私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月

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ヒナコが部屋から出なくなって一週間が経った。部屋には鍵がかかっているので食事は部屋の前に置かれている。
毎回、完食されて部屋の前に置かれているそうなので食欲はあるようだ。
ならとっとと回復して自分のとるべき対応を考えてほしいものだ。
「なかなか出てきませんね」
ヒナコの部屋の前まで来た私にエイルが言う。
因にだが部屋の中にはバートランドがいる。聖女になって部屋へ逃げ帰ったヒナコについて行って、一緒に部屋へ入ったのだろう。
彼なら余計なことは言わないだろうからヒナコも傍にいることを許しているのかもしれない。
「どうしますか?」
全く焦った様子もなくエイルが私に聞く。
重鎮たちはこの状況に焦りあわめふためいているというのに。ずいぶんとお気楽なものだ。
「ヒナコ」
声をかけて暫くするとヒナコがドアの隙間から顔を出してきた。
泣きすぎで目は赤く、周囲は腫れていた。たったあれだけのとこでよくもまぁ、ここまで泣けるものだ。
ヒナコは体を横にずらして私が通れるように道を作った。
入れと言うことなのだろう。
私は遠慮なくヒナコの部屋に入る。部屋の中にいたバートランドは涼しげな顔で私に一礼する。
「・・・・私、どうしたらいいんだろ」
知るか。
途方にくれるヒナコを無視して私はソファーに座った。
それを見てヒナコも私の向かいに座る。するとバートランドが私たち二人のためにお茶を淹れてくれた。騎士なのに侍従のようなことが板についている。
ヒナコが籠っている間はこうやって彼が世話をしていたのかもしれない。
「ヒナコ、私たちは元の世界には帰れない」
私の言葉にヒナコは俯く。
「ここでやって行くしかない。一人で」
「一人で?ミズキは?」
ヒナコは私を縋るように見てくる。思わず漏れそうになるため息を何とかこらえた。
「場所は変わっても私たちは何も変わらないわ。いつかは好きな人ができて、家庭を持つことになるかもしれない。あなたはそんな私にずっとついてくる気?」
「そんなつもりは」
ない?本当に?
心のどこかで私が何とかしてくれる。自分以外の誰かが。そんかことを考えていないとは言わせない。
これまでの言動が全てを物語っている。
「自分で考えて動かないといけない。今回のことも、こうやっめ部屋に閉じ籠っていたって何も変わらないでしょ」
「でも、どうすればいいのか分からない」
だからそれを考えろと言っているのだ。
「聖女の件、どうするの?」
「無理だよ」
ヒナコは再び俯いてしまった。
違うだろ!
「さっきの現象が手品でないのなら。そして彼らの言うことが正しいのならヒナコは本当に選ばれた聖女ということになる」
彼女だけがこの世界に存在する意味をみいだされた。
私はここに来た理由すらない。存在する意味も価値もない。
そのことが私の胸に小さな痛みを与えた。でも私はそれに気づかないふりをする。
「でも」
尚も言い募ろうとするヒナコに私は言葉を被せる。
「できるか、できないかじゃない。現段階の問題はするか、しないか。できる、できないっていうのは、するか、しないかを決めてから発生する問題よ」
私の言葉にヒナコは口を真一文字にする。目には涙が溜まっていた。でも指摘しなかった。
私一人ならこんな苦労はなかったのにと心の中で嘆息するのは致し方がない。
ここに来てからのストレスは溜まりにたまっているのだ。
人は慣れない場所にいるだけでストレスが溜まる生き物だと言われているのだから。まぁ人だけには限らないだろうが。
「聖女がいなければこの世界でこれから生きていかないといけない私たちも困ることになる。RPGの世界なんて夢物語みたいで、戸惑うのは分かるけど、立ち止まってばかりではいられない。だから聞いているの、ヒナコ。あなたはどうしたいの?」
濡れた瞳が真っ直ぐと私を見つめる。
「聖女なんて無理なんて言うのならここにらいられない」
聖女候補だからいられた場所なのだ。そうでないのなら出ていくべきだろう。
「自力で生きていくのが筋だと思う。どうする?」
ヒナコは信じられないものでも見るように私を見つめる。そしてそのあと思案し、やがて蚊の鳴くような声で「聖女になる」と言った。
きっと、自力で生きていくのは無理だと判断したのだろう。
「分かった。なら私もできるだけサポートする」
聖女の件が一件落着したらすぐにこの城を出よう。
私は聖女ではなかった。聖女ではない私がここに留まるのは筋ではない。だって今の生活はこの国の血税で賄われているのだから。
でも、それをヒナコに言うつもりはない。
だっていつまでも一緒にいられるわけではないし。聖女になる彼女と私の道は既に分かれているのだから。
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