8 / 31
8
しおりを挟む
オレスト王国
「親父、どうもおかしいみたいだ」
オレスト王国第一王子、現王太子殿下であるガルム・オレスト。銀色の髪に黒い瞳をしている。
彼は不機嫌そうに王太子妃であるリリーと王の執務室に入って来て、どかりとソファーに腰を下ろした。
リリーは現宰相の娘で、元は公爵家の出だ。茶色の髪に金色の垂れ目をしている。
リリーは不機嫌さを隠さないガルムに苦笑しながらゆったりとその隣に腰を下ろす。
その前に座っているのが俺、この国の第二王子リヴィ。シスタミナに嫁いだ妹と同じ黒髪、黒目をしている。これは一〇年前馬車の事故で死んだ、母の遺伝だ。
兄さんは父であるオレスト王国国王、オーガストに似た。
そして俺の隣に座るのは婚約者のアンネ・クラウス。金色の髪に気の強さを表す青い瞳をしている。
彼女は現在一六歳。伯爵家に家柄だ。来月に挙式を上げる予定だ。
「マリアの奴、公の場に一切出て来てない。帝国側は王妃は病に臥せっていると言っている。国民をそれも信じているようだ」
「あらあら。マリアちゃん、大丈夫かしら?何かお見舞いでも贈りましょうか?」
「お義姉様、何を言っているんですか?そんなの嘘に決まっています。だいたい、便りの一つも寄越さないなんておかしいはずですわ!」
おっとりとしたリリーの発言を即座にアンネが否定する。
「まぁ、アンネちゃん。悪戯に人を疑うものではないわ」
相変わらずの義姉さんの発言には脱力する。だが、彼女の存在が緩衝材となり、殺伐とした空気にならないのも事実なので必要な存在だ。
「クレバーの野郎。平民の女を囲っているって噂だぞ。しかも、公の場に平気で連れて来て、王妃の椅子に座らせているとか。まぁ、これは貴族の間の噂で、平民には隠されているようだが」
「でも、少しずつ平民の間にも不信感だ出てきているよね」
「ああ」
「火のない所に煙は立たないと言いますものね。クレバー陛下は一体何を考えているのかしら?」
義姉さんは頬に片手を添え、こてんと首を傾げた。義姉さん以外の人間がしたらあざといけど、不思議と義姉さんがすると似合っているし、あざとさがまるでない。これも人望というものだろうか。
「はぁ!?その男、馬鹿じゃないの!じゃあ、マリアはどこよ」
「落ち着け、アンネ」
「そうよ、アンネちゃん。いくら恋に溺れる男でもマリアちゃんを殺すような愚かなことはしないはずよ。そんなことをすれば、どうなるか分かっているでしょうし」
「リリーの言う通りだ。落ち着け、アンネ」
「お言葉ですが、お義兄様、お義姉様。王妃の椅子に平民の女を座らせる馬鹿にそんなまともな思考回路があるとは思えませんわ」
アンネの言うことも一理ある。
本当にクレバー陛下は何を思って平民なんかにその椅子を座らせているのか。
俺達の大切な姫を蔑ろにしていることすら腹立たしいのに。
「リヴィ」
上座に座り、今まで黙って俺達の話を聞いていた父が重々しく口を開いた。そのことによって自然とみなの口が閉じ、視線が父に向かう。
「アンネ。共に使者として様子を見に行ってくれ。おりしも近々建国記念祭をやるそうだからな。まさか、王妃の出身国である我が国に招待状がないわけでもあるまい」
「マリアがそのパーティーに出て来ない、病を理由に俺達すら面会を拒まれる可能性もあります。まぁ、如何に大国とはいえ、建国から二〇〇年の新参者。同じ大国なら俺達の方が強いですし、それに王妃の身内ということを使えば強引にでも会うことはできますが」
「手段は問わん。何かあってもこっちは知らぬ存ぜぬで通すから好きにしろ」
「あらあら。あなた達、来月挙式なんだから無理はダメよ。最悪、マリアちゃんの生存が確認できればいいのだし。その後は、こっちでも何とかできるから」
おっとりとしながら「万が一戦争になっても自業自得ね」と笑って言う義姉さんにこちらは苦笑を返すのが精一杯だった。
アンネも義姉さんもマリアのことを大切に思っている。
だから今回の件で義姉さんはにっこりと微笑んでいるだけだから分かりづらいが、それでも長い付き合いだ。彼女がかなり怒っているのは見れば分かる。
「分かっています、義姉さん」
「あんな男、蹴っ飛ばして、マリアを直ぐにでも連れて帰ってごらんにいれますわ」
「パーティーには俺の友人のトワも参加するはずだ。事情を話しておくから何かあれば頼れ。マリアを頼んだぞ」
「ああ、任せて。兄さん」
トワというのはオルドル国の王太子のことだ。オルドル国は小国ながらも大国に負けない武力を持っている。
オレストとも親交があり、昔からよく会っているので親しくなった。
特に兄さんは同じ王太子として、彼らにしか分からない悩みを抱え、共有して来たらとりわけ仲が良いのだろう。
