私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月

文字の大きさ
33 / 33
番外編

バートランド

しおりを挟む
初めまして。私はバートランド・アイルシュタイン。私は聖女様の専属護衛に任命された。それはとても栄誉なことだと分かってはいる。分かってはいるが・・・・・。
「どうして、どうして私なの」
そう繰り返して泣き続けるヒナコ様を見て、ため息が出た。
異界より召喚された女性は二人。うち一人はミズキ様というこの国の女性にしては珍しい髪の短い女性だ。黒曜のような目には強い意思が感じられた。
それを裏切らないように彼女は状況把握に努めたり、自分の中で優先事項を定めて動いている。そんな彼女の魅力にひかれたのか。
私の親友であるエイル。顔は整っているが、無表情で無関心がデフォルトの彼に近づこうとする勇気ある令嬢は少ない。そんなエイルが珍しくミズキ様を気に入り、少しでも男が近づこうものならその鋭い眼光で牽制していた。
しっかり者のミズキ様だが、鈍いところもあるみたいでそんな男たちの視線にも、エイルの気持ちにも気づいはいないようだ。
そんなちょっと抜けているところは愛らしく思ってしまう。きっと彼女の魅力の一つなのだろう。
「無理だよ。できるわけない」
私はもう一度泣いている聖女様を見た。
つい先ほど、ヒナコ様は文献に載っている『聖なる光』というものを発して、聖女認定された。けれど彼女には荷が重かったのだろう。あれ以来、部屋に閉じこもり、ずっと泣いている。
私はもう一度ため息をついた。
「ヒナコ様。大丈夫ですよ。聖女としての力をコントロールできるようにみなが協力してくれますし、あなたに全責任を押し付けるような愚か者はおりません」
私は笑顔を心がけてそう言った。ヒナコ様は一度私を涙で濡れた目で見る。そして直ぐに視線を落とす。
「む、無理だよ。そ、そういう問題じゃないもん。何で、私なの?ミズキなら分かるけど。私には無理だよ」
そう言って再び泣き出してしまった。もうお手上げだ。そう思っているとドアの外からミズキ様とエイルの声が聞こえた。
「ヒナコ」
外から聞こえたミズキ様の声にヒナコ様は直ぐに反応した。縋るように彼女はドアに向かう。私もその後を追う。
「・・・・・私、どうしたらいいんだろう」
ドアを開け、現れたミズキ様にヒナコ様がそう問うた。『知るか』と言いそうになるのをグッと堪えているかのような顔をしてミズキ様は部屋に入ってくる。
一緒に部屋に入って来たエイルはどことなく不機嫌だ。といってもいつも通り無表情だけど。動かない表情筋から彼の機嫌を察することができるのは私が彼と長い付き合いだからだ。
「ヒナコ、私たちは元の世界には帰れない」
ソファーに腰かけたミズキ様は淡々と事実だけを述べる。その事実にヒナコ様は悲壮な顔をされた。それでもミズキ様は構わず話を続ける。
強い女性だと思った。本当は彼女だってヒナコ様のように悲嘆にくれたいのだろう。でも、彼女はそれをしない。するだけ無駄だと分かっているからだ。
ミズキ様はヒナコ様を叱咤激励して何とか聖女の役目をする方向に持っていってくれた。
強くて、優しくて、厳しい女性だと思った。だからこそ彼女が内に秘めている思いに不安に思う。ヒナコ様と同じ理不尽な理由で、右も左も分からない場所にいるミズキ様。ましてや彼女は聖女ではなかった。今の彼女の立場はとても微妙なものとなっている。聖女ではなのなら王宮にとどめておく必要はない。戸籍を与えて市井で暮らさせようという声も上がっている。
何とも身勝手なことだ。でも、それがこの国の貴族なのだ。
そのことをミズキ様が知っているかは分からない。聡明な方だからもしかしたら既にご自分の立場を理解し、その為に動いているかもしれない。
私はエイルを見た。ミズキ様のことは心配だけど、それをするのは私の役目ではないと判断し、私は聖女となってしまったヒナコ様の護衛に専念することにした。
しおりを挟む
感想 27

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(27件)

hiyo
2022.03.25 hiyo

2度目です、また楽しく読ませて頂きました。
どの様な状況にも自分というものを持って、前を見て進んでいける人は本当に素敵です。

読み直しても面白かったです、有難うございました。

2022.03.26 音無砂月

ありがとうございます😆
二度も楽しんでいただけるなんて感激です😊

解除
華
2019.08.29

ヒナコみたいに何もしないでただメソメソしているだけで仕方がないからと他者(ミズキ)が苦労して助けたのに手柄だけはヒナコのものにしてしまう要領の良いコっていますよね
反吐が出るくらい嫌いなタイプですけど。それならヒナコなんて放置しちゃえば良いのに見捨てないあたりミズキのお人好しに大丈夫かとも思う
ヒナコは元より勝手に召喚した国も王族も国民も期待しているのは聖女なんだから無関係なミズキはさっさと隣国へでもトンズラしたら良いのに…と完結までに何度も思った
娯楽として楽しむつもりのオハナシで最初から最後までもやもやしてすっきり爽快な気分になれなかった作品でした

解除
エイル
2018.06.10 エイル

辛いのはあんただけど違うねんで
と、何度思ったことか
頑張って生きていけよとエールを送ります

それと、ミズキが幸せになっている後日談も書いて下さいね

2018.06.11 音無砂月

最後までお付き合いくださりありがとうございます(^^)/

解除

あなたにおすすめの小説

きっと幸せな異世界生活

スノウ
ファンタジー
   神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。  そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。  時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。  女神の導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?  毎日12時頃に投稿します。   ─────────────────  いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

現実的な異世界召喚聖女

章槻雅希
ファンタジー
 高天原の神々は怒っていた。理不尽な異世界召喚に日ノ本の民が巻き込まれることに。そこで神々は怒りの鉄槌を異世界に下すことにした。  神々に選ばれた広瀬美琴54歳は17歳に若返り、異世界に召喚される。そして彼女は現代日本の職業倫理と雇用契約に基づき、王家と神殿への要求を突きつけるのだった。

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

異世界召喚された巫女は異世界と引き換えに日本に帰還する

白雪の雫
ファンタジー
何となく思い付いた話なので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合展開です。 聖女として召喚された巫女にして退魔師なヒロインが、今回の召喚に関わった人間を除いた命を使って元の世界へと戻る話です。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。