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「なぜ、なぜこうなった」
譫言のように呟きながら帰ってきたセルフ殿下に目には戸惑いと絶望が浮かんでいた。
「どうやらお戻りになったようね」
馬の嘶きが聞こえ、私は仕事の手をいったん止めて窓の外に視線を向けた。そこにはふらふらになりながら歩くセルフ殿下の姿があった。
何度か転んで服を土まみれにしていたが周囲にいるのは我が家に長く仕えている使用人なので誰もセルフ殿下に手を貸さない。普段の彼なら怒っているところかもしれないが今があまりのショックでそこまで気がいってないようだ。
◇◇◇
「は?今、何と言った」
スカーレットが雇っている執事のセバスチャン。彼はいつものように柔和な笑みを浮かべ、姿勢を正して俺を出迎えたかと思うと信じられないことを口にした。
「ですから、お嬢様とあなた様の婚約はすでに破棄されております。ここより先、通すことはできません」
「破棄、破棄だと?」
「はい。陛下からもそのようなお話があったと思われますが」
そう言われて思い出してみる。
だが、王籍剥奪の話が印象深くてそれ以外の話のことなど頭に残ってはいない。それに俺が愛しているのはシャーベットであってスカーレットではない。なので正直、あの女の話などどうでもいいのだ。
「所詮は身分に囚われる愚鈍な女だな。俺が王籍を剥奪されたと知るや否や掌を返すとは」
小ばかにしたように鼻で笑ってやれば笑みを浮かべたままセバスチャンは首を左右に振った。
「いいえ。あなた様はお嬢様の元へ来た時点で既に王籍を剥奪されていおりました」
「口から出まかせを」
「この件も含め、陛下からお話があったと思うのですが」とセバスチャンはため息交じりに答える。まるで物覚えの悪い子供に呆れているような態度だ。
主人といい使用人といい、本当に分をわきまえない奴らだ。こんなところに王族である俺を嫁がせるなど、父上はどうかしているのだ。おまけに俺を王籍から外すなど、耄碌したとしか思えない。
「もういい。お前では埒が明かない。スカーレットを出せ」
そう言った瞬間、セバスチャンから笑みが消えた。足が震え、立てなくなるような圧迫感がセバスチャンから発せられる。
「あ、あ、あ」
「平民であるあなたが私の主人を呼び捨てにするな。本来なら不敬罪で牢獄行きだが、貴様の為に払える血税はない。今回は見逃してやるから即刻去れ」
囚人の食事は全て血税から出しているのでセルフ殿下をもう殿下ではないのでセルフと呼ぼう。セルフを牢獄に入れては民に無駄な金を払わせることになるのだ。それを望まない王太子と私の意見の一致と可愛い息子を牢獄になど入れたくないという陛下の思いから彼は平民へとなったのだ。これまでの行いに目を瞑って。
「それと。貴様が連れて来たシャーベットという女はお前が王籍を剥奪され、お嬢様との婚約も破棄されたと知って直ぐにこの邸を出て行ったぞ。残念だったな。目障りだ。連れていけ」
周囲にいた私兵にセバスチャンが命じると、腰を抜かして地面に座り込んでいる俺を無理やり立たせた男たちが両脇から俺を抱え門の外に放り投げた。
◇◇◇
「まさかとは思うが本当に、馬鹿正直に邸に帰ってくるとはな」
一連の流れを私とダリウスは執務室の窓から見ていた。
「どうせ陛下の話もろくに聞いていなかったのでしょう」
「恥さらしもいいところだな」
「本当ね。しかも本人はそれが恥だとすら気づいてはいないのだからある意味幸せね」
「おめでたいことだ」
何にせよ、これで仕事は終わりだ。
後は野垂れ死ぬなり好きにすればいい。私はもう介入しない。死人に鞭を打つ趣味はないのだから。
「さようなら、セルフ殿下」
譫言のように呟きながら帰ってきたセルフ殿下に目には戸惑いと絶望が浮かんでいた。
「どうやらお戻りになったようね」
馬の嘶きが聞こえ、私は仕事の手をいったん止めて窓の外に視線を向けた。そこにはふらふらになりながら歩くセルフ殿下の姿があった。
何度か転んで服を土まみれにしていたが周囲にいるのは我が家に長く仕えている使用人なので誰もセルフ殿下に手を貸さない。普段の彼なら怒っているところかもしれないが今があまりのショックでそこまで気がいってないようだ。
◇◇◇
「は?今、何と言った」
スカーレットが雇っている執事のセバスチャン。彼はいつものように柔和な笑みを浮かべ、姿勢を正して俺を出迎えたかと思うと信じられないことを口にした。
「ですから、お嬢様とあなた様の婚約はすでに破棄されております。ここより先、通すことはできません」
「破棄、破棄だと?」
「はい。陛下からもそのようなお話があったと思われますが」
そう言われて思い出してみる。
だが、王籍剥奪の話が印象深くてそれ以外の話のことなど頭に残ってはいない。それに俺が愛しているのはシャーベットであってスカーレットではない。なので正直、あの女の話などどうでもいいのだ。
「所詮は身分に囚われる愚鈍な女だな。俺が王籍を剥奪されたと知るや否や掌を返すとは」
小ばかにしたように鼻で笑ってやれば笑みを浮かべたままセバスチャンは首を左右に振った。
「いいえ。あなた様はお嬢様の元へ来た時点で既に王籍を剥奪されていおりました」
「口から出まかせを」
「この件も含め、陛下からお話があったと思うのですが」とセバスチャンはため息交じりに答える。まるで物覚えの悪い子供に呆れているような態度だ。
主人といい使用人といい、本当に分をわきまえない奴らだ。こんなところに王族である俺を嫁がせるなど、父上はどうかしているのだ。おまけに俺を王籍から外すなど、耄碌したとしか思えない。
「もういい。お前では埒が明かない。スカーレットを出せ」
そう言った瞬間、セバスチャンから笑みが消えた。足が震え、立てなくなるような圧迫感がセバスチャンから発せられる。
「あ、あ、あ」
「平民であるあなたが私の主人を呼び捨てにするな。本来なら不敬罪で牢獄行きだが、貴様の為に払える血税はない。今回は見逃してやるから即刻去れ」
囚人の食事は全て血税から出しているのでセルフ殿下をもう殿下ではないのでセルフと呼ぼう。セルフを牢獄に入れては民に無駄な金を払わせることになるのだ。それを望まない王太子と私の意見の一致と可愛い息子を牢獄になど入れたくないという陛下の思いから彼は平民へとなったのだ。これまでの行いに目を瞑って。
「それと。貴様が連れて来たシャーベットという女はお前が王籍を剥奪され、お嬢様との婚約も破棄されたと知って直ぐにこの邸を出て行ったぞ。残念だったな。目障りだ。連れていけ」
周囲にいた私兵にセバスチャンが命じると、腰を抜かして地面に座り込んでいる俺を無理やり立たせた男たちが両脇から俺を抱え門の外に放り投げた。
◇◇◇
「まさかとは思うが本当に、馬鹿正直に邸に帰ってくるとはな」
一連の流れを私とダリウスは執務室の窓から見ていた。
「どうせ陛下の話もろくに聞いていなかったのでしょう」
「恥さらしもいいところだな」
「本当ね。しかも本人はそれが恥だとすら気づいてはいないのだからある意味幸せね」
「おめでたいことだ」
何にせよ、これで仕事は終わりだ。
後は野垂れ死ぬなり好きにすればいい。私はもう介入しない。死人に鞭を打つ趣味はないのだから。
「さようなら、セルフ殿下」
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