頷いた。



「最後に一番大切なことを。私が死んでも絶対に立ち止まってはダメだ、助けようとしては成らない、声を上げることも禁止だ」



「なんで……そんな事ッ」



「充分有り得る話だからだ! 良いな、分かったなッ!!」



 トムハットは声を荒げながら詰め寄る。

 此処で釘を刺して置かなければ、心優しいディーノは自分を助ける為に命を投げ出すだろうという確信があったトムハットはわざと強い口調で言ったのだ。



 その言葉の衝撃にディーノは固くなって、何も言えないままトムハットを見上げる。



「この際全て洗いざらい話す、正直現状はかなり苦しい物に成っている。ボスは殺される可能性が有るし、ファミリーも幹部の誰かに奪われるかも知れないし、外の世界は敵だらけでお前の命を狙っているッ!! そして私とお前の二人が無事に裏社会を脱出して表社会に脱出できる可能性もかなり低い!! 実際に人が何人も死んでいるんだッ!!」



 トムハットは顔をディーノに近づけ、叫ぶ様に言った。

 一言一言がディーノの鼓膜から心に響き、奥のとっても深い部分に刻み込まれている。



「だが其れでもディーノ、お前だけは生き延びなくちゃ成らないッ!! 例え誰が死のうとも、ルチアーノが死にファミリー自体が消滅してしまったとしてもッ、お前が生きていればレヴィアスは終わらないッ!! どんな形になっても、何年かかっても、どんな立場で行っても構わないッお前がこの屈辱を晴らし、世界を変えるんだ!! これから何千何万という人が死ぬがッその全てをお前が背負え!! 悲しみの連鎖を断ち切る、今までの不出来な英雄達を帳消しにする最後の英雄にお前がなるんだァッ!!」



「うッ……うぅうッ、うあぁぁぁんッ!!!」



 ディーノはもう何が何だか分からない複雑でドロドロした感情が胸の中に渦巻き、涙として溢れ出た。

 自分の背負い込まなくては成らないモノに対する不安と、大勢の人間が死んで大好きなパパまで殺される可能性が有るという現状に恐怖を覚えたのだ。



(済まないディーノ、お前には何の罪も無い。ただ一つ、ルチアーノ・バラキアの息子として生まれたという事実だけがお前を地獄に引きずり込むのだッ)



 トムハットは幼い息子同然の少年に、余りにも残酷なモノを背負わせてしまった事に対する良心の呵責で顔を顰める。

 しかし生暖かい言葉を掛けて見せかけの優しさを与えるつもりは無い。

 自分の背負ったモノに対する恐怖と不安を身をもって感じ、自らの心で背負い生きる覚悟を決め、是が非でも生き延びて使命を果たすという誓いを自らで立てなくては成らないのだ。

 だからディーノが自分で覚悟を決めて、涙を止めるまで静かに見守るのだ。



「ヒグッ、ヒグッ……うぅック、はぁはぁッ……」



 一、二分ディーノは何か弱音を吐くでもなく只管泣き続けた。

 そして最後はトムハットに背を向け、自らの手で両目の涙を拭った後にようやく振り向く。

 その目は真っ赤に染まっていてまだ涙でキラキラと輝いていたが、確かな覚悟の籠もった両目でトムハットを見詰め返したのだった。



(涙を恥じらい一人で涙を拭うことを覚えたか……。良いぞ、男は孤独に流した涙を自らの手で拭いながら成長していくもんだ。腹が据わった良い目に成った)



 トムハットは自分をキッと見詰める両目を満足そうに眺め、其れから漸くディーノに近づいて頭を撫でた。



「頑張ったな。さあ、後は逃げるだけだぞッ」

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