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ガッシャン
部屋にあった花瓶が床に叩きつけられて割れた。
中に入っていた花は今朝、使用人が摘んできて飾ったものだが、今は床に散らばり無残にも踏みつけられていた。
「して、どうしてよっ!」
そう言って叫び、手当たり次第に部屋にある物を壊しまくるのはこの部屋の主であるシャーベットだ。
その様子を呆れた顔と、自分がせっかく毎日綺麗にしているのに問答無用で汚しまくるシャーベットに対して静かな怒りの炎を燃やしているのはセルフ殿下が雇ったシャーベット専用の侍女だ。
侍女は小さくため息をつき、次の奉公先を探そうと心の中で決めていた。
「どうして、セルフはいないの。どうして私の美しい顔が。何で。何で、全部失っているの。どうして。どうしてよ!」
自分で自分を美しいと言うシャーベットに呆れながら侍女は彼女に気づかれないようにそっと部屋を出る。この場に留まっては自身も要らぬ火の粉を浴びかねないからだ。
「は?私のところで働きたい?」
セルフ殿下が雇った侍女が来て、部署替えを要求してきた。
私は持っていた書類から視線を侍女に移した。
「はい。シャーベット様にはついていけませんので」
でしょうね。毎日、毎日騒々しいこと。
彼女が壊していっている部屋のものは全て市場で購入した、庶民でも買える安ものなので壊れたところで損害は問題ないが。今でも聞こえる騒音には使用人も辟易している。
「悪いけれど、うちは公爵家である以上侍女の質も最高のものを用意しているの」
それは暗に『お前は侍女として質が悪すぎる』と言っているのだ。
それを表すかのように侍女の表情が変わった。侍女とは言葉は悪いが人形でなくてはいけないのだ。
人形は主の言葉に従い、動く。そして、感情を決して表に出してはいけない。
使用人の言葉、態度一つで主の致命的欠陥になりかねないからだ。すきを見せれば簡単に食われる貴族社会では使用人ですらすきのないものにしなくてはいけない。
「さすがはセルフ殿下が雇い、シャーベット様が採用しただけはあるわね」
私はにっこりと笑って侍女を見つめる。
「我が家に盗人はいらないのよ」
「な、なんのことでしょうか?」
「あら、駄目ね。とぼけるつもりなら動揺は隠さないと。本当に質の悪い侍女だこと」
私の邸に私が認めた者以外が入る。それは私や私が雇った使用人にとって侵入者と同じだ。だから注意深く、彼女を監視した。
そして彼女は邸にある調度品や同じ使用人の持ち物、セルフ殿下やシャーベットの物を盗んでいることが分かった。
あの二人は人を見る目がなさすぎる。こんなに分かりやすく顔に真実を描いてくれる人間すら見抜けないなんて。
どのみち、セルフ殿下もシャーベットも社交界で生き残ることはできなかっただろう。あそこは魔窟。どんなに地位と権力があろうとも簡単に弱者に成り果て、骨の髄まで貪られることになる。
貴族とはとても貪欲で浅ましい生き物なのだから。
「ダリウス、目障りだわ。追い出して頂戴。ああ、それと当然だけどお給料はないわよ」
「なっ!?わ、私の雇い主はあなたではありませんっ!」
目をカッと見開き反論する侍女。彼女の言い分はもっともだが、今のセルフ殿下とシャーベットには侍女一人を雇う金すらないだろう。その事実を知っているのは二人と二人が雇った人間以外の全てだ。
「なくても困らないでしょう。盗んだものを売りさばいたお金があるのだから」
「大したお金にはならなかったわ」と、開き直ったのか、侍女はあっさりと肯定した。
「お金になるようなものを盗ませるわけがないでしょう。話はここまでよ」
その言葉が合図にダリウスは暴れ、喚く侍女を力でねじ伏せ、邸の外に追い出した。もちろん、簡単に戻って来れないように遠くへ放ってもらったし、暫くは監視をつけさせた。
「これで仕事が一つ片付いたわね。残る仕事は」
「お嬢様。陛下から召喚状が届いております」
セバスチャンの言葉に私は笑みを浮かべる。
「では、最後の仕事に取り掛かりましょう」
