私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月

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いつも一人だった。
両親は仕事で家を空かすことが多かった。
二人とも弁護士で、お互いにそれぞれの事務所を持っている。その事務所に泊って仕事をすることも多かった。だから一人の夜は当たり前。稀に家に帰ってくることはあった。でも、部屋に閉じこもりきりで顔を合わせることがないからいないのと同じだった。
それでも小学生の頃はまだこまめに帰ってきてくれた。
だけど、中学に上がると同時に二人は家に帰ってこなくなった。
「もう中学生なんだから一人でも大丈夫でしょ」
そう言って、着替えだけを取りに帰り、後はずっと事務所で泊まり込み。
通帳とカードを渡される。その中には毎月二人から生活費が振り込まれていた。増えていく数字に比例して私の心はどんどん冷めて行った。
誰もいない家に帰るのが嫌で、寂しくて、家に帰らなくなった。でも何も言われなかった。だってあの家はいつも空っぽだから。私が家に帰っていないことなんて気づくわけがない。
まるで私たち家族のようだ。絆も何もない。空っぽの家族。可哀そうだねって自嘲気味に鏡に映った自分を見て言ってみた。何の慰めにもならない。

◇◇◇

「・・・・嫌な夢」
「ミズキ様」
いつも無表情のエイルがほっとした顔で私を見つめてくる。私はベッドの上に寝かされていた。
「っ」
「動かないでください。傷に響きます」
「傷?」
少し動いただけで右肩に痛みがあった。見ると、包帯が巻かれている。
何があったっけ?
ちょっと考えてみるとすぐに記憶の糸を手繰り寄せることができた。
「ごめん」
「なぜ、ミズキ様が謝られるのですか」
エイルはまるで自分が傷を負ったみたいに痛々しい顔をした。
「戦いの途中で気を失った。私は聖女でもない。ただのお荷物なのに、足手まといになった」
「あなたのせいではありません。全ては私のミスです。あなたの方にもう少し気を配っていたら。っ」
「戦いの最中に離れている私たちのことに集中してたら死ぬよ」
重苦しい空気は嫌なのでちょっと笑って言ってみた。でも、エイルの顔は苦しみに歪められたまま。ちっとも笑ってくれない。まぁ、普段から笑った顔なんて見たことがないけど。
「あなたを失うぐらいなら、死んだほうがましです」
「何それ。まるでプロポーズみたい」
もう一度笑って言ってみた。でも、エイルは俯いたまま。どうしたものか。
「エイル」
私は怪我をしていない方の手を伸ばして、エイルの頬に触れた。私を見るエイルはまるで迷子の子犬みたいで、不謹慎かもしれないけど、可愛いと思った。普段、無表情で飄々としている彼がこんな顔をするなんて、それを見ているのが私だけという事実が嬉しい。どうしてだろう?まぁ、それは後で考えよう。今はまだやるべきことがあるから。
「助けてくれて、ありがとう」
「っ」
「エイルならきっと助けに来てくれるって信じてた。それにこの旅が危険なことは初めから分かっていたことだし。ある程度の覚悟はしてた」
「ミズキ様」
「エイルが護身用にって貸してくれたナイフ、ごめんね。壊しちゃって」
「そんなのどうでもいいです。あなたの命には代えられません」
今にも泣きそうなエイルを私は真っすぐと見上げる。
「あのナイフのおかげで助かった。エイルは凄いね。傍にいなくてもそうやって私を守ってくれる。だから私はいつも安心していられる。ねぇ、だから、エイル。また、私のことを守ってね」
「・・・・はい。はい。必ず」
力強く頷くエイル。そこにはもう迷子の子犬はいなかった。いつものエイルだ。それを見て私は安心した。
その時、コンコンとドアを誰かがノックした。
「どうぞ」
私はエイルの頬から手を放した。少しだけエイルが残念そうな顔をしたように見えたけれど、気のせいだろう。
私ももう少しだけ二人でいたかったけれど入室者を拒む理由はなかった。
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