名無し令嬢の身代わり聖女生活

音無砂月

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全快した私は王宮に呼ばれた。
初めての王との謁見。
「いい、少しでも粗相をすれば容赦はしないから」
公爵夫人はそう言って私の手の甲を抓った。
「アドリス公爵家の顔に泥を塗るなよ」
公爵の冷たい視線が私に突き刺さる。
「はい」
木の板で作られた牢獄に閉じ込められ、足りない酸素で呼吸を繰り返しながら私は王宮へ行った。
大理石でできた廊下
歴史的価値のある飾り物が並ぶ場所を通り抜け、私は謁見の間へ行った。
一番奥、一番高いところにいる端正な顔立ちだけど、心の宿っていない冷めた目がとても印象的だった。
手負いの獣のような人。
ルトアニア王国国王ガイオン。
その左右に側近であるリュウとハクがいる。
玉座まで敷かれた赤いカーペットの左右には貴族たちがずらりと並んでいる。みんなが私を見てる。
大丈夫、大丈夫。
私は手の先、足の先まで神経を張り巡らせて一歩を踏み出す。
「此度は見事な働きだった」
臣下の礼を取った私たちに陛下の声が降り注がれる。何の感情も含まれていない声だった。白々しい程に聞こえるほどに。
「我が公爵家は国に忠誠を誓った一臣下。国の為に身を削るは当然のことにございます」
陛下の言葉に公爵が答える。
「そなたも同じ考えか、アニス・アドリス」
まさか、私に直接声をかけてくるとは思わなかったので驚いた。横にいる公爵から凄いプレッシャーを感じる。
「成し得る者が成すべきことを成す。それだけでございます」
「そうか。なばらこちらも王族として成果を上げた臣下に褒美をやらねばな。何を欲するアニス?」
「えっ」
どうして私に聞くのだろう。こういうのは普通私の両親に話が行くのではないの。現に今日は一緒に登城しているし。
「ありがとうございます。父と話し合って決めたいと思います」
「そうか」
良かった。今すぐここで決めろなんて言われなくて。
陛下との謁見は何とか無事に終えることができた。公爵夫妻も何も言って来なかったので問題はなかったのだろう。褒美については公爵が決めるので何を貰うつもりなのか私は知らない。
私にはもう関係のない話だ。


翌日、私は学校へ登校した。
ドラゴンの襲撃を受けてから初めての登校だ。
陛下との謁見が主な理由だろうけど、襲撃前とは別の意味で注目を浴びている。
「まさかあの傲慢聖女が俺たちを守る為にドラゴンと戦うなんてな」
「ただのポイント稼ぎじゃないの」
「命かけすぎだろ」
「そうか?そうでもないだろ。聖女様は俺たちよりも高度な魔法が使えるんだし、あの程度日常茶飯事ないの」
「アドリス公爵令嬢って最近、なんだか変わられたわよね」
「今の彼女ならお友達になれるかも」
などと様々な意見が私の耳に入って来る。
賛否両論あるようだ。恩に着せるつもりは無いけどそんなことをする前にまずは「ありがとう」の一言ぐらい出るものじゃないの。
それとも聖女なら当然だとでも思っているのかな。
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