部屋にあった花瓶が床に叩きつけられて割れた。
中に入っていた花は今朝、使用人が摘んできて飾ったものだが、今は床に散らばり無残にも踏みつけられていた。
「して、どうしてよっ!」
そう言って叫び、手当たり次第に部屋にある物を壊しまくるのはこの部屋の主であるシャーベットだ。
その様子を呆れた顔と、自分がせっかく毎日綺麗にしているのに問答無用で汚しまくるシャーベットに対して静かな怒りの炎を燃やしているのはセルフ殿下が雇ったシャーベット専用の侍女だ。
侍女は小さくため息をつき、次の奉公先を探そうと心の中で決めていた。
「どうして、セルフはいないの。どうして私の美しい顔が。何で。何で、全部失っているの。どうして。どうしてよ!」
自分で自分を美しいと言うシャーベットに呆れながら侍女は彼女に気づかれないようにそっと部屋を出る。この場に留まっては自身も要らぬ火の粉を浴びかねないからだ。
「は?私のところで働きたい?」
セルフ殿下が雇った侍女が来て、部署替えを要求してきた。
私は持っていた書類から視線を侍女に移した。
「はい。シャーベット様にはついていけませんので」
でしょうね。毎日、毎日騒々しいこと。
彼女が壊していっている部屋のものは全て市場で購入した、庶民でも買える安ものなので壊れたところで損害は問題ないが。今でも聞こえる騒音には使用人も辟易している。
「悪いけれど、うちは公爵家である以上侍女の質も最高のものを用意しているの」
それは暗に『お前は侍女として質が悪すぎる』と言っているのだ。
それを表すかのように侍女の表情が変わった。侍女とは言葉は悪いが人形でなくてはいけないのだ。
人形は主の言葉に従い、動く。そして、感情を決して表に出してはいけない。
使用人の言葉、態度一つで主の致命的欠陥になりかねないからだ。すきを見せれば簡単に食われる貴族社会では使用人ですらすきのないものにしなくてはいけない。
「さすがはセルフ殿下が雇い、シャーベット様が採用しただけはあるわね」
私はにっこりと笑って侍女を見つめる。
「我が家に盗人はいらないのよ」
「な、なんのことでしょうか?」
「あら、駄目ね。とぼけるつもりなら動揺は隠さないと。本当に質の悪い侍女だこと」
私の邸に私が認めた者以外が入る。それは私や私が雇った使用人にとって侵入者と同じだ。だから注意深く、彼女を監視した。
そして彼女は邸にある調度品や同じ使用人の持ち物、セルフ殿下やシャーベットの物を盗んでいることが分かった。
あの二人は人を見る目がなさすぎる。こんなに分かりやすく顔に真実を描いてくれる人間すら見抜けないなんて。
どのみち、セルフ殿下もシャーベットも社交界で生き残ることはできなかっただろう。あそこは魔窟。どんなに地位と権力があろうとも簡単に弱者に成り果て、骨の髄まで貪られることになる。
貴族とはとても貪欲で浅ましい生き物なのだから。
「ダリウス、目障りだわ。追い出して頂戴。ああ、それと当然だけどお給料はないわよ」
「なっ!?わ、私の雇い主はあなたではありませんっ!」
目をカッと見開き反論する侍女。彼女の言い分はもっともだが、今のセルフ殿下とシャーベットには侍女一人を雇う金すらないだろう。その事実を知っているのは二人と二人が雇った人間以外の全てだ。
「なくても困らないでしょう。盗んだものを売りさばいたお金があるのだから」
「大したお金にはならなかったわ」と、開き直ったのか、侍女はあっさりと肯定した。
「お金になるようなものを盗ませるわけがないでしょう。話はここまでよ」
その言葉が合図にダリウスは暴れ、喚く侍女を力でねじ伏せ、邸の外に追い出した。もちろん、簡単に戻って来れないように遠くへ放ってもらったし、暫くは監視をつけさせた。
「これで仕事が一つ片付いたわね。残る仕事は」
「お嬢様。陛下から召喚状が届いております」
セバスチャンの言葉に私は笑みを浮かべる。
「では、最後の仕事に取り掛かりましょう」
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