私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月

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「まだつかないのか」
魔王の封印されている場所は、魔王の封印が万が一解かれた場合のことを考え、辺境の地にある。その為長い旅となる。馬車を走らせて三時間。休憩のために今は一時停止している。
簡易的に用意された休憩場所でふんぞり返りながら殿下は文句を垂れる。傍に居るヒナコはその様子におろおろとし、時折こちらを見ては助けを求めてくる。でも、ここで私が出て行ったところで火に油を注ぐだけだ。
私は少し離れた場所から殿下の様子を気づかれない程度に見ていた。折角広がる高原も殿下のせいで台無しだ。彼の周囲にいる騎士も彼の様子にはうんざりしているようだ。それもそうだろう。あの態度が四六時中続くのなら。
「まだ出発されて三時間です、殿下」
騎士の一人がそう言うと殿下はくわっと目を見開いて怒鳴った。
「貴様、何だその態度はっ!」
どうやら騎士の言い方が気に入らなかったようだ。まぁ、確かにため息を押し殺して発せられた言葉ではあったね。理不尽に激昂する殿下に騎士は頭を下げ、謝罪する。周囲の騎士仲間もその光景に不快感をあらわにしていたが文句を言う人はいなかった。これが身分制度の弊害か。でもそれは私たちの世界にもあった。どこにでも似たような光景は見られるものだと感慨深げに見ていた。
「あ、あの、エーデル様」
震える声でヒナコが殿下に話しかけた。途端に殿下は相好を崩す。
「何だ、ヒナコ」
「あ、あの、少し、お、落ち着ていください。折角の、その、いい天気で、ピクニックみたいで、楽しいのに」
ピクニックって。今から魔王を封印しに行くのに何ともまぁお気楽な。だが、殿下にはよく効いた。
「そうだな。すまない、ヒナコ。こいつらの無能さについ苛立ってしまった。ピクニックか。そうだな。お前と二人きりでピクニックに来ていると考えるといいものだな」
「は、はい」
微笑む殿下にヒナコは若干顔を赤らめる。おやまぁ。彼女はいつの間に殿下に陥落したのだろうか。
「ミズキ様」
急に立ち上がった私をエイルは不思議そうな顔で見ている。
「馬車に戻る」
その言葉にエイルはすぐに納得した。
「そうですね。その方がよろしいかと」
殿下と私の関係は良好とは言えない。彼の矛先が向く前に私は馬車に避難した。エイルもその考えに賛同してそっと殿下の視界から私を隠してくれた。
「申し訳ありません、ミズキ様。せっかくの休憩だというのに」
エイルのせいではないけれど、なぜか謝るエイル。彼は本当に申し訳なさそうな顔をしている。
「あなたのせいではないでしょう」
「ですが」
「こうなることはある程度予想していたから平気よ。それに護衛してくれているあなた達と違って私は馬車に乗っているだけだからそんなに疲れているわけではないし」
それは嘘だ。陛下が用意してくれた馬車だからクッションとかが多く容姿されていて、おそらく他の馬車よりも比較的振動は抑えられているのだろう。それでも車に比べたら振動はかなりある。道も舗装されていない道が殆どだし。それに舗装されていてもコンクリートのような滑らかさはないから振動はどうしてもある。
そのせいで体は凝り固まっている。だから休憩時間に外に出れたときはすごい解放感があったし、いい気分転換にもなった。それもほんのひと時のことだけど。
耳をすませばまだ殿下の耳障りな声が鼓膜を揺るがす。私は人知れず嘆息し、全てを遮断するように目を閉じた。そんな私に寄り添うエイルが何か言ってくることはなかった。
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