挙式の準備もあって忙しいはずなのに、執務室を出て使用人達に事情を話してシスタミナ帝国へ行く準備を頼んだらみな、快く引き受けてくれた。
場合によっては挙式を延ばすことになるかもしれないがアンネは「挙式なら私とあなたが居て、教会があって神父が居ればいつでもできます。でも、マリアの件は今でなくてはいけません。なら私の中での優先順位はあなたと同じはずです。何も問題ありませんわ」と言ってくれた。
みながマリアのことを心配し、思ってくれている。だから絶対に何かしらの情報を掴んで、彼女の笑顔を早く見たいし、みなにも見せたいと思う。
「親父、どうもおかしいみたいだ」
オレスト王国第一王子、現王太子殿下であるガルム・オレスト。銀色の髪に黒い瞳をしている。
彼は不機嫌そうに王太子妃であるリリーと王の執務室に入って来て、どかりとソファーに腰を下ろした。
リリーは現宰相の娘で、元は公爵家の出だ。茶色の髪に金色の垂れ目をしている。
リリーは不機嫌さを隠さないガルムに苦笑しながらゆったりとその隣に腰を下ろす。
その前に座っているのが俺、この国の第二王子リヴィ。シスタミナに嫁いだ妹と同じ黒髪、黒目をしている。これは一〇年前馬車の事故で死んだ、母の遺伝だ。
兄さんは父であるオレスト王国国王、オーガストに似た。
そして俺の隣に座るのは婚約者のアンネ・クラウス。金色の髪に気の強さを表す青い瞳をしている。
彼女は現在一六歳。伯爵家に家柄だ。来月に挙式を上げる予定だ。
「マリアの奴、公の場に一切出て来てない。帝国側は王妃は病に臥せっていると言っている。国民をそれも信じているようだ」
「あらあら。マリアちゃん、大丈夫かしら?何かお見舞いでも贈りましょうか?」
「お義姉様、何を言っているんですか?そんなの嘘に決まっています。だいたい、便りの一つも寄越さないなんておかしいはずですわ!」
おっとりとしたリリーの発言を即座にアンネが否定する。
「まぁ、アンネちゃん。悪戯に人を疑うものではないわ」
相変わらずの義姉さんの発言には脱力する。だが、彼女の存在が緩衝材となり、殺伐とした空気にならないのも事実なので必要な存在だ。
「クレバーの野郎。平民の女を囲っているって噂だぞ。しかも、公の場に平気で連れて来て、王妃の椅子に座らせているとか。まぁ、これは貴族の間の噂で、平民には隠されているようだが」
「でも、少しずつ平民の間にも不信感だ出てきているよね」
「ああ」
「火のない所に煙は立たないと言いますものね。クレバー陛下は一体何を考えているのかしら?」
義姉さんは頬に片手を添え、こてんと首を傾げた。義姉さん以外の人間がしたらあざといけど、不思議と義姉さんがすると似合っているし、あざとさがまるでない。これも人望というものだろうか。
「はぁ!?その男、馬鹿じゃないの!じゃあ、マリアはどこよ」
「落ち着け、アンネ」
「そうよ、アンネちゃん。いくら恋に溺れる男でもマリアちゃんを殺すような愚かなことはしないはずよ。そんなことをすれば、どうなるか分かっているでしょうし」
「リリーの言う通りだ。落ち着け、アンネ」
「お言葉ですが、お義兄様、お義姉様。王妃の椅子に平民の女を座らせる馬鹿にそんなまともな思考回路があるとは思えませんわ」
アンネの言うことも一理ある。
本当にクレバー陛下は何を思って平民なんかにその椅子を座らせているのか。
俺達の大切な姫を蔑ろにしていることすら腹立たしいのに。
「リヴィ」
上座に座り、今まで黙って俺達の話を聞いていた父が重々しく口を開いた。そのことによって自然とみなの口が閉じ、視線が父に向かう。
「アンネ。共に使者として様子を見に行ってくれ。おりしも近々建国記念祭をやるそうだからな。まさか、王妃の出身国である我が国に招待状がないわけでもあるまい」
「マリアがそのパーティーに出て来ない、病を理由に俺達すら面会を拒まれる可能性もあります。まぁ、如何に大国とはいえ、建国から二〇〇年の新参者。同じ大国なら俺達の方が強いですし、それに王妃の身内ということを使えば強引にでも会うことはできますが」
「手段は問わん。何かあってもこっちは知らぬ存ぜぬで通すから好きにしろ」
「あらあら。あなた達、来月挙式なんだから無理はダメよ。最悪、マリアちゃんの生存が確認できればいいのだし。その後は、こっちでも何とかできるから」
おっとりとしながら「万が一戦争になっても自業自得ね」と笑って言う義姉さんにこちらは苦笑を返すのが精一杯だった。
アンネも義姉さんもマリアのことを大切に思っている。
だから今回の件で義姉さんはにっこりと微笑んでいるだけだから分かりづらいが、それでも長い付き合いだ。彼女がかなり怒っているのは見れば分かる。
「分かっています、義姉さん」
「あんな男、蹴っ飛ばして、マリアを直ぐにでも連れて帰ってごらんにいれますわ」
