名無し令嬢の身代わり聖女生活

音無砂月

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私はエリザベートを守る為、そして彼女が生徒たちの方に行くのを防止する為、彼女を囲うように防壁を張った。
「ちょっと、何をしているのよ。私を殺すつもり。ふざけないでよ。こんなことをしてお兄様が黙ってないんだからね。いくら聖女だからって」
防壁の中でエリザベートがぎゃあぎゃあ騒いでいたけど私は全て無視をした。と、いうか彼女に気を回す余裕なんてなかった。
騎士団が来るまでここを死守しないといけないし、ドラゴンを街に行かせるわけにはいかないのだ。
できたら巣に帰って欲しいけどそれはないだろう。かなり怒り狂っているみたいだし。
ドラゴンは獰猛だけど基本的には自分の縄張りから出てくることはないので人間が踏み込まなければ問題はないとされている。ここはドラゴンの縄張りからかなり離れている。
そしておそらく二匹で現れたことからあのドラゴンは夫婦なのだろう。
獰猛だけど情の深い生き物であるドラゴンが縄張りから出て王妹殿下を襲う理由
嫌な予感が私の脳裏を横切った。
「っ」
赤いドラゴンが王妹殿下を目掛けて飛んできた。王妹殿下は私の後ろにいる。
私はギリギリでドラゴンを躱し、サファイアがついたネックレスに魔力を流し込む。これは氷の魔法が使えるようになる魔道具だ。
私はドラゴンの右目を氷漬けにした。
「ぎゃあぁあっ!」
氷漬けにされた目が痛むのだろう。地面が揺れるほどの声を上げた。
「きゃあっ」
避難していた生徒は完全にパニック状態になっている。教師は腰を抜かし、放心している。ドラゴンに狙われたエリザベートは失神してしまった。
ドラゴンが私をぎろりと無事な左目で睨みつける。怒りの矛先が私に向いたようだ。
私は震える足を叱咤して、エリザベートから離れる。すると、案の定ドラゴンが私について来た。これで取り敢えずエリザベートは大丈夫だろう。
私は大丈夫じゃなくなったけど。
ドラゴンが再び私目掛けて飛んでくる。特別な訓練を受けていない私が当然だけど何度も都合よくドラゴンの攻撃を躱せるわけがない。
翼や爪が肌を掠め、傷つけたり、突進されて地面に叩きつけられたりもした。
留めだとばかりにドラゴンが炎のブレスを吐いた。私は防壁で何とか防いだ。
「まずい」
魔力切れで頭がくらくらする。でも都合が良いことにドラゴンが起こした砂埃や煙で私の姿が周囲から隠されている。私のその間に魔力回復薬と増幅薬を飲んだ。
再びドラゴンが炎のブレスを吐く。私はガーネットがついた指輪に魔力を込める。すると掌に炎が出てきた。
私はそれをドラゴンが放った炎にぶつける。空中爆破のようなものが起きたけど相殺には成功した。
次に空中に氷の刃を出現させてドラゴンに向けて放つ。ドラゴンは器用にそれを避けて行くので私はドラゴンがどのように避けるかを予測した。
予測した地点に氷の刃を降り注がせると見事ドラゴンにクリーンヒット。ドラゴンの翼が穴だらけになった。もちろん、頑丈な皮膚で覆われ、生命力が強く生物の中で最強と言われる生き物だ。その程度で倒せはしない。
ダメージは与えられたがそれでもドラゴンの勢いを削ぐほどではなかった。
己が牙で私を噛み殺そうと再び私目掛けて飛んでくる。
「!?」
躱そうとしたけど足が動かなかった。魔力はまだ余力がある。合間合間に回復薬と増幅薬を飲んだから。でも、体力は限界の様だった。
動いてはくれない。
「がはっ」
おまけに吐血した。
回復薬と増幅薬を飲み過ぎたのだ。乱用していい薬ではない。飲んだ分だけ体に負荷を与えるのだから。
視界も霞んできた。
それでも目前にドラゴンが迫って来るのが分かる。
やばい。死ぬと客観的事実を他人事のように思ったのはまともな思考力が残っていなかったのと信じがたい事実に心が逃避を選んだからだと思う。
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