私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月

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何が起きたのか分からなかった。
「おぉ!本当に成功したぞ」
「しかし、二人ともいる。歴史では聖女は一人のはず。一体どっちが聖女なのだ?」
「歴史が語る聖女の容姿に最も近いのは彼女だ。彼女が聖女なのでは?」
「だが、万が一ということもある。必ずしも100年前の聖女と同じ色彩を持つ方が聖女であるという確証はない」
私は冷たい床の上に座っている。
私を囲んでいるのは白いローブを着た男たち。彼らは座り込んだままの私を見下ろしながら何やら訳の分からないことを言っている。
しかも彼らは髪や目の色が日本人とはかけ離れている。唯一、日本人に見えるのは私の隣に座り、きょとんとした顔をしている私と同じぐらいの年齢の彼女だけだ。
一体何が起こったのだろう?落ち着いてよく思い出してみよう。
私はいつものように朝、目を覚まして学校へ行くための準備をしていた。私は朝が弱いため食事は摂らない。だからいつものように少し早めに起きて本を読み、携帯のアラーム音を確認してから両親に挨拶をして家を出た。
玄関のドアを開けて外に出た瞬間に視界が反転した。
気が付いたら私はどこかの部屋の床に座り込み、なぜか見たこともない男たちに見下ろされていた。
「あなた、名前は?私はカナエ・ミズキ」
「あ、あの、、えっと、ハヤカワ・ヒナコです」
日本人形みたいな彼女は今にも消え入りそうな声でそう名乗った。
彼女も私と同じでこの状況を理解できていないようだ。
「ここに来るまでのことを覚えている?私は学校に行くために家を出た。そう思っていたら視界が反転してここにいたわ」
「私は、その、あの」と言ってヒナコは言葉を閉ざした。
「?」
言いたくないのだろうか?
目を泳がせ、必死に言葉を探している感じだ。
「別に無理に言う必要はないわ」
多分、どうやって来たかなんて大した問題じゃない。お互いただの日本人学生だ。おかしな術を使ってここへ来たわけではないだろう。
私たちがここにいる理由を知っているのは私と彼女どっちが『聖女』かなど未だに訳の分からないことを言い合っているこの男たちが知っているはずだ。ただ、言葉や態度には気を付けよう。
彼らがどういうつもりで私たちをここに連れていたのか、害ある者なのか、その気質すら知らないのだから。
私は立ち上がった、男たちの視線が一気に私に向けられた。それだけで体が震えた。以外にこのわけの分からない状況に怖がっているようだ。でも、怖がっていても何も始まらない。私は震える体をごまかす様に口を開いた。
「ここはどこでしょう?そしてあなた達は誰ですか?どうして私たちはここへ居るのですか?」
「これは大変失礼しました」
直ぐに床につきそうなぐらい長いひげを生やした男が一歩前に出た。どうやら彼がこの白いローブを着た男の中で一番偉い人のようだ。彼はとても穏やかな笑みを浮かべている。それが彼の本性かどうかは分からない。
私はただの学生だから小説の主人公のように人を見抜く力はない。
「私の名前はアガサ・ルザ・コーデリア。神官長を務めております。よければお二人の名前を教えていただいても?」
「名前も知らない人間を招待したのですか?」
私の皮肉にも彼は穏やかな笑みを崩さない。
「私の名前はミズキ・カナエ。名前がミズキ。カナエは家名」
「・・・・・」
緊張からか、恐怖からか、不安からか、その全部のせいかは分からないけれど、ヒナコは名乗らない。黙ったまま周りを見つめている。
「彼女の名前はハヤカワ・ヒナコ」
仕方がないので私が彼女の名前を教えた。
「ミズキ様、ヒナコ様。まずはこのようなところへお連れしたことをお詫びいたします。申し訳ありません。説明をさせていただきますが、ここはあなた方の住む世界ではありません」
隣で座ったままのヒナコから悲痛な声が漏れた。なんとなくそんな感じがしていた私は頭を抱えたくなった。
「ここはアルガシュル王国。わが国では100年前、あなた方のように異世界から召喚された聖女によって魔王を封印し、この国を救ってくださいました。しかし、その魔法が再び封印から復活する兆しがあり、我々は聖女様を異世界から召喚させていただいたのです」
それってファンタジー要素でいろいろと隠されているけど、要は誘拐じゃないか。それを自分たちの都合のいいように遠回しに言っているだけじゃない。
私は湧き上がる怒りを抑えて、目の前の神官長を睨みつけた。私の視線に神官長はたじろぐ。
「それで?その聖女様は最後はどうなったの?」
「当時の王太子殿下に望まれて結婚されました。国民からも祝福され、とても良き王妃となりました」
何それ?それでハッピーエンドでも気取ってんの?めでたし、めでたしって?バッカじゃないのっ!
「誤魔化さないでよ。要はそれ以外に道がなかっただけでしょう。聖女様だもの。それはさぞかし凄い力を持っていたのでしょうね。それこそ、他国には渡したくないでしょうし、下手な貴族に嫁がれては利用されるだけ。だからって平民にもできない。対処に困って王太子殿下に嫁がせた。他国への牽制にもなりますしね」
神官長は目を逸らした。どうやら正解だったようだ。
大人しくしているつもりだったけれどどうやら直ぐに殺されるわけではないようだ。なら大丈夫だろう。
「召喚はできても帰すことはできないんじゃないですか?だって、国が救われた後、救ってくれたものの末路なんて正直、どうでもいいでしょう」
我ながら性格が悪いとは思ったけれど私は皮肉的な笑みを浮かべて言った。しかしそんな私の言葉に真っ先に反応したのは神官長ではなく、ヒナコだった。
「えっ!帰れないんですか」
驚き、不安そうにヒナコは周囲を見渡した。神官長はじめ、周りに居た男たちは自分たちが私たちを勝手に召喚したことを棚上げして痛ましそうにヒナコを見る。
そして神官長は肯定の代わりに「申し訳ありません」と謝罪した。
「そ、そんなぁ」
「聖女様!?」
「えっ?」
私を含めた人間が驚き。ヒナコを見た。ヒナコはよほどショックだったのだろうか。倒れてしまった。
彼女のことはよく知らない。今日が初対面だから。でも少し話しただけでも気の弱さだけは分かった。
倒れてしまった彼女を見てこれから前途多難だなと私はため息をついた。
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