「パーティーには俺の友人のトワも参加するはずだ。事情を話しておくから何かあれば頼れ。マリアを頼んだぞ」
「ああ、任せて。兄さん」
トワというのはオルドル国の王太子のことだ。オルドル国は小国ながらも大国に負けない武力を持っている。
オレストとも親交があり、昔からよく会っているので親しくなった。
特に兄さんは同じ王太子として、彼らにしか分からない悩みを抱え、共有して来たらとりわけ仲が良いのだろう。
挙式の準備もあって忙しいはずなのに、執務室を出て使用人達に事情を話してシスタミナ帝国へ行く準備を頼んだらみな、快く引き受けてくれた。
場合によっては挙式を延ばすことになるかもしれないがアンネは「挙式なら私とあなたが居て、教会があって神父が居ればいつでもできます。でも、マリアの件は今でなくてはいけません。なら私の中での優先順位はあなたと同じはずです。何も問題ありませんわ」と言ってくれた。
みながマリアのことを心配し、思ってくれている。だから絶対に何かしらの情報を掴んで、彼女の笑顔を早く見たいし、みなにも見せたいと思う。
63
あなたにおすすめの小説
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
駆け落ちした愚兄の来訪~厚顔無恥のクズを叩き潰します~
haru.
恋愛
五年前、結婚式当日に侍女と駆け落ちしたお兄様のせいで我が家は醜聞付きの貧乏伯爵家へと落ちぶれた。
他家へ嫁入り予定だった妹のジュリエッタは突然、跡継ぎに任命され婿候補とのお見合いや厳しい領主教育を受ける日々を送る事になった。
そしてお父様の死という悲しい出来事を乗り越えて、ジュリエッタは伯爵家を立て直した。
全ては此処からという時に、とうの昔に縁を切った筈の愚兄が何事もなかったかのように突然帰って来た。それも三歳になる甥を引き連れて……
本編23話 + 番外編2話完結済み。
毎日1話ずつ更新します。
僕の婚約者は今日も麗しい
蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。
婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。
そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。
変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。
たぶん。きっと。幸せにしたい、です。
※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。
心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。
ありがとうございました。
【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~
朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。
婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」
静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。
夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。
「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」
彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。
だってわたくし、悪女ですもの
さくたろう
恋愛
妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。
しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
殿下、毒殺はお断りいたします
石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。
彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。
容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。
彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。
